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子供

 子供がなかなか生まれてこない。妻は今月でもう妊娠265ヶ月目になる。子供は妻の腹の中ですくすくと育ち、身長約178cm、体重約65kg。健康そのものである。すでに彼はラジオ講座で大卒資格も取得済みだった。そろそろ生まれてきてもいいんじゃないか? 私は妻の腹をノックする。返事はない。

土葬

 この国では土葬と火葬を生前に選択することができた。エヌ氏は土葬を選んだ。荼毘に付され灰となるのが怖かったのだ。安らかな顔で横たわるエヌ氏の棺にカエデの樹液が注ぎ込まれてゆく。エヌ氏の遺言状にはこう書かれていた。数百万年後の人類よ。琥珀となった私を蘇らせてくれたまえ。

トマトジュース

 トマトジュースは売り切れです。素っ気ない張り紙が目に入る。弱った。何軒も見て回ったが、どの店でも品切れだった。私はスーパーの向かいにある薬局に入り、一番大きな注射器を買う。ため息が出た。若い女性の鮮血が不可欠だった吸血鬼族の彼の身体を苦労して体質改善させたのに……。

サイ

 サイは投げられた。逆さまになったサイの視界には一人の男が映っている。サイは男に向かって突進した。男はサイの角を掴んだかと思うと自ら後ろに倒れ込み、サイの腹を蹴り上げるようにして投げ飛ばしたのだ。男は聞き慣れぬ言語で云う。トモエナゲダ。そこでサイの記憶は途切れた。

人喰い

 人喰いに捕まった。ホースが口に縫い付けられ無理やり流動食が流し込まれる。部屋は狭く身体も満足に動かせない。私は人喰いに紙とペンを寄越せと身振りで伝える。「脂肪だらけになると旨くないぞ」人喰いは鼻で嗤う。「お前はフォアグラや霜降り肉を食べたことがないのか?」ぐうの音も出ない。

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