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第27話 ほこり高き三流クリエイター

 

 その日の夜、ぼくはピコザさんとミーちゃんと三人で、ピコザさんのなじみの店である『コーエンジ』へ行きました。

 

 カウンターでおいしいお酒を飲みながら、ワイワイとゲームの話しで盛り上がっていると、1匹の年配のトラさんが店のドアを荒々しく開けてフラフラと入ってきました。

 

 「あっ、先生。まいど!」

 

 店のマスターが親しげに声をかけたそのトラさんは、どうやら店の常連さんのようでした。トラさんはフラフラしながら、ぼくらの横のカウンターのイスに腰をドスンとおろすと、テーブルに顔をうつぶせてしまいました。

 

 「まいったなぁ。また今夜もベロベロだよ……」

 

 グラスをふきながらフウッとため息をつくマスターに、ミーちゃんが小声でたずねました。

 

 「あのぉ、マスター。もしかしてあのトラさんって……プライドさん?」
 「おっ、よくごぞんじで! そうそう、あの有名なイラストレーターのプライドさんだよ」
 「すっごお~い! ブブくん、私たちラッキーかも!」
 「ほんとだ! すげえ~!」

 

 ミーちゃんとぼくは、まるで少女漫画に出てくるキャラのように手を組んで目をキラキラさせながら叫びました。なぜなら、プライドさんはテレビや雑誌にも出る今をときめく超人気売れっ子イラストレーターだったからです。絵をかく仕事についているぼくとミーちゃんにとっては、それこそ神さまみたいな存在です。

 

 「まあ、まあ、落ち着いて。先生はプライベートだから、そっとしておいてね」

 

 マスターは苦笑しながら興奮して大騒ぎするぼくたちをたしなめました。ぼくとミーちゃんは、カウンターにうつぶしているプライドさんに向かってペコリと頭を下げてあやまり、またゲームの話の続きにもどりました。

 

 「きみたちはテレビゲームをつくってるのか? ヒック……」

 

 すると酔いつぶれ、うつぶして寝ていたと思っていたプライドさんが、突然ムクッと顔を上げてぼくたちに話しかけてきました。

 

 「は、はいっ! ぼくはゲームの絵をかいています!」
 「あ、あたしもです!」

 

 ぼくとミーチャンはあこがれの有名人に話しかけられ、まいあがりながら答えました。

 

 「テレビゲームの絵? フン! あんなの絵のうちにはいるのかね? ヒック……」

 

 ぼくは自分の耳をうたがいました。ミーちゃんもプライドさんの一言が信じられないという顔をしていました。なんと、プライドさんは酔っぱらってぼくたちにからんできたのです。うれしいやら、悲しいやら……。

 

 「やめてくださいよ、先生」

 

 マスターが止めようとするのを無視して、プライドさんはさらにぼくとミーちゃんにからみます。

 

 「きみたちは、あんなガタガタの幼稚な絵をかいて、ほんとうに満足しているのか? それとも世間に通用する実力がないから仕方なくかいてるのか?」

 

 ぼくはドキンとしました。なぜなら、ぼくがこの業界に入った理由はゲームが好きだったからではなく、プライドさんが言ったようにイラストの仕事がなかったからです。あたりといえば、あたりです。でも、ミーちゃんは違います。彼女は本当にゲームが好きでこの業界にはいったのですから。ミーちゃんはあこがれの人に自分の仕事をバカにされたことがとてもショックだったのでしょう。目に涙をうかべて、うなだれてしまいました。

 

 「あの……、おはずかしいですが、プライドさんがおっしゃったとおり、ぼくは絵の仕事がなくてこの業界にはいりました。でも、彼女は違います! あと、ぼくたちは少しでも良いゲームの絵をかこうと努力しているつもりです。たしかにプライドさんから見ればお話にならないガタガタで幼稚な絵なのかもしれません。それでも、ぼくたちはこの仕事にほこりをもってるんです」

 

 (言っちゃった……)

 

 ぼくは少しお酒に酔っていたのでしょう。天下の有名イラストレーターにむかってとても偉そうなことを言ってしまいました。

 

 「ほこり? フン。私はゲームのプログラマーは認めているよ。でも、絵をかいてる連中は正直言ってその業界では通用しない三流クリエイターばかりだと思っている。なんだ、あの絵は! でも、そんなやつらに限ってプライドだけは一人前ときやがる。たぶん、ゲームで小金がはいって自分の実力をカン違いしているんだろうな。ヒック……」

 

 「言い過ぎですよ、先生っ!」

 

 マスターは拭いていたグラスをカウンターにタン!と置くと、つかつかとプライドさんの前に歩みより腰に両手をそえて注意しました。

 

 「いいかげんにしてください、先生! これ以上、他のお客さんにからむのはやめてくださいませんか? 迷惑です」
 「からむ? 私はからんでんじゃないっ! 心配してるんだ! 若いクリエイターがゲームなんかで自分の才能のムダ使いをしているのが心配なだけなんだ! ヒック!」

 

 プライドさんは酔いも手伝って、まるで何かにとりつかれたようなすわった目で、ぼくらに力説します。そのあまりの勢いに、ぼくはだんだん自分の仕事に自信がなくなってきました。ミーちゃんはショックで泣いていました。

 

 「おい、何様のつもりだい……」

 

 熱くなった店の中の空気を冷ますかのように、だれかが低くゆっくりとした声でポツリとしゃべりました。その声の主はピコザさんでした。

 

 「おい、そこの絵かきさんよ。あんた、いったい何様のつもりなんだい?」
 「だれだ、おまえは?」
 「オレか? オレはこの2匹のなかまだ。あんたが言うところの三流クリエイターのなかまだよ」
 「なら、だまってろ。私は今、この未来ある若いクリエイターたちにアドバイスをしているところだ」
 「そいつは困るな。なかまの未来がくさっちまうぜ」
 「なんだと?」
 「たまたま絵かきで売れっ子になったぐらいで大物気どりかい? で、酒に飲まれて自分より弱い立場の若い連中にからんで酒のつまみにしてんのかい? さすが一流はやることがちがうねぇ……」

 

 ピコザさんはそう言った後ニヤリと笑うと、口にくわえたタバコに火をつけ、ゆっくりとふかしました。

 

 「フン、三流はそうやってすぐ一流をひがむ。そんな根性だからいつまでたっても三流のままなんだよ。くだらん。マスター、私は帰る! ヒック!」

 

 プライドさんは吐き捨てるようにそう言うと、イスからフラフラと立ち上がりました。

 

 「おい、一流さんよ」
 「なんだ?」
 「あんたさっきオレたちのことを、小金で自分の実力をカン違いした連中って言ってたよな?」
 「よくおぼえてるな。ちがうのか?」
 「その言葉、そのままそっくりあんたにお返しするぜ」
 「なんだと……」
 「超売れっ子だか人気もんだか知らねえけどさ、カン違いしてんのはあんたじゃないのか?」
 「どういう意味だ?」
 「いいかい、一流さん。オレたちはたしかにあんたが言うように三流かもしれない。でもな、オレたちはあんたみたいに相手を見下したことだけは絶対言わない。いや、言えないんだ。なぜならオレらが相手にしているのは、あんたが相手しているようなマスコミ業界の一流の動物たちじゃなく、ごく普通のどこにでもいる動物たちだからだ。そんな動物たちにはウソや思い上がったカン違いは通用しないんだよ」
 「だ、だからなんだ……」

 

 プライドさんはピコザさんの言葉を聞いて、まるで酔いが冷めたように真顔になってしまいました。

 

 「一流さんよ。あんたも昔は三流だったんだろ? でも、三流で食えなくても、その時のハートは一流だったんじゃないのかい?」
 「う……」
 「はっきり言わせてもらうよ。あんた、仕事では一流に成り上がったかもしれないが、ハートは三流に成り下がってるぜっ!」

 

 ピコザさんのスゴミのある声に、プライドさんはビックリして目をまんまるにしました。

 

 「ガオ~~ッ! う、うるさい! おまえたちのことを心配してアドバイスしてやったのに、なんだその態度は! この三流どもめが!」

 

 プライドさんはカウンターに飲み代をたたきつけると、まるで今まで酔っていたのがウソのようにしっかりとした足取りで店のドアへ歩み、ドアを荒々しく開けながらぼくたちに向かって捨てゼリフをはきました。

 

 「ふん! 一生、レベルの低いゲームのガタガタ絵でもかいてろ! ヒック!」
 「あんたも、せいぜい落ちぶれないように一流にしがみついてるんだな」

 

 ピコザさんのお返しの言葉にきれたプライドさんは、こわれるんじゃないかと思えるほど激しくドアをしめて店から出てゆきました。

 

 ぼくは、ピコザさんがぼくたちのつらい気持ちを代弁してくれたような気がしてうれしくなりました。そして、天の上の存在だったプライドさんよりピコザさんの方がずっと一流らしい気がしました

 

 「ごめんな、ミーちゃん、ブブくん。君たちのあこがれのイラストレーターを怒らせちまったよ」

 

 ピコザさんが頭をかきながらぼくらにあやまりました。同じくマスターもぼくらにあやまりました。

 

 「みんな、申し訳なかった……。 プライドさん、最近、仕事がうまくいってなくて荒れ気味だったんだよ。私はくだらんマスコミの仕事をするために絵かきになったんじゃない、ってね」

 「おやおや、ぜいたくな悩みでうらやましいもんだ。ねえ、ミーちゃ……」

 

 ピコザさんがミーちゃんの方を向くと、ミーちゃんは顔を両手でおおってシクシクと泣いていました。

 

 「ミーちゃん。ほんとうにごめんな……」

 

 ピコザさんがミーちゃんに頭をさげてあやまると、ミーちゃんは小さな声でポツリと言いました。

 

 「ううん。あたし、なんかうれしかったの……。ピコザさん、ありがとう……」

 

 ホッとした表情のマスターが、今まで店の中にかかっていたロックのBGMをとめ、ミーちゃんのお気に入りの曲に変えてくれました。

 

 曲は、ミーちゃんが大好きな映画のテーマ曲『星に願いを』でした


第28話 不良のたまり場

 

 その小犬の小学生を帰宅途中に見かけるようになったのは、3ヶ月ぐらい前からでした。

 

 その小学生は、ぼくのアパート近くにある小さなゲームセンターで、夜になるといつも同じゲームテーブルにすわっていました。テーブルの上には夕食と思われる菓子パンとジュースのペットボトルがおいてあり、暗い目をしていつも1匹で遊んでいるその姿はさびしげで、ぼくはその少年がどうにも気になってしかたがありませんでした――。

 

 「いよいよ来週から風営法(ふうえいほう)が改正されるみたいだな」

 

 ファルコン社長が新聞を読みながら仕事場に入ってきました。モグリンさんとミーちゃんは仕事の手を休め、その話題に興味をしめしました。

 

 「来週ですか。その条例でゲーセンのイメージが少しでも変わればいいですね。モグモグ」

 「そうね。今まではゲームセンター、イコール、不良のたまり場というイメージが強かったからね」

 

 (あのぉ……。フーエイホーってなんですか?)

 

 ぼくはその聞きなれない言葉の意味をミーちゃんに小声でたずねました。

 

 「風俗営業法(ふうぞくえいぎょうほう)のことよ。ゲームセンターやパチンコ屋さん、バー、スナックなんかの繁華街のお店に関する条例のことよ」
 「ふ~ん。それがどう改正されるんですか?」
 「んとね、例えばゲームセンターでいえば、夜は12時で閉店するようにとか、保護者のいない学生は夜の9時までとか。とくに小学生なんかは5時以降は入っちゃだめみたいね」
 「そんなにきびしくなるんですか?」

 

 ちょっと驚いたぼくにファルコン社長が言いました。

 

 「最近、ゲーセンで朝まで遊んでいる不良の学生たちが増えてきて、社会問題にもなってたからね。まあ、風営法の改正でゲームセンターのもうけは少し減ってしまうようだけど、ゲーム業界にとっては良いイメージチェンジになるから私は歓迎だな。さらば、不良のたまり場、って感じかな?」

 

 (さらば、不良のたまり場――)

 

 ぼくは社長の話を聞きながら、なぜか、あのゲームセンターでさびしく遊んでいた小犬の小学生のことを思い出しました。

 

 そして、風営法が改正された次の週――

 

 ぼくは、あの小学生のことが気になって、帰宅途中にゲームセンターをのぞいてみました。しかし、そこにはあの小学生の姿はありませんでした。

 

 ぼくは、ゲームテーブルをふいていた店のバイトのお兄さんに、あの少年のことをきいてみることにしました。

 

 「え? あんた、あの小学生の知り合い?」
 「いえ、そうではないんですけど、いつも遊びにきてたのに突然いなくなったので、ちょっと気になって……」
 「知らないの? 風営法が改正されたんだよ。だから、小学生は午後5時以降は入っちゃだめになったんだよ」
 「じゃあ、今日は来なかったんですか?」
 「いや、いつもの時間に来たけど、理由を言っておいかえしちゃったよ。まぁ、かわいそうっちゃ、かわいそうなんだけど……」
 「かわいそう?」
 「ああ、あの子、なんかウワサでは学校でイジメにあってるらしくてね。友だちもいないみたいなんだ。家庭もちょっとわけありみたいだしね。3ヶ月前に初めてここに来て、それから毎日来るようになったんだよ。あの子、よっぽど居場所がなかったんだろうなぁ」
 「居場所がなかった……」
 「ゲーセンは不良のたまり場って嫌ってる動物たちも多いみたいだけどさ、不良って居場所がないさびしい連中ばかりなんだよな。もちろん不良を肯定する気はさらさらないけど、でも、PTAや善良なる市民の方々は、そういう『世のオチコボレ』の連中には絶対居場所を与えたくないようで、ゲーセンも例外ではなかったということさ。……おっと、語っちまったな。仕事、仕事!」

 

 バイトのお兄さんは、ちょっとしゃべりすぎたかな? という気まずい顔をしながら店のカウンターへもどってゆきました。

 

 ぼくはあの小学生の話を聞いて、ちょっとセンチな気分になってしまいました。

 

 (まわりから不良のたまり場と悪口を言われている場所であっても、あの小学生にとっては唯一の心安らげる場所だったんだろうなぁ。でも、法律はあの子から居場所をうばい取った。あの子はこれからどこへ行くんだろう……)

 

 ぼくはゲームセンターから出て、すっかり暗くなった裏通りを見回しました。もしかしたら、あの子がどこかからこのゲーセンを見ているかもしれないと思って。でも、この日をさかいに、ぼくはあの少学生の姿を見ることは2度とありませんでした。

 

 それから、数週間後――

 

 ぼくはピコザさんと『コーエンジ』に行った時に、あの小学生のことを話しました。

 

 「だいじょうぶだよ、ブブくん。その小学生はもっと居心地のよい場所を見つけてそこで楽しんでいるはずだよ。きっと……」
 「どうしてそう思えるんですか?」
 「どうしてかって? それはね、大人が思う以上に子どもってやつは前向きに生きてける力を持っているからさ。それと……」
 「それと?」

 

 ピコザさんはグラスのお酒をグイッとのどに流し込んだあと、遠い目をしながらポツリと言いました。

 

 「オレも、子どものころ、そうだったから……」

 

 ぼくはそれ以上ピコザさんに話しかけることができなくなり、グラスのお酒を一気飲みして、むせてしまいました。


第29話 パミリーコンピュータ登場!

 

 「みんな~っ!! 買ってきたぞぉ~っ!!」

 

 『ビッケカメラ』のロゴがはいった大きな紙袋を持ったモグリンさんが、勢いよく会社のドアを開けました。

 

 「キャッ♪ 早く、見せて、見せて!」
 「売り切れてなくて、よかったですワン!」

 

 ミーちゃんを先頭に興奮した会社のなかまが、いっせいにモグリンさんの紙袋のまわりに集まりました。そんなみんなの興奮をしずめるかのように「あわてない、あわてない」と冷静をよそおうモグリンさんでしたが、その言葉とは逆に、買ってきたものを紙袋から取り出すその手はふるえていました。

 

 「ジャジャーン! ついに登場! これがパミリーコンピュータだ!」
 「おお~っ!」

 

 モグリンさんが取り出したもの。それは、ニンチャン堂から発売された家庭用ゲーム機『パミリーコンピュータ』でした。

 

 家庭用ゲーム機は以前にも発売されてはいましたが、値段が高く、性能もいまいちでした。しかし、この(略して)パミコンは、ゲームセンターで人気のあった『マルオ兄弟』という人気ゲームがほとんど同じグラフィックで楽しめたり、パソコンとして簡単なプログラムが組めたり、電子銃で射撃ゲームもできたりと、まさに『夢の玉手箱』だったのです。

 

 「ねぇねぇ、ソフトは何を買ってきたの?」

 

 ミーちゃんがモグリンさんにきくと、モグリンさんは『マルオ兄弟』と『マルオゴルフ』だよ、と答えながらゲームカセットを袋から取り出しました。

 

 「あとは?」
 「あとって?」
 「このパミコンって、ゲームセンターのゲームが遊べるのが『売り』なんでしょ? 『ゼニウス』や『ルドアーガの塔』は買ってこなかったの?」
 「買うもなにも、ショップで売ってたのはニンチャン堂のものばかりだったよ」
 「じゃあ、発売の予定は?」
 「いや、特に告知もなかった」
 「え~。ニャムコのゲームが遊べると思って期待してたのに~……」

 

 ニャムコファンのミーちゃんがちょっとガッカリしていると、社長室からファルコン社長がニコニコしながら出てきました。

 

 「ミーちゃんに、いいニュースがあるぞ」
 「え?」
 「さっき、ニャムコが来年からパミコンでゲームソフトを発売するって発表したんだ」
 「ほんとうですか!?」
 「で、最初のゲームは『ゼニウス』。その次が『ルドアーガの塔』らしい」
 「キャア~ッ! やったあ~!」

 

 大喜びしてピョンピョンと小おどりするミーちゃんを見ながら、ゼロワンさんが社長にたずねました。

 

 「その他のメーカーはどうなんでしょうワン? たとえば、あの『マンベーター』や『エレベーターハクション』で有名なダイトーさんとかは?」
 「ダイトーも参入を決定したそうだ」
 「おお~っ! ワンワ~ンッ!」

 

 ゼロワンさんは大喜びして部屋の中をグルグルとかけまわりました。


 「あたしはニンチャン堂のゲームも好きだから、さっそく仕事が終わったら買いに行くわ。ねぇ、ブブくんもいっしょに買いにゆかない?」

 「いいですけど、だいじょうぶですかね? もう、売り切れてませんかね?」

 「だいじょうぶだと思うけど……」

 「いや、たぶん売り切れてるはずだ」

 

 モグリンさんが、とつぜんクールな表情でキッパリと言いました。

 

 「さっき『ビッケカメラ』に行った時はもう数台しか残ってなかったから、今から行っても絶望的だろう」

 「え~っ……」

 

 ぼくとミーちゃんは、ちょっとがっかりしました。

 

 「だいじょうぶ! こんなこともあろうかと……」

 

 そう言うと、モグリンさんは別の紙袋の中からパミコンをもう2台出しました。

 

 「もう2台、余分に買っておいたんだ」

 「へぇ~! モグリンにしてはずいぶん気がきくわね。じゃあ、1台、あたしに売ってちょうだい」

 「お値段は3割増しとなります」

 「えっ?」

 「一応、手数料ということで。だって、買ってここまで運んでくるのがタイヘンだったしね。エヘヘ……」

 「……」

 

 (え~? モグリンさん、親切心でパミコンを買ってきたんじゃなくて、最初からそれが目的で買ってきたの? そういうことしちゃマズイよぉ~……)

 

 ぼくはモグリンさんの『せこさ』にあきれながら、ミーちゃんの顔を横目で見ました。

 

 (うっ……!)

 

 ああ、なんと恐ろしい……。ミーちゃんは今まで見たこともない鬼のような形相になっていたのです。ぼくはビビリました。でも、モグリンさんはぼく以上にビビっていました。

 

 「モグリン……」

 「は、はい?」

 「あなた、本気なの……?」

 「え? い、いえ! 冗談です。ジョ~ダン!」

 「それ、笑えない…………」

 「うっ……。じゃ、じゃあ、しょーもない冗談を言ってしまったおわびに、1割安くお売りしますよ。エヘヘヘ……」

 「え、いいの? なんか悪いなぁ~。モグリン、ありがとう!」

 「いえいえ、どういたしまして。トホホホ……」

 

 (ほ~ら、言ったことじゃない。ガラにもなく『せこい』欲を出すから、そういうことになっちゃうんですよ。モグリンさん!)

 

 ぼくは、うなだれたモグリンさんを見ながら、モグリンさんは絶対悪い事ができない性格なんだろうなぁと、苦笑いしてしまいました。ちなみに、もう1台はぼくが買い取りました。でも、ミーちゃんみたいに1割安くはしてくれませんでした。残念……。


第30話 トラちゃんクエスト

 

 そのゲームを手にしたのは、ぼくが『森のげえむ屋さん』に入社して2年目の春を迎えようとしたころでした。

 

 『パミリーコンピュータ初の本格RPG、ついに登場!』

 

 そんな宣伝コピーで発売されたそのゲームのタイトルは『トラちゃんクエスト』。開発したのは『株式会社フェニックス』という、あまり聞いたことのない名前のメーカーでした。

 

 モグリンさんが言うには、フェニックス社は国内のパソコンゲームメーカーの中では、わりと知名度は高いほうだそうです。でも、パソコンゲームはほとんどやったことがないし、ましてや自宅にパソコンすら持ってない自分にとっては無名のメーカーに等しいものでした。

 

 それなのに、そのメーカーの『トラちゃんクエスト』を買ってしまったの理由は、まずひとつに、キャラクターデザインがぼくの大好きなマンガ家『トリヤマアキポン』によるものだったから。次に音楽が、これもぼくの大好きな作曲家『スギヤマン』によるものだったから。そしてゲームジャンルが『RPG(ロールプレイングゲーム)』だったからです。

 

 (トリヤマアキポンや、スギヤマンがどんなゲームの世界を作ってくれるんだろう? RPGってどんな遊びだろう?)

 

 ぼくの『トラちゃんクエスト(略してトラクエ)』に対する期待は、なみなみならぬものでした。

 

 「ブブくんはRPGは初めてだったよね? オイラはパソコンでけっこう遊んでいてかなりくわしいから、わかんないことがあったら何でも電話できいてくれたまえ」

 

 帰宅途中、ぼくと一緒に『トラクエ』を買ったモグリンさんは、RPGの師匠みたいな口ぶりでそう言うといそいそと自宅へ帰って行きました。ぼくは明日が日曜日だということもあって「よし、今夜は徹夜でこのゲームをやりこんでみるぞ!」と気合たっぷりでアパートへ帰りました。
 
 アパートに帰ったぼくは、あせる気持ちを抑えながらパミコンに『トラクエ』のゲームカセットをさしこみ、電源スイッチを入れました。すると、テレビ画面に『FENIX PRESENTS』というクレジットが出たあと、電子音のファンファーレが高らかになり始めました。

 

 (おお~っ! さすがスギヤマン。今までのゲーム音楽とはぜんぜんフンイキがちがうぞ!)

 

 ファンファーレと同時に、『TORACHAN QUEST』というタイトルが、まるで映画のそれのように画面下から登場します。

 

 「おお~っ! なんかそれっぽ~い!」

 

 なにが、それっぽいのかは自分でもよくわかりませんでしたが、ぼくのハートは今までにないワクワク感でいっぱいになっていきました。

 

 そして、ゲームを始めて30分――

 

 ぼくは『トラクエ』の世界にすっかり魅了されてしまい、夕食をとることさえ忘れていました。そして最初はよくわからなかったRPGのシステムも、やっているうちにだんだんと慣れてゆきました。

 

 (すげぇ……。ほんとうにキャラクターが成長しているみたいだ……)

 

 最初はスライムという1番弱い敵も倒せなかった主人公が、ゲームを始めてから1時間後にはスライムを一発で倒せるぐらいに強く成長していました。

 

 (これが、モグリンさんが言ってたロールプレイングゲームのおもしろさかぁ……)

 

 ぼくは、モグリンさんがいつも『RPGは絶対おもしろい! いつかRPGはテレビゲームの主流になる!』と力説していたことを思い出し、モグリンさんの言ってたことは本当になるかもしれないなぁ、と思いました。

 

 それからぼくは、時間を忘れて、夕食も忘れて、でもトイレは忘れずに『トラクエ』を遊び続けました。

 

 それから――いったいどれくらいの時間がたったでしょうか? ダンジョンの中で迷ってしまったぼくはちょっと休憩しようと思い、ゲームコントローラーを床に置き背伸びとアクビをしながら部屋の置時計を見ました。

 

 (ゲゲッ!? 朝の5時!)

 

 プルルル……。プルルル……。

 

 突然、部屋の中を電話の呼び出し音が鳴りひびきました。

 

(だれだ? こんな時間に)

 

 ぼくは眠い目をこすりながら受話器をとりました。相手はモグリンさんでした。

 

 「ブブくん、今、レベルいくつ?」
 「えっ? こんな時間にかけてきて、いきなりそんな質問ですか? う~んと、レベル12ですね。モグリンさんは?」
 「オイラ? オイラはレベル15……」
 「へぇ~。さすがモグリンさん。早いですね」
 「ま、まあね。ところで、ブブくんはトロの村に入れた?」
 「そんなの、とっくにですよ。モグリンさんもでしょ?」
 「……」
 「ん? どうしたんですか?」
 「トロの村へ入る門のカギが見つかんなくてさ……。で、おなじ所をグルグル回って敵と戦ってばかりいたら、いつのまにかレベルが15になって……」
 「へ?」
 「ねぇ、ブブくん……。『トロの村の門のカギ』ってどこにあるの?」
 「え? あのカギを見つけるのって、めちゃくちゃ簡単じゃないですか」
 「…………」
 「あのぉ~、モグリンさん。まさか本当に見つけられないんですか?」
 「…………………………」

 

 ぼくは、受話器の向こうからモグリンさんが出す、なんとも言えないイヤ~なオーラを感じ取りました。そして、ここは素直にカギの場所を教えた方が賢明だと判断しました。

 

 「わ、わかりました。あのカギはですね……」
 「わかった! たぶん『バグ』だな」
 「え?」
 「ブブくんに簡単に見つけられて、ぼくが見つけられないということはありえない。こりゃ、ぜったい『バク』だな! あとでフェニックスに電話してみよう」
 「バグじゃないと思いますけど……」
 「いや、絶対『バグ』だ!」
 「ヘンだなあ……。門からちょっと離れた木の後ろにいる少年からもらえませんでしたか?」
 「木の後ろにいる少年? ちょっとまって……」

 

 モグリンさんは電話をきらずに受話器をいったん床に置き、ぼくの言ったことをたしかめるためにゲームを再開したようです。ていうか、眠いんだからカンベンしてよ~。

 

 「あ!」

 

 受話器からモグリンさんのちょっとマヌケな声が聞こえました。

 

 「あった、あった! なんだかなぁ~。簡単すぎて気づかなかったよ~。まいったなぁ~」

 

 (まいったのはこっちの方だよ! バ~カ!)と、ぼくは思わず怒鳴りそうになりましたが、こんな時間にゲームのことでムキになるのも大人げないと思い、ぼくはグッとがまんしました。

 

 「サンキュ、サンキュ! あっ、そうそう、ブブくん。あまりゲームをやりすぎるのは体に悪いから、そろそろ寝たほうがいいと思うよ。じゃあね! おやすみ~」

 

 モグリンさんはそう言うと一方的に電話をきりました。

 

 (ゲームよりモグリンさんの方が体に悪いよ……)

 

 ぼくはモグリンさんのせいで体から力がぬけてしまいました。

 

 ――しかし、ここまでぼくらを夢中にさせてしまう『トラクエ』……というか、RPGという遊びは、いったいどんな風にして作られているんだろう?

 

 (こういう、みんなを夢中にさせるゲームを作ってみたい……)

 

 ぼくは窓の外の朝焼けを見ながら、こみ上げてくる今までにないゲーム作りへの情熱をおさえることができなくなりました。


第31話 みんなの企画

 

 「ブブくん。『トラちゃんクエスト』みたいなゲームを考えてみないか?」

 

 ファルコン社長がぼくに言いました。

 

 「え?」

 

 ぼくは最初、社長が冗談を言ってるのかと思いました。そして、もう一度ききなおしました。

 

 「トラクエってパミコン用のゲームですよね? うちの会社ってアーケード用のゲームを作ってる会社だったはずですが……」

 「今ままではね。でも、これからはパミコン用のゲームにも挑戦することにしたんだ」

 「え~っ!? マジですか?」

 

 ぼくの大声に、まわりのなかまたちがいっせいに「なんだ? なんだ?」とビックリした表情でぼくを見ました。社長はぼくのあまりの驚きように苦笑いしながら話を続けました。

 

 「データーポンポコ社のカネポン社長からたのまれたんだ。パミコン用のゲームを企画してくれないかって? それで、ブブくんにトラクエみたいな大ヒットするRPGを考えてほしいってリクエストがあったんだ」

 

 「へぇ~! ブブくん、すげぇじゃん」

 

 モグリンさんが、とても『うらめしい目』でぼくをジットリと見つめました。でも、ぼくは正直言って複雑な気持ちでした。パミコン用のゲーム、それもトラクエみたいなRPGの企画はとてもやってみたかったんですが、カネポン社長のリクエストというのがなんかイヤだったんです。だって、ぼく、カネポン社長のことが大嫌いですから。

 

 「おや? うかない顔だね。もしかしてカネポン社長のことがひっかかってるのかい?」

 

 ぼくはファルコン社長から心の中をズバリとあてられ動揺しました。

 

 「あたりだね。まぁ、ブブくんの気持ちもわからなくはないけど、今回の仕事はうちの会社にとってもチャンスなんだ。どうか『森のげえむ屋さん』の未来のためだと思って引き受けてくれないか?」

 

 (『森のげえむ屋さん』の未来のため……)

 

 「おいおい、ブブくん。なに悩んでんだよ? 仕事だぞ」

 「な、悩んでなんかいませんよ!」

 「あのぉ~、社長。もしブブくんがやりたくないようでしたら、オイラがかわりに考えますよ。モグモグ……」

 「やります! ぜひ、やらせてください!」

 

 ぼくは、いつになく元気な声で返事をしました。だって、「カネポン社長が嫌いだから仕事をしぶっている」とまわりから思われるのはイヤだったし、モグリンさんからワガママな奴って思われるのもシャクだったからです。それに、あの『トラちゃんクエスト』のようなRPGはとても作ってみたかったし。

 

 「そうか。じゃぁ『ザ・クマさんプロレス』のときのように、ブブくんとモグリンくんとで協力しあって考えてくれ」

 「オイラも考えていいんですか?」

 「もちろん」

 「やったぁ!」

 

 ぼくとモグリンさんの返事を確認したファルコン社長は、いつも以上のニコニコ顔で社長室へもどってゆきました。

 

 「すごぉ~いっ! あたしたちもトラクエみたいなゲームが作れるかもしれないのね!」

 

 そう言って、ミーちゃんはうれしそうに体をクルリと回転させました。

 

 「ワオ~ン! うれしいですワン。とりあえずトラクエのプログラムを研究しとこうでワン」

 

 そう言って、ゼロワンさんが部屋の中をグルグル駆けまわりました。

 

 「トラクエか……。オレも苦手なクラシックを勉強しとかなくちゃな」

 

 いつもは余裕たっぷりのピコザさんが、めずらしく緊張した表情をして言いました。

 

 さっそく、ぼくはモグリンさんといつものように2匹で企画会議を始めようとしました。でも、なぜか今回の企画に関しては、この会社のなかま全員で考えてみたいなぁ、という気持ちになってきました。

 

 「モグリンさん。今回の企画会議には、この会社のなかま全員に参加してもらうというのはいかがです?」

 「え、全員? なんで?」

 「う~ん……。うまく言えないんですが、今回の企画は『森のげえむ屋さん』の未来につながるようなものにしたいんです。だったら、ぼくら2匹だけじゃなくて、『森のげえむ屋さん』にいるみんなでその未来を考えてみたいかなぁ、なんて思って……」

 

 モグリンさんはしばらくだまっていましたが、なぜかその目はしだいにウルウル状態になってゆきました。

 

 「いいこと言うなぁ……ブブくんは。オイラ感動しちゃったよ。うん、わかった。そうしよう。みんなで考えよう」

 

 そういうと、モグリンさんは会社のなかま全員をよび、ぼくの言ったことを伝えました。

 

 「ほんと? あたしも企画に参加していいの? うれしい!」

 

 そう言って、ミーちゃんはうれしそうに体をクルクルと2回転させました。

 

 「ほんとですかワン! ボクも一度でいいから企画に参加してみたかったですワンワ~ン!」

 

 そう言って、ゼロワンさんが部屋の中をいつもより速いスピードでグルグル駆けまわりました。そして目が回ってひっくりかえってしまいました。

 

 「いいアイデアだね、ブブくん、モグリン。ありがとうな」

 

 ピコザさんもうれしそうに言いました。

 

 とてもよろこんでいるみんなを見ながら、ぼくもとてもうれしい気持ちになってゆきました。すると、社長室から出てきたファルコン社長がみんなの笑顔を見て言いました。

 

 「みんないい顔してるね。そんなにRPGに挑戦するのがうれしいの?」

 

 ミーちゃんが、みんながよろこんでいる理由を社長にていねいに説明しました。

 

 「『森のげえむ屋』さんの未来につながるゲームを、みんなの力で考えてみたいか……」

 

 社長は腕組みをして目をつぶり、なにかを考えはじめました。

 

 (あれ? なんかマズかったのかな。もしかしたら、ぼくとモグリンさんが企画に自信がないからみんなをさそった、と思われちゃったかな……)

 

 ぼくはちょっと不安になりました。みんなもその表情から笑みがちょっと消えました。

 

 しばらくして社長はゆっくりと目をあけ、こう言いました。

 

 「うん、よい提案だ。『森のげえむ屋さん』はここにいるみんなの会社だ。だから『森のげえむ屋さん』の未来をみんなで作りたいという気持ちに私が反対する理由がない。さぁ、みんなでトラクエのような、たくさんの動物たちによろこんでもらえる素晴らしい企画を考えてくれ。期待してるよ」

 

 社長はニコニコしながら、そう言ってぼくらを応援してくれました。

 

 「ありがとうございます! みんなでがんばります!」

 

 ぼくはみんなを代表して社長にお礼を言いました。みんなも笑顔をとりもどし社長にお礼を言いました。

 

 「まってください、社長!」

 

 社長室にもどろとしたファルコン社長を、ミーちゃんが呼びとめました。

 

 「なんだい?」

 「社長も、あたしたちといっしょに企画を考えませんか?」

 「え? いやぁ……、おさそいはうれしいけど、役にはたたないと思うよ」

 

 社長は照れ笑いしながら言いました。するとモグリンさんが、つかつかと社長にもとへ歩みより、フンッと胸をはってこう言いました。

 

 「だいじょうぶですよ、社長! オイラがちゃんと指導しますから! モグッ!」

 「そ、そうか。じゃぁ、よろしくお願いします。モグリン先輩」

 「うむっ!」

 

 「ワハハハハ……!!」

 

 モグリンと社長の冗談に、みんないっせいに大笑いしました。

 

 そして、その日。みんなで始めた企画会議は時間がたつのも忘れるぐらいとても盛り上がり、終電近くまで続けられました。



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