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1-1

 伊藤苑創業者一族の御曹子である伊藤若葉が脱衣場の扉を開くと、そこにもやはり赤い絨毯が敷き詰められていた。
「……脱衣場も赤い絨毯付きなんですか」
「もちろんだとも! 私は絨毯の上しか歩いたことがないからネ☆」
 ジョンが踊りながら脱衣場に入る。
「皆で風呂に……入るのか……」
 伊藤苑研究員助手(年度契約アルバイター)である名波響がぼそりと呟いた。
 響と若葉は実の兄弟であった。響は伊藤苑次期社長としての期待を背負って子供の頃から教育されていたが、伊藤苑社内では最重要極秘事項になっており、それを伊藤苑研究室室長である円青樹すら知らなかった。
 伊藤若葉も社内では一社員に過ぎない。実力主義の伊藤家は創業者一族である事実を公表することはせず、一社員として実力をつけ、管理職へ登り詰めるよう教育していた。だが円は若葉が伊藤家の御曹子である事実を知っていたのだった。
「名波さん、ちょっと恥ずかしがり屋ですものね。円先輩を見習ってバッといきましょうよ」
「伊藤君、変な所が円さんに似てきたなぁ」
 頬を染めながら響が若葉を見る。
「恋人ですから」
 若葉はちょっと自慢そうに微笑んだ。
「そうだぞ、名波。恥ずかしがるより、堂々としたほうが開放感があって楽しいぜ」
 円青樹が響に笑いかけた。
「開放感……ですか」
 響はゆっくりと脱衣場を見渡した。
 瑞々しく弾けるように美しい男達が談笑しながら水着を脱ぐ。すらっとした脚。引き締まった尻。そしてペニスが響の視界に飛び込んできた。

 どくん。

(あ……また体が……)
 響は慌てて俯いた。
 飛行機の中でジョンに使われた媚薬のような特製ローション。それはジョンの精子と混ざることによって、一層高い効果をもたらすよう開発されていた。何度も繰り返しジョンに種付けされた響は、元々感じやすい体をさらに興奮するよう改良されていた。
 そんな響にとって大浴場に集う美しい男達の体は目の毒でしかなかった。鼓動が早くなる。うっすらと極めて細かい真珠のような汗が浮かぶ。熱くなっていく下半身。響は興奮する自分自身を恥ずかしく思い、唇を噛んだ。

1-2

「うわ~、名波さんの肌、ピンク色に輝いて綺麗!」
 牧歌れもんが驚きの声をあげた。皆の視線が頬を染め俯く響に集まる。
 響はびくんっと体を震わせた。
「これが東洋のピンクパールと呼ばれてる所以(ゆえん)なんだ~。近くで見ると凄い! 正直、ボク、この目で見るまでマル秘レポートに書かれた名波さんの噂が信じられませんでしたよ~。10ページにも渡って名波さんの渾名(あだな)が書かれていて、なんだこりゃって思いましたもん」
 れもんが響の肌をじっと見た。
「くだらない調査報告書を作成する暇があったら、もっと仕事をしろと君の部下に伝えておけ」
 響は赤くなりながら、少し呆れた声で言った。
「僕も今回の旅行で初めて見ました。名波さんってきちんとなさっていて、あまり隙を見せない方なのに珍しいです」
 朝比奈三也(あさひな みつなり 愛称あさひ)が不思議そうに響を見る。
「俺は何度か見た事があるけど、そういう時って大抵何かのプレイ中だ。最初はなんで円さんもいるこの旅行中にそんな目にあっているのか分らなかったんだが……きっと名波がサンガ君に手を出したのがバレてコカに折檻されたとかそんな感じだろ」
 三鳥井がにやにや笑いながら、響を嘗(な)めるように見た。
「お、お前は何を言っているんだ」
 響が慌てふためきながら三鳥井を睨んだ。
「あはは、図星か」
「なんです、その話」
 大同夢彦が興味津々な顔をして周りを見渡す。
「名波さんがね~、飛行機の中でサンガ君に悪戯してたらコカさんが来てね~、二人にサンガ君が弄(もてあそ)ばれたんだって!
 ボク、サンガ君から直接聞いちゃった!」
 れもんがきらきら目を輝かせながら言った。
「うわ~、凄い萌えシーンですね。後でサンガ君から詳しく聞こう」
 大同が水着を脱ぎながら言った。
「その話、俺も聞きたい」
 円がにやにや笑いながら響を見た。
「……興味があるのでしたら、今夜お話しますよ。別に大したネタじゃありませんけどね」
 響がちらっと円を見る。目に飛び込んでくる円青樹の漢らしいペニス。ごくりっと喉を鳴らし、響は慌てて目を伏せた。
「ほおっ……。それにしても凄いですねぇ。肌がピンク色に輝いて、まるでベルガモットの華みたいだ。円さんは綺麗所をお持ちで羨ましいですなぁ」
 大同が感嘆の声をあげる。
「何度も一緒に出張へと行ってるが、俺もこんな名波は初めてみたよ。不思議な肌の色だな」
「『性的に興奮すると肌がピンク色に輝く』って報告を受けたんだけど……名波さんって、今、コーフンしてるんだぁ」
 れもんが意地悪そうに笑った。
「れもん君、名波響のコト、よく知ってるっスね」
 サンガが感心した表情でれもんを見る。
「そういうのがボクらエージェントの仕事でしょ? サンガ君」
「え? そうなんスか!? 自分、いまいち仕事の内容、分ってないっス」
「まぁ、れもん君は札幌家の養子になったから情報量が違うよね。ぼくも名波さんの情報なんて、伊藤苑研究員助手ってことぐらいしか知りませんよ」
「え? 大同さんもそうなの!? あ~、でもさ、ボクも名波さんのことを知ったの、つい最近だもんね。札幌家の養子になってからだよ。やっぱり札幌家と牧歌家の情報量は大分違ってた。そもそも牧歌家には一研究員助手の素性を調べるほど予算はなかったしね。さらにわざわざ調べ上げた結果が、たかだか渾名の羅列でしょ? 札幌家も予算使ってなにやってんだよって思ったんだけど、先程、R氏と親しい名波さんを見てその重要性がわったカンジ!」
「名波は別にR先輩やセレブ達を体で籠絡していたわけじゃないぜ。こいつの肌がピンクに輝いている時なんて、俺だってコカの私室でしか見たことがないしな。だから東洋のピンクパールだなんて『噂』でしかないんだよ。れもん君の部下は噂が気になって仕方がなかっただけだろう。今日はこいつ、普段と違ってちょっと様子がおかしいから……余程の事があったんだろうな」
 三鳥井が響のピンクに染まった背中を見る。

1-3

「あ……あの……すいません……俺達が……無断でコカさんのベッドルームを借りてしまったからッスかね」
 サンガがしょぼんっと俯く。
 一同がぎょっとして響を見た。
 リクライニングチェアに座るジョンがにやりっと笑う。
 響はまずそうな表情をして、唾を飲み込んだ。
「あ……コカ、すまん。うちの名波が迷惑をかけた」
 円がジョンに深々と頭を下げた。
「ご、ごめんなさい……コカさん……」
 若葉が声を震わせてジョンに詫びる。
「別に君達が謝る必要はないヨ。元々名波ちゃんにはうちのどんな部屋へも自由に出入りしていいと伝えてあったし、彼には十分謝罪をしてもらった。ねぇ、名波ちゃん」
 ジョンは響に優しく微笑みかけた。
「ああ……。本当にすまなかった」
 響が暗い声で呟いた。
「そりゃあ……コカが怒るはずだ。名波の様子が変なのも理解出来たぜ。いわゆる羞恥プレイってやつか。お陰で俺は色っぽい響ちゃんを近くでずーっと見られてお得な感じだけどな。瞳は潤んで物欲しげだし、乳首はつんっと勃ちっぱなしだし、興奮して肌はすぐ艶やかに染まるし、ペニスは半勃ち状態。あまりの色気に魅了されて、俺も勃起しっぱなしだよ」
「そ、そんないやらしい目で見るなよ、三鳥井」
 響はぴくんっと体を震わせて、ちらっと三鳥井を見た。そしてどうしても彼のペニスに目がいってしまう。太く長く硬く勃起したペニス。あれをそっと触って、舐めて、咥えて……。そこまで想像し、響は真っ赤になって視線を逸らした。
「お前だって今、めちゃくちゃエロい目で俺の一物を見ただろうが。……舐めたくなったのか?」
 三鳥井がにやにやと笑って、自分のペニスを握りぶんぶんと振る。
「それとも入れられたくなったとか?」
「ば、ば、ば、馬鹿なことを言うな! まったく円さんや伊藤君がいる前で、下品な奴だな」
「いや、名波、別に俺のことは気にしないでいいぞ。今日はオフだしな。名波と三鳥井がそんなに仲が良かったなんて知らなかったから、少し驚いたが」
「ちょっと待ってください、円さん、誤解です。私と三鳥井は友人ですが、別に肉体関係を持ったことなどありませんよ」
「これから持つ予定だろ? ここを響ちゃんが鎮めてくれるんだよな」
 三鳥井がにやにやと笑いながらペニスを振る。
「お前も調子に乗るなよ、三鳥井」
「欲しいくせに。さっきからお前が俺のペニスを盗み見ているの、知っているんだぜ?」
「そりゃあお前に限らず、見てるだけだ。こんだけハンサムな男達に囲まれているんだから当たり前だろ。例えば可愛らしいれもん君の一物がとてもレモンに似てるとかな」
「ひっど~! 人がちょ~気にしていることを! 鬼! 悪魔! 名波さんの意地悪!」
 れもんが抗議すると、響があははと笑った。
 そう、冗談を言っていれば気が紛れる。体の興奮も徐々に治まっていくだろう。そう響は思いたかった。

 しかし。

 暖かい蒸気と共に薫ってくる男達の興奮した匂い。髪の毛に、耳に、頬に、うなじに、肩に、背中に、腕に、腰に、尻に、腿に、足首に絡み付いてくる野獣のような視線。
 早く水着を脱げとせかすような圧力。
 男しかいない更衣室や脱衣場ではいつもそうだ。遠慮せず、性欲を隠すことをせず、何人もの男達がいやらしい視線を向けてくる。ペニスを勃起させ性欲をアピールしてくる。視姦という言葉が響の脳裏に浮かぶ。
 響はごくりっと唾を飲み込んだ。
 ばっと脱げばいい。恥ずかしがったら負けだ。
 だがどうしても水着を脱ぐことが出来なかった。
 タオルを巻いたらどうだろう。だが愛らしい弟が堂々と性器を見せて立っている今、兄の自分がタオルで隠すのも変な感じがした。

1-4



 ――これ以上、円室長や若葉を待たせるわけにはいかない。

 響は羞恥心に体を震わせながら、水着に手をかけた。そしてゆっくりと下ろす。手がぷるぷると震える。
 前屈みになった響は一層体をピンク色に染めた。恥ずかしさが体中を駆け巡る。勃起したペニスが硬さを増す。先端から先走る淫水が漏れる。その恥辱を隠すような仕草をしたのだが、逆に桃色に染まった可憐な尻を皆の前に突きだし、愛らしい小さな艶やかな蕾を曝け出してしまっていた。
 ジョンに特別なローションを注入され、何度も種付けされた響のアナル。
 その後の腸内洗浄は許されず、響はきゅっとアナルを自らの意志で閉じるしかなかった。油断をし、性的な興奮を覚えるとすぐに腸内は熱く燃え、アナルから白い愛液が漏れ、水着を濡らし続けていた。水着の内側は汚れ、彼が水着を脱ぐと、小さな蕾からつうっと透明な粘液が零れ、水着との間にきらきらと輝く細い糸を引いた。
「ほう……美しいですね……」
 素直な大同が響の麗しさを賞美した。
 あさひは蛇のように妖しく瞳を輝かしながら響を見る。そしてごくりっと喉を鳴らした。
 サンガは瞳を潤ませ、真っ赤になりながら、もう手が届かない憧れの人を見た。
 優しい笑みを浮かべるジョンはリクライニングチェアに座りながら、マッサージ師達に肩や脚や腕を揉ませていた。
 響は片方の足を上げ、水着を脱ぐ。あと少しだ。緊張がほぐれた瞬間、彼はついうっかり弟の若葉を見てしまった。

 ――あ……。

 若葉は顔を真っ赤に染めながら、兄である響を見つめていた。その若々しいペニスは勃起し脈動し、物欲しそうに天を仰いでいた。
 ――若葉が私を見て興奮している……?

 何度も見たことがある愛らしい弟の興奮したペニス。それは家の風呂場でおどけて精液のかけっこをした時だけではなかった。