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1月3日のおはなし「ゼロと無限大の技法」

 あなたは歩く、夜の闇を。乳香を焚きしめたかのように、空気は甘くかぐわしく、深い闇の底にはあらゆる色が渦巻き閃光を放っている。紫の矢印が戯れるように踊りはねながらあなたを導く。誰かの手が扉を開ける。よく知った部屋の中を歩きながら、あなたはそこを初めて通るかのように新鮮に感じている。たくさんの声がささやく。家具が、床板が、履物が、庭木が一斉に語りかけてくる。

 月もなく雲のたれ込める夜、あたりは深い淵のような闇に閉ざされているが、その闇さえもがあなたに語りかけてくる。何という饒舌な夜! そしてあなたは歩き出す、
闇の声に向けて。耳にでもなく頭にでもなく身体の芯に響く声。おいで。その声は言う。去れ。同じ声が言う。会いたい、とあなたは思い焦がれ、同時に、会ってはいけない、とあなたは自ら警告する。

 足下の石ころが、さあこっちだと道案内をし、いざあなたが通りかかると、足を引っかけて邪魔をする。夜は昼で、太陽が月なのだ。耳元で木々の枝がナンセンスな歌を歌う。遠くから無数の光が近づいてくる。たくさんの小さな光の粒が闇の奥から迫ってきて、いきなりすさまじい光量の光の奔流となってあなたを包み込む。それがいまは厚い雲の向こうに閉ざされた星たちだということがあなたにはよくわかる。

 光の渦から解放されると、そこに声の主が立っている。まぶしいほどの光を放っている。そのまぶしさにあなたは目を細めるが、よく見ると声の主は背景の闇より黒く、闇そのものさえも呑み込んでしまうほどに視界をさえぎっている。まぶしいと思ったのはその目だ。目があなたの身体をすみずみまで慈しみ、同時に卑しめる。無条件に包み込む愛と、圧倒的に突き放そうとする憎悪にさらされ、あなたは立ちすくんでしまう。

 そこからはもう記憶に留めることはできない。しばらくして人々があなたの不在に気づき、探し始める。庭先の木立の奥で、あるいは近くの公園の物陰であなたは見つけられる。人々が心配するような暴力は受けていないけれど、あなたには受けた傷の鈍い痛みが感じられる。
象徴的な刻印。高みへ高みへと導かれ聖なるものに触れると同時に、語ることもできないほど屈辱的な辱めを受けたことも知っている。

 夢遊病、と人々は呼ぶ。そして治す手だてを探そうとする。けれどもそれは病などではない。病どころか、能力なのだよ。あなたをすっぽり包み込み、同時にあなたの内側に棲む声が語りかけてくる。目に見えるものは見えた通りでなく、触れたものはそこにはない。闇に潜むすべての色が鳴り響き、伝わる音が身体をまさぐる、内からも外からも。形は味となり、香りが心を震わせる。

 余計なのはこれだ。その声はあなたの頭蓋骨の中に無造作に手を突っ込み、大脳皮質をぺらりと剥がしとる。もうあなたはあなたではなく、わたしであり、すべてである。恐怖と歓喜が目一杯の振れ幅で、同時にあなたを、わたしを、すべてを押し倒す。眩しすぎる暗闇と、耐えきれないほどおぞましいかぐわしさ、快楽と苦痛が、一気に押し寄せ永遠に続く。

 すべては無であり、無がすべてなのだ。それが創造というものだ。という声が見える。破壊なのだ。という文字が聞こえる。数えられるものは数えられなくなり、あれとこれとそれはどれでもなくどれでもあるのだ。そしてあなたはわたしになる。そうしてわたしの血族は途絶えることなく広まる。

(「夢遊病」ordered by living dead girl--san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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奥付



ゼロと無限大の技法


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著者 : hirotakashina
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