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12月31日のおはなし「個人的な告白」

 今日はぼくの誕生日なので、特別に、普段は書かない個人的なことを書きます。

 ぼくが生まれたのは1963年12月31日。大阪の淀川キリスト教病院という病院で生まれたそうです。阪神間の瀬戸内海に面した土地で育ち、引越魔だった母親の影響で、西宮から神戸市の六甲あたりまでの間を行ったり来たり、うろちょろしていました。60年代や70年代のあのあたりは(少なくともぼくの暮らした周辺は)、レイドバックした感じのゆるい空気の土地で、それがぼくの基本性格を形作りました。

 と、つい先日、ある出来事が起こるまで、ぼくは全く疑いもせずにそう信じていました。その話をしましょう。

 ぼくには夢日記をつける習慣があって、そのおかげでほぼ百発百中夢を覚えていられる状態になっています。夢なんて見たことがないなんていう人には信じられないかもしれませんが、ぼくの場合、眠れば必ず夢を見るし(本当はみんな見ているそうですよ)、また、見た夢を極めて鮮明に記憶できます。東京に出てきて一人暮らしをしていた学生の頃に始めたこの習慣で、すでに大学ノートにして200冊を超えるほどの分量の夢日記をつけています。

 人によって繰り返し見る夢にはその人ごとのパターンがあるそうですが、ぼくの場合、例えば空を飛ぶ夢には必ず何らかの飛行装置を使っていたり、自分自身をやや高いところから俯瞰して見ているたりするような夢が多いようです。また、しばしば極彩色が出てきたり、味や匂いをはっきり感じたりと、人に話すと面白がられるような特徴をいくつか備えています。やや人には話しにくい内容として、性的な夢や暴力的な夢の頻度が非常に高いことも特徴です。

 ところがほんの数日前、夜中に目を覚まして夢日記を付けながら奇妙なことに気づきました。それはこんな内容の夢でした。

「そこは天井の高い洋館風の建物で、マントルピースの上には一族の肖像らしき小さな写真がびっしり並び、壁にはいささか品がないほどたくさんの風景画が所狭しとかけられている。ふかふかの絨毯の上に、ガラストップのテーブルと、革製のソファが並び、応接室のようだ。明かりはついていない。夜なのになぜか視界はくっきりしている。右手の親指で口元を拭うと、べたつくものが指につく。見るとそれが血だということが分かる。足下には頭のない男が倒れている。

 ぼくはその男を知っている。ぼくの左手からバットのようなものが落ちて、絨毯の上を転がり、堅い木の床に接してカラリと音を立てる。男の頭はぐちゃぐちゃになっていて、もう顔を見ることはできない。でもぼくはこの男を知っている。すぐ傍らの長椅子を見ると女が寝そべっている。長椅子の肘掛けに女が着ていたらしい黒い長いスカートがかけられ、その上にちょこんと下穿きがまるまっている。下半身丸裸の女はしかし、恥ずかしがるでもなく、屍体を恐れる様子もない。

 上半身は白いブラウスの前をはだけ、下着がずらされ小さな乳房と堅くとがった乳首が見える。その乳首を見てぼくは自分がそれを口に含んでいたことを思い出す。同時に右手の手のひらで女の右の太ももの内側を丹念に愛撫していたことも思い出す。見ると女の恥毛は立ち上がっていて、性的に興奮した状態だということが分かる。けれど美しく整った顔はまったく無表情で、目も開いているものの、どこを見ているか分からない。ぼくはゆっくり女の方にかがみ込み、首筋にそっと手を当てる。真珠がついたチョーカーを見つめながら、左の頸動脈の拍動を感じ、その時初めてぼくは激しい欲望にとらわれる。その時背後から何者かが迫り、首の後ろに針のようなものを突き立てられる」

 書いている途中で、ただ記録しているだけのはずのぼく自身も異様な感覚に襲われていました。
これは夢なんかじゃない。今見た夢の話を書いているはずなのに、これは今見た夢なんかじゃないと、どこかで感じているのです。何とかそこまで夢日記を書きつけるとぼくは過去のノートを引きずり出し、ページをめくり読み始めました。そして気がつきました。過去20年に及ぶ夢日記の中に、たったいま書いた話の前後につながるエピソードがいくつもあるらしいということに。

 性的な夢や暴力的な夢のほとんどがこの同じ系列のものでした。中には穏やかな旅行記のようなエピソードもよく読めば同じ流れにあるようでした。いやそれどころか、ほとんど全ての夢が大きな物語の一部分、ばらばらに並べられた断片のように見えました。それらを適切な順番に並べて行くと、つながりのある物語が浮かび上がってきます。同じ人物が何度も登場してきたり、同じ場所を何度も訪れたりします。いろいろな時代の、さまざまな土地が舞台になって。そう。これはすべてある人物の長い長い記憶だったのです。

 その晩、すべての記憶が戻ってきました。ぼくは自分が1963年12月31日に生まれ、阪神間で幸せに育った少年ではなかったことを思い出しました。では、なぜ彼らはぼくを殺さなかったのだろう? というのがぼくの疑問でした。なぜ人間の子どもとして育てたりしたのだろう? けれどやがて思い出しました。そうだ。ハンター達に狩られた時、ぼくの外見はまだ十代の青年だったはずだ。でも明らかにその後ぼくは年を取っている。まるで、普通の人間みたいに! そうしてぼくは気づきました。あの、ぼくが生まれたとされているキリスト教病院の医師達が何をしたかを。彼らは吸血者を普通の人間にする「治療」を行ったのでした。

 吸血者としての最後の記憶はこんな感じです。人間の女が、つまりあの夢に出てきた人間の女が、ハンターにとらわれたぼくに何かを言おうとしています。麻酔を打たれて動けなくなったぼくを何人かのハンターが取り押さえています。その中の一人はぼくの友人だった男で、同時にぼくに頭を叩きつぶされ死んでしまった男の友人でもありました。彼は、興奮した口調で吃り吃りこう言います。「本当はおまえなんか生かしておく価値はないんだ。ミカさんを治療するために必要だから殺さないだけだ」そして芝居じみた調子で「この獣が」と叫ぶとぼくを殴り倒し、まわりの人間にとめられながらうずくまります。殴った右手を抱え込む様子を見てぼくは、かわいそうに、指を折ったんだなとぼんやり考えます。痛かろう、気の毒に。

 その時、女がやっと言葉を口にします。
「吸血鬼になりたかったのに」
 それを聞いてぼくはにこりと女に微笑みかけたつもりですが、薬のせいでしょう、全身の筋肉に全く力が入れられず、果たして笑顔をつくることができたかどうかわかりません。

 彼女は今どこにいるのだろう? あと少しでぼくの連れ添いになったはずの彼女は。ぼくのように「治療」を受けて元のままの人間として生きているのだろうか。それとも、変化の途中だった彼女の身にはもっと別なことが起こってしまったのだろうか。同胞達よ。かつての同胞達よ。いまぼくはここにいる。ぼくは戻ることができるのだろうか。もう一度そこに戻ることはできるだろうか。

(「吸血鬼になりたかったのに」ordered by living dead girl-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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奥付



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著者 : hirotakashina
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