閉じる


1月25日のおはなし「証拠物件」

 おかしいと思ったのだ。
 取調室で書き取りテストなんてヘンだと思ったのだ。
 「永遠」だの「久遠」だの「離脱」だの「二毛作」だの「年鑑」だの「お題」だの。
 理由はすぐにわかった。

「これに見覚えは?」
 男が突きつけてきた10cm角ほどのメモ用紙はビニール袋のようなものに入っていた。ビニール袋に入っているのは、証拠物件に指紋がつかないよう管理するためだろう。メモ用紙には「永久脱毛」と書いてあった。永遠の永に、久遠の久に……。たったいまおれが書いたのと同じ筆跡だった。これかよ。これだったのかよ。男は語気を強めた。
「あなたが書いた物ですね」
「知りませんよ」
 おれは文字通り口笛を吹いた。うそぶく、というやつだ。でも内心驚いていた。あれはかなり前に書いた物だ。自分でもすっかり忘れていた。でも確かに「永久脱毛」は大事なプロセスの一つだった。だってあいつら毛むくじゃらだったんだもん。

「ではこれは」
 次のメモには「年がら年中やり放題」と書いてあった。おれは思わずぷっと吹き出したが、それが自分の書いた物とは認めなかった。そして笑いながら言ってやった。
「なんです、こりゃあ。品がないなあ」
 男はおれをじろりとにらむともう一枚の紙を取り出した。
「じゃあ聞きますが、これは?」
 そのメモ用紙には「女だらけ/男だらけ」とあった。言うまでもなかろうが、おれの筆跡だ。
「あー」おれは天井を見上げてちょっと考えて、観念した。「まいりました。あたしがやりました」

「何なんだこれは!」男は右側の腕で机をバンと叩いた。ほとんど激昂していた。「書くにこと欠いて『女だらけ/男だらけ』って!」
「別にそんなに意味はない」
「その通りになってしまっているじゃないか。惑星中女だらけ、男だらけだ。無責任にもほどがある!」
「んー。まあ、まあね。でもさ」
「でもさじゃない! 見ろ!」
 男は左側の腕でおれの頭をぐいとつかむと窓の外に目を向けさせた。

 そこには漆黒の宇宙を背景にぽっかり浮かぶ水の惑星の姿が見える。こんなところから見たって人間なんて見えっこないのに。
「あんたにそっくりなのがうじゃうじゃと70億近くいる」
「うふふーん。書いた通りでしょ?」
「書いた通りでしょ、じゃない!」男は三本の腕を使っておれの顔を窓にぐいぐい押し付けた。「勝手な種をでっちあげた上に、何の計画もなしに野放図に増やしやがって。なんだあれは。人類ってのは! あいつらのせいでせっかくの珍しい惑星の自然観察に向いた生態系が台無しじゃないか」
「いやさ、あいつらもほら、自然の一部なんだから」
「バカを言うな」男は窓におれの顔をガンガン打ち付けながら吠えた。「あんないびつなミュータント、宇宙にはお前しかいなかったことくらいわかってるんだろうが」

「やめてくれよ」わたしは懇願した。「おれ、この星じゃ仮にも神様なんだぜ。乱暴にするなよ。顔をぶつけるなってば、顔はやめてってば!」
「ふざけるな! おい。しょっぴけ」男は周りのうねうねぐねぐねしたやつらに命じた。「生態系不法介入罪で逮捕する」
 あっという間におれはそいつらのうねうねぐねぐねした触手にからめとられた。
「やめろ。バカ、おい、おれがこの星からいなくなったら後はどうなる」
「どうもならんさ。少しはマシになるだろう」
「どうなっても知らんぞ!」部屋から運び出されながらおれは怒鳴った。「あいつら放っとくと、まるで歯止めきかないんだから!」
「駆除だな」

 これが2012年に始まった、人類史に残る宇宙戦争の幕開けだなんて、口が裂けてもあいつらには教えられないよなあ。

(「女だらけ/男だらけ」ordered by たいとう-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

感謝の言葉と、お願い&お誘い

 Sudden Fiction Project(以下SFP)作品を読んでいただきありがとうございます。お楽しみいただけましたでしょうか? もしも気に入っていただけたならぜひ「コメントする」のボタンをクリックして、コメントをお寄せください。ブクログへの登録(無料)が必要になりますが、この機会にぜひ。


 「気に入ったけどコメントを書くのは面倒だ」と言うそこのあなた。それでは、ぜひ「ツイートする(Twitter)」「いいね!(Facebook)」あたりをご利用ください。あるいは、mixi、はてな等の外部連携で「気に入ったよ!」とアピールしていただけると大変ありがたいです。盛り上がります。


5つで、お気に入り度を示すこともできるようですが、面と向かって星をつけるのはひょっとしたら難しいかも知れませんね。すごく気に入ったら星5つつける、くらいの感じでご利用いただければ幸いです。


 現在、連日作品を発表中です。201171日から2012630日までの366日(2012年はうるう年)に対して、毎日「11篇のSFP作品がある」という状態をめざし、全作品を無料で大公開しています。公開中の作品一覧


 SFP作品は、元作品のクレジットをきちんと表記していただければ、転載や朗読などの上演、劇団の稽古場でのテキスト、舞台化や映像化などにも自由にご活用いただけます。詳しくは「Sudden Fiction Project Guide」というガイドブックにまとめておきました。使用時には、コメント欄で結構ですので一声おかけくださいね。


 ちょっと楽屋話をすると、71日にこのプロジェクトを開始して以来、日を追うごとにつくづく思い知らされているのですが、これ、かなり大変なんです(笑)。毎日1篇、作品に手を入れてアップして、告知して、Facebookページなどに整理して……って、始める前に予想していたよりも遥かに手間がかかるんですね。みなさんからのコメント、ツイート(RT)、「いいね!」を励みにがんばっていますので、ぜひご協力お願いいたします。


 読んでくださる方が増えるというのもとても嬉しい元気の素なので、気に入った作品を人に紹介して広めていただけるのも大歓迎です。上記Facebookページも、徐々に充実させてまいりますので、興味のある方はリンク先を訪れて、ページそのものに対して「いいね!」ボタンを押してご参加ください。


 10月からは「11篇新作発表」の荒行(笑)を開始し、55作品ばかり書き上げる予定です。「急募!お題 この秋Sudden Fiction Project開催します」のコメント欄を使って、読者のみなさんからのお題を募集中です。自分の出したお題でおはなしがひとつ生まれるのって、ぼくも体験済みですが、かなり楽しいですよ! はじめての方も、どうぞ気軽に遠慮なくご注文ください(お題は頂戴しても、お代は頂戴しないシステムでやっています。ご安心を)。


 こんな調子で、2012630日まで怒濤で突き進みます。他にはあんまりない、オンラインならではの風変わりな私設イベントです。ぜひご一緒に盛り上がってまいりましょう。


奥付



証拠物件


http://p.booklog.jp/book/42770


著者 : hirotakashina
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/hirotakashina/profile


感想はこちらのコメントへ
http://p.booklog.jp/book/42770

ブクログのパブー本棚へ入れる
http://booklog.jp/puboo/book/42770



公開中のSudden Fiction Project作品一覧

http://p.booklog.jp/users/hirotakashina




電子書籍プラットフォーム : ブクログのパブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社paperboy&co.



この本の内容は以上です。


読者登録

hirotakashinaさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について