持ち物検査
バレンタインデーに男子がチョコをあげたっていいよね? 僕はドキドキしながら登校する。この日に限って校門前で持ち物検査をしている。鞄の中を確認されたのは女子だけだった。何とか意中の子にチョコを渡せたものの下校時に僕は絶望する。今度は男子が持ち物検査されていたのだ。
就活離れ
今日は三通届いています。本命か? いえ、どれも義理ESですね。部長はがっくりと肩を落とした。近年若者の就活離れが甚だしかった。ゼミの担当教授やOB/OGらとの義理もあって形ばかりの書類こそ送ってくるものの働く気など端からないのだ。なんせBIで生活は保証されているのだから。
彼の家
渡したいものがあるの。私がそう言うと、遠いよと彼は言う。知ってる。住所は花の広場の隣。彼は電話口で悪戯っぽく言う。バスを乗り継いで辿り着いたのは潰れた遊園地。錆び付いたゲートを抜けるとすぐに観覧車が見えてくる。おーい。空から声がする。観覧車が回り出す。彼の笑顔が近づいてくる。
子供
子供がなかなか生まれてこない。妻は今月でもう妊娠265ヶ月目になる。子供は妻の腹の中ですくすくと育ち、身長約178cm、体重約65kg。健康そのものである。すでに彼はラジオ講座で大卒資格も取得済みだった。そろそろ生まれてきてもいいんじゃないか? 私は妻の腹をノックする。返事はない。
土葬
この国では土葬と火葬を生前に選択することができた。エヌ氏は土葬を選んだ。荼毘に付され灰となるのが怖かったのだ。安らかな顔で横たわるエヌ氏の棺にカエデの樹液が注ぎ込まれてゆく。エヌ氏の遺言状にはこう書かれていた。数百万年後の人類よ。琥珀となった私を蘇らせてくれたまえ。