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はじめに

この度は「liferデジタルシナリオ」よりStg:4『Diopticon』をお手にとっていただきまして、誠にありがとうございます。

こちらはlifer(http://lifers.jp/) にて上演しました戯曲を、使用時ほぼそのままの形(下「原本より変更点」参照)で掲載しております。加えて、少々特殊な書き方となっている部分などもござ いますので、「読んだだけでは状況が解らない」などシナリオとしては至らない点もアルかと思いますが、どうぞご了承の上お楽しみください。
なお、テキストは「青文字」がト書き、他が台詞となります。

※なお本作は、先に上演した短編『mono optikos』の続きとなります。よろしければそちらも併せてどうぞ。

原本より変更点
  • 舞台装置の説明を加筆。
  • 細かい演出上の説明を加筆。
  • ほか誤字など訂正。

1
最終更新日 : 2012-01-09 04:15:14

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登場人物

  大河
  諏訪
  笹倉
  布田
  田尻
2
最終更新日 : 2012-01-09 03:42:41

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目次

〔1・A〕考察に至らず
〔1・B〕獣狩り
〔2・A〕被験者
〔2・B〕被験者2
〔3〕オブザーバ
〔4〕試験中
〔5・A〕第2段階導入
〔5・B〕同導入、笹倉
〔5・C〕シナリオ会議
〔6〕第三段階として
〔7〕後の公開内容
〔8〕結
3
最終更新日 : 2012-01-09 03:42:41

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〔1・A〕考察に至らず

パノプティコン、一望監視施設の機能の本質を思えば「場」は円形でないといけないという制約は、今現在では無効といえる。むしろメディア、通信等々、現在の技術を前提とすれば、視線元の見えない解放空間より閉鎖された場の方が逆説的に拘束感を感じられるものである。パノプティコンについて現在言われるところの「管理社会の縮図たる存在」というのは簡単な表現としてもあまりに端折りすぎているものだが、逆に今現在では遍く複雑化しすぎた為に結果としてマクロでは構図が簡略化し、ここに近づいている。ただその判断は主観でしか見取れずまたそうである以上全く意味のないものである。ならばそれを建築の段階で構図化する意図は何か。精神論レベルに堕とせば簡単に話も着くだろうが大した結果にもならないのでここでは比喩ではなくパノプティコン本来の意味が従うところの「刑罰史」上での考察を行う。
ここで矛盾が一つ。矛盾と謂う程の相反でもなく寧ろ必然であり人の為すことには必ず附き纏うことだが、刑罰の歴史を辿れば明らかな通り「誰が誰をどう判定しどう罰するのか」というのは長く試行錯誤されてきたことである。当然今も尚模索中だが、社会が過渡期である等言っていられるような研究者ではなく実際に渦中にいるのは多くの一般人なので、、今はその試行途中の判断基準に従ってモノの善し悪しを決めねばならない。且つ現在の司法の役割は単に善悪を定める以上に複雑化している。「やったかやってないか」を調査する事実至上主義から、被告の精神状態やバックボーンを加味して「何故やったか」を辿る精神主義への変遷、つまり司法の対象が人から「人の在り方」に変わっている。「その罪の何がどう悪いのか」=「何が正統で何が異端か」ということ、そしてその行き着く先は陪審制度ということになる。長い歴史によって厳選され洗練された学問によってではなくあくまで概観で裁くシステムは、最大公約数的な高文明感覚は得られるだろうが最早刑罰を施す仕組みではあり得ず、(社会にとってという意味での)善悪という線引きは益々消えてゆくばかりである。社会的善悪と人道的なそれが必ずしも一致するものではないという、暗黙のうちに了承されながらも何とか擦り合わせてやってきたものが壊れることになる。
では「すでに壊れてしまった」という前提で・・・社会的善悪と人道的な善悪のズレがどういう問題を起こすのか。そしてそもそもなぜズレているのか、という点を考えるために「人道的善悪は何で成立しているのか」という点。それを考察する・・・というより考察しようとしたらどうなるかが今作になる。着目するのは理論でなく五感。そして(作中でそう思われている、という前置きがいるが)五感の中でもさらに、ロジカルな器官である『聴覚』と比較してより概念的、大枠的な『視覚』と犯罪感のつながりを論ずることになる。さらに、理論的な『聴覚』を重視した場合と直感的な『視覚』を重視した場合とで善悪感に違いは出るのかという点も。
そうした感じで・・・理論重視だった人間が敢えて「直感という側面で」犯罪学を考えるその手段と過程のお話と・・・また例によって観劇の一ヶ月後くらいに思ってもらえると幸い。
今回は、通常の舞台上を『被験者用ラウンジ』、そして客席側を『モニタルーム』とする。ラウンジとモニタルームはマジックミラーで仕切られている、というあれ。モニタルーム側のシーンはそのまま客席で行うことに。客席頭上には液晶ディスプレイ。後述のDHOG映像(等)が映し出される。
暗転中から客側ディスプレイに突然映像。某所で起こった佐山さやま昭博あきひろ氏による自害の模様。(短編『mono optikos』より)
映像  ・・・俺は怒りのままに戸田を殺した人として当然のことをした。法律ってやつは歪だ・・・(以降終わり頃まで)
モニタ側、つまり客席にそれを見る田尻。ラウンジ側には視野を覆うようにして何かの機材を装着し、そのまま読書をしている女が一人。
映像終わる(一分程度?)。田尻、立ち上がって客席前方に向かい、研究室側にコンタクトするためのスピーカーをオンに。女に
田尻  終わったよ。
大河  (そちらを一瞥して)待て。
映像が切り替わる。女の手元、読んでいるモノ(=『ソロモンの指環』)が映し出される。それを見て
田尻  古いね。回帰のつもりだろうが生物なまものに興味があるとは思わなかった。可愛いモン読んでんなよ。
大河  人様だって歴とした生物だろうよ。
田尻  そうだろうがお前が本当にそう思ってるなら笑うよ。
大河  じゃあ笑え。(ようやく本を閉じて)まずどの辺まで知ってた?
田尻  何も知らないと思っていい。実際興味もなかったし。しかし思ってたより若いな。
大河  当時地検にいた佐山昭博はストーカー被害にあって挙げ句殺害された妻と他の家族の復讐の為に犯人を殺害した。しかも独力で送検前の、というか拘留以前に捕まってもいなかった男を発見し証拠を揃えた上で警察に突き出す前に手を下したってことだ。何も知らない人間としてはこの事件のことをどういう風に知ってる?
田尻  家族を殺されたヤツが仕返しに犯人を殺したと。
大河  間違ってない。
田尻  オマケに糞真面目にその責任を取って自殺したと。
大河  事象は違ってない。
田尻  以上。
大河  なるほど、間違ってる。
田尻  無知で悪かったな。
大河  じゃそれを見るのは初めてか?
田尻  インターネットか?とかには今でも存在してるんだろ?興味があるヤツは見たろうさ。メディアには出なかったろ。
週刊誌を取り出してとある一頁。その事件の記事。「司法精神崩壊の予兆」「若き検事、警鐘」などなど。
大河  そのメディアってのはマスコミか?
田尻  うーん、まぁそうだな。
大河  そりゃそうだ。思うにコイツは端からリテラシーの低いのは相手にしてなかったんだろう。
田尻  やなヤツだね。漁るは週刊誌ばかりか。
大河  ここまで頁を割いてるのは珍しい。他は概ねOBだか消息筋からの批判コメントで終わってるがここの編集長がなんでも検事長あたりに個人的に恨みがあるとかで。まぁ要するに内容はアテにならない。(置いて)復讐の為に犯人を特定し最終的に殺害したその男は、それ自体が司法を冒涜する行為だとしてカメラの前で自殺してしまった。
田尻  南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・
大河  「責任を取って自殺した」?すっとぼけんじゃないよ。責任を明示する為に死んだ。責任があるということを知らしめる為にだ。この記事に習って司法制度云々の側面から見ればだ。この件は多少の波風は立てたモノの偉いさんの間では世間で言われるほどの脅威にはならなかった。
田尻  何情報?
大河  検察の適格審査会てのがまぁ検察庁のチェック機構みたいなものだがそこに知り合いが噛んでる。知り合いってか知り合いの知り合いの恩師か。
田尻  お喋りな知り合いだな。
大河  おそろしくお喋りだよアイツらこぞって。これはもう揉み消したとかそういうレベルですらない、問題にならなかった。
田尻  上は?
大河  天辺てっぺんは法相だがいいとこ新聞で知りましたってとこか。さっきの検事長だって寝耳にみみみみ、み何個?
田尻  あーなぁ、いい加減本筋をくれよ。お前ほど忙しくはないがそろそろ飽きてきた。
大河  お前なら興味があると思ってたが。
田尻  巫山戯てんなよ・・・
大河  あの件が提示したのは、いや本人がどうだったかは知らないよ?兎に角少なくともアタシに提示したのは『罰』ってやつよ。
大河、壁越しに田尻に対峙して
大河  「対等な罰は被害者のためでも加害者のためでもなく唯それ自体存在意義があるということだ」私は何でお前の代弁をしなきゃならんの。何故佐山昭博は死んだ?死ぬってラインまで全うした?何故毒物でもってカメラの前で凄惨な死に様を曝した?何故?何故?何故?まだ興味がないというならしょうがない行っていいよ。だがそれで最後、二度と会うこともない。
田尻  なんで。
大河  そう何度もできる事じゃないでしょうこれは。後のことを考えれば緩い姿勢で挑める話でもない。心底、挑む意志のある人間がやる必要がある。だからこうして話している。
田尻  何年前のことと思ってんだ。
大河  変わってないという前提で、プラスこうしたご時世だ。もしも先を越されてたら違ったろうがお前生きてるよまだ。てことは変わってないどころじゃない。今、やりたいはずだよ。
田尻  おいおーい、本題も喋らない内から勝手に俺分析をすんなよ。俺が何故何をどうしたいっての。
大河  今回人を集める。そこで臨床試験を行う。『客観視線の他律的体感たりつてきたいかんおよび逆条件と善悪意識の相関概念』。
田尻  !(いや、あえて書くほど!はしない)
大河  今やってみようか?私自身お前が書いたあの卒論のおかげで・・・そのせいでこんな処にいる。アレは遠からず現実になると思っていたが思いの外早かった、六年だ。責任とってもらおうか。私じゃお前の思うところの落とし処には到底辿り着けない。これ。
大河、自分が装着していた装置を取り外して、田尻につけるよう促す。田尻、一息ついてラボ側に裏から回る。その間も引き続き
大河  第一段階から第三段階まで、状況に応じて変遷する。第一段階、被験者にはコイツが何なのか知らせない。まぁ最新のヘッドマウント型のインターフェイスとでも言うだろうよ。被験者は視覚を塞がれた状態で特定情報のみを毎日見せられる。映像、音声、エトセトラ。
田尻  (やってきて)その内気付く奴が出る。
大河  それだけの機械じゃないと気付く。
田尻  第二段階。
大河  もう一つタガを外す。本題はそこから。なぁどうよ。
田尻、例の装置を装着してみる。しばらく様子を見るも、
田尻  俺の今の状況わかってんだろ。最後まで行きっこない。
大河  三年前なら。今なら違う。
田尻  それだって阿呆臭い。書いてたはずだ、ここの奴らは恐ろしく鈍感で柔軟で賢い。こっちも手数が足りない。誤ロンでチョンボ。
大河  当時なら。今なら違う。誰も彼も敏感で繊細で阿呆だ。それも書いてあったろ?
田尻  阿呆とは書いてない。
大河  準備ならできてるよ。
田尻  (DHOGを外し・・・てなかったら外して外装を観察)Dualデュアル Handledハンドルド Op-selfオプセルフ nerveネルヴ Gearギアですか。なるほど。
大河  二重解決型外視覚装置。構造を洗い出すにはいいだろう。
田尻  ・・・・・・考える。
大河  ありがとう検討してくれ。
田尻  な、サンプルはどんなだ?
大河  あぁ。一昔前なら「反社会的」とでも言ったろうが今時分、アンチも何もない。考えてもみろ、私利私欲の為に他人を殺すヤツはいつでもいるが、それですらない、失墜も罰も何も怖くない、痛みも苦痛もよく分からない、そんなのがうようよしてる。先生がいたらなんて言うか。だから一周回って一般人を使うよ。
田尻  『模範人もはんじん』か。
大河  これを模範人と呼ばずして何とする。明日までに検討して返事を。
田尻  もう一つ。これはもしかして浪花節か?
大河  先生の復讐にもなるか?そういう意味では。ならやるか?
田尻、黙って出て行く。大河、再び装置を付けてソファ(的なもの)に倒れ込み、瞑想に入る。
獣の鳴き声が聞こえる。

4
最終更新日 : 2012-01-09 03:42:41

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〔1・B〕獣狩り

引き続き大河、獣の鳴き声に悩まされながらスポット。全体は薄闇、の中に諏訪。
諏訪  あぁ先生いましたか。DHOGドッグの0.9までのパッチ全部終わりましたけど、へへっ、虫取り外注じゃなかったんですか。
大河  あぁ・・・
諏訪  基幹部なら兎も角この辺なら任せてもよかったんじゃないですか?また全部自分でやったんでしょ寝ずに。便利だなホント羨ましいわその身体。いや羨ましくはないな。へへっ。(メモ取りだし)まず大橋教授が呼んでました。急ぎって訳でもなかったですけど、ぼかぁ言いましたからね、ちゃんと。次、生研なまけんから小包来てますけど部品ですか?あぁ修理するときゃ今度こそちゃんと呼んでくださいよ。また仕様の分かんない部分が増えたら堪りませんよ。さっきのパッチ当ててたのだって幾つか読めない箇所がありましたし・・・
大河  知らなくていい
諏訪  部分もあるでしょうわかってます。ただここだけ教えてもらえませんか。89から0.9の変更でビジュアライザーんとこがえらいことになってますけどこれ本気ですか?
大河  本気かどうかを聞きたいの?
諏訪  (笑)質問間違えました。あんな仕様どこで使うんです?あれじゃ刺激が強すぎる。一種、強制瞑想状態ですか。
大河  (ガバッと起き上がって)秘密。
諏訪  そう来ると思いましたねぇ、もういいや。最後に(メモ渡して)これ、リストです。経験無し三人、あとご依頼の特注さんが一名ビンゴ、これラッキーでした。他の部分、身体機能経歴信条全て異常ナシ。ひとまず一次選考では十名ですけど
大河  条件は?
諏訪  全部OK勿論。最終の絞り込みはやりますか?
このあたり、大河は徐々に酩酊。
大河  ならランダムでいい。
諏訪  了解。
諏訪、傍らに棄ててある『ソロモンの指環』を拾い上げる。大河が半酩酊状態なのを確認した上で
諏訪  ・・・・・・あの男、まさか一人で世の中変えようとしてたんですかね。
と言ってる間に獣の声は大きくなり音は飲み込まれる。
諏訪  「復讐は治世の道にあらざる也」されど復讐心まで消えてしまっちゃ生きてるとは言えないし。「それの可視的な強烈さにではなく、それの宿命的な力に求める、そして、最早処罰のぞっとするような光景が、ではなく、処罰されるとの確信、それこそが、犯罪を思いとどまらせるはずである」ってね。感覚がついていきませんよ実際。先生のやろうとしてることは何ですか。と聞いてみたいところですけど。
語るも、音は獣声の合間に切れ切れになり、一方で大河の着けている装置(DHOG)もチカチカと明滅。ようやく獣声の涸れた頃に
諏訪  真相がどうあれ僕個人としては、楽しませてもらうだけですわ。
明滅に従って大河の呼吸も荒いでくる。苦痛と言うよりは興奮気味。
諏訪、消える。大河のDHOGの明滅がゆっくり止み、取り外す。息を整えて
大河  ・・・・・・諏訪君?なんだいたと思ったが。
一瞬の頭痛を噛み殺して、親指の付け根を強烈に噛む(癖)。それはもう痛みに歪むほど噛む噛む。
大河  (深く息を吐いて)・・・落ち着いた。
暗転。

5
最終更新日 : 2012-01-09 03:42:41


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