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2.裁判-早苗、奈々子、悠木-

男は、いつも遊び呆けていました。仲間を利用しては蹴落とし、のし上がり、ついに財産を手にした。
そんな男にも愛する女が出来た。一時愛しては捨てを繰り返した男の愛する相手は、結婚すればなお権力と財産を手に入れることのできると見込んだ女だった。
二人は結婚を約束し、女は白いドレスを作り、結婚まで指折り数える。
きっと二人なら幸せ、そう信じ続ける女は手を何度も怪我しながら、一生懸命ドレスを作り続ける。
幸せな生活が始まると女は喜んで、招待状を出し、大きな教会できるためのドレスを作り続ける。
しかし男は約束を破った。
結婚直前、若い女と一緒に逃げる約束をした。
女は出来上がった白いドレスを着て、その事実に嘆き悲しんだ。
男は別の女と手をとり、逃げようと駆け出す。
女はナイフを握りしめて、その二人が落ち合う場所へ向かう。
男が遅れて着いたころには悲惨な光景が広がっていた。
ドレスを着た女は死んだ目をして、ドレスを赤く染めていた。傍らには逃げる予定の女、切り刻まれて元々美しかった顔は、肉が見え、皮がない。
男は思わず吐いた。
女は男を刺し殺すと、自分の喉もさし貫いた。


次の裁判です。
扉が開かれた。


裁判所では、白い翼の生えた女が四人、白い扉の前に。
黒い翼の生えた男が四人、黒い扉の前に。
凍てつくほどの空気の中、三人は天秤の前に導かれた。
巨大な黄金の天秤の上、白い翼の女が立っている。大きな羽を手にし、隣には黒い翼の生えた男が鎌を持っていた。
三人は、生きていたころの姿で導かれた。
若い女は切り刻まれる前の綺麗な顔、ナイフを持っていた女は真っ赤なドレス、男もいる。
「裁判を始めます」
「嫌、何ここ、何が始まるの!?」
若い女が空気におびえ、逃げようとするが、足が動かない。何とかもがくが、そのうち彼女を男たちが囲んだ。
赤いドレスの女は、黙って座りこむ。
男はただ、目の前の巨大な天秤を眺めていた。
男のうち一人が黒い本を三冊持っている。そのうち一冊を開くと、口をあけた。
「その女を捕らえなさい。ではその女の方を。名前は…、時織早苗、年齢は十七…、出身地は東洋。間違いないですね」
全員の視線が彼女に集中する。
早苗はおびえながら首を縦に振った。
「死亡原因は、出身地が同じ渋谷奈々子にナイフで三十箇所刺された」
「何と可哀想な」
白い翼の女は呟いた。
「いやっ、なんなのよここ!」
彼女は泣き叫び、恐怖に顔を歪める。
裁判所に響き渡る悲鳴。
「お黙り」
天秤の上の白い翼の女が一喝すると、黙り込んだ。
「では続けます。早苗の罪はとても重い。渋谷奈々子の婚約者と駆け落ちをしようとした。殺した生物の数は一万ほど。六歳のとき、奈々子の大事にしていた犬を殺しています」
その言葉に、赤いドレスの女は、ゆっくり振り返る。
「…あれは貴女だったの…」
しかし顔は真っ白で、怒りを露にしていない。
早苗は何度も首を横に振る。
「嘘、嘘、だって死ぬなんて思わなかったの…、彼をとられたのが悔しかっただけ、私、死ぬなんて…」
弁解する早苗を見下ろし、鎌を持った男は鬱陶しそうに眉をしかめた。
「うるさい女だな。続けろ」
「はい。いたずらに生物を殺していています、裏切った人間の数は十三」
それに待ったを言ったのは白い翼の女、白い本を三冊持っていて、そのうち一冊を開いた。
「人間は過ちを繰り返して成長します、彼女は殺す気がなかった。両親をとても大事にしていて、特に病のある母のために家事をすべてこなしていました。彼女に罪はない」
「それならばこちらは、地獄に落とすべきだと思います。泉悠木の言葉に耳を貸し、結婚の約束を知りながら奈々子を裏切った。輪廻させるべきではない」
やはり話は進まず、しばらく本を持った男と女は無罪有罪で喧嘩をし始めた。
天秤の上の二人は、顔を見合わせると、頷く。
「では裁判を。残り二人がありますので手短にします。本を天秤に乗せなさい」
そういった白い翼の女は持っていた巨大な羽を乗せる。ギ、と音を立てて天秤が傾いた。
本が乗ると、一気に本を乗せた天秤は傾いた。
「やはり裏切りが強いかと思います」
「では地獄へ?」
傾いた天秤を眺め、白い翼の女たちは相談をする。
「ですが、殺されたという点では、彼女だけに非があるわけではないと思います。せめて輪廻だけは」
その言葉に周りの皆が頷いた。
「では地獄へ。罪の分だけの痛みを味わったのなら、魂と罪を浄化して輪廻に」
鎌を持った男が頷いた。
判決を言い渡された早苗は、黒い扉へ導かれる。
黒い扉の向こうには煮えたぎる血のような色、そこでおぼれ焼かれ苦しむ罪人たち。
それを見た早苗は悲鳴を上げ、逃げ出そうとしたが、黒い翼の男たちがつき落とす。
そして扉は閉じられた。

羽を天秤から拾い上げ、本は無くなる。すると傾いた天秤は音を立てて並行に戻った。
「この二人は?」
「女の方は先ほどの女を殺した渋谷奈々子。男の方は泉悠木。年齢は同じで二十三」
読み上げるのは黒い本を持った男。
名前を告げられた男の方は、はっと周りを見渡した。扉の向こうを見た男は、急に震えだした。
「最初に男の方。悠木は最大の裏切りをしております。奈々子と婚約しながら、早苗と逃げ出しました。今まで殺した生物の数は二万と五千。今まで裏切った数は五十を超えます、数々の女に手を出しては裏切っています。更に両親と兄弟、仲間も裏切り続けている」
男が読み上げた後、白い本を手にした女は、本を開いてため息をついた。
読みあげようにも、何も書かれていなかったからだ。
「どうしようもない、何も書かれていません」
白い翼の女は、困って首をかしげた。
それを聞いた男たちは、ゲラゲラと笑いだした
「清々しいまでに罪にまみれた人間だ!!」
「計るまでもないが、地獄へ連れて行く前に是非を聞きたい」
白い翼の女は何も言わず、首を振る。天秤の上で羽をもった女も、ため息をつくと、同意を示した。
男を引っ張って黒い扉へと連れていこうとするが、その男の腕を引いて止めたのは、赤いドレスの女だった。
「悠木は私を裏切っただなんて思ってないの…」
それを見た黒い翼の男たちは苦笑した。
奈々子は悠木の手を離そうとしない。
「連れていくなら一緒に落として、一緒にいたいの…」
「彼女が言うなら、一緒に裁判を言い渡すのがいいと思うのですが」
何も書かれていない、泉悠木の名前が書かれた本を投げ捨てた白い翼の女は、残り一冊を広くと、天秤の上の二人に提案する。
「皆の意見を聞こう」
「私も同意です」
「面白い、ではその方向で行こう」
泉悠木を奈々子の後ろに座らせると、次は奈々子の裁判が始まった。
黒い本をあけると、淡々と告げる。
「この際なので、殺した生物は無視します。もっとも彼女のも罪深いところは、二人を手にかけたことです。惨い殺害方法であり、輪廻をさせるべきではないと」
やはりそこで待ったが出る。本を開いた女だ。
「彼女は裏切られた。当然の報いではないのでしょうか、悠木と早苗の二人は。しかし殺害については、何も言えません。地獄へ落としたとしても、彼女については輪廻をさせるべき」
「有罪?無罪?有罪にしても、輪廻をさせるべか?」
「輪廻はさせるべき、しかし悠木の方は輪廻はさせるべきではない」
白い翼の女たちは、地獄行きを決定したが、輪廻の提案をする。
「輪廻はさせるべきではない」
黒い男たちは、輪廻など却下したが、そこに奈々子の声が入る。
「嫌、一緒にいたいの、輪廻なんていいわ。彼の行くところにずっといさせてほしいの」
それを見た全員は、やはり顔を見合わせた。
羽を手にした女は、鎌を持つ男と軽く相談をすると、頷いた。
「では、奈々子にせめてもの慈悲として、悠木と永遠に地獄へ落とします。良いですね?」
それを聞いた悠木は叫んだ。
「嫌だー!!あんなところに落とされるなんて、嫌だ、殺したのは奈々子なんだ!!俺は悪くないんだ!!」
暴れて叫び、奈々子の手を振り払う。しかし奈々子は爪を立てて悠木の腕をつかんだ。
暴れる悠木を、彼らは抑え込む。
白い翼の女たちはそのまま、奈々子を黒い扉へ連れて行く。悠木は何度も叫んで無罪を主張したが、捨てられた本には一切の善行が書かれていない。
二人を一緒に扉の向こうへ突き落す。
真っ赤に煮えたぎる。むせかえる血の匂い。二人は一緒につき落とされる。
奈々子は熱さに叫び声を上げる悠木にしがみついて、嬉しそうに笑った。

「ああ、悠木、私と一緒なのね…嬉しいわ、輪廻なんかしなくていいから、ずっと一緒にいたかったの…」

それらを見届けると、黒い扉は閉じられる。
これが彼女の幸せだったのかもしれない。



3.裁判-英雄テフィルス-

英雄と呼ばれた男は、沢山の軍隊を指揮し、先陣を切って闘い続けた。
土埃のふく貧しい国は他国に侵略され、領土をとられかけていた。
彼は戦い続けた。何度も怪我を負いながら、国のために闘い続けた。
自分の国を守り抜き、他国へ侵略をし、勝ち続け、ついに国は独立することができた。
しかし戦いの際の傷が原因で、皆に惜しまれながらこの世を去ることになった。

英雄テフィルスの裁判である。

「裁判を始めます」
巨大な金の天秤、両サイドには扉が各一つずつ。黒い扉の前には黒い翼の男、白い扉の前には白い翼の女。
天秤の上には羽をもった女と、鎌を持った男。
扉の前の男が黒い本を開き、天秤の前に立つ英雄の名前を挙げた。
「名はテフィルス=ハルゼイン。年齢は二十七」
ここはどこだ、と、テフィルスはあたりを見渡す。
巨大な天秤を前に、初めて恐れをいだいた。
「国のために犠牲を出し、間接的にも殺した生物の数は大規模、七十万を超す」
「英雄気取りか」
本を持つ男の隣で黒い翼の男が笑った。
「お黙り、続けなさい」
天秤の上の白い羽をもった女は一喝する。
天秤の上の二人は絶対的な存在らしい。
昔読んだ本では、死者には裁判があるということを知っていたテフィルスは、聖騎士として王の前に膝まづくように、天秤の前で敬意を示した。
「たった一つの国のためだけに多くの血を流した罪は深い。ここに一時期死者が多く訪れたのもテフィルスによって死んだ者たちだろう」
その言葉に、テフィルスは本を持った男を見た。
「私のやっていることが間違っていたと…!?」
動揺する彼を見ながら、今度は白い本の女が読み上げる。
本にはずらりと文字が並んでいた。
「これは全て読み上げるのは大変ですね。テフィルスは国を守った、まさに英雄と言えます。カリスマ性と騎士としての素質を持ち、国を独立させた男です。軍隊を率いて積極的に戦い、弱った兵への心遣いも忘れていなかった模様。彼がいなかったら、国はここに存在していないでしょう」
その言葉に、黒い本の男が険しい表情をした。
「それによって沢山の命が奪われた。英雄といえどここではただの人間、殺した生物は莫大すぎる。自ら策を練って出陣し、街を焼いて罪のない人間たちを地獄へ落とした」
「それもそうだな」
テフィルスは、やはり動揺したが、また座り込んだ。
腰に携えた聖なる剣は、神の加護を受けているという。
それを国王直々に頂き、その剣を以って闘い続けた。
白いマントを翻し、銀色の鎧を身につけ、戦い続けた。国のために。
「いいえ、彼がいなければさらに多くの血が流れていたことでしょう。彼は最小限に戦争をとどめたのです」
白い翼の女が対抗する。
テフィルスは彼らの威圧感に圧倒されながら、凛とした声で鞘に入った剣を手に乗せた。
「この剣は神の加護を受けています。多くの犠牲者を出したことも事実、街が焼かれたのも事実、しかし私は出来る限りのことをやりました。神の意志に従い、我が国を救い出しました」
その剣を手に取ると、黒い翼の男はまじまじと見つめた。
柄の部分に宝石が細工されている、非常に美しい剣だ。
鞘にも紋章が描かれてある。
「また偶像崇拝して心酔した結果か」
男の言葉に、う、と、小さく漏らした。
「私は聖騎士として、神の加護を受けたものとして闘った次第」
「神は全世界にいくつあるか知っているか。あんなに沢山の神がいたら天国も地獄も死者より神様であふれちまうね」
その言葉に黒い翼の男たちは頷く。
黒い翼の男に向けて、今度は白い翼の女がふっかける。
「偶像とはいえ、信仰する気持ちに変わりはないではないですか。今回の件は非常に裁判に困ります。テフィルスは大変優秀な人材です。国を守り、まじめな性格であり、慈悲を持った人間である」
「だがくだらない戦争で命を落とした数は多い。テフィルスは自分を正当化して殺しを続けただけだ。慈悲を持つのも国のものだけ、他国には容赦ないといわれている」
今度は黒い本のページをめくり、話を続けた。
「他国から見たテフィルスの評価。領地を奪い金品を絞り上げ、国で英雄といわれていても、ここでは鬼印。テフィルスの死を喜ぶものは多い。やはり地獄へ突き落すべきだ」
「国から見た評価は高いが、他国からの評価は低い、と」
鎌を持った男は低音でテフィルスに自分のいい分を促した。
緊迫した空気。
このような英雄様が現れるたびに裁判は難航する。
テフィルスは 悪魔のような翼の生えた男が神の加護を与えられたという剣を平気で持っていることに驚いていた。
あの剣は神の加護の熱いものにしか持てないはずである。
それに気付いた黒い翼の男は剣を眺め、そのあとテフィルスを見つめた。
「これはただの剣だ。特殊な彫り込みをして、形だけの儀式をした、ただの剣だ」
「そ、んな。馬鹿な、神はどこへ?神の啓示を受けた聖女と共に私たちはつきすすんだ、国を守った。神の名のもとに私は」
「だから、神は人間の作り上げた偶像だ。実際には存在すらしない」
それを聞いたテフィルスは、泣き崩れた。
白い翼の生えた女たちを見上げると、すがるように膝まづいたまま、肯定してほしいと訴える。
「残念ながら、彼らのいうとおりです。各国にあるという神は存在しません」
女は憐れみを持った目で、テフィルスを見て、息をついた。
テフィルスは声をあげて顔を覆った。
 聖騎士として闘い続け、生涯をささげた彼にとってはあまりにも非情な現実だった。
「私は騙されていたのか?そして罪のない人間を殺していたのでしょうか。国の未来のためとしていたことが、ただの大量虐殺だった。私は、他国からでは悪魔のような存在だったと…」
泣き崩れるテフィルスは、罪の意識と後悔にさいなまれた。
「では、本を天秤へ。これによってあなたの罪が確定されます」
天秤の上にいた女は、大きな羽を天秤の上に置いた。
同時に本が置かれ、大きく天秤が揺れた。
テフィルスは涙にぬれた顔で、それを眺めた。
ギ、ギ、と大きく揺れ続ける。
しかしどうも天秤は安定する様子はない。
「これは一体どういうことか」
鎌を持った男は、不思議そうに地に降りて眺めた。
「これは、以前にもありましたね。実際には罪も大きいが、今罪の意識を感じ取った天秤は、判決できない状態でしょう」
やがて並行になった天秤は、時折ぐらぐらと揺れた。
どうするべきか。
相談し合う男と女。
しかし結論は出ない。
天秤も安定を見せず、裁判は長引いた。
そこで、泣き続けたテフィルスは顔をあげた。
「私に選択をさせていただけませんか」
テフィルスは大きな決意を胸に示した。
皆の視線がテフィルスに集中する。
その合間にも天秤は大きく音を立ててぐらぐら揺れ続けた。
「では言ってみなさい」
「では言うがいい」
天秤の上に女と、鎌を持った男は同時にテフィルスに言う。
テフィルスは神にしてきたように膝まづき、涙を拭くと、一礼した。
「私は大変罪深い人間、国のためと行っていたことは、確かに他国から見れば悪魔にひとしい。存在しない神の啓示に従っていた私は」
胸についた聖騎士の証の紋章を破りすれた。
剣を黒い翼の男から受け取る。剣を鞘の床につき、剣を抱く形で、選択をした。
「私は、地獄を選び、永久罪を償い続けます。しかしわがままをお許しください」
ほう、と、全員が感心し、テフィルスを眺めた。
「きっとこの先も、私についてきた者たちがここに来ることでしょう。しかしお願いします。彼らをお許しください、彼らは私に踊らされただけなのです。私が永久に償い続けます、彼らの分まで。彼らの罪は軽くしてください。私はずっと罪を胸に抱き、どんな苦痛にも耐え続けます」
「なるほど、聖騎士として他のものたちの分まで罪を受けるというのですね」
白い本を手にしていた女は、手元にあった羊皮紙に何かをつづった。
女は天秤の上の女を見上げた。
「潔い青年である、ここは天へ行かせたいところですが、その願いを引き受けましょう。貴方は永遠に業火に焼かれ続けることになるが、本当にそれでいいのか?」
白い翼をはためかせ、揺れる天秤の上にある、羽と本を取り上げた。
カクン、と音を立てて天秤は動いた。
水平になった天秤を見ると、鎌を持った男は、テフィルスに言い渡した。
「地獄へ案内しろ。ただしテフィルスには慈悲を渡す」
鎌を持った男は、膝まづくテフィルスの首をめがけ、鎌を振りおろした。
ごとんとテフィルスの首が落ちる。
「これで痛みは感じない。だが罪を償うために地獄へ落とす」
テフィルスは、体と首が離れた状態になったが、血が噴き出すことはなく、最後に小さく呟いた。
「ありがとう、ございます」
その首と体を抱えると、黒い扉を開く。
血の海の中へと落ち行き、姿が見えなくなった。煮えたぎる海の底はもっとも罪深い人間が落とされる場所であるが、鎌によって痛みは感じない。

「人間とは不思議なものだ、他人の分まで全ての罪を引き受け、自ら地獄を選ぶとは」
黒い翼の彼らが扉を閉めた。
「テフィルスの遺言は確かに引き受けました。人間は罪深い生き物であり、同時に慈悲深い生き物であるのです」
羽をもった女はそれだけ告げると、次の裁判が始まった。


終。


4.裁判-物書きリージ-

男は真面目に暮らしてきた。
そして小さな家庭を築いた。
可愛い子供が出来て、男は幸せだった。
妻と子供、三人で一緒に生きるものだと思っていた。
働いても働いても暮らしは変わらず、借金の肩代わりをさせられて、妻と子に逃げられた。
ふがいない、趣味で続けていた未発表の小説は遺言となり、男は一人小さな部屋で首をつる。
せめて貯金だけは、死ぬ前に妻と子に。
突然自分の家の前に、別れた夫から少しでもお金があればびっくりするだろうな。
男は少し微笑んで、椅子を蹴り飛ばした。
世は不況、世は食糧不足、世は自然災害の嵐、世は自殺者が増える一方。

裁判を始めます。

足を踏み入れた先は、白い羽の女が白い扉の前に四人、一人は白い本を持っている。
黒い翼の男が黒い翼の前に四人、そのうち一人は黒い本を持っている。
巨大な黄金の上には、鎌を持った黒い翼の男と、白い羽をもった白い翼の女。
男は小説の中に迷い込んだのだろうか、と、高い天井を見上げた。
不思議と怖くない。
「では、始めます。名前はリージ=ミリアス、年齢は五十七」
黒い本を読みあげる。
キョロキョロとリージはあたりを見回した。
「彼は人を一人殺しています。殺してきた生物の数は十万。食料のほかに、いたずらに生物を殺しています。ここに載っているのもおかしなことですが、人がよすぎたせいで他人の借金の肩代わりをして自滅した模様。死因は自殺です」
その言葉に、リージは首をかしげた。
「人を?」
殺した覚えはないが、と、ただそこに突っ立って、告げられる罪を聞いていた。
「裏切りの数は…三人、家庭崩壊を招いたせいで、リージの身内の生活が大変なことになっているようです」
「勝手に自滅して勝手に周りを巻き込むとは、なんて迷惑な奴なんだ」
黒い翼の男がぼそぼそと悪態をついた。
「お黙り、続けなさい」
羽をもった天秤の上の女に促されて、今度は白い本を持った女が読み上げた。
「…おや、こちらにも同じことが書かれています。借金の肩代わりをした、優しすぎる人物だったと。それゆえに自滅したようです。平凡な人生を歩んできた模様、いたずらに殺した生物には墓をつくる程度の優しさはあります。ただ、周りを巻き込んだせいか、ここから先は白紙です」
本を閉じると、女はため息をついた。
「天秤で計らなくてもこれは地獄ではないのだろうか」
黒い翼の男が話しだす。
リージは目の前の巨大な天秤を見ては、好奇心に駆られていた。
周りは天使か悪魔か。
「おお、あなたたちが天使と悪魔か?初めてだ、これで一つは小説が書けてしまうな!」
リージは喜びに満ちた声で、相談しあう彼らを見た。
今何が行われているのか、リージは理解できていないようだ。
「…、まあいい、巻き込まれた人間は?」
少し呆れて、羽をもった女が黒い本の男に聞く。
「はい、離婚する前の妻と子、あと一人は…、?おかしいですね、もう一人の名前が載っていません」
「?」
首をかしげる男に、白い翼の女が口をはさむ。
「お待ちください。おかしいです」
ぺらぺらとめくられる本には、次々と勝手に文字が連なる。
先程白紙だった所はインクで真っ黒になり、ページが勝手にめくられては記載されていく。
「素晴らしい、幻想的だ!この天秤はなんという?羽の生えたあなたたちをモチーフに、小説を書いてもいいだろうか!」
リージは目の前の天秤に感激しているようだった。
黄金色で、巨大な天秤は、リージにとって不思議で偉大な存在に映るようだ。
しかしなんていう能天気。
天秤の上にいる羽をもった女は、リージを一喝する。
しかしリージは目を輝かせ、落ち着かない。
「…お黙り!!して、何が書かれている?追加されたことを述べよ」
白い翼の女が、次々と書かれていく文字に目をやりながら、何とかして元のページに戻ろうとする。
しかし黒い翼の男が述べた。
「いたずらに命を奪った数があまりにも多すぎます。食べるためや生きるためではなく、好奇心による殺戮、命を奪ったことに変わりはありません」
ふむ、と皆は頷いた。その間にも勝手にページは白い本に記載されていく。
「リージ、なぜに好奇心で殺した?たとえ小さな虫であろうと、命は命、言い逃れをしてみたいならして見せるがいい」
黒い翼の鎌を持った男が、リージに向かって問いかけた。
リージは、軽く頷くと、背をまっすぐ伸ばし、ありのままを伝えた。
「もちろん!!小説のためです。死ぬ時はどんな様子か、ずっと小さいころから見て痛かった。わざと蟻を蜘蛛の巣に引っ掛けて、蜘蛛がそれを食べていく様子を見るため。アレ?これって裁判?」
堂々と発したその言葉に、皆は呆れかえって、あるものは笑い、あるものは顔を覆い、あるものは目をそらせた。
「裁判ならどうどうと言える、私は趣味で小説を書いていました。ほら、だって医学だってそうでしょう。マウスやモルモットや兎を殺して医学を発展させる。小説だってリアリティを出すために、どんなふうに血を流すか、それを」
突然黒い本を持った男が笑いはじめた。
皆の視線が男に集中する。
「いやぁ、笑わせてもらった、言い訳しないで堂々と罪状を述べる。お、っと、罪状が増えたぞ。何、やはり罪悪感がないらしい」
黒い本にもすらすらと文字が書かれていく。
白い翼の女たちも、あまりにもストレートに罪の意識のなさに、少々嫌な表情をしている。
「ふむ…、しかしもう一人の裏切りが気になるな」
「少し、よろしいでしょうか。本が止まらないのです。この世界と彼らの住んでいた世界とは時間が極端に違うせいでしょうか」
白い本を持った女は、書かれ続ける文字を一生懸命見ながら、何とかして止めようと試みるが、今までにない早さで書きつづられる内容に、困り果てて本をそのままにさせた。
「所で、私が殺した一人とは?動物なら確かに沢山殺しました。実験とはいえ、すまないことをしたと思っています。しかし人体実験はしたことがない」
ああ、と黒い本を持った男がページを最初の方へめくった。
黒い本には、ただ一人の名前が書かれいた。
「リージが殺したのはリージ、つまり自分自身を殺したことが罪だ」
自殺が罪。
「はあ。自分自身を殺した、確かに。面白い解釈ですね!ここに紙とペンはないですかな、メモでもいいので」
リージは自分のポケットをまさぐるが、ペンと紙は見つからない。
まさか彼らの持っている本に書くわけにもいかない。
「何を書くのですか」
女が言う。
「自分自身を殺すことが罪というが面白いので、メモしておきたいんですよ」
「…」
女は絶句する。
男は笑いを必死にこらえている。
天秤の上の羽をもった女は、今までにないお気楽な性格の男に、何もいえず凝視している。
「!!失礼、見逃しているものがありました。リージは、妻子に少量ながら死ぬ前に金銭を残しているようです」
ほう、と、今度は感心した声が上がった。
女はそれを聞いて、クスクス笑いながら天秤の上の二人に向かって言う。
「彼に罪の意識はないのはどうかと思いますが、基本的に善人の様です。私はそう判断しました。天秤にかけてはいかがですか?」
「そうですね、では本を乗せなさい」
黒い翼の男は、本を乗せる。しかし白い本は、まだまだ書かれることが止まらない。
一体何だと女は困り果てて、次々にめくられていく本の扱いに困り果てた。
それから五分ほどした時、やっとぴたりとやんだ。
本は、びっしりと善行が書かれていた。しかもそれは、彼が死んだ後の行いのようだった。
「では天秤に」
白い羽を天秤に載せようとする女に、本を持った女は、ページをめくり、驚いて声をあげた。
「…、お待ちください、今本に新たに書き足されたことを述べます。リージの残した作品が、世に感動をもたらしているとのことです。救われた人間の数が、更新されていきます。現時点で全世界に。どうやら、残した作品が本になり、世界で人気になっているようです」
それを聞いたリージは、驚いて彼女の手をとった。本に書かれている内容を眺めると、リージには読めない字で、確かに書かれている。
「何と!私の小説が!?一体それどういうことですか」
「そちらの本に、裏切りの人物が一人書かれていませんか?」
女は、黒い本を乗せた男に向けて言う。ぺら、と天秤の上の黒い本はめくれ、やはり何かが書きたされたようである。
男はそれを確認する。
「裏切り、の人物が書きたされています。これはなんだ?リージを嫌っていた人間の様だ…」
「はい、その人物と、元妻がリージの遺品整理の際、リージの遺作であるそれを見て、本にすると決意したようです。先程本が止まらず書き続けていたのはそれに対する評価だそうです」
リージはその言葉を聞いて、天秤の前に立つと、大きく手を広げた。
「それは本当ですか!私の作品が世に出たと!おお、それならばその本は誰に対して印税が入りますか、妻と子に苦労はなくなりますか!?」
「そのようですね」
リージは胸の前で手を組んだ。そして座ると、嬉しさのあまりに涙を流す。
白い本には、リージのヒューマンドラマやファンタジックな内容に、胸を打たれたと、つづられている。
「妻よ、子よ、皆に感謝します!灰色の世界に少しでも光させば、と書き続けていたもの。少しでもこの世界に明るいものが見いだせるようにと書き続けた、しかし私にその資格はないと思っていた。だが、だが、今それが今叶った!ありがとう、死後にこんなにも嬉しいことがきけるとは。これでもう思い残すことは一切ない!」
長く書きつづられた白い本を読みあげるのには苦労しそうだ。
仕方なく、白い本を羽をもった女に渡すと、その本を見た女と、隣の鎌を持った男は、驚いて声をあげた。
「これは…」
めくってもめくっても書かれているのは、称賛の嵐。
何ということか、ここまで人を変えたとある文字がつづられた本は見たことがない。
「リージ、先ほど自身のために殺したと言っていたな」
鎌を持った男は、鎌を持ったまま、地に降りた。
鎌を向け、リージに告げる。
「自身の作品のためとはいえ、殺してきた生物の数はあまりにも多い。よって、お前には輪廻はいい渡せない」
場が鎮まった。
鎌を持った男は、本を読み続ける、羽をもった女を見上げた。
「だが、ここまで人の心をよい方向へ変えた人間はなかなかいない。して裁判は天秤に委ねられる。だが私はここに言おう、輪廻はさせない」
白い本と羽を天秤にかける。
黒い本も天秤にかけられる。
ガク、と一瞬にして天秤は傾いた。
天秤は、善を示した。
「リージ、貴方は天へ行く。しかし輪廻をさせないと言いました。それでもよいですね?」
天秤の上の女は、白い扉へ目を向けた。
それを見てとった女たちは、白い扉をあける。
 扉の向こう、花が咲き乱れ、まるで神話にあるような、石で出来た建造物。そこに、天へ言い渡された亡者がいた。
「ありがとうございます、感謝いたします!!は、そうだ、そこに紙とペンはありますかな?」
リージは扉の向こうに広がる美しい光景と陽の光に、目を細めた。
そよそよと風は流れ、それに乗って花が揺れる。
「?あるにはあるが、何をする気だ」
鎌を持った男は、リージを扉の前へ立たせる。
「私は、そこでずっと書き続けたい。ここに来る前の夢は叶った。次の世界へ歩む人たちに感動を与えたい」
「永遠ですよ?」
女の言葉に、涙をぬぐうと、晴れやかな顔と声で、リージは確かにいった。
「構いません!輪廻なく、ここでずっと作品を書き続けることができるなら、私は幸せだ!そして、ここにいるあなたたちにも見てもらいたい」
リージが振り返る。
「私の作品を、地獄にも天にも、裁判所の皆にも見てもらいたい!」
笑い声が上がった。裁判所にいる全員が、笑いだした。
それにリージはきょとんとするが、皆は相談し合う。
「短期間のうちに遺作で人の心を変えた、人間が書くものはどんなのだろう。面白い、私たちは裁判がない間は暇を持て余している、持ってくるがいい」
その言葉を聞くと、リージが手を振って園へ踏み入れる。
やがて石でできた建造物まで行くと、紙とインクとペンを手に取り、書きだした。
白い扉が閉じられた。

それからしばらくたち、リージはずっと作品を書いては、ここに来る人々に読ませている。
明るい陽の光の下、作品を書き続ける彼は、特殊な存在になった。
「面白い人間ですね。死んでから遺したものが世に認められ、まさか我々の退屈すらも変えてしまうとは」
羽をもった女は、数枚の紙を手にしていた。
リージの作品である。
亡者のいない裁判所、リージの作品を読む彼らがいる。
「ああ、面白かった!久しぶりにドキドキしました。こちらの方の続きも読みたいですね」
「それならもうすぐ出来上がるとか…」
白い羽の女も黒い羽の男も、夢中になる。
死んでもなお作品を残し続ける彼は、色んな人に感動を与えているという。






5.裁判-魔女アフェルタ-

女は秘かに愛する人がいた。
絶対に他人には言えない関係、秘すればもっともっと禁断の関係に酔いしれる。
愛する人は同性、彼女は軽い病気を患っていた。
この時代、薬など作れば魔女として処刑されてしまう。同性愛ならは更に罪が。
病状悪化する愛する相手のために、彼女は薬を作り、渡した。
相手は病気は治ってきたが、その関係と薬を渡した所を、悪意ある他人に見られてしまった。
この世は地獄、言えば魔女として裁判がされる時代である。
女は十字に磔にされ、火あぶりにされた。

人間の裁判と死後の裁判どちらが正しいか?
天秤はどちらを示すか。それとも人間の裁判と死後の裁判の結果は同じだろうか。
裁判を始めます。

扉を開けて驚いた。
巨大な天秤と、冷たい空気。
右手に白い扉、その前に白い本を持った女と白い翼の女、計四人。
左手に黒い本を持った黒い翼の男が計四人。天秤の上に鎌を持った男と巨大な羽をもった女。
押しつぶされそうな空間。
処刑されたはずだった。熱さに耐えて、ワイワイと騒ぐ民衆の前で燃やされたはずだった。
意識が途切れる前に見えたのは、民衆に紛れて悲しそうな顔でこちらを見ていたあの人だった。
「ではこちらから始めます」
ぺら、と黒い本のページをめぐる。
「名前はアフェルタ=ソレイユ。…殺した生物の数は三万ほど、それくらいですね」
更にぺらりとページをめくるが、特別悪いことは示されいない。
今度は白い翼の女も読みあげる。
「家族を病でなくしているようです。恋人はいましたが、死んだ理由は…」
裁判に次ぐ裁判、アフェルタは真っ青になって、天秤の前に坐した。
同性愛に、さらに薬を作って渡した、それだけで重罪だ。どんなことが起きるのか。
実際にそれで処刑されたのに、また処刑を味わうのか。
アフェルタは深くため息をついた。
「ああ、魔女裁判にかけられて処刑された模様」
一瞬場が静まり返った。
天秤の上にいる羽をもった女は、本を持った二人にいう。
「何か特別なことは?」
「…」
「…」
皆は顔を見合わせ、本をめくる。
「殺した動物も食べるため、草も薬や食べるため…ですね」
黒い翼の男は軽く石畳をける。
「普通だな」
それに合わせて、皆が頷いた。
「そうですね。普通ですね。特別目立つような良いこともなければ悪いこともない。薬を作って助けた程度ですね」
普通だと頷く彼らを見て、アフェルタは戸惑った。
魔女として裁判にかけられたにの、死後に自分の行いが普通と言われるのは。
「あの、裁判、ですよね?」
アフェルタは天秤の上の二人に問いかけた。
頷く二人に、あたふた戸惑い、自分のことを述べる。
「私が愛した人は同性、つまり女性です。さらに薬を作った…、これは立派な魔女です、裁判されておかしくないのです、私は死んで当り前では…!?」
アフェルタの言葉に、全員が顔を見合わせた。
「…人間の世界ではそうだろうが、ここでは、まあ同性愛くらいは。ただ、子供が作れない程度だろう」
黒い翼の男が軽くいう。それに続いて、白い翼の女も、本を眺めた後、アフェルタに目を向けた。
「そうですね。むしろ同性や近親相姦が当たり前な時代や国もありますし。あえて言うなら薬を作ったことは我々にとっては、草花や薬のために摘み取ったことは軽い罪ですが、他人を助けるためならば善と判断されます」
ぽかん、とアフェルタは口をあけた。
同性愛、更に薬を作って魔女として連れて行かれ、挙句の果てにひどい拷問をされて、やっと認めた火あぶりされた。
すぐに楽になる方法が素直に罪を認めるほかなかった。
 聖なる火というものに手を焼かれ、聖なるナイフによって体をさされ続け、ボロボロになってやっと罪を認めて、想像を絶する熱と共に焼かれた。
魔女裁判は民衆にとって娯楽だったから、熱狂するヤジ馬たちにみられ、もうすぐ会えなくなる恋人の姿を見て、薄れた意識。
そしてやってきた死後の裁判では、苦痛を味わい認めた罪が、それが普通だった。
「で、ですが、これは…」
アフェルタは納得がいかなかった。
拷問もされて、磔にされて、足元に薪と油をまかれて、呼吸できないほどの火に焼かれたのに、それが。
「宗教などしらねぇ。お前の生きた時代では罪だろうが、別の時代ではむしろ同性愛認められるわ、差別されてもいない。むしろ裁判した人間たちの方が罪重いはずだけど」
さらりと告げる黒い男翼の言葉に、脳天を叩かれたようにショックが響いた。
「え、えええ…」
両手を、冷たい地面についた。
「そ…んな…。何のために、私は焼かれたの…。何のために、私はあの人と別れなければならなかったの…」
アフェルタが急に泣き出した。そばにいる白い翼の女の服にしがみつく。
体重をかけて、その服に泣きついた。
「私は、罰ではないとしたら、何故…!!私はあの人と一緒にいるだけで、あの人と一緒にいたかっただけで、それが罪だって…、他にも私の様に薬を作って、貰っただけで死んだ人がいるのに!!」
広い裁判所には泣き声が響く。彼らは困り果てて、首を振った。
泣きつかれた白い翼の女は、身をかがめて、アフェルタの背をなでる。
「貴女は運が悪かったのです。人間など神話の時代から、それ以降数千年経った世界まで、それにあなたは知らないでしょうが、国が数え切れないほどあります。ここは時間軸が様々なので、それと同様に様々な人が来ます。英雄と呼ばれた人間、裏切りを重ねた人間、独裁者から善人まで。彼らを人間の罪に当てはめてしまったら、おかしくなってしまう。私たちは私たちの定義で、裁判を行っています」
優しく彼女を撫で、女が優い声で言った。
それを聞いて、泣きはらした顔で、アフェルタは女を見上げた。
「なら、あの人は、私の愛した人はここに来るということですか!」
時間貸しべくというものを知らない彼女だったが、なんとなく言いたいことはわかる。
ここが死後の世界なら、彼女はいつか死が訪れる。
「もう来ているのか?」
天秤の上の鎌を持った男が、隣の女に呼び掛ける。
「人間の数など数えればきりがないですからね。ではここで裁判を決めたいと思います。本を乗せなさい」
白い本と黒い本が、天秤に乗せられる。
ギ、キギ、と重い音を立てて、天秤は傾き始める。
羽を今度は乗せる。
あっという間に天秤は善を示した。
「では、天へ。輪廻はどうしましょう?」
「特に非もないので、輪廻がいいですね」
「だが運の悪い女だ、その時代に生まれなければすんだものを…」
運の悪い女。それを聞いて、アフェルタは首を振った。
「いえ、私はあの人と会えただけで、大事でした。その時代に彼女がいたから、私はそれを支えに出来ました。彼女に会いたい…、もう一度でいい、会いたい…、でも、それすらも分からないのですね」
アフェルタはぐずりながら、白い扉が開かれるのを見つめていた。
美しい世界、空は青く、石造りの神殿。
花が咲いていて、たまに人が通っている。
天国とは分かったが、それでも納得がいかない。
アフェルタは立ちあがろうとしないので、白い翼の女たちは、彼女を立ち上がらせる。
諦めたアフェルタは、園に行こう足を運んだ。
「では、次の裁判を行います」
その言葉と同時に、重い扉の開く音がした。
背後から光が差し込むのに気付いたアフェルタは、すぐ後ろにある裁判所の扉の方を向いた。
そこには、優しい笑みをたたえたあの人がいた。

結局彼女二人は魔女としてほぼ同時に裁判にかけられたらしい。
アフェルタが裁判された直後、相手も同様に処刑されたようだ。
アフェルタは愛する人と再会できた喜びに、泣きながら抱き合った。
二人は天国行きを言われたが、輪廻を言い渡された。
輪廻は救済処置にあたるが、同時に今まで生きてきた記憶と、罪と善行すべてを忘れる。
魂は次の時代に引き継がれ、当然愛した人も家族も忘れてしまう。
 だが罪が重ければ、輪廻すらさせてもらえず、もっと悪ければ地獄で焼かれ続ける。
彼女達はそれを聞いて、輪廻を拒否したが、白い翼の女は許さなかった。
いつか輪廻は訪れる。それもすぐ。
どの時代に生まれるかは分からない。
ただ一言だけ、彼女たちに羽をもった女は、いい渡した。
「出会いというものが真実であれば、また別の時代に生まれても、めぐり合うこともできるでしょう」
確率は非常に低い。
当然出会えずに輪廻を繰り返すこともある。
しかし、実際例がないわけではない。
 輪廻し続け、その時代で様々な形で出会う人間の魂はある。
女の言葉に、アフェルタと彼女は、にっこり笑いあって、手をつないで園へ踏み入れた。

そしてしばらく経ち、罪人がしばらく来ない裁判所、天の園から帰ってきた白い翼の女が話題を持ち出した。
「そういえば、例のアフェルタですが」
「…魔女裁判のですね」
「無事に輪廻をいたしました」
二人は同時に輪廻のに入った。
どの時代に生まれたかもわからない。
「そうですか」
天秤の上で、女は頷いた。
二人は、再びめぐり合う。
姿も性別も国も別だが、同じ時代に輪廻を果たした。

それだけの会話をすると、また次の裁判が始まった。





6.裁判-無垢な子供サニャ-

十歳にも満たない女の子は、何ももらえなかった。
貧しいわけでもない、家族がいないわけでもない。
ただ虐待という事実。
父の連れ子だった彼女は、父が再婚した母親から食事をもらうことが出来ず、やせ細っていった。
生きるために盗みもした。
見つかって通報されて、殴られ続ける。
そしてついに彼女は息たえた。

では裁判を始めます。

ぺたぺたと音を立てて入ってきたのは、白人の子供。
素足にボロボロの黒がかった、元は白いワンピース。
茶色の髪の毛は短いが、不自然な切りそろえられ方をしていた。
周りを見渡すと、彼女は首をかしげた。
「ここどこ?」
目の前には巨大な天秤。
右手に白い扉、その前に白い本を持った女と白い翼の女、計四人。
左手に黒い本を持った黒い翼の男が計四人。天秤の上に鎌を持った男と巨大な羽をもった女。
「わあ、綺麗!!お姉ちゃんもお兄ちゃんも綺麗!!その羽はどうやって生えてるの?鳥さんみたいに飛べるの!?」
ぱさ、と白い翼の生えた女の羽が揺れる。
冷たい床を駆け回り、少女は両脇にいる彼らに無邪気に触れて回った。
「鳥さんみたい、綺麗!!お兄ちゃんはお化け見たい、触ってもいーい?」
「お黙り!!裁判を始めなさい」
天秤の上の羽をもった女が、少女を一喝した。
その言葉に、少女は異様なまでに反応を示し、その場にしゃがみこむ。
頭を抱えながら、何度も小さく呪文のように繰り返す。
「?…では、私から始めます」
「ごめんなさい、ぶたないで、ごめんなさい…ごめんなさい…」
静かな空間に、少女の声が木霊する。
それを遮る形で、黒い本を持った男はページをめくった。
「名前はサニャ=ブランスト。年齢は、八歳。殺した生物は三千。罪状を述べます」
黒い本をめくる。
サニャは、黒い翼の男の前でうずくまったまま。
面倒くさそうに黒い翼の男は、サニャの方腕を引っ張って、天秤の眼前まで向かわせる。
手を引っ張れば、サニャはガクガクと怯えて、引きずられていく。
「面倒癖ぇなあ…。ここで立っていろ」
サニャは、天秤の前に立たされる。
うずくまろうとしていたので、黒い翼の男はサニャの軽く背中をたたく。
その時に気付いた、ワンピースから見え隠れする、多数の傷跡に。
「ぶたないの…?ごめんなさい、サニャ、悪い子、だから、怒らないで、いい子になるから、お願い、ごめんなさい」
「何だよ、急に。大人しくそこにいりゃ、叩く必要なんてねぇから」
その言葉に、サニャはすっくと立ち上がる。
おどおどとした目をしながら、彼らの言葉を聞いていた。
 黒い本を持った男は、ページをめくる。
「死亡原因は…ああ、これはよくあるパターンです。虐待による死。殴られ、転んだ際に頭を壁にぶつけて死亡。サニャは死んだことに気づいてないでしょう」
それを聞いて、白い翼の女たちは、哀れみの視線を送る。
「可哀想…」
「虐待?確かにあの年齢であの格好にあのあざや傷跡は酷い」
その続きを述べる。
「盗みを繰り返していた模様。八歳で盗みを働くとは。盗んだものは、食糧から、金銭に至るまで。当然困ったでしょうね、盗まれた相手は」
そこに割り込んできたのは、白い本を持った女だ。
「お待ちください。それには理由があります」
白い本をめくる。
白い本には、彼女が生きてきたことが全て書かれてあった。
惨い、と一言いうと、女は顔を覆う。しかしすぐにいつものように続けた。
「家族構成がありますが、複雑です。父親とは血がつながっていますが、すぐに再婚し、家族は計五人。サニャの上に義母の連れ子の姉と兄。義母は日常的にサニャに暴力をふるっています。サニャは食糧すら貰えず、それによって盗みをしていました。いわば生きるためなのです」
ふむ、と皆が頷いた。
しかし黒い翼の男はそれに疑問を持ち、言葉にする。
「父親はなにしてたんだか」
「見て見ぬふり、のようです。また、義理の姉と兄もサニャを気にしていなかったと書いてありますが」
ため息が聞こえた。
母の名前を出すと、サニャが白い本を持った女の方を向いて、叫ぶ。
「お、お母さん悪くないの、サニャ悪いの!!サニャの目が嫌い、って、サニャいなければもっとお母さんたち幸せだって…。お母さんたち悪くないの、本当なの!!お姉ちゃんもお兄ちゃんも、忙しいだけなの!!」
「お黙り!!」
再度羽をもった女が天秤の上から叱咤する。
びく、と震えると、サニャは涙ぐんでしまった。
なるほど、虐待になれているから、怒鳴られれば過剰に反応するわけだ。
先程彼女を天秤の前まで導いた男は、地面をけってサニャの後ろまで飛んでいく。
「とにかく黙れ、あまりうるさいとまた怒られるぞ。黙っておけば、誰も殴らないから」
「本当?」
サニャはぐずりだしながら、黒い羽の生えた男を見る。
苦笑しながら、男は頷いた。
すぐにサニャは笑顔になる。
「黒い羽のお兄ちゃん、最初は怖く見えたけど、優しい」
「良いから黙っておけ」
サニャは涙を拭くと、ニコニコしながら、頷いた。
「困りましたね」
黒い本を持った男は、ページをめくって首をかしげた。
「どうした?」
天秤の上の鎌を持った男が、その男に問いかける。
「それが…、読めないのです。ご覧になりますか?」
ページには、何も書かれていないわけでも、読めない言語があるわけでない。
ただ、真っ黒に塗り潰されたかのような、絵のような、それとも何かのような。
とにかくひたすらにクレヨンのようなもので塗りつぶされていた。めくってもめくっても、そればかり。
これでは元になにが書かれていたか書かれていないかも、わからない。
黒い本は正真正銘、途中からぐしゃぐしゃに殴り書きされた状態のページが続く。
「ん、ああ。ちょっと貸せ」
本を、隣にいた男が奪い取る。
「あー…これは仕方ない。これは罪状を述べると同時に、本人の罪の意識と迷いが書かれている。それだ」
「迷い?…ここまで塗り潰された本は見たことがないが?罪状を取り消したのではないのか?」
本を持っていた男は、隣でそれを聞き、奪い取られた本を覗きこむ。
時々出てくるのは、子供が描くような人間の絵。
それがどれも上から黒いもので塗りつぶされている。
「物書きの例がありましたね、時間軸が違う彼の場合では、確か白い本が止まらないほど書きたされていった」
白い翼の女は、サニャをちらりと見た後、天秤の上の二人にいう。
物書き、リージの例である。
彼は現在輪廻を禁止された状態で、天行きを言い渡され、ひたすら話を書き続けている。
その彼は死んだ直後、遺作が世界から評価され、次々と白い本に人の人生を変えたことが書き綴られた。
 ここは時間軸が違う。くる人間は様々。
リージは死んだ後に評価されたが、人間でいえば実際は一年は経っているはず。ここに辿り着くまでに時間が掛ったか、たどり着いた後に評価されたか。
「彼の逆では?」
「なるほど。しかしこれはなんとなんて読めばいいのか…、とにかく返す」
黒い翼の男は、何度もページをめくるが、読めないことを目の当たりにし、首を軽く横に振ると、本を返した。
「!!わかりました。そちらの白い本にも何か描かれているはずです」
見え隠れする塗り潰されたページの下にある、もの。
盗みを働いた時のサニャ、笑わない家族、冷たい視線。
何度も描かれている、茶色の髪の白いボロボロのワンピースを着た少女。
それらが子供のクレヨンで描いた絵となって現れ、それをさらに上から真っ黒に塗り潰された。
サニャは先ほどから自分が悪いと主張している。
 黒い本を持った男は、一つ間をおいて、通った声で言った。
「サニャにとって、自分の存在が罪である」
白い本の女は、いくつかページをめくると、やはり何か描かれていることに気付いた。
「わかりました、絵ですね。ただこちらはたった二ページ、塗り潰されておりません」
白い本を囲むように、四人の女はそれを見た。
「描かれているもは?」
天秤の上の羽をもった女が言う。
「これは、家族の絵だと思います。横に解釈が私たちの言葉であります。サニャの、過去です」
白い本には、茶髪の男と女と手をつないで、笑っている茶髪の女の子。
その横に、説明が載っている。
「手をつないでいる金髪の女性は彼女の実母、同じく手をつなぐ茶髪の男性は過去の実父。中央に描かれているのはサニャ自身です」
次のページは、うっすらと途中から消えている。
「それから、三人で一緒になって寝ている…絵ですが、こちらは消えかけております。たったこれしか。善行についても、ほぼこれのみで答えられるほどのものがありません」
本は人の心を無意識に移す。
白い本には彼女にとって大切で楽しくて、悪くない自分。
黒い本には、変わってしまった実父と、死んだ母の代わりに来た家族。そして塗り潰されている自分自身。
 あまりにも子供すぎて、素直に心が絵となって現れてしまったようだ。
「読みあげようがないじゃないか。そろそろ天秤にかけたいのだが?」
鎌を持った男は、その二つの本を見比べながら、隣の白い翼の女に問いかける。
彼女も頷くと、天秤を指差した。
「本を天秤へ。羽より重ければ地獄へ、軽ければ天国へ」
本が天秤にかけられる。
それを聞いたサニャは、天秤を見た。
「サニャ、悪い子だから天国いけないって!!サニャ、お父さんとお母さんたち困らせる子だから!!絵本で読んだもん、いい子しか天国へいけないって」
その言葉は無視される。
後ろで黒い翼の男が、何度かサニャの頭を撫でた。
「ママが、読んでくれたもん!!天国にはいい子しか行けないの!!」
全員が振り返った。
涙交じりの声に、「お母さん」ではなく、「ママ」の単語が出てきたからだ。
「ママ?」
黒い翼の男はサニャを覗きこむ。
「大好きなママ、本当のお母さん。サニャはママのこと大好き」
どうしたものか、と皆が考え込む。
「すまないが、ちょっと俺に任せてくれないか?」
黒い翼の男は、全員に向かって申し訳なさそうに聞いた。
天秤の上の二人は、皆と目を合わせると、無言でうなずいた。
「サニャ、素直なことを言わねぇとどうしようもねぇ。そのママに会いたいか?」
「サニャ、ママ大好き。会いたい」
「他は?」
「…お父さん、帰ってこない。あっても、話してくれない。お姉ちゃんとお兄ちゃんは…怖い」
「全てを言え」
命令口調だが、声は優しかった。サニャは、彼にしがみついて、わんわん泣いた。
うるさいほどに響き渡る。
だが羽をもった女は一喝しなかった。
「サニャ、嫌い、お母さん嫌い!!でも嫌いって言っちゃだめってお父さんから言われた!!サニャはいい子って、ママがいってくれたけど、サニャ悪い子だった!!お母さんは嫌い、でもママは好き、いつも優しく隣で本読んでくれたの!!長い髪の毛が似合うって、でも」
ぐずっ、と、また声が響く。
「サニャの髪嫌い、って、お母さんが切っちゃった。お母さん、ママのことも嫌いって」
不自然に切られた髪は、義母が、サニャの髪が伸びるたびにハサミで切り続けたそうだ。
白い本を持った女は、最初のページへ戻した。
「失礼、新たに加えられています。義母に当たるサニャの母は、実母のサニャを嫌っていました。義母は、実母が死んだことを喜んで、サニャの父目当てに結婚したようです」
更にページをめくると、消えかけていた本には絵が浮かび上がる。
内容をひたすらと言葉にする。
「服を買ってくれた実母の絵、三人で談笑する家族、ベッドで一緒に本を読んで眠りにつく」
白い本はまたも止まった。
「サニャが六歳の時点で、実母の絵がないです。その先もやはり描かれていません」
それを聞くと、サニャの側にいる黒い翼の男は、サニャの頭を撫でた。
「サニャ、良いか、これは誰にでもわかることだ。お前が全て悪いと思っている?」
「ママ死んだのも、お父さんが変わったのも、サニャがいるから」
黒い本を持った男は、ため息をついた。
「やはり原因はそれか」
「このガキが自分が悪いとすべて思っているなら地獄行きだろう?」
他の理黒い翼の男が、本を持った男に向けていう。
本を持った男は頷く。
「仕方ないです。それが罪だと信じてしまっているのですから。子どもゆえにまっすぐで、純粋」
白い本の女と同時に、同じ言葉を言った。
「罪と信じ込んでいるなら罪」
「面白い例ですね。ここには子供はあまり来ないので、例がなかったのですが。その逆ならありましたが。本人が悪いと思っていなければ罪は罪と」
鎌を持った男は頷く。
「サニャ、悪くないんだ。ママに会いたいなら、悪くないってはっきり言え」
サニャは泣きはらした目で、男を見上げた。優しく笑う男を見て、安心して、サニャは彼の胸に顔を埋めて、いった。
「サニャ、悪くない!!サニャ、ママにいい子って言われた」
黒い本が一瞬にしてまっ白なページに変った。
塗りつぶされた絵のページだけが、まっ白に変わった。
「さ、て、以上だ。あとは天秤を例のように。余計なまねをしすまない」
サニャから離れると、全員に向かっていう。
元の位置に戻ると、本は天秤に掛けられた。
もう片方は羽が。
天秤が動き出し、段々と天国へ示す。
「では、天へ。輪廻についてですが…このような子供、事情が事情ですから困りますね」
「輪廻はさせるべきでしょう」
白い羽の女たちは、天秤を囲んで話し合う。
黒い翼の男は、盗みを働いたことが一番気にかかると話し出す。
「盗みは盗み、悪いものは悪い、最初は自分が悪いと言い切っていたのだから、輪廻させるべきではない」
「いいえ、輪廻はさせるべきです」
黒い翼の男と白い翼の女は、人すらそれを続ける。茫然とそれを見ていたサニャだが、指をくわえると、彼らに問う。
「りんね、って、なに?ママに会えるの?」
はっとして、先ほどサニャといた男は、サニャに告げた。
「そうだな、もしかしたら奇跡的な確率で会えるかもしれないな」
サニャの実母はすでにここに来たか、それとも輪廻をしているかもしれない。
まだしていなければ、いずれかの形で出会える。
本当に、「奇跡」的な確率だが。
奇跡的な確率という言葉がわかっていないようだが、会えると聞いた途端、サニャは満面の笑みで手を挙げた。
「サニャ、ママに会いたい!!」
子供が無邪気に裁判で、死んだことにも気付かず、輪廻すらわからず、実母に会えると喜んでいる。
全員は顔を見合わせて、ふっと息をついた。
「子供には弱いようですね」
黒い本を持っていた男は、頷いた。
「まあ、これくらいのわがまま聞いてやれ」
白い扉が開かれる

白い翼の女は、サニャの小さな手を握った。
ところどころにあったあざは、消えかけている。なかには火傷や切り傷もあったが、天への道標がさされた途端、綺麗に消えていった。
「ねえ、そのりんねをしたら、お父さん優しくなってくれるの?昔のお父さんに戻ってくれるの?」
拙い口調で、手を引いていく白い羽の女に問いかけた。
「ママに会えるかな?また、ママに会えるの?りんねをしたら、会えるの!?」
白い羽の女は、軽く頷いた。
それを見たサニャは、彼女の手を引っ張って、嬉しそうに園を駆け回る。
ゆっくりと白い扉が閉まる。
冷たい空気、冷たい壁、冷たい天秤。
輪廻の意味を理解していないサニャ、嬉しそうに園を駆け回るサニャ。
天秤を見上げながら、サニャと話した男は、呟いた。
「次は、家族に恵まれれば良いな」
天秤に掛けられた本は消えた。
「そればかりは確実なことが言えないので何とも言えません、が、同意です」
誰かが同意を示した。








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