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「何をするんスか!」
 サンガは腕を掴まれたまま、カチリ、という部屋の鍵が閉まる音を聞いた。背筋に冷たい汗が流れる。二人だけの密室。
 名波響はサンガを乱暴に引っ張り、部屋の中央に立たせた。そして少女のような麗しい顔をじっと見つめる。
「……お前さ、また伊藤君の事を『俺の嫁』とか言ったよな? 調子に乗るなと前回警告したはずだが? もう忘れたようだな」
 そう言って名波はサンガの海水パンツを奪い、可憐な顔に叩き付けた。
「うっ! やめろよ!」
 サンガは水着を拾い、ぎゅっと握る。
 恐怖で喉が渇く。
 あの、初めて伊藤若葉と出会った夜。若葉に愛の告白をした日。サンガは名波響に連れられホテルの一室へと監禁された。そして行なわれた数々の屈辱的な行為。
 愛しい恋人と迎える筈だったサンガの童貞は、このハンサムで冷酷な男に無理矢理奪われたのだった。二時間に渡る折檻。そう、それはセックスと呼べるものではなかった。泣こうが喚こうが強制的に行なわれる性技。繰り返し脳にインプットされる強い快感。ピンク色の小さな蕾にはたっぷりとジェルが塗られ、何度も何度も繰り返し名波響のペニスが押し込まれ、そして引き抜かれた。その都度サンガは悲鳴を上げたのだった。初めての経験。その新しい快感。
 サンガの脳にその夜の恐怖、そして強い快感が蘇る。恐ろしさに体を震わせる一方で、自然と彼の柔らかいペニスは硬さを増していくのだった。
「着替えろ」
 名波響はむっとした表情のまま、サンガに命令した。
 サンガは俯いて、唇を噛んだ。
「早くしろ。また犯されたいのか?」
 その冷たい声を聞き、サンガはびくっと震える。彼は仕方なくジャケットを脱ぎ、椅子の上へと掛けた。
 シャツをゆっくり脱ぐ。レイプされた男の前で自ら裸になる。屈辱だった。ボタンを外す指が震える。頭の中に昨晩見た夢が蘇る。
 コカから誘われたプライベート旅行。伊藤苑の三人も来るという。サンガは若葉と遊ぶのを楽しみにしながら眠った。しかし夢の中に出てきたのは名波響だった。
 淫猥な夢。腰を高く上げ、名波響に後ろから犯され、あろうことか悦びの声をあげている自分。そんな夢をみて、下着を汚したことをサンガは恥じた。
 しかし今。これは現実なのだ。サンガは目を見開きながらシャツをするりと脱いだ。白くきめ細かい肌が露わになる。恥ずかしさのあまり、サンガの瞳に涙が浮かんだ。
 無表情だった名波響が意地悪く笑った。
「なんだお前、こんなに勃起させて感じてるのか?」
 そう言うと名波響はぎゅっとサンガの乳首を捻りあげた。
「あうううっ!」
 痛み。そして快感。
 サンガは確かに名波響が嫌いだった。不快。恐怖。しかし彼の指は的確にサンガの気持ちいい場所を攻めてくる。その細い指がぎゅうっと乳首を抓み続ける。死にそうなほど痛い。だがその痛みがサンガにさらなる快感を与えた。
「ふん、変態だな。早くズボンも脱げ」
 サンガは名波響の命令通り、靴と靴下を脱ぎ、ベルトを外し、ズボンを脱いだ。若葉に見せようと思った黒いボクサーパンツ一枚の姿になる。
「……乳首を攻められただけで下着を濡らしてレイプされた男の前でペニスを勃起させるとは、恥ずかしいと思わないのか?」
 名波響は意地悪くサンガの耳元で囁いた。
 サンガはふるふるっと体を痺れさせた。甘い声が脳を犯す。名波響の柔らかい息が耳をくすぐる。
 その時、かちゃりと鍵が開く音がして二人はハッとし、ドアを見た。
「ベッドルームに鍵が掛かっているから何事かと思ったら、響。君か」
 コカが呆れた顔をして、部屋に入ってきた。
 あろうことか業界トップ企業のエリート社員であるコカに、勃起し、下着を濡らしている恥ずかしい姿を見られた。
 サンガは真っ赤になって、椅子に掛けた服を取ろうする。
 そんなサンガの手を、コカはぐっと握り、止めた。
「サンガ君。慌てなくてもいい。別に私は君達の邪魔をしに入ったわけじゃないからネ。さぁ、響。続けたまえ」
 この時、サンガはコカが自分を助けてくれるわけではなく、響の共犯者になることを選んだのだと理解した。
 自分よりも体格が良い男達に監禁されている。サンガの喉がごくりと鳴った。
 それは恐怖のためか。それともこれから起こる悦楽の時間を想像したためか。
 いや、もしかしたらサンガが名波響に無理矢理連れて来られたのを、コカは知らないのかもしれない。
 サンガはコカに助けを求めようかと考えた。しかし名波響の冷たい視線に気付き、体を震わせ、口を閉じた。
 名波はふっと意地悪く笑い、コカを見た。
「……ふん、悪趣味な奴だな」
「どっちが。私のベッドルームに男を連れ込んでいたぶっている君に言われたくはないネ」
「丁度この部屋が空いていたものでね」
「使うのは構わないが、せめて口だけにしてくれよ」
「……そうしよう。サンガ、さっさと水着に着替えろ」
 サンガがおろおろしていると、コカがくっくっくっと笑った。
「響も着替えたらどうだ? どうせなら二人とも水着姿のほうが萌えるなぁ」
「……まったく。部屋を借りたから、それぐらいはサービスしてやる」
 サンガは名波響がジャケットを脱ぎ始めたのでドキッとした。しゅるりとネクタイが外される。男らしいその表情。サラリーマン姿だった名波響の肌が露わになっていく。鍛えられたその肉体。
 いつも強制的にベッドへと倒され、暴力的なセックスをしていたサンガは初めて、名波響の肉体を落ち着いて見た。
 柔らかそうな筋肉。引き締まった胴体。長い手足。

 ――美しい。

 サンガは見とれてしまった。自分に酷いことをした男に。若葉と迎えるはずだった人生に一回しかない初夜を奪ったこの男に。
 名波響の麗しい瞳がちらりとサンガを見る。そして視線がすぅっとコカへと流れる。一瞬頬を染めた名波響は、また無表情になり、作業的に靴下を脱ぐ。桜色の爪には透明のペディキュアが塗られ、キラキラと輝いていた。
 こんな細かいところにも気を使う男なのだと、サンガは関心した。
 そして何度もサンガの口に押し込まれた名波響のペニスが露わになる。少しだけ勃っている漢らしいそれに、サンガはあろうことか触れてみたいと思ってしまったのだった。
「……お前、何をしているんだ。早く着替えろよ」
 名波響にきつく叱られ、サンガは慌てて下着を脱いだ。そして水着に足を通す。
 彼はちらっとコカを見た。
 コカは普段と変わらぬ和やかな表情でサンガの裸を、そして膨らんだ股間をじっと見ている。
 そんな視線にサンガは感じてしまい、水着をじわりと濡らしてしまうのだった。
 ふいに名波響がサンガの首筋にキスをした。
「あっ……」
 サンガは艶っぽい声を出した直後にハッとし、名波響の体を少し押した。
「あ、あのさ。コカさん、見てるじゃないッスか。俺、あの、あんたとこういう事をしたいわけじゃ……」
「したくないのか? 私と?」
「ああっうっ!」
 耳に響く優しく甘い声。そして陰嚢を撫でられる快感。サンガは耐えられず恥ずかしい声を上げた。
 名波響の長く繊細な指先が、そっとサンガの膨らみをなぞる。奥から、すっと手前へと。そしてペニスの先へと。
「こんなになっているのにか?」
「あ、あの……」
 指がつぅっとサンガをいたぶる。こういう時ばかり優しい声を出す名波響。
「したくないんだ」
 サンガは頬を染め俯いて、目を閉じた。
「したい……ッス……」
 一瞬、部屋がふっと冷たくなった。怒りのような圧力。サンガは体をビクッと震わせ、目を開け、きょろきょろと部屋を見渡した。名波響は変わらずサンガのペニスを弄び、コカは椅子に座って二人の様子を見ていた。
 サンガはちらりとコカを見た。冷たい圧力はコカの方から来たように思えたのだ。だがそのような様子は見られなかった。柔らかい笑みを浮かべながら、暇そうに椅子に座るコカ。きっと彼にとってこのような情景は見飽きた、退屈なものなのだろう。
「そうか」
 名波響が意地悪く笑い、赤いジュータンに膝を突く。
 サンガは水着を乱暴に下ろされた。ぴんっと勃起したペニスが名波響に掴まれる。そして彼の柔らかい唇に触れた。

 ――綺麗だ。

 舌を出す名波響の顔を見て、サンガは心を揺さぶられた。
 あのレイプされた日も、その後も、先程も、何回も見ている顔だった。だが今日の名波響は妙に色っぽく肌が艶やかに輝いている。彼の細い柔らかそうな髪が額にかかる。上から見るとわかる異様に長い睫毛。濡れた瞳。すっと通った鼻筋。そして形の良い唇。そこから舌が伸び、サンガのペニスをくすぐった。
「あっ!! なんスか、これ!? えっ……?」
 サンガの背筋がぞわっとした。少ししか触れていないのに、体中の血液が悦びに満ちたような幻。
 生暖かくぬるぬるし、柔らかく優しく撫でられるような感触。
 彼は真っ赤になった。そしてじっと名波響の舌を見た。
 何か異様な感じがする。
 だがこの目の前にいる普通のサラリーマンである名波響が何故そんな男に思えたのか。淫猥な悪魔のように。
 名波響が舌を出し、つうっと唾液が垂らした。サンガのペニスを絡みつく唾液。そして流れる唾液を追うように、名波響の舌がつつーっとペニスを這った。
「ああっ! はっ! あっ!」
 ペニスから伝わってくる目眩(めくるめ)く快感にサンガは体をびくびくっと震わせた。

 名波響。

 彼はサンガをレイプした男だった。それなのに彼は名波響から目が離せなかった。その麗しい瞳が自分の性器を見つめている。たまにふと視線を上げ、サンガと目が合う。ワイルドな瞳。だがどことなく愛らしく、可憐にも見えた。サンガはそんな名波響を見てドキドキしてしまう。今も無理矢理ベッドルームへと連れ込まれた筈だった。なのに何故自分は名波響に「したい」と言ってしまったのか。
 美しいレイプ魔に翻弄され、サンガは混乱していた。すぐ側に座っているコカへ、何故自分は助けを求めないのかと。
 サンガの瞳にうっすらと涙が浮かぶ。

 ――卑怯ッス! 綺麗過ぎるッス!

 名波響がちらりとコカを見た。
 サンガはふとその視線が気になった。もしかしたらコカに許可なくこの部屋を使った名波響はばつが悪いのかもしれない。だがそれだけではない何かがあるように思えた。
 名波響の口が開き、そこに……。
「あ……!」
 ペニスがゆっくりと咥えられていく。
 生温かくぬるぬるした快感にサンガは震えた。
「あ、あ! あっ!」
 ペニスを咥える名波響はこの上もないほど艶っぽく輝いていた。
 根本までペニスを咥えられたサンガは、興奮しながら名波響を見つめていた。美しい顔の中に埋まっていく自分の性器。陰毛に彼の柔らかい息がかかる。
 名波響が瞳を上げた。煌めくその視線。

 ――俺のペニスが名波響の喉に触れてる……! き、気持ちいい!

 美しい唇の間から出るペニス。幻想的な光景だった。
 一体自分は名波響に犯されているのか、犯しているのか。
 また喉の奥にペニスが触れる。その気持ちよさに震え、サンガは少し腰を突き出した。
 名波響の顔がかすかに歪む。喉の奥まで入れすぎたのか、彼はすっと体を引いた。
 サンガは彼の艶かしい表情にドキッとしてしまった。
 名波響の頭を押さえ、その口にペニスを突っ込みたい。捻じ込みたい。あの色っぽい瞳が涙に濡れるまで。
 サンガがそっと名波響の髪に触れる。すぐさま、冷酷な男にギッっと睨まれた。
「手は後ろに組んでいろ」
「は、はい!」
 サンガは手をばっと後ろに回した。そして今、触れたばかりの柔らかい髪の感触を思い出すのだった。

 ――さらさらだ……。柔らかくって、温かくって……。

 サンガは胸をときめかせながら、名波響の顔を見た。クールなその表情。何故、一瞬でもその顔を歪ませたいなどと思ったのか。後で何をされるか分らないではないか。だが、手に残る感触。サンガは手をもぞもぞさせながら、その感触をリフレインしていた。
 名波響がサンガの亀頭を口に含む。
 柔らかい舌がサンガをちろちろと弄ぶ。
「あ、あ、あっ! あーーっ!」
 サンガは脳が弾けるような快感に身を震わせ、どくんっ、と射精した。
「……あ…………」
 次の瞬間。
 その白い精液は赤いハンカチに包まれていた。
 サンガはきょとんとし、ハンカチを見つめる。
 一瞬のうちに名波響は後ろに引っ張られていた。
 膨張したペニスから噴出したサンガの精液は、名波響の温かい口内ではなく、コカのハンカチへと回収されていたのだ。
「すっきりしたでショ? 水着を穿きなさい、サンガ君」
「はい……」
 コカはハンカチをくるっと丸めて、ゴミ箱へと投げ捨てた。
 名波響の麗しい口内へと出される筈だった自分の精液。サンガは悲しそうな瞳でゴミ箱をじっと見つめてから俯き、水着を穿いた。
「……し、失礼します」
 サンガはぺこっとコカにお辞儀をし、部屋を出たのだった。