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1月1日のおはなし「ぶつかりスリ」

 えー年の初めからたくさんのお運びをいただきまして誠にありがたいのでございます。いつものことながらおかしな話をせっせとお話しさせていただくのでございます。

 粗忽者 明けから暮れまで 初笑い

 なんてことを申しまして、年の初めからずーっと途切れなく笑い通しなら、初笑いがそのまま年の暮れまで続くんじゃないか、初笑いの最長不倒記録でギネスを目指そうなんてバカバカしいことを申すんでございますが、まあそんな具合に一年笑って過ごせたらこれは間違いなくいい年なんでございまして。さしづめ恵比寿様なんてこれはもう昔っから初笑いの記録を更新し続けているんでしょうな。そう考えますと、粗忽者になるのも、そうそう悪いことじゃない。

 あれですな。みなさんの身の回りにもいますでしょう? 粗忽者。いないはずがないんです。1人見かけたらまわりに20人はいると思え。なんていいますから、結構いるんです。人が、こう、何人か集まりますてえと、だいたいそん中に一人か二人そそっかしいのがいる。

「悪いね」
「おう、どうした」
「いや遅れちゃって」
「何に」
「何にっておめえあれだ、お通夜だよ」
「どうした、誰か死んだか?」
「死んだかって、やだよ、だからこうして集まってるんだろ?」
「ばかやろう、縁起でもない、うちはおめえ、これからめでてえ席を設けようってとこなのによ」
「めでてえって?」
「授賞式でい」
「あ、授賞式。葬式じゃなくて」

 どうもそそっかしいのがあったもんで。おまけに正月から縁起でもない勘違いで人騒がせときているから始末におえません。こういうのを粗忽者といったんですが。

「で、授賞式ってのは何なの?」
「賞をあげるんだ」
「何の賞?」
「ばかだな」
「何が」
「だから集まってるンだろう」
「どうして」
「それをおめえ、いまから決めるんだ」
「どうやって」
「こうしてみんなして考えようってんじゃねえか」
「考えてどうする」
「決まったやつに賞をあげるんだ」

 もう何が何だかわかりません。粗忽者のまわりにはどうも粗忽者が集まるようでして。こんなのばかりが集まってる長屋を粗忽長屋なんぞと申します。

 四谷の大木戸番の五兵衛って男が、勤め帰りにぶらぶらと弁天町あたりを歩っていると、すれ違い様どんっとぶつかったやつがいる。肩のところに勢いよく当たったもんだから五兵衛はくるくるっと回ってすてーん!と尻餅をついた。さあ、五兵衛が怒ったの怒んなかったの。

「馬鹿やろう! どこ見て歩いてやんでい、こんちくしょう! 人の肩に勢いよく当たりやがって! こっちはくるくるっと回ってすてーん!と尻餅ついちまったい。なんだって肩んところに当たるんだ。真ん中に当たればそのまま尻餅だけつけたのに、くるくる回っちまったじゃねえか」
 なんて何に怒っているのかよくわかりません。
「おいらぁ、回るのは嫌えなんだ。やい! どうして肩に当たった! 犬畜生だっておめえ、ぶつかるときは肩になんかあたらねえぞ」
「何を妙なこと言ってんだい」
「何だこの野郎! お前か、おいらにぶっつかったのは」
「違うよ、その人はもう、あっちに行ったよ。あんた逆に向かって吠えてんだよ」
「なんだと! いつの間にあっちに行きやがった。ったく、すばしっこい奴め!」
「あんたがひっくり返って逆向いてるだけだよ」

 なんて一事が万事そんな調子で、立ち上がってからすたすた歩き出したのはいいけれど、逆向きになってるもんですから、また四谷の大木戸に戻っちまったっていうからしょうがない。

「ああ痛え、痛えよう」
 なんて五兵衛が肩を押さえながら大木戸に入ってくる。男とぶつかった方の腕を何やらダラーンとたらして苦しそうだ。
「どうしたんだい。忘れ物でもしたか、五兵衛」
「お? 何してるんだお前」
「木戸番だ」
「なんでお前がここにいる」
「そりゃあおめえ、おれの番だからよ。晩の番だからよ。晩のおれの番の番だからよ」

 こっちもあんまりおつむは良ろしくないようで。

「何だここは」
「何だって何だ」
「四谷の大木戸じゃねえか」
「そうだがどうした」
「なんでおいらがここにいる?」

 んなこた、聞かれても困ります。

「忘れ物でもしたんじゃないのか」 
「いや違う」 
「じゃあどうした」 

 聞かれて五兵衛は弁天町あたりで、肩のところを勢いよくどーんとぶつけられて、くるくるっと回ってずっこけた話をした。

「そりゃあおめえ、スリだよスリ」
「何を!」
「そりゃあスリの手口だ。だいたい弁天町なんてところからして、弁天小僧みたいであやしいじゃねえか」
「スラれたのか、おいらは?」
「ああ、たいがいそういうことだろう」
「何をだ?」
「何をだって何だ?」
「何をすられた?」
「おめえが何をスラれたかなんて、おらあ知らねえよ」

 五兵衛は片っ方の手をダラーんとさせたまま、もう一方の手で当たられた肩のあたりをこう探っておりまして。

「ややっ」
「どうした」
「ない! ない!」
「ないか」
「ない」
「ないものがあったか」
「あったあった」
「あったのか」
「いや。ない」

 付き合ってるとこっちの頭がヘンになっちまう。

「何がない?」
「やられた!」
「やっぱりスラれたか」
「ああスラれた」
「何をスラれた」
「骨だ」
「骨?」
「ここんところにあった骨がない」
「どこだ」
「ここだ」
「見せてみろ」
「いてててて」
「ばか! これは盗まれたんじゃない。折れてんだ、この鎖骨ものめ!」

 えー、おあとがよろしいようで。

(「鎖骨」ordered by みやた-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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ぶつかりスリ


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著者 : hirotakashina
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