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9.裁判-復讐者シリフ-

かの国の英雄はこの男にとっては悪魔だった。
何度も侵略され、国は弱まっていく。
男は国の見習い医師、国は何度も会議を開き、この男の師匠も呼ばれた。
時には位が高くなった男も交えて会議を開いて対抗手段をいくつも考えた。
そして男は答えを出した。
敵国が先陣を切って侵略し続ける男を、猛毒を塗り付けたナイフで殺す。
それをするのも作るのも、この男に委ねられた。
敵国に侵入し、英雄を誰にも知られず殺すことが出来たが、自国へ帰る途中に流れ矢に当たって死んだ。

では裁判を始めます。

目の前には巨大な天秤。
右手に白い扉、その前に白い本を持った女と白い翼の女、計四人。
左手に黒い本を持った黒い翼の男が計四人。天秤の上に鎌を持った男と巨大な羽をもった女。
男は、何故ここにいるのか思い出せないようで、ふらふらと天秤の前に膝をついた。
「何だここは…」
男はめまいを覚える。
重い空気が漂う。
翼の生えた男と女は、じっとこちらを見つめてきた。
天秤の前、動くことすら出来ない。手には毒をぬったナイフを握っていた。
「では始めます。名前はシリフ=アーディ。三十五歳」
本を持った男が、名をあげた。
彼はシリフという名前であり、確かに覚えているのは、森の中で、敵国の流れ矢に当たって苦しみ死んだことだった。
「医師として働いていた。死亡時、毒を塗ったナイフを所持しており、流れ矢は胸に刺さり、それによって死にました」
「そうだ、俺は国を救ったんだ!!」
黒い本を読みあげる男は悪魔か、白い本を持った女は天使か。
ならばこの先にいるのは神の国か。
「そうだ、テフィルスをついに殺した、殺したんだ!!」
「お黙り!!」
天秤の上の女が一喝する。
それに頷いて、本を持った男は続けた。
つらつらと挙げられる文章はまるでシルフの耳には入らない。ただ、達成感だけがあった。
そしてこの先には国がある。神の国があるという。何度も書物で読んだその国が。
善人だけが行けるという国。
ただそれをずっと思い描いていた。
「テフィルスを殺害しようとし…」
黒い本を読む男のその言葉に、シリフは生き生きとそちらを見た。
「テフィルスは死んだ!!俺がこのナイフで殺したんだ!!」
毒をぬったナイフは鮮やかに銀色に輝いて、汚れがまるでない。
 その先に塗った毒は、自国で作られた猛毒だった。
テフィルスが病に伏せっていると聞いて、急いで毒草を煮込んで作られた毒。
それをナイフに塗って、テフィルスがいる部屋にいって殺してこいと、上司から言われていったことを思い出す。
この毒は強力だった。様々なもので試した。
死刑囚に緊急で作ったその毒を針に塗り、ぷすりとさしただけで、あっという間に死んだ。
声もあげられず息絶えたそれを見たとき、シリフの心が躍った。
小さなナイフにそれを縫って、与えられた。その時のシリフは、大切な仕事を任された、そして国を救う英雄になるという思いでいっぱいだった。
 元々は薬物に詳しい有能な医師だ、別の国の経由で、自国にとって悪魔であり、その国にとって英雄であるテフィルス殺害のために潜り込むのは、割と簡単だった。
数えきれない軍を率いて他国を潰しにかかっていたテフィルスは怪我をして、そこから菌が入り込んだだろうと思われ、熱病に侵されていた。
テフィルスのためにと、与えられた部屋で一人そのナイフを握りしめて、気付かれないように足を刺した。
「テフィルス?思い出せそうな気がします」
黒い本を持った男の話を聞いているうちに、白い翼の女の一人は、首をかしげた。
「地獄行った英雄じゃないですか」
「ああ!!なるほど、彼ですか。確か永遠に地獄の最深部で焼かれていますね」
 天秤の上の鎌を持った男が、白い翼の女に教える。
中々使わない鎌を使ったからこそ覚えている。
 やり取りを聞いていたシリフは、それを聞いて狂ったように笑い出した。
「はは、は、俺は間違ってなどいなかった、テフィルスは地獄へ行った!!俺は国を救った英雄になったんだ!!」
ゲラゲラと笑い声が響くこの部屋、黒い本を持った男は、一瞬シリフを見た。
 ナイフを持った手を高く上げて、神に祈るように笑い続ける。
「英雄だ!!俺は国を救った!!テフィルスは地獄へ行った!!」
「…です、が。テフィルスの死因は病死です」
とたんに笑い声が止まり、シリフは驚きを隠さず、黒い本を持った男を見つめた。
「…病死?」
「そうです。所で殺害数と人数を見ている限り、だいぶのことをしましたが、医師の探究心故ですかね」
ふむ、と、黒い本を横から覗き見る他の黒い翼の男も頷いた。
「今まで殺してきた生物なんて考えたことがない。死刑囚や捕虜を使って実験はした。医師なんだから当然だろう!!」
シリフは勢いに任せて噛みつくように怒鳴りつける。
 しかし黒い本を持った男は、何の戸惑いもなく、むしろ聞いてないようなそぶりで、隣の男と相談をしあっている。
「ではこちらの本を読みあげます」
白い本を持った女は、彼らがずっと会話しているのを見た後、続けた。
「彼の国は壊滅しかけていた所に、それを救うためでした。その行動が、毒殺という手段です。それにシリフには四人の兄弟がいます。貧しい国にとって、有能なシリフは救いでしょう。救ってきた生物も人数も大層なものです。特に兄弟にとっては、シリフがいなければとっくに国を出ていくしかなかったと思われます」
大事な兄弟。家族を持ったけれど、国が貧しい、蝕についても大した金を得られない。そんな兄弟のために、せっせと貯金をしてはそれを切り崩し、薬を作り続けた。
 色んな薬を作った。
大量の人間を救った。
「そうだ、俺は国にとって英雄だ」
道の草だって手にいれては、不治の病とされる病気を治したこともある。そうして効能を発見しては薬を作って、一気に昇進した。
その中で新たに作られたものは、テフィルス殺害の計画。国の一部でしか行われず、絶対に外に情報等出せない。
 あの悪魔に、死を。あの悪魔に、地獄を。
聖剣なるものを持って戦い続け、潰された国は数知れないあの悪魔に。
そう思いながら、急いで国を介して、出身も何もかもを偽造して、優秀なテフィルス専属の医師として紛れ込んだ。
「と、失礼。こちらのことを述べます。やはり殺害生物より、人数が…特殊なことになっています」
黒い本を見ながら、男はページをめくる。何度もページをめくり、戻る。それを繰り返す手つきを見ながら、シリフはナイフを握りしめる。
「これみてっと、間接的な殺害人数が…二十万ちょいなんだよ」
本を持った隣にいる男が、首をかしげて告げた。
「二十万?間接的に?」
その場にいる誰もが、異様なまでの人数だと、述べはじめる。
シリフは混乱する。
殺害生物ではなく、人数が二十万以上。
確かに人体実験は何度も行ったが、自国の人数レベルで人を殺した覚えはない。
 と、自国の人数が二十万程度ということを知っていたシリフは、まさか、と小さく口に出した。
それを気にも留めず、黒い本を持った男は、ページをめくり続ける。
「ああ、ありました。シリフが間接的に殺したものはたしか二十万と少し、これはあまりにも多いので述べられないのですが」
「国一個壊してる」
本を持った隣の男もの言葉に、皆は首をかしげた。
だが、シリフは今度は喜んで声を上げる。
「国を一個、その国はテフィルスの国だ!!」
ついに英雄がいなくなったことで、全てが崩壊したのだと思った。
 その国にとってテフィルスがいなければ、この歴史はなかったといわれるほど、テフィルスの評価は高い。
またも高笑いが響く中、本を持った男は冷静に口にした。
「壊れたのは貴方の国です」
シリフの高笑いが止んで、動作が不振になる。
「どういうことだ!?」
確かに殺したテフィルスが病死、かけられた毛布の上から刺したはず。手に汗を握って、誰にも見られないうちに天蓋のある豪華なベッドに忍び込んで。
そして、その直後に、すぐに、テフィルスは無事だと告げて、しばらく安静にと告げて、国に帰ったはずだった。
 勿論その途中、流れ矢が当たって死んだのでここにいるのだが。
「早い話が、お前は、流れ矢が当たって死んだことと、テフィルスの毛布に穴が開いていたこと、同時に文書偽造がばれて、敵国怒らせた。あとは分かるな?」
流れ矢に当たった時に持っていたものは、テフィルス殺害した胸を上に知らせるための一枚の書類。
 もしその文書が敵国に知られたら?
「何故テフィルス専属の医師が、国の城壁の外で死んでいる?なぜ手にはナイフを持っている?」
あげられる言葉に、シリフは硬直した。
「まあそういうこと。残念だったな、何でそんな大事なもの持って出かけるんだ、医師として有能だけど大事な部分はスポンジで出来てんのか」
「スポンジ?」
シリフには知らない単語である。
「お前の時代にはないか。えーっと、そのあと国が壊滅して繰り返してな。今は割と落ち着いてる。戦争とか災害は相変わらずだが、お前らの時代よりはまだましかな。えげつない所は相変わらず人間のやることだけど。まあ、そのスポンジってのはすかすかなの。柔らかいの」
黒い本を持った男が苦笑するほどの隣の男はべらべらしゃべり続ける。
楽しそうに喋り続ける男は、息を大きく吸い込んで、固まるシリフに大声で言う。
「要は、お前はアホか」
 生きて帰る予定しかなかった。すぐに出て無事に国に帰り、国境を越えれば無事が確認される。
 当然シリフの他にも紛れ込んだものはいたが、重要な部分はシリフが管理していた。
たまたま国境を超える途中で、矢が刺さって死んだ。
書類とナイフを持って。
死んだ後のことなど考えたことがない。
長い螺旋階段を上った先がここで、ここがなんなのかもわからない。
彼らの持っている本も黒い、としかシリフには分からず、どんな繊維かもわからない。
そもそもその本が紙で出来ているかも怪しいほど、見たことがなく神々しくもあり、まがまがしくもある。
 だがそんなことはどうでもいい。
「国は消えた?潰れた!?」
「そうですね。こちらの本にも書かれていますよ」
白い本を持った女も、ページをめくった。
 だが善行しか書かれていないので、どう死んでどういう壊れ方をしたのかは分からないと、黒い本を持った男に譲る。
 そのことを組んだ黒い本を持った男は、更にページをめくった。
「詳細を。貴方が死んだすぐ後、死体は見つけられてしまいました。これがすぐ後で、敵国に見つかってしまいました。当然手にナイフや薬、そして例の書類一枚を持った、その敵国の紋章のはいったものだった。当然ながらすぐにおかしいということで、全てが暴かれてしまいました」
シリフは声が出ないほどの絶望に覆われた。
「貴方がスパイであることが気づかれてしまい、その直後、テフィルスは死亡しています」
「そ、そんなことは、おかしい、何でシリフは病死なんだ。いや、兄弟は、国は、何で…どうして!!」
シリフは何もかもが嘘であると思おうと必死だった。
それに対してとても冷静な声が響く。よくとおる男の声だ。
「はい。貴方は焦りのあまり手元が狂って、実際にはテフィルスに毒をぬったナイフなんて刺していないのです。なので、テフィルスは殺害人数に含まれていない。その代わり、流れ矢の当たった死体を見つけられたことで、敵国は貴方の国を全力で潰しにかかったんですね」
「続き知りたい?」
本を持った男の隣の男は、ニヤニヤしながらシリフを見た。
震えるシリフは、汗をだらだらと流しながら、頷いた。
壊れた人形のように。
「テフィルスがまず怪我した時点で、テフィルスは、己に代わる奴を見つけてたんだ。そいつが代わりに軍を率いてたの。テフィルスから教えられた方法でな。まあ、カリスマ性はテフィルスより劣るけど、結構な人間だ」
「…」
「それで、お前の死体がご丁寧に調べられたとき、ボロが出まくったわけだ。その時のその国らへんでその薬に使われたものが生息しているのは、お前の国内だけだった。毒だとわかっていたのは。その手掛かりはナイフから、あとは穴のあいたテフィルスの毛布も調べられて。壊れかけていた国を潰すなんて、英雄を継いだ人間にはたやすい。あっという間に大量の軍が放り込まれて、お前に関わっていた家族は、残虐な手口…まあ俺が言うのもおかしいけど、結構な苦しみを受けて死んでいった」
黒い本を持った男も頷く。
「貴方が死刑囚を殺したのと同じように、貴方の家族は残念ながら、様々な実験や民衆の娯楽、他国への見せしめとして処刑されました」
シリフの脳内では、様々なことが駆け巡る。
 小さいころから貧しいのに勉学に努めるシリフを支えた兄弟。やっと入れた小さな医院から、才能を発掘され、王宮に仕えることになった時の喜び。
そこでも実力を発揮した。
なにぶん医師でしかないので、大量の兵下への特効薬を作ることばかりに気をとられていた他の医師とは違い、毒草に着手し、自国でとれた毒草を調合した時。
 調合方法が特殊だった。
煮だしたりするだけでもなく、乾かしたり、他のものをくわえたり。とにかく、テフィルスを殺せば済むと思っていた。
 テフィルスを殺せたと思った時に、気が緩んだのは確かだった。
これで国が救える、敵国はひるむ、自分自身は正真間違いなし、家族は更に裕福になる。
実際にスパイとして潜り込んでいたのはシリフの国だけではないはずだ。
テフィルス死亡が外に広がれば、他の国だってかたきとばかりにその国に襲いかかってくる。
はずだった。
「そうですね。軍を率いていたテフィルスだけが優秀だったわけではありませんから。テフィルスの国は随分と武具に関する所が進んでいたようですね」
白い翼の女の一人が、なるほどと相槌を打って聞いていた。
「家族が見せしめ、国…」
あまりにもナイフのように鋭い言葉だった。
 応援してくれた家族や仲間たちが自分一人の死で崩壊したことなんて考えたくもない。
シリフの手から、からんとナイフが落ちた。
青銅で出来た剣。
それを見つめる。床に落ちた剣は、確かにどこも汚れていない。
つばを飲み込み、震える手で勢いをつけて刺したはずのあの時、手ごたえはあったのかと思ったが、分厚い布をかけられていて、分かるはずもない。
かといってテフィルスの衣服を脱がせてさす手間も惜しいほど、小さなタイミングだった。
 血すらついていないことに気付くべきだった、とシリフは考えた。
「そちらの本には?」
黒い本の男は、相手にいうが、白い本に続きはなかった。どれも過去のことで、黒い本を凌駕する内容は見つけられなかった。
死んだ後、彼が善行として残るほどのことがなく、むしろその国が壊滅したことが小さく書かれている。
首を振る白い翼の女に、黒い本を持った男は頷いた。
更にべらべらと喋る黒い翼の男。
「殺害された方法も書いてあるけど、聞いてみ」
言う途中、さらに隣の男に、頭を軽くはたかれる。
それを見ただけで、どれだけ辛い思いをして死んでいったのかは分かってしまった。
内容こそわからない。殺され方は分からない。
けれど、黒い翼…シリフにとって悪魔が言うのもためらうほどの方法。

気付くと、天秤には黒い本と白い本、もう片方には羽がかけられていた。
見ることをしなくても、傾いたのは罪の方だった。
がたんと勢いをかけて響いた音を聞いて、黒い扉が開かれる。
「違う、俺は英雄だ、そのはずだった、これは悪い夢なんだ!!」
シリフは両腕を、黒い翼の男二人に引っ張られた。
「俺は、俺の神の御意志の通りにやったんだ!!」
熱気がこみあげる。この最深部にテフィルスがいるという。
 書物で読んだ紙の国は花園、白い神殿と天使たちがいて、更にその上に神がいる。
それを主張したが、扉の前まで引きずられる。もうあと一歩行けば、この中に呑みこまれてしまう。
その時、鎌を持った男と、白い羽をもった女は、同時に告げた。
「神は、存在しません」
その瞬間、シリフは蹴り飛ばされた。

落としてからなんだけど、あいつ自身に悪気はないから、この際輪廻でいいんじゃねえかな」
手フィルと同じ場所へ落ちていくシリフを見送った後、その背を蹴り飛ばした、本の隣の男は天秤の上の二人に向けて言う。
扉は閉じられる。
「あら、珍しいですね、いつもは輪廻禁止なんてしつこく言うというのに」
白い翼の女が、くすくす笑いながら、頭を描く彼に向けて言った。
「うーん?うん。やっぱりなあ、そりゃ殺害数は多いし、結局自滅したことになるからどうもいえねぇけど、あいつはあいつなりに頑張ったんじゃねぇの?そっちの本に書かれてなかった?」
白い本は、天秤が傾いた時点で消えてしまった。
先程まで白い本を持っていた女は、思い出す。
シリフの苦労と、国のために行ったことは、評価をしたい。
貧しい国と貧しい家族を養うための努力は、何度も白い本に書かれていた。
 それらがあまりにもひどい結末になってしまった。
「…そうですね、テフィルスは信仰心熱く、善人そのものの故、自ら輪廻禁止を選びました。その代わり…」
女は、天秤の上の鎌を持った男を見た。
「ああ、この鎌ですか?痛みは味わわないけれど、結局ずっと同じ場所にいることになったのと、悲惨なものを見続けることは変わりないですよ」
鎌で首を切られたテフィルスは、地獄の最深部の熱さを感じないようにされた。
 テフィルスの信仰心故に引き起こした戦争によって死んだ人間は数知れず。しかし神がいない事実と、自らの行いによって、殺戮者と何ら変わりないという事実に気付いたテフィルスは、自ら、後から来る仲間の分まで苦しむことを提案した。
そして地獄の最深部で永遠に輪廻なく。
鎌で首を切ったのは、テフィルスのまっすぐな心にうたれた、天秤の上にいる彼によるものだった。
 痛みはないが、首を切られても生きてはいる。
むしろ、首と胴体が離れたことで、動けもせず、煮えたぎる血の海で罪人たちを永遠に見続けるのは、善人としての自覚のあるテフィルスには、想像を絶するほどの精神的苦痛のはずだ。
 また、その眼から流れ続ける血が、海となって更に血の海はかさをまし、熱くなる。
罪人の血によって出来上がった地獄という名の煮えたぎる血は、そこに飛び込んだ人間の血でますます増えていく。
「わざと国を潰したわけではないですからね。むしろ犠牲者を減らすために行ったことがこうなってしまったことですが」
「だからあいつは頭がスカスカなんだって」
黒い本を持っていた男も、納得している。
後の二人は、輪廻禁止を訴え、白い翼の女と相変わらず言い争いを続けているが。
鎌を持った男が、天秤の下で一瞬何かが光ったのを見て、降りる。
 それはシリフの持っていた、毒をぬったナイフだ。
青銅で出来たそれは、切れ味がとてもいいというわけではない。
軽く刃先に触れると、乾いた毒液らしいものが指についた。
「償いは長いけれど、ここは輪廻ということで落ち着きません?」
天秤の上の女は静かな声で全員に問いかけた。
一体どれくらいの時間をかけて償うのかは知らないが、相当かかるであろうことは容易に想像がつく。
「賛成します」
鎌を持った男は、ナイフを握りつぶす。
毒のついていたそれは、さらさらと土に帰り、消えていった。





10.裁判-作者香吾悠理-

私はここに来た。
彼女彼らは私の子供であった。
名前すらない彼らは時間軸すらこえて、裁判をし続ける。
時に彼らは暴走し、時に迷い、時に怒り、笑う。
そしてついに私がジャッジメントをされる日が来た。

最後の裁判を始めます。

化粧気のない地味な人間、絵や小説を書くのが大好きな人間。
私は天秤の前にいた。
両側には、いつものように彼らがいる。
覚えているさ、忘れもしないさ、君たちの衣装だって把握しているさ。
死ぬ前の姿で。
黒い本を持った男は、大きく声をあげた。
「最後の裁判になります」
頭がぼーっとするな、彼らは私の名前と年齢と善行と悪行を述べはじめる。
色々んなことがあったな、私はこに来る前に色々なことが。
 精神病でめいってないた日もあったけな。
とてもお世話になっている人のおかげで、絵をもう一度頑張ろうと思ったな。
作風変更になったのは、昔いた小説SNSの人の言葉だったな。
 頭に内容が入ってこない。
黒い扉の前の男を見つめてみた。
彼はロングコートで丁寧口調、最初は世界観確立のためだったけれど、どんどん内容が変わっていく。
私がこれを書く時は、ニュースや人に聞いた話をヒントにしている。その時に興味のあったものも。
「とてもこの人間は罪深い、親を困らせてばかりです」
黒い本を持った男が告げる。
 随分と悪行を述べられたが、それはそれでいいと思う。
神様に懺悔をして許しを乞うというのはよくある話だけれど、それは罪を告白することで、心が軽くならからだと今思う。
今度は善行が述べられたが、よく聞こえない。
ずっと述べられるものは全く頭に入ってこない。

すでに一時間は経過した。
どこ行きになったのだろう?
輪廻云々でまた彼らがもめている。
天秤の上の二人は私にかけて問う。
「貴方の意見を述べなさい」
そうだなあ。何がいいかなあ。
死んだ兄に会いたいな、祖父母の話を聞きたいなあ。
 むしろ輪廻はどうでもいい。
そう言えば聞きたいことといえば、ある。
君たちはどうなった?

「マイキはあのあとどうだった」
私はマイキに問う。
「今、新たに子供として生きています」
マイキは、素直に答えた。無事輪廻を果たしたようだ。
今は、立派に看護師として働いているそうだ。

「早苗はどうだ。奈々子と悠木はまだ苦しんでいるのかね」
またどこからか声が聞こえてきた。
「私は、地獄に耐え続けたの。今度からは不倫なんてしないんだからね」
早苗の元気そうな声が響く。
 彼女は女子高生になって、受験勉強に取り組んでいるらしい。
就職氷河期だが、君は元々頑張り屋さんだから、やれば出来るさ。
「いつまでも悠木と一緒、苦しくなんかないわ」
奈々子の優しい声が響く。
悠木はくぐもった苦しみに満ちた声を出した。

「テフィルス、永遠にその地獄で死者を見続けた感想は?」
地獄の最下層で痛みこそないが沈められたテフィルス。英雄であった彼が自ら望んだ道だった。
「戦争の指揮をとっていたこと、後悔をしています」
テフィルスほどまっすぐな心がほしいものだね。

「リージ、輪廻をせずにずっと小説を書き続ける。どうだい?」
リージは白い扉の向こうで、来た人間たちと羽の生えた者たちに、小説を見せている。生きていた頃の小説だってヒットを生んだ、君は恵まれているよ。
「とても楽しいです!輪廻する前の退屈な時間を持て余す方々が、面白いと読んでいってくれるのは、とても楽しいですね!!」
君は楽観的だ。

「アフェルタは輪廻を果たしたらしいが、どうだい?」
性別も変わって生まれ変わった彼女は、恋人と出会えたのだろうか。
魔女として処刑されてから相当の日数が経っている。
日数というより、年数である。
「今彼氏がいるんだ」
アフェルタの隣には、彼女の恋人だった人物がいるらしい。
なるほど、奇跡が起こりましたか。
 何度輪廻を繰り返したかわからないが、結果的に今の時代でなら、差別はそんなにはないだろう。

「サニャ、君は家族が大好きかい」
無垢故に地獄に行きそうになった、虐待死された子供、サニャ。
実母が先に死んだ故に起こったかなしい事件だ。
「ママ大好き!パパも、ねーねも大好き!あのね、今度弟が生まれるの」
その母親がサニャの生まれ変わる前の実母かは知らないが、雰囲気はそっくりだという。
温かい家庭で、皆と一緒に食事をとる。お腹の大きい母親の手伝いを、姉と一緒にしている。

「正行はネット依存症になるなよ、自宅警備員に次はなるなよ」
インターネット依存症で引きこもりになった正行。
 学歴も悪くない、最後に自分の立場が狭いことに気付いた正行は、同じネット上で知り合っていたリージに伝言を頼んで地獄に飛び込んだ。
あれからずっと時がたった。
彼は最近の二元だから、年齢はまだ低いだろう。
「まともなことしてやんよ。俺、今はまだ小学生なんだ。でも今度こそ小説家になってみせるよ。リージに負けてられないからな」
そうか、それならいい。

「辰之助は柳谷と奥さんに出会えた?」
食糧難から、己の手で息を止めた柳谷にわびたいと言っていた。
妻にいつか会うのが約束だと言っていた。
「まだ会えないんですよ。しかし時代は変わりました。自分のことを本で読んだときは驚きました。同時に、死んでいたと思っていた人が生きていたことが驚きです。昔の、おいた仲間と会いましたよ。輪廻しましたなんて言えませんけどね」
楽しそうな声が響いた。
肝心の奥さんには、まだ会えないらしい。今の辰之助はまだ十歳にも満たないという。
いつかきっと巡り合えると、ちょっとした確信があるようだ。

「シリフ、君は今何をしている?」
シリフはテフィルス暗殺をしようとし、逆にミスで自分の国が滅ぼされた。
ずっとずっと償い続けて、ようやく輪廻したという。
「マイキさんの上司をしています。俺はやっぱり医学が得意なので」
マイキと同じ職場だという。


「貴方のいいたいことは終わりましたか」
天秤の上の女が話しかけてきた。
私は頷いた。黒い本と白い本を受け取る。
パラパラとめくり続ける。
そして白い本と黒い本と一緒に、

ジャッジメントという小説を閉じた。





定期あとがき

書いている時に参考にしたもの、思ったこととかを。
一応口の悪い黒い翼の人ですが、黒い本の隣の人がとても怒りっぽいです。
更にその隣の人は、やや怒りっぽいけど、まだ考え方が理性的。
四番目の人はほぼ無言。
白い翼の人は、白い本の人以外空気になってます。
閑話休題の様な、彼らの日常を挟みたいと思っていますが、それを入れたら世界観壊れるかな?と思って書いてません。それっぽいのなら、4のリージの最後で書いています。
彼らがなぜ裁判しているのか、理由も書いてません。だって必要ないんだもの。

1.裁判-孤独なマイキ-
何か自分の世界観確率のために書いた。
なので、4辺りで終わる予定でした。
最初は死ぬまでの経緯を詳しく書いていたが、面倒になって、これが基準になりました。
死んだ理由は比較的どうでもよかったりする。
今ではあまり触れられてませんが、あまりに善人の典型的な例なので、殺害生物数ではかりにかけてます。
彼女が生まれてきたせいでは親が死んだで、殺した人の中に入ってしまうのが彼らの容赦がないです。
2.裁判-早苗、奈々子、悠木-
死因を書きたした後、リージのことを書いていたので、殺害数に自殺も含まれているので、奈々子の殺した人数がおかしいことに。
とりあえず超ヤンデレと外道男が書きたかった。
死んだ状態のままやってくるわけではないという設定にしたのは、早苗がとんでもなくい殺され方をしているので、想像したら怖かったから。
3.裁判-英雄テフィルス-
ここまで書いて投稿して、人気本を四位いただきました。
神様がいない設定にしたのは、集めたらとんでもないということですが、それを利用してみました。
なので中世ヨーロッパのどっかの国の英雄とかそういう適当な設定です。
ありがちな聖なる剣とかコッテコテの英雄にしてみました。要は神様を盲信していた英雄の鼻っ柱くじく話を書きたかった。基本的に精神が善人なので、彼自身がこの道を歩みました。鎌の存在理由はこの救済処置にあります。
と、結構適当なことを設定して後から設定づけする私のくせ。
このあと少しして、復讐医師シリフが出てくるのですが、シリフを書いた段階で死因を美容師にしたので、物語が初期と、シリフは異なることになりました。
4.裁判-物書きリージ-

たまには頭が空っぽになるような話を。リージの頭の構造は、重いんだか軽いんだかよく分かってないですが、パブーという場所が発表場所なので、絵描きより物書きにしてみました。
今までがよく悩んでいた人たちなので、その逆。
ただし彼自身が観察のために殺しまくったことを、悪いことだと思ってないのと、黒い翼の人たちに気にいられて、輪廻禁止となりました。
7の正行とかかわりがあるとか後で考えた。ジャッジメントされて園へ行って神殿に行くと、彼がいます。
5.裁判-魔女アフェルタ-
魔女裁判…が、当時の娯楽であり、密告すりゃすぐ捕まるので、いつか書きたいな、と。
今までが死後の裁判で変な方向いった人がいたりするので、むしろ、「何でこの人ここに来てんの?」と裁判官十人が思うような感じに。
自分が悪いことをして裁かれて死んだのに、死後ではさらりとかわされて、悔し泣きする女の子。
ちなみに彼女は恋人と裁判所で出会えて輪廻禁止を望みましたが、一蹴されました。

6.裁判-無垢な子供サニャ-
世界関係を見てると、虐待が多いので、それをテーマにしました。
彼女は死んだことに気づいてません。
子どもゆえに純粋すぎる、と、黒い翼の口の悪い人がロリコン気味。
本の書かれ方が子供なので童話っぽく絵であらわされる仕組みになっています。
真っ黒に塗り潰されているのは彼女の心情表現です。
このお父さんは、どういう心理状況だったのかというと、流されて冷たく当たるしかなかったとかそういう裏事情が。
読者様に「サニャはママに会えたの?」といわれますが、「読んだ人に任せる」と、返してます。
他の作品でも「このあとどうなるの?」といわれても同じように返してます。

7.裁判-電子の人間正行-
某大型掲示板。私はそのスレとその板にはいませんが、別の板とスレにコテハンでいます。
自作自演が多いし、実際そういう人はいますので、(スカイプで笑いながら自演してるーって言われました)どうしようもねぇ。
文系は落ち着いているイメージがありましたが、いってみたら、コテハンでいる板と何ら変わりがなかったので、どこも一緒なんすね。と、それを書いてみました。
オカルト板好きなので、それの影響もあって、「自分の発言がきっかけで相手死んでたらどうする?」と変な発想になりました。
しかし彼が間接的に殺したといっても、彼が全てではなく、全て悪いことが重なって追い打ちとなったのが、日本人の方。
特に関係なく自殺しているのが4で登場したリージです。リージは相変わらずな性格しています。
正行は死に方が潔いといわれました。
毎度ですが、名前は一発変換できる名前にしています。
寒い寒いと連呼していたので、あっちいってもらいました。
世界観がラノベがどうの書いてますが、私自身実はラノベって呼んだのは一度しかなく、しかもそれが「そーゆー」とか「とゆーのは」など、軽くイラッとするような日本語崩壊された書き方なので、本物のラノベがどういう描写のされ方か分かってない。
8.裁判-約束と裏ぎりの辰之助-
死因が老衰なのがなく、丁度その時に近所の方が出版社で出した駆逐艦隊の本を貰っていたこと、その時戦争の心理の本を購入しまくっていたこと、特に蒼龍艦長柳本柳作さんが大好きだったことがあってこれにしました。
名前はお父さんのおじいちゃんの名前を借りてきました。
近所の方に本を貰った際に、「柳本柳作さんが大好きなんです」といったら、「ああ。あの人ねー…」と遠い目をしていたので、内容見て後悔しました。
彼は柳本さんの最期と蒼龍の最期を見ていたのでした。
蒼龍の描写は、彼の書いた本を参考に書いてます。しかしこの辰之助の艦隊は架空です。
戦争の心理は大変好奇心をかきたてられるが、人によって様々なので、本当になんと表せばいいか。
で、これは二月初旬にほぼ出来上がっていしまたが、本を、泣きながら読んでいたのもあって、公開停止するかで迷いました。
祖父に戦争の話を聞きましょう、というのが小学生時代ありましたが、当時は興味がないのと、祖父があまり話さないので最近になって、両親の祖父がなにをしていたかを詳しく知りました。
公開理由は、何人かに読んでもらって、いんじゃないかといわれたので行きます。
近所のその方には絶対に見せられません。
辰之助の元になった曲・UNDOをどうぞ(平沢進/人間食っちまった) ライブVerスケルトン・コースト公園(平沢進/CDの方にはない、語りが入る所は辰之助の口調のまま)
母方の祖父→医療関係で海外に。腸がはみ出した人を詰め込んで縫ったけど駄目だった、と、祖父は悲しそうに語っていたそうです。
父方の祖父→安く看板描いてばかりで祖母が怒っていた。

9.裁判-復讐者シリフ-
結局9までずれこんだ。
ちょいと初心(テフィルスあたり)に戻ってみました。
最近の黒い本の隣の人がレギュラー化している。
シリフは元々サニャあたりに考えていた、のですが、自分自身テフィルスの死因が病死にしたことを変えられず。
テフィルスの他国の評価がすげぇことになっているとか書いた覚えかあるので、その人になってもらいました。
しかもこれ書いてる最中、「絶対に検索してはいけない言葉」というものを見ていたので、シリフの兄弟、家族はああいう結果に。
青銅時代なので相当昔です。鉄?何それおいしいの?時代です。
テフィルスの聖剣らしきものって鉄じゃなかった気がしますが、今更読み返すのが怖いです。
青銅を握りつぶせる握力を持つ鎌の人。
10.裁判-作者香吾悠理-
完結作品。
彼らがあのあとどうなったかのおまけ話。
今の時代で輪廻した彼らへの問いかけでした。
長々と付き合ってくださり、感謝です!!


ありがとうございました!!

英雄テフィルス



奥付



ジャッジメント


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著者 : 香吾悠理(エビル)
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