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1月13日のおはなし「323号室の探偵」

   客室清掃係の女、ベッドサイドテーブルの上に置かれた
   小さな革張りの手帳をのぞきこんでいる。
   その様子をホテルのボーイが、食い入るように
   見つめている。ボーイは様子を見計らって声をかける。

男「どう?」
女「ん?」
男「やばいでしょう」
女「は?」
男「探偵しよう」
女「何を?」
男「わかりませんか」
女「だから何が」
男「ほら、明らかでしょう」
女「明らかって?」
男「殺意があるでしょう」
女「殺意?」
男「『くたばっちまえ』。はっきりそう書いています」
女「あんたねえ」
男「やばいですよ」
女「やばいって?」
男「新郎」
女「新郎?」
男「殺されますよ」
女「ちょっとあんたねえ」
男「はい」
女「考え過ぎ」
男「考え過ぎとは」
女「誰も殺意なんて持ってないし、誰も殺されない」
男「でも犯行声明が」
女「これは日記。お客様が置き忘れた日記」
男「でも確かにこのとおり犯行声明が出てるから」
女「犯行声明って言うのは、テレビ局とか、新聞とかそういうのに『こうこうこうやっておれが殺した』とか言って送りつけるやつのこと。これはただの日記。誰に読ませる気もないの」
男「現に我々がこうやって読んでいるじゃありま……」
女「あんたさ、この人に読んでくれって頼まれたの?」
男「頼まれません」
女「勝手に読んでるんでしょ?」
男「……でもですね」
女「でもじゃなくて」
男「た、探偵しなきゃ」
女「探偵なんてしないの」
男「やばいですって」
女「お客様の忘れ物の日記を勝手に読んでるあんたの方がよっぽどやばいよ」
男「え? やばいですか」
女「そうだよ」
男「そうですか」
女「だから早く連絡とってあげなって」
男「連絡? 新郎にですか!」 
女「はい〜?」
男「殺されるから、気をつけろって」
女「違うでしょ! こ、の、ひ、と。夕べここに泊まった女の人」
男「どうして、女の人だってわかるんですか?」
女「ええ? ああもう、イライラする。何であんたはいつも!」
男「すみません」
女「あやまんなくていいから。いい? だってこれね、書いてあるでしょ? お嫁さんのことを、『この人ね貴方の愛した人は』ってね」
男「古田さんって男の人ですよ」
女「ああ?」
男「ここに泊まったの、古田さんって男の、男性の、男の人ですよ」

   女、もう一度日記を手に取ろうとして、 
   思わずテーブルの上に積み上げてあった 
   補充用の歯ブラシの束を落とす。 
   男、散らばった歯ブラシを見つめながら言う。

男「三十四」
女「え?」
男「いえ」
女「三十四?」

   女、はっと気がつき、
   歯ブラシを拾い上げながら数え始める。

女「……十、十一、十二、十三、十四、十五。(間)あれ?」

   女、男を見上げる。
   男、顔を背け女と目を合わそうとしない。

女「十五本だよ」

   男、目をそらして答えない。

女「全然違うんだけど」

   男、口元に手をやり、肩を震わせる。

女「(男が笑っているのを見て)えーっ? えーっ? ちょっと なにそれ? 笑ってんの? どういうこと?」
男「十九も違った」
女「十九?」
男「三十四と、十五。十九も違った」
女「?……ああ」

   女、ため息をついて近くの椅子に座る。

女「いいわね。楽しくて」
男「はい」
女「(怒鳴る)『はい』じゃないよ!」
男「すみません」

   男、ほとんど泣いている。

女「泣くなよもう。ほらいい子いい子してあげるからさ」

   男、女のそばに近寄り足ともにしゃがむ。
   女、男の頭を子どものようにかかえ、なでてやる。

男「セックスしたい」
女「いまはダメ。清掃時間の、客室ではセックスしちゃダメなの」
男「わかった」

   男、立ち上がり、再び日記のそばに立つ。
   女、しばらく離れて様子を見ている。

女「どんな人だったか、わかる?」
男「どの人が?」
女「古田さん」
男「探偵するの?」
女「……そう。探偵するから」 
男「うん。うん。チャペルの、新郎側の、一番うしろの席で、チャコールグレーのスーツで、白いネクタイをして……」

(「日記」ordered by こあ--san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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奥付



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著者 : hirotakashina
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