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トマトジュース

 トマトジュースは売り切れです。素っ気ない張り紙が目に入る。弱った。何軒も見て回ったが、どの店でも品切れだった。私はスーパーの向かいにある薬局に入り、一番大きな注射器を買う。ため息が出た。若い女性の鮮血が不可欠だった吸血鬼族の彼の身体を苦労して体質改善させたのに……。

サイ

 サイは投げられた。逆さまになったサイの視界には一人の男が映っている。サイは男に向かって突進した。男はサイの角を掴んだかと思うと自ら後ろに倒れ込み、サイの腹を蹴り上げるようにして投げ飛ばしたのだ。男は聞き慣れぬ言語で云う。トモエナゲダ。そこでサイの記憶は途切れた。

人喰い

 人喰いに捕まった。ホースが口に縫い付けられ無理やり流動食が流し込まれる。部屋は狭く身体も満足に動かせない。私は人喰いに紙とペンを寄越せと身振りで伝える。「脂肪だらけになると旨くないぞ」人喰いは鼻で嗤う。「お前はフォアグラや霜降り肉を食べたことがないのか?」ぐうの音も出ない。

帰還

 世界初の単独宇宙旅行から帰還したというのに出迎えの者が一人もいない。着陸位置を間違えたか? GPSで確認する。確かに此処だ。街へ行くと皆が宇宙服のような真っ白な防護服を着て歩いている。何が起きたんです? 尋ねても誰も答えてくれない。私は宇宙服姿のまま人波に飲まれてゆく。

ノマド

 エヌ氏はノマドの伝道師。フリーランスで尚且つ自らのオフィスを持たず、何物にも縛られない働き方を提唱している人物だ。家も覗いて行かれますか? 有り難い申し出である。エヌ氏の暮らしぶりは私も気になっていた。氏は区の公園の奥深くに分け入っていく。ブルーシートでパオが組まれていた。

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