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ガラ・ルファ

 彼の部屋の水槽には小さな魚がたくさん泳いでいた。なんて魚? 私が訊ねると、彼はガラ・ルファと答えた。食後すぐに私は携帯用歯ブラシで歯を磨く。彼はと言うと鏡の向こうで口を膨らませていた。なにを入れてるの? 彼はメモに書いた。ガラ・ルファ:別名ドクター・フィッシュ。

蝙蝠傘

 風が強い日をずっと待っていた。今日こそがその日だった。男は蝙蝠傘を携え外へ出る。傘の先には大蝙蝠の顔が付いている。風の丘に辿り着くと蝙蝠の目がギラリと光った。傘は羽ばたいた。宙に浮いた男の体は空を駆け雲を破り成層圏をも突き抜けてどこまでも高く舞い上がっていった。

小説家の妻

「書き上げた小説を最初に読ませるのは妻ですね。」「編集者ではなく?」「そう。先ず妻に読ませるのです。」「成る程。奥様もさぞかし小説にお詳しいのでしょうね。」「いやいや。逆ですよ。彼女は小説に関してはまったくの素人で何を読んでも面白いと言う。だから良いのですよ。」

子羊

 金色の蝶が飛んでいた。それを見つけた子羊が行列を離れる。戻りなさい! 母羊が叫んだ。おれは羊を数えるのを止めて子羊を追いかけた。金色の蝶はふらふらと谷間を越えてゆく。おれは子羊が崖から落ちそうになるのを間一髪で捕まえた。気づけばおれは百年ぶりに眠りに就いていた。

手紙

 さみしい。ひとことだけ記した手紙を瓶に入れて海に投げた。ひと月後に返事が届いた。瓶の中の羊皮紙には、僕もさみしい。と書かれていた。それから奇妙な形の文通が始まった。今何処にいるの? そう書いて瓶を投げた。ひと月後届いた手紙にはこの無人島の地図と百年前の今日の日付が記されていた。

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