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6月14日のおはなし「八十八サチヲ一代記」

 えー、毎度たくさんのお運びをいただきまして誠にありがたいのでございます。いつものことながらおかしな話をせっせとさせていただくのでございます。

 あのう。あれは何ですかね。ちょいと寒くなってまいりますと、この季節なんかでも出てきますな。だいたい暮れぐらいからちらほら聞こえて来るようになる。あっちに出た!なんて話があると、こっちもだ!なんて具合に、あちこちに湧いて来る。考えてみたら恐ろしいですな。神出鬼没。正体不明。取り締まらなくていいんですかね、ああいうのは。知らないうちに現れて黙ーってね、ランドセルを置いて行ったりする。

「なんて言いましたっけね」
「なにが」
「あれですよ、あれ。ほらランドセルを」
「ランドセルがどうした」
「孤児院に」
「ああ、あれだろ。伊達」
「そうそう、伊達」
「政宗」
「こう絢爛豪華な柄の派手なランドセルを配ってね。いよ! 伊達もの!なんて、違うだろ」
「違うかい? じゃああれだ、伊達」
「そうそう、伊達」
「公子」
「引退からあざやかに復帰して国内外の孤児院で華麗にランドセルを、配るわけないだろ」
「違うかい?  なんだっけね。なんにしろ、だてなおとこだね」
 なんて。本人気づかずに、答、言っちゃってるんですがね。

 あたしどもの、落語の世界にも覆面噺家なんてのが出てきて大変な人気になってまいります。大河屋升九なんて言いましてね、最初は大変な毒舌と破天荒な創作落語で悪役噺家が出てきたってんで人気急上昇するんですが、これが途中から正統派の古典落語ばかりやるようになる。この理由が泣かせるんですな。

「聞いたかい」
「聞いたよ。大河屋升九だろ? 泣かせるねえ」
「自分が出た孤児院の子どもたちに恥じない噺をやろうってんで正統派の古典落語ばかりやることにしたってんだろ? なかなかできるこっちゃないね」
「でも大変みたいだよ、ついつい出ちゃうんだな」
「何が」
「創作落語のクセがさ。『金明竹』の途中でふらふらっと『道具屋』に行っちゃったりね。それくらいならいいけど、即興で外国人が出てきたり、漫談に変わっちゃったりしそうになるんだ」
「じゃあダメじゃねえか」
「違うんだよ」
「どう違うんだ」
「そこをこらえてきちんと本寸法の古典に戻すんだな」
「そりゃかえって面白いかもね」
「おうよ。だから大人気なのさ」

 ま、古典が正統で、創作が異端なのかって言うと、そいつぁ逆なんじゃねえかなんて話もあるんですがね。何の予備知識もなくふらっと寄席に来て大笑いできるのが元来落としばなしのいいところで、やれ落語の登場人物のタイプにはどんなのがいてとか、やれそばのすすり方がどうの、扇子の使い方がどうの、何代目の酒の飲み方に似て来たの、解説つけなきゃわからねえようなモンが、誰もが楽しめる大衆芸能かって言うと、どうなんだろうね、なんて解説をはさむのが家元風なんでございます。まあいいや。

「でも何でだ」
「何でって何が?」
「何で大河屋升九は創作落語のクセが出るんだ」
「おや、知らないのかい」
「知ってるよ」
「何を」
「知ってることなら知ってるよ。おいらの名前とか、おめえの尻のほくろの場所とか」
「つまらねえこと言ってんじゃねえ。大河屋升九の出身を知らねえのか?」
「知らねえな」
「大変なんだよ。異端の噺家を送り込んで落語界を引っ掻き回そうって秘密組織だ」
「どんなことするんだ」
「有名な噺家の声色を全部真似できるまで二十四時間発声練習をするんだ」
「聞いてみたいね。楽しそうじゃねえか」
「ダメだよ。最初のうちはヘタクソなんだから」
「それから」
「ピアノのレッスンがある」
「落語家になるのにかい?」
「馬鹿だね。ただのピアノのレッスンのわけがあるかい。指を使っちゃいけねえんだよ」
「指を使わずどう弾く」
「扇子だよ。全部で10本の扇子を使って『ザッツ・ア・プレンティ』って曲を弾くんだ」
「どんな曲だ?」
「知らねえ。なんでも告別式で流れる曲らしい」
「それから」
「雪山での修行は有名だぞ」
「そんなところで落語の修行ができるんかい?」
「雪の斜面に雪玉を転がすと膨れ上がってどんどん巨大になるだろう」
「雪だるまを作る要領だな」
「その雪玉の中に巻き込まれて谷間まで落っこちてくんだ」
「なんでそんなことを。『愛宕山』の稽古かい?」
「違う。自らオチを体験するためだ」
「ほんとかね。他には?」
「座布団に座って、四方八方からとんがった金属棒が飛び出して来るのを、こう、上体を揺すってよけながら稽古をする」
「あぶねえな。何の役に立つんだ」
「上体の表現力をつけるんだ」
「なんだか聞いてりゃ、『タイガーマスク』みてえだな」
「おうよ。『タイガーマスク』の虎の穴がモデルになってるんだとよ」
「こわいねえ。そりゃ一体なんて組織だ」
「落とし穴ってんだ」

 やがて改名した大河屋升九が全国の孤児院を巡りながら、弾き落としという新しい落語を広めて大評判を取るという『八十八サチヲ一代記』の前段でございます。

(「落とし穴」ordered by sachiwoflanagan-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

新作スタート。お題募集中。

2011年10月1日。
Sudden Fiction Projectの新作発表が始まりました。

1日1篇ペースをめざしていますが、これはどうなるかわかりません。
毎日、その日のお題を見て、いきなり書き始めていきなり書き終わる。
即興的に書くSudden Fictionをこれからお楽しみください。

お題募集中です。
急募!お題」のコメント欄で受け付けています。
どなたでも気軽にご注文ください。初めての人、大歓迎です。

(お題の管理上、TwitterやFacebookでは見逃しがちなので、
 どうか上記コメント欄をご利用ください)

それではこれからしばらく新作のシーズンをお楽しみください。

※発表済みの作品をご覧になりたい方は
 をご活用ください。

奥付



八十八サチヲ一代記


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著者 : hirotakashina
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/hirotakashina/profile


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