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3章 読まれる文学の書き方

この章では小説の書き方を紹介する。といっても物語の組立方とか、登場人物の作り方とかを紹介するわけではない。
そういった情報はすでにインターネットに溢れかえっているので、ここでやる必要がないからだ。
じゃあ、なにを紹介するのかというと、最後まで読んでもらえるような「書き出し」の書き方である。

作品の顔である書き出しに力を入れるのは、基本中の基本ではあるが、おもしろい書き出しを書くというのはかなりのテクニックが必要になる。
実際、はじめて小説を書く人は最初の一行でつまずいてしまうのではないだろうか。
作品の第一印象を決める大事な部分をいきなり書かなくてはいけないのだから無理もない話だ。

そんな人に勧めるのが、「ミゲル・デ・セルバンテス式」である。

「ミゲル・デ・セルバンテス式」とはなにか

ミゲル・デ・セルバンテスというのは言わずもがな『ドンキホーテ』の作者の名前である。
この名前なら誰でも知っているであろう大古典作品『ドンキホーテ』という作品は1605年に書かれたとても古いものなのだが優れた多くのテクニックを使っている。
そのテクニックの一つが「クソながったらしい偉そうかつ卑屈な文章で他人の作品を引用しまくってる序文」である。

この「クソながったらしい偉そうかつ卑屈な文章で他人の作品を引用しまくってる序文」という文章にはもちろん悪意がこもってる。それは私がこの作品をあまり好きではないからだ。
しかしながら、私の好みに関係なく『ドンキホーテ』は世界的に有名な作品であり、過去から現代まで評価されつづけた名作に違いなく、この先もずっと愛され続ける小説に間違いない非常に優れた小説だ。
今から400年も前に書かれたこの素晴らしい序文には、今でも充分に通用されるテクニック法が語られている。

「たとえいかに荒唐無稽な通俗本であっても、アリストテレスやプラトンをはじめとする一群の哲学者の格言でもって飾りたてられているものだから、読者はすっかり感心して、それらの本の著者連を、学問のある、博識な名文豪と思い込んでしまうというわけさ」
 - 岩波文庫 セルバンテス作 ドン・キホーテ前篇(一) 牛島信明訳 から引用 -

『ドン・キホーテ』という作品をわかりやすく伝える為に、舞台を日本に置きかえて説明すると「宮本武蔵好きのおじいちゃんが時代劇小説や歴史本を読んでいるうちに自分を宮本武蔵と思い込んでしまい、侍のコスプレをして馬にのりこみ、日本刀を振りまわしながら全国を練り歩く」といった話だ。本編はスペインを舞台とした物語なので、侍ではなく騎士になっている。
時代によって「滑稽本」とか「風刺本」とか様々な評価されていて、実際、読んでみると濃厚な文学というよりかは、いわゆる時代劇もののパロディといった感触が強い。

この序文は当時に人気があった書物や、それを安易にもてはやす読者に対する揶揄だが、この発言とは裏腹に、この後数ページにわたって哲学者の格言などによって飾りたてる展開になる。

セルバンテスは「哲学者の言葉で飾り立て、自分を学問のある博識な名文豪だと読者に思い込ますテクニック」を一旦批判した後で、自分の作品を哲学者の言葉で飾り立て、自分を学問のある博識な名文豪だと読者に思い込ましたわけだ。

筆者の体験になるが、ドンキホーテをおもしろいと評した知り合いに対し「この本のどこがおもしろいのだ。こんな通俗本が今だに世界的古典作品として流布しているのに納得がいかない」と問うと「セルバンテスはそもそも小説家である前に有名な哲学者なのだ。私はドンキホーテよりも先にその哲学に感銘を受けていたので、大衆向けに書かれたドンキホーテも大変おもしろく読めた」といったのである。

手元に辞書がある人はセルバンテスを引いてみよう。ない人はwikiで調べてみるといい。
とりあえず、セルバンテスは波乱万丈な人生を送ってきたとは書かれているが、哲学者であったという説明は一切ないし、もちろん哲学本を出したという記録も一切ないのである。

彼がどこでセルバンテスを哲学者と勘違いしたのは定かではないが、この序文が少なからず関与していると考えていいだろう。
見事にセルバンテスを学問のある博識な名文豪だと思い込んでいたのである。

書き出しは哲学者の格言からはじめよう

「ミゲル・デ・セルバンテス式」とは、簡単にいえば「書き出しは哲学者の格言からはじめよう」ということだ。
そうすることで、作者のことを学問のある博識な名文豪だと読者に思い込まし、多少つまらないところがあっても、権威の力によって最後まで読まそうというテクニックである。
せこい。確かに せこいかもしれない。しかし、セルバンテスが言っているように実際多くの小説で使われている常套手段だ。
現在でも多くの小説の序文に、格言や、名作の引用が使われている。

あなたが無名の小説であればあるほど「ミゲル・デ・セルバンテス式」を強く薦める。
小説というのは、各あるメディアの中でも特に時間かかるし、楽しむのが面倒くさいメディアだ。
だから、誰だって無価値な小説は読みたくないし、できれば自分のプラスになるような価値のあるものを読みたがる。
この価値というのも人それぞれなのだけど、基本的には「自分より頭が悪かったり、センスがない奴の小説は読みたくない」ということだと思ってくれればいい。
今回はわかりやすく、哲学者の格言から入る方法を紹介したけれど、『ミゲル・デ・セルバンテス式』の基本的な考え方というのは400年前にミゲル・デ・セルバンテスがドンキホーテを書いた時のように、あなたも精一杯かっこつけろ、ということである。

最後に

長々と小難しく書いてきてしまったが、小説というものは人を感動させる壮大な嘘の塊だ。
現実生活において正直もので誠実でいることは結構だが、小説を書いている時は稀代のペテン師になるくらいの遊び心と色気がほしい。小説にルールなんかない。おもしろいことが全てだ。

また小説だから間違ったものを書いてはいけないと肩をはる人がいるけれど、先に言ったように小説は大前提としてフィクションなので、別に間違いだらけだとしてもその間違いにリアリティーがあり読者を惹きつけることができれば、基本的には問題ないのである。
逆に正しいものを書きすぎて問題になるケースすらある。
たとえば、ミステリーのトリックなんかは、実用性があると本当に犯罪に使われてしまう為、実現不可能なトリックしか採用されないのだ。
だから、まあ、肩の力を抜いて自由に書いてくれればいいと思う。ただ自由奔放がすぎると読者に舐められてしまう場合もあるから、せっかくなので「ミゲル・デ・セルバンテス式」を使って執筆活動を楽しんでくれれば幸いである。

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メールのタイトルは「新脈文芸賞応募作品」でお願いします。
作品を受けとり次第、確認として3日以内に返信します。
返信がない場合はお手数ですが、もう一度メールしてみてください。

編集後記


蜂殴打介 【マルチメディア評論家】
知らない間に年を取っていたので、年をとったことを忘れてしまえば永遠に老けないのでは?という真理に到達したので不老不死になりました。ずっと現実逃避をすれば向こうが現実になるよね?もうゴールしてもいいよね?そんな日々、じっと手を見る。

賽川ヒフミ 【ミステリーライター】
SOLWOOD APART代表。大学を中退したことにいまだに後悔を拭えないでいる。東京のバブル期を経験した身にとって、昨今の東京駅前ビル群の林立にはちょっと違和感を抱きます。必要なもの、必要でないもの。きちんとえりわけられる人間と都市が必要なのでは。

八白青香 【フリーライター】
”やつしろせいか”ちゃんです。中身ははげちらかしたおっさんだよ。今回のソーシャルネット記事ですが、実際どこまでがソーシャルって言っていいのかよく分かってないんだよね。いい加減だって? はい、皆さんそーおっしゃる。お後がよろしいようで。

菅原学 【マルチメディアクリエイター】
「電子出版だからできること」ということで新脈文学賞を企画したまではいいけど、調子にのって「小説の書き方」なんて物まで安請け合いしたのに後悔した年末。新しいメディアらしい企画ではあるので、1人くらい応募してくれてもいいと思う。

イエス・曖昧 【編集部代表】
初めての電子出版です。この「初めての電子出版」という響きの美しさと、執筆速度の早いライター達に尻を蹴っ飛ばされて、強引に作り上げた感じがします。やるべきことを半分もできなかった惨敗モードではありますが、ノウハウがない一番最初が一番大変だったということにしときたい。まあ次だ。次。


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