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毛利少輔四郎
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 前編
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 前編 1
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老人達の思い出話 小原鑑元の乱 前編 18
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 前編 19
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 前編 20
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 地理説明 その一
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 前編 21
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 前編 22
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 前編 23
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 前編 24
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 地理説明 その二
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 大分川合戦
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 1
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老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 11
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 12
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 13
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 14
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 15
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 16
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 17
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 18
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 19
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 20
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 地理説明 その三
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 21
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 22
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 23
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 24
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 25
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 26
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 地理説明 その四
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 27
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 28
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 地理説明 その五
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 地理説明 その六
老人達の思い出話 小原鑑元の乱 後編 29
天下を望まなかった男
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天下を望まなかった男 18
毛利の隠し矢
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大友家すいーつクリスマス
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老人達の思い出話 小原鑑元の乱 前編 18

 幼き頃から間者として育てられた麟だから、引く手はあまただろう。

 だからこそ、今からいう情報は麟への持参金に等しかった。

「佐田殿に伝えよ。

『謀反勢は本庄・賀来の手勢に中村の水軍衆合わせて三千。

まだ増える可能性あれど、お屋形様は府内より落ち延び、戸次鑑連と雄城治景に鎮圧を命じた故、謀反は必ず鎮圧する。

万一の事あれど、加判衆の合議により決めるゆえ、絶対に田原と奈多に姫様を渡すな』と。

よいな?」

 煙なのかこれが遺言と分かったからなのか麟が涙目で小さく頷くのを見て、吉岡長増はしわがれた手で優しく麟の頬をなでる。

 この娘と息子吉岡鑑興が、いつの間にか兄弟のように互いに仲良くなっていたのを吉岡長増は知っており、麟の珠姫侍女というのは麟の身分を表に出して吉岡鑑興の嫁にという親心がまじっていたのは吉岡長増だけの秘密である。

 そして、息子ともどもこの館で果てるだろうと確信したからこそ、秘密にしてよかったと心から思いつつ吉岡長増は最後の言葉を麟に投げかけた。

「行け。

そなたが逃げる程度の時間を稼げぬほど耄碌してはおらぬよ」

「……はっ。

どうか、ご無事で」

 麟が煙の中に消えたのを見て、吉岡長増はゆっくりと立ち上がる。

 老将はまるで全盛期のように大声で郎党を叱咤する。

「お屋形様が落ち延びるまでの時間を稼ぐぞ!

吉岡の武名を残すはこの時と思え!」

 外で防戦の準備をしていたはずの吉岡鑑興が吉岡長増の前に現れる。

 という事は、準備が終わりあとは散るのみという事。

 その散り際が遅らせる事ができるかとうかに、大友義鎮および麟が逃げられるかがかかっていた。

「上原館に面する南側の木戸は全て塞ぎ、兵を配置しました。

それがしは万寿寺に、父上はこの館にて指揮をとって頂きたく」

 府内の町の東は大分川に沿っており、北側は別府湾に面して港が作られていた。

 謀反勢は本庄・賀来の手勢が南の上原館を攻撃すると同時に、北の港に中村の水軍衆が船で陣取って逃がさないように睨みを利かせている。

 現状の兵力では府内の町全てを守れる訳も無く、逃げ惑う町民は北西側の別府に繋がる道から大挙して逃げ出していた。


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老人達の思い出話 小原鑑元の乱 前編 19

 それゆえ、大友館と大友家菩提寺として保護を受け、町の防御拠点になっていた万寿寺に篭り連携するしか選択肢がなかったのである。

「館を燃やすぞ」

 吉岡長増みたいに割り切る経験が足りない吉岡鑑興が一瞬我を忘れる。

「最後は派手に散らねばな。

鑑興。

お前は館に火をつけたら、そのままお屋形様をお守りするのだ」

 その言葉にただ静かに吉岡鑑興は首を横に振る事で答えた。

「……まったく。

誰に似て強情になったのやら」

「父上だと思いますが?」

 まぁ、これだけ死亡フラグを建てておきながら二人して生き残ってしまったのは、この後彼らの主君と奥方がやってきて、彼らの度肝を抜く提案をやりやがったからなのだが。

 

 

「落ちるぞ。

そなたは奈多に帰れ」

 大友館の奥に来た大友義鎮はその一言を奈多婦人に告げる。

 だが、侍女達にまで長刀を持たせて戦準備を整えていた奈多婦人は、それを即座に拒否した。

「私は大友義鎮の妻でございます。

ならば、生きるも死ぬも一緒でございましょうに」

 夫婦仲は良かったと思う。

 事実、結婚から既に娘を二人産んでおり、娘達は即座に侍女達をつけて実家である奈多に落ち延びさせている。

 奈多夫人には彼女達が無事に落ち延びる確信があった。

 なぜならば、謀反勢が他紋衆であるという事は、同じ他紋衆に位置づけられる奈多家を敵に回す事になり、謀反成功後の後継者選定において二人の娘のどちらかに婿をつけないと大友家を掌握する事はできないからである。

 なお、この謀反を同紋衆が起こしたとしても同じで、奈多家は滅びる事は無くなったがある意味中立の位置に追い込まれてしまっていた。

 だからこそ、謀反を成功させかつ奈多家を敵に回しても大友家を掌握する起死回生の一手である宇佐八幡の珠姫を奈多家が害する、もしくは同じ国東半島を基盤として奈多家と軋轢がある田原家が拉致する可能性があり、吉岡長増が麟に『奈多と田原に姫様を渡すな』と厳命したのをこの二人は知らない。


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老人達の思い出話 小原鑑元の乱 前編 20

「死ぬぞ」

「二度も主人に先立たれて、まだ生きる意味がありましょうか?」

 こんな笑い方ができる女だったのかと、大友義鎮が思うぐらい凛とした笑みを奈多夫人は浮べる。

 元々奈多夫人はこれが初婚ではなく再婚だったりする。

 前の夫に先立たれて実家に戻った折の二度目の結婚だから、以外に図太いし、おまけに姐さん女房でもある。

 だから、こんな時でも己を見失わない。

「勝手にしろ」

「はい。

勝手にいたします。

落ち延びるのは何処へ?」

 言い放った奈多夫人の鼻を明かすがこどく、少し楽しそうに大友義鎮はその落ち延び先を告げた。

「いや、臼杵に行く。

手配せい」

「臼杵……ですか?」

 海路臼杵に行くには中村の水軍衆が船を浮べているので不可能に近く、陸路を逃げる為には西へ、大分川だけでなく大野川まで越えなければならない。

 事実、町衆が逃げだしているのは北西の別府に繋がる道のみ。

「だからこそよ。

別府への道は謀反勢とて網を張っていよう。

高崎山に篭るには町衆が邪魔よ」

 この時代の戦国大名の町は、普段は館に住み、何かあった場合山の城に篭るという具合に城と館を使い分けていた。

 府内における篭るための城は別府との間にそびえる高崎山にあり、この高崎山城の防御も備蓄も十分なのだが、篭る為には逃げ惑う府内の町衆が邪魔になるし、南側から攻められた場合の逃げ道が北西しか無い為に、敵側にとっても捕捉しやすいという欠点を抱えていた。

 だからこそ、大友義鎮はあえて虎穴に入るつもりなのだ。

「対岸にある吉岡長増の屋敷に身を隠し、そのまま吉岡長増の居城である鶴崎城に逃げる。

その頃には臼杵の手勢と合流できていようから、臼杵に逃れるのは容易い」

 事実その成算はかなり高いと奈多夫人も思った。

 ただ、一つの疑念を除けば。

「大神は、佐伯はどう動くのでしょうか?」


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老人達の思い出話 小原鑑元の乱 地理説明 その一


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老人達の思い出話 小原鑑元の乱 前編 21

 臼杵は三方を山に囲まれた天然の要塞である。

 それゆえ攻めるには水軍が必要なのだが、その山一つ超えた場所が佐伯なのだ。

 今回の他紋集の蜂起に強大な水軍衆を抱える佐伯が参加、もしくは関与していた場合自ら死地に飛び込むことになる。

「神にでも祈るさ」

 大友義鎮の呟きに、奈多夫人は複雑な顔をした。

 彼女は神官の娘でもある。

 この時の神が八百万の神だけでなく、南蛮人が信仰していた神も含まれていた事を機敏に感じたからに他ならない。

 二人はそのまま吉岡長増と吉岡鑑興の元に行き臼杵行きを告げ、吉岡鑑興に呆れられるが吉岡長増は笑いながら了承。

 逃亡経路に吉岡領を使う為に二人とも死ぬわけにはいかず、とはいえ時間を稼がねばならぬから大友館を焼くことを吉岡長増は提案し、大友義鎮は即座に了承した。

 

「お急ぎを」

「船を出すぞ。

謀反勢に悟られるな!」

赤々と燃える府内の町。

 その中央で燃えるのは大友館である。

 炎と煙に人々は逃げ惑い、謀反勢もなすすべなくその奔流に巻き込まれるばかり。

 吉岡勢はその騒動を煽り、『高崎山城に一行が逃げた』と言う虚報をばら撒きつつ、大友義鎮一行を逃がそうとしていたのである。

 大分川に浮かぶ一艘の小船に乗るのは船頭の他に、大友義鎮と奈多夫人に吉岡長増と吉岡鑑興の四人のみ。

 吉岡勢は散らばりながらも、混乱と夜陰に隠れて吉岡長増の屋敷に戻る手はずになっていた。

「府内館が……燃える……」

 呟いた船頭の言葉を大友義鎮は聞き流す。

 国を治める大名ですらこうだ。

 父である大友義鑑は家臣に殺され、彼自身はその騒動で祭り上げられた果てに、この光景を見させられている。

 なんという皮肉だろう。

(人は、神の前には皆同じなのです)

 あの聖者の言葉が胸に響き、大友義鎮は奈多夫人の手を強く握る。

 それを奈多夫人は府内炎上の怒りと捉えて、優しく握り返すのみだった



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