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「―くさん、啓さん、ちょっと、もう授業終わったよ」 
 揺り起こされて、ああそっか授業中だったと思い出す。そんで隣にいるのが天さんじゃないってことになんとなく落胆しながら伸びをした。天さんは絶対にこんな風に揺り起こしたりしないもんなあ、と横目に白鳥をみた。 
「なんすか。本当、人がまじめにうけてる隣で寝るんだもんなこの人」
「お前も二年のときにまじめにやんなかったから二年必修落としてんでしょ」
「あー、啓さんに言われたらほんと終わり。さいてー」
 白鳥は思ったことを包み隠さないでぽんぽんいう。俺はそういうの好きだし、優しさと真面目さを天さんからとったらこんな感じかなとも思うけど、まあそんなのは天さんじゃないな、と思いとどまる。聊か白鳥は正直すぎるところがあって、味方は少なく敵は多いタイプだと思う。 
「ていうか白鳥、なんでそんなかばん膨れてんの?」 
 帰り支度をしていない俺を待つつもりはないらしく、彼は来たときと同じようにふくれたカバンを背負う途中だった。白鳥はうんしょ、と声をもらしてからさらにうんざり、と言った感じでため息を吐いた。 
「そんなに緊張感ないのって啓さんだけっすよ。就職どうすんですか?そろそろ動かんとやばいんじゃないですか?両親とか、彼女とか、言わないんですか?」
「最近耳が悪くなっちゃってさ」
「ほんと、俺が言えたもんじゃないけどさ、啓さん結構自由気ままにやってっからそのうちみんな愛想つかしたりとかするかもしんねーよ?いーの」
 聞こえないフリをして、使わなかったペンケースとルーズリーフをかばんに押し込む。白鳥は、んじゃあねと重そうなカバンをがしゃんがしゃん言わせて出て行った。俺はふうー、とため息を吐いてからリュックを背負って教室を後にする。 

「うわっ暗っ」 
 鍵を開ける音がしてすぐに天さんの驚いた声が聞こえる。そりゃそうだ。室内全部の電気を消してある。こうして暗闇にしてるとじぶんが寝てるかおきてるかわかんないような空間になって、余計にぼけっとしていられるからたまにやる。まぶたはなんとなく重く、でも頭の中はちゃんと起きていて、天さんがどんな顔でこっちに近づいてくるのか、なんてことを考える。天さんの足音がどたどた近づいてきて廊下と部屋を繋ぐドアをあける。電気がぱちっとつく。俺が包まっていた蒲団をはぎとっていく。 
「今日は何ゴッコ?」
「原始時代に還ろうツアー。だからエアコンもつけてません」
「絞め殺すぞ」
 飯作ってないだろ、と天さんは呆れていう。俺はベッドから転げ落ちて床にはいつくばってうん、と頷いた。冷蔵庫の中を見ていた天さんがこっちを見て余計呆れる。 
「ケツつきだすなって言ったろ、朝」
「これケツじゃなくて火山」
「何、今日そんなに寝てないのか」
 寝てたら寝てたで怒るのに、寝てないと寝てないで心配してくれるってのがまたおかしい。ふふ、と自然に笑えてそのまま微笑んでいると足で頭を軽く蹴られた。 
「その穏やかな顔は涅槃っぽいからやめろ。手伝え」
「うん」
 冷蔵庫の中に入っていた野菜を適当につかって野菜炒めと、味噌汁と、冷凍してあったご飯をチンしてすぐにご飯はできあがった。後片付けはお前やれよ、と天さんはいう。うん、とやっぱり頷く。
 テーブル(といっても正方形のコタツ机だけ)に隣同士に座ってご飯を食べた。いつもなら向かいあって食べるのに、隣同士で座るなんていつぶりだろうなんてことを考える。たぶん、天さんは天さんなりに俺に気を遣ってるのかな、と思う。原始時代ツアーなんかやってるから。 天さんは自分が伊達にネガティブなだけに、人が少し落ち込んでるときに何をしてあげたらいいのかっていうのにいち早く気づいてくれる。そこで初めて、俺は白鳥の言葉に自分で思っていた以上に結構なダメージをうけていたことを知る。
 両親は俺の親だからちゃらんぽらんだし、友人だってちゃらんぽらんなのが多い。大抵のことがあっても、やっぱり彼らは彼らで俺との付き合いが切れるってことはそんなにないだろうと思う。けど、天さんのことを考えたら急に怖くなった。天さんが俺に飽きちゃって、そんで味方じゃなくなったらどうしようって、思ったときに、俺は本当に天さんが好きなんだなって実感したし、だからこそ、失いたくなかった。失うことも、そうして天さんが静かに離れていくことも、とにかくこうして隣にいてくれないってことが、嫌だ。
「天さん」
「啓」 
 同時。ご飯を食べ終えて、俺のまぶたはまた重くなっていく。けどやだな。久しぶりに寝たくないって気持になってる。 
「天さんからいいよ」
「啓が言えよ」
「いいよ、こういう譲り合い気持ち悪い」
「だな…ああ、じゃあいうけど」
 久しぶりにドキドキする。まぶた重い。ドキドキ。重い。ドキドキ。 
「こないだ、母さんから電話あってさ」
「うん」
「結婚とかどうとか、そういうのほのめかされたんだ」
「うん」 
 天さんが俺の手を握る。ごつごつした手。昔は女の子の手が大好きだったのに、あのちっちゃくてもちもちした手が大好きだったのに、今は天さんの骨ばった指やごつごつした関節が好きだ。
「そんで、俺、考えてたんだけど」
「うん」
 眠い。心臓痛いぐらいどきどきする。まぶた重い。寝たくない。天さんが、好き。
「結婚、しないか」
「は」
 眠気が完全に吹っ飛ぶ。 


「簡単なことじゃないと、思ってる、けど、正直お前はたぶんはたらくとか向いてないし、過保護なのかもしれないけど、養っていけなくもないと思うし、もしお前がいいって言ってくれるなら、新しく引っ越して、もっとでかいベッドにするとか」
「何それ、ここ数日考えてたの」
「はげそうなぐらい」
「はげなくてよかったね」
「ばーか」
 天さんが微笑む。俺はどうしようもない。ああ、俺本当にこの人のこと好きなんだなって、ずっと傍にいたいんだなって思って、そういう陳腐な言葉しか出てこないぐらい好きで、笑えるぐらい好きで、やっぱりへらへら笑うしかなかった。 
「いいんだ、まだ時間はあるから、ダメだからって別れたいってわけじゃないし―」
「いいよ、住む住む。全然住む。俺主夫になるから大丈夫。結婚する」
「は」
 天さんは鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている。まるで付き合うことを決めたときみたいだ。俺はへらへら笑う。白鳥のバーカって思いっきりにくったらしく言ってやりたい気にもなるし、反対に、あいつにも幸せがくるといーな、なんてことも考える。 
 いてもたってもいられなくて、天さんに抱きつく。日中うごきまわって暑かったのかシャツの襟ぐりからかすかに汗と、俺が誕生日にあげた香水の香りがした。そのままベッドに倒れこんだ。俺あんなに女の子のやわらかい感じが好きだったのに、今じゃこのごつごつしてる感じっていうか天さんが本当に好きなんだなって、何度も何度も飽きることなく思う。
この人とだったら、そのうちミックスベジタブルも箸でうまく食べられるようになるんじゃないかって思う。たぶん、そうなると思う。
 かすかに吐息に熱をもった天さんが、俺を引き離す。目はなんとなく欲情していて頬も赤い。 
「お前いつもそうやってへらへらするけど、わかってんのか?俺たち男で―」
「え?俺もう、両親には付き合ってんのが男だって言ってるよ?」
「あ?」
「留年するって決まったときに実家行って、ついでに言ってきたよ。言わなかったっけ?よかったわねえ、一緒にいてくれる人がいてって言われた」 
 天さんの顔は違う意味でどんどん赤くなっていく。目が潤んでる。泣きたいぐらいに恥ずかしいのか、嬉しいのかよくわかんないけどとにかく我慢できないので、そのまま無理にキスをした。避けられるかと思ったものの、案外天さんも乗り気で何度となくキスを繰り返した。 

 ぱちっと目が覚めて、予想以上の空気の冷たさに蒲団にもぐる。隣にはもちろん天さんがいて、俺は起こさないように時計を確認する。5時29分。早い。天さんは寝てる。まぶたは相変わらず重く、けれど頭は案外スッキリしている。このままいろんなことを考えていたらそのうち目が覚めるのではないかと思ったけれど、そこはさすがの「眠り猫」、気づいたら、俺は天さんと手をつないでミックスベジタブルで埋め尽くされた花畑みたいなところの上、へらへら笑いながら空を飛んでいた。目指すは、二人でも平気で寝られるキングサイズのベッドだった。

END

奥付



ラブ☆イーチアザー


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著者 : こんにゃく
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