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第24話 ビギナーズラック

 

 初心者が初めて挑戦したことが、たまたま大成功をおさめることがあります。ギャンブルの世界では、そのことを『ビギナーズラック(初心者の幸運)』といいます。

 

 ゲーム業界でもそれとに同じように、新人が企画したゲームが大ヒットすることがあります。そのようなビギナーズラックな成功を得た新人は、その後ふたつのタイプに別れてゆきます。

 

 ひとつは、『成功は幸運なだけだったのだ』と自覚し、その後もうぬぼれずに努力してゆくタイプ。

 

 もうひとつは、『成功は自分に才能があったからだ』と、うぬぼれてしまうタイプ。

 

 ――おはずかしい話ですが、ぼくは、どうやら『うぬぼれタイプ』だったようです……。

 

 『ザ・クマさんプロレス』の大ヒットの喜びがまださめきらない2月のある日のこと。ファルコン社長がぼくとモグリンさんにある指示をしました。

 

 「友人の社長からゲームの監修をたのまれたんだ。モグリン、ブブくん。すまないが、その会社へ行ってアドバイスしてやってくれないか?」

 

 社長の指示を受けたぼくとモグリンさんが向かったその会社『キマジメ電子』は、もともとはゲームテーブルなどの筐体(きょうたい)の部品を製作していた会社でしたが、ゲームソフトはヒットするとすごくもうかるということを『ザ・クマさんプロレス』の成功で知り、最近になってゲームソフトの開発も始めたそうです。

 

 「社長のキマジメともうします。ファルコン社長にはいつもお世話になっております。本日はよろしくお願いいたします」

 

 ぼくたちを出迎えてくれたキマジメ電子のキマジメ社長は、とてもまじめそうな柴犬の社長でした。なんでも、昔はバリバリの営業マンだったそうです。どおりで礼儀正しく腰が低いわけです。

 

 キマジメ社長に案内してもらった開発室には、ぼくらと同じ20代っぽいゲーム開発の社員が5匹いました。おカタイ会社なのでしょうか? 全員が『キマジメ電子』という文字のはいった作業服を着ていました。

 

 「見てほしいゲームは、これなんですが……」

 

 『ゴリさん空手道』――

 

 開発室のまんなかに置いてあったゲームテーブルで動いていたそれは、今までだれも作ったことがない空手の対戦ゲームでした。

 

 「おい、あれを見ろよ!」

 

 モグリンさんがゲームテーブルの操作パネルを指さしました。なんと、そこには操作レバーが2本もついていました。

 

 「ボタンを使わず、2本のレバー操作の組合せだけで技をだすんですニャ」

 

 ゲームテーブルのそばに立っていた開発のリーダーらしきトラ猫さんが、ずり下がったメガネを人差し指でクイクイと上げながら説明してくれました。ぼくはそのトラ猫さんからゲームの遊び方を教えてもらい、さっそくプレイしてみました。

 

 (そ、操作が、むずかしい……)

 

 ぼくは2本のレバーの操作にてこずってぜんぜん技が出せず、あっという間にゲームオーバーになってしまいました。その後、モグリンさんも挑戦してみましたが、やはりぼくと同じようにぜんぜん技が出せずにゲームオーバーになってしまいました。

 

 「いかがでしょう?」

 

 キマジメ社長が不安げな表情でぼくらにききました。ぼくは正直、困ってしまいました。2本のレバーで遊ぶというアイデアはスゴイと思いましたが、かんじんの操作が難しくては意味がないと思ったからです。

 

 「一般のお客さんには操作が難しいのではないでしょうか?」
 「やはりそう思われますか? 実は私もうまく操作できないんですよ……」

 

 キマジメ社長は少しガッカリしながらぼくの意見に同意しました。すると、その会話をそばで聞いていたトラ猫さんが口をはさみました。

 

 「え、そうですかニャ? そんなに操作が難しいですかニャ? 先日、近所の子どもたち数匹をよんで、テストプレイをしたんですが、みんなすぐになれて楽しく遊んでくれましたニャン」

 

 ぼくはトラ猫さんの意見に少しムッとしました。まるで「あなたたちがヘタだからだ遊べないんだ」という意味にもとれたからです。アクションゲームがヘタなぼくとモグリンさんは、なんだかバカにされたような気がして気分が悪くなりました。思わずぼくはトラ猫さんに言い返してやりました。

 

 「その子どもたちは、全員アクションゲームが得意だったんじゃないですか? アクションが得意な数匹の子どもたちが楽しく遊べたからといって、すべてのお客さんが遊べるとは限らないと思います。もっと多くのデーターをとって判断する必要があるのではないでしょうか?」


 「そ、そういうもんですかニャ~……」

 

 トラ猫さんはうなだれて黙り込んでしまいました。ぼくは、ちょっと言いすぎたかな? と思いましたが、自分の考え方に自信があったので気にしないことにしました。なぜなら、ぼくにはヒットゲームを作った実績があるからです。エッヘン!

 

 「操作性をウンと簡単にして、あとタイトル画面に演出を入れたり、試合と試合の間にボーナスゲームを入れたらいかがでしょう? そうすれば、もっとおもしろくなると思いますよ」

 

 そんなアドバイスをして、ぼくたちはキマジメ電子をあとにしました。

 

 「どうだった?」

 

 ぼくたちが会社に帰ってくるやいなやファルコン社長がききに来ました。モグリンさんが答えました。

 

 「あのゲームは、ちょっとキビシイんじゃないかと思いますよ」
 「ぼくもモグリンさんと同じ意見です。操作がむずかしすぎて遊べたもんじゃありません」

 

 ぼくとモグリンさんの報告を聞いた社長は、少しガッカリしながら言いました。

 

 「そうかぁ……。それはざんねんだ。実はあの会社、今、経営が苦しいみたいだから、もしゲームがおもしろくなりそうだったら、うちで買い取って売るつもりでいたんだ」

 

 そして、1ヵ月後――

 

 「ブブくん! 『ゴリさん空手道』のロケテストやってたぞ!」

 

 お昼休みを使ってゲームセンターに遊びに行ってたモグリンさんが、会社に帰ってくるなり興奮しながらぼくに言いました。

 

 「へぇ……。で、どうでした?」
 「それが、すげえ大人気で、客が行列をつくってたんだ!」
 「えっ!? ほんとですか? アチチ……!」

 

 ぼくは驚いたひょうしに、飲んでいたコーヒーを股間にこぼしてしまいました。モグリンさんが言うには、ぼくたちがアドバイスした演出とボーナスゲームは入っていましたが、操作性はほとんど変わっていなかったそうです。

 

 「だって、あんなに操作が難しいのに」
 「それが、みんな普通にプレイしてたんだ。つまりオイラたちがヘタすぎただけなんだよ」
 「うっ……」

 

 『先日、近所の子どもたち数匹をよんで、テストプレイをしたんですが、みんなすぐなれて楽しく遊んでくれましたニャン』

 

 ぼくは、キマジメ電子のトラ猫さんの言葉を思い出しました。そして、モーレツな自己嫌悪に落ちいってしまいました。

 

 (ぼくは、始めて企画した自分のゲームがヒットしただけで、自分の考え方がすべて正しいと思いこんでた。そして自分がゲームがヘタなことを棚に上げてトラ猫さんの素直な意見を無視してしまった。はぁ~……。うぬぼれてたなぁ~……)

 

 それから1週間後――

 

 『ゴリさん空手道』のロケテストは大成功をおさめ、『ザ・クマさんプロレス』をこえる大ヒットゲームになりました。そして、その後の『対戦格闘ゲーム』のお手本となりました。

 

 「プロレスゲームの成功って、ビギナーズラックだったのかなぁ?」
 

 社長が、ぼくらのうぬぼれをいましめるかのような皮肉を言いました。

 

 しばらくの間、ぼくとモグリンさんの肩身のせまい日々が続いたのは、言うまでもありません。トホホホ……。


第25話 科学とゲーム

 

 今夜はひさびさに会社のなかま全員で『飲み会』をすることになりました。

 

 場所は『コーエンジ』という名前の小さなバーで、ピコザさんの音楽なかまが経営するお店でした。

 

 店に入ると、そこには壁一面にロックミュージシャンのポスターや、常連さんが写ったコメントつきのポラロイド写真がたくさん貼られ、お店というよりまるでサークル活動の部室のようでした。お店のゴリラのマスターがピコザさんに声をかけました。

 

 「よお、ピコザ、ひさしぶり! 今日は友だちとかい?」
 「ああ、会社のなかまなんだ。マスター、きょうはサービスたのむよ」
 「あいよ。ピコザのなかまだったら大歓迎さ!」

 

 そう言うと、マスターは店内にかかっていたロックのBGMをとめ、ぼくたちが話しやすいように静かめの曲に変えてくれました。

 

 「かんぱ~~い!」

 

 ぼくたちはグラスを高くかかげて乾杯をしました。そして、とてもおいしいマスターの手料理に舌つづみをうちながら、みんなで時間のたつのも忘れて盛り上がりました。

 

 「そういえば、ピコザってテレビゲームを作ってたんだよな」

 

 マスターがピコザさんにききました。

 

 「ああ、そうだけど……」
 「先日、オレんとこの子どもにきかれたんだけど、テレビゲームを最初に考えた動物ってだれなんだい?」
 「えっ?」

 

 思わぬマスターのマニアックな質問に、ピコザさんはちょっととまどってしまいました。

 

 「だれなんだ? そうだ、モグリンなら知ってるよな。だってゲームの企画屋だから」

 

 ビールをグイグイ飲んでいたモグリンさんは、いきなり質問をふられたせいで、ウッとむせて鼻からビールを吹き出してしまいました。

 

 「キャッ! モグリン、きたない!」

 

 となりにすわっていたミーちゃんがビックリして飛び上がり、思わずモグリンさんの頭をはたきました。

 

 「イテテ……。最初にテレビゲームを作った動物さんですか? えっと、それはですね……」
 「それは?」

 

 ピコザさんとマスターはモグリンさんの次の言葉をまって、身を乗り出しました。

 

 「だれだっけ?」
 「なんだよ~!」

 

 ピコザさんとマスターがなかよくズッコケました。

 

 「もしかして、『ポン』というゲームを作った動物さんじゃないですか?」

 

 ぼくは以前読んだゲーム雑誌の記事を思い出して言いました。

 

 すると、今まで静かにお酒を飲んでいたゼロワンさんが、グラスをテーブルの上にタン! と乱暴に置いて大声で言いました。

 

 「ちがいますワン! ゲームの世界で仕事をしているのに、そんなことも知らないとは、まったくけしからんですワン!」

 

 いつもとは違う、ちょっと乱暴な態度のゼロワンさんにみんな驚きました。

 

 ゼロワンさんの顔は赤く、目がすわってました。どうやらゼロワンさんはお酒に酔うと、ちょっと怒りっぽくなるようです。ピコザさんは苦笑いしながらゼロワンさんの肩をポンポンとたたいてなだめました。

 

 「まあまあ、ゼロワンくん。じゃあ、聞かせてくれないか? その動物のことを」
 「わかりましたワン! ――その動物さんは『ウイリー・ヒギンボーサム』という名前の科学者ですワン。1958年のことですワン。彼は自分が所属していた国立研究所に見学にくる学生さんたちに、もっと科学を楽しんでほしいと思っていましたでワン」

 

 「ふ~ん。最初にゲームを考えた動物さんって科学者だったんだぁ……」

 

 ミーちゃんが意外そうな顔で言いました。酔いが手伝っているのか、ゼロワンさんの説明はよどみなく進みます。

 

 「それで、5インチのオシロスコープに今のテニスゲームのようなものを作り、研究所の見学コースに置いたんですワン。見学に来た学生さん達は大喜びしましたでワン」


 「ほぉ~。ずいぶんサービス精神のある学者さんだったんだな」

 

 マスターがアゴをさすりながら感心するように言いました。

 

 「ただ、そのサービスにはちょっとしたわけがあったんですワン」

 

 「わけ? わけってどんな?」

 

 ぼくはお酒を飲む手を止めて、モグリンさんの話に聞き入りました。


 「実はその科学者は、戦争中に核爆弾開発計画のスタッフの1匹だったんですワン。彼は祖国のために良かれと思いその開発にたずさわったんですワン。しかし、その結果は――」

 

 みんなはゲームを最初に考えた動物さんが核爆弾の開発スタッフと聞いて驚き、黙ってしまいました。なぜなら、その爆弾がどんなに恐ろしいものか、みんな良く知っていたからです。

 

 「科学は人を幸せにするものだと信じていた彼にとって、自分がそのような爆弾開発に参加してしまったという事実はとてもつらかったでしょうワン……。つぐないの意味もあったのでしょうか? 戦争が終わると、彼は世界平和のために『核拡散防止運動』にその身をささげたんですワン」

 

 ぼくはテレビゲームを誕生させた動物さんにそんな過去があったとは知りませんでした。ミーちゃんがゼロワンさんにききました。

 

 「ゼロワンさん。つまり、その科学者さんは、科学はみんなを悲しませるためではなく、みんなを喜ばせるためにあるんだということを知ってほしくて、その最初のゲームを作ったということなのね」
 「そのとおりですワンッ!」

 

 ピコザさんがカラになったグラスにお酒をそそぎながら言いました。

 

 「みんなに喜んでもらうためか……。それって音楽にも共通する大切なハートだよなぁ」
 「ステキなお話ね……。あれ? モグリン、あなた泣いてるの?」
 「ううっ、シクシク……。なんか感動するなぁ……」

 

 ミーちゃんのとなりにいたモグリンさんが泣いていました。そして、涙といっしょに流れ出た鼻水をピッ!と指ではじいたら、それがミーちゃんの顔についてしまいました。

 

 「キャ~ッ! モグリン、きたない!」

 

 ミーちゃんは、またモグリンさんの頭をはたきました。

 

 「いやぁ、いい話を聞かせてもらったよ。うちの子どもの良いみやげ話になった。そのお礼といっちゃなんだが、みんなにお酒をごちそうするよ。さあ、好きなのを言ってくれ」
 「はい! じゃあ、オイラは生ビールを大ジョッキで!」

 

 今、泣いていたのがウソのようにモグリンさんが笑顔でマスターに注文しました。まったく、モグリンさんの性格にはついてゆけないなぁ……。


第26話 ゲームが変わる?

 

 「ゲ~ムは、ニャムコ~♪」

 

 ゲーム好きの動物たちにとても人気のあるゲームメーカー『ニャムコ』のテーマソングを口ずさみながら、モグリンさんが昼食から帰ってきました。

 

 「どうしたんですか? ずいぶんごきげんですね」
 「ブブくん。さっきゲーセンに寄ってきたら、ニャムコが新作のロケテストをやってたぞ」
 「へぇ。で、どんなゲームでした?」
 「それが、またまた新しいタイプのゲームでさ、『ルドアーガの塔』という名まえなんだ」
 「ルドアーガの塔?」

 

 ニャムコのゲームはいつも斬新でおもしろく、新作が出るたびにお客さんが行列をつくってしまうという超人気ぶりでした。前回発表された『ゼニウス』というシューティングゲームも、そのドラマ性のある独特の世界観でテレビゲーム史に残る記録的な大ヒットとなりました。

 

 「ブブくん、RPGって知ってるよね?」
 「アール、ピー、ジー? なんです、それ?」
 「知らないの? ほんとに勉強不足だなぁ……。RPGっていうのは『ロール・プレイング・ゲーム』の略で、プレイヤーが剣と魔法の世界の主人公になってその役割を演じながら進めるゲームなんだ。パソコンゲームでは有名だけどね」
 「役割を演じる? それって、プレイヤーがお芝居でもしながらゲームをするんですか?」
 「ま、まぁ、テーブルトークの方はね。コンピュータの方はちょっと違うけど……。で、そのRPGのフンイキを取り入れたのが『ルドアーガの塔』なんだ」
 「よくわからないけど、おもしろそうですね」
 「だろ? 見に行ってみる?」
 「もちろん!」

 

 ぼくとゼロワンさんは、ミーちゃんに『ゲームの市場調査に行ってきます』と言って、そのゲームが置いてあるゲームセンターへと向かいました。

 

 たくさんのお客が取り囲んでいたそのゲームは、今までのゲームセンターのゲームの常識からはずれたものでした。どういうことかというと、それまでのゲームセンターのゲームは、たくさんのお客さんに遊んでもらうことでインカム(収入)を上げていたので、ひとりのプレイヤーがあまり長時間遊べないようにしていました。ところが、『ルドアーガの塔』はその逆で、ひとりのお客さんが長時間遊べるようにしていたのです。

 

 でも、それではインカムが下がりそうな感じがしますよね? ところが、実際はその逆で、『ルドアーガの塔』に『はまった』ひとりのお客さんが、ゲームオーバーになっても続きがやりたくてテーブルの上にお金を山積みにしてじゃんじゃん使うので、結果的にインカムが上がっていたのです。

 

 「なんか、これからのゲームの方向性がガラリと変わってゆくような予感がするなぁ。モグモグ……」

 

 モグリンさんは腕組して『ルドアーガの塔』に夢中になっているお客さんたちを見ながらそうつぶやきました。ぼくはモグリンさんにききました。

 

 「変わるって、どんな風にですか?」
 「つまり、これからは今までのようなアクションゲームばかりじゃなく、謎解きや映画のようなドラマ性のある、もっとじっくりと遊べるゲームが増えてきそうな気がするんだ」
 「でも、そんなゲームはゲームセンターにあわない気がします。だって、お客の回転が悪くなりそうだから」
 「まぁ、たしかにそれは言えてるけど……」

 

 そんな話をしている途中、ぼくはやっと客がはなれた『ルドアーガの塔』のゲームテーブルを見つけ、他の客に先をこされないように走っていってテーブルにつきました。そして、ワクワクしながら100円玉を入れてゲームを始めました。

 

 ゲームの流れは、だいたいこんなかんじでした――

 

 剣を持った鎧(よろい)姿の主人公を操作して、迷路になったフロア(部屋)の中の敵を倒しながら出口へと向かいます。しかし、出口にはカギがかかっています。「カギはどこだろ?」と思いながらフロアの敵を全員倒すと、とつぜん通路に宝箱があらわれました。そして、宝箱の中に入っていたカギをゲットして出口に向かったらステージクリアできました。

 

 横で見ていたモグリンさんが、さらに遊び方を分析しました。

 

 「たぶん、そんなかんじで各フロアを謎解きでクリアしながら塔の上階へ進んで行き、最後に塔の頂上フロアにいるボス……つまり、この塔の主であるルドアーガを倒してさらわれたお姫さまを助け出す――と、いう流れなんだろうな」


 (おもしろい! たしかに今までのゲームセンターのゲームとはちがう……)

 

 ぼくはこんなゲームを遊んだのは生まれて初めてです。正直、じっくりと時間をかけてやってみたくなりました。でも、それではお金がいくらあってもたりません。

 

 「モグリンさん。このゲーム、家でゆっくりと遊べたら最高でしょうね」
 「だったら、そのゲームテーブルごと買っちゃえば?」
 「高すぎてムリですよ」
 「だよなぁ。ああ、こんなゲームが家でも遊べたらなぁ……」

 

 それからぼくとモグリンさんは30分ぐらい『ルドアーガの塔』を遊んでゲームセンターをあとにしました。

 

 会社にもどると、ゲーム専門誌を手にしたゼロワンさんが興奮しながらぼくらに向かって大声で言いました。

 

 「モグリンさん! ブブくん! ついに出るみたいですワン!」
 「出るって……なにが?」
 「ゲーセンのゲームが遊べる家庭用ゲーム機ですワン!」
 「え~~~っ!? マジ? 見せてっ!」

 

 モグリンさんは、すごいスピードでゼロワンさんのもとへかけより、ゼロワンさんが持っていたゲーム専門誌をひったくると、目をカッと見開いてがっつくように記事を読み始めました。

 

 「ハァハァ……なになに……『この秋、ニンチャン堂からついに発売! その名もパミリー・コンピュータ。 ゲームセンターのあの人気ゲームが家庭でも遊べるぞ!』すげえ! モグモグ~ッ!」 

 

 モグリンさんは興奮し、ツバをとばしながらぼくに大声で言いました。

 

 「ブブくん、変わるぞ! ぼくの予想通り、テレビゲームは大きく変わるぞ!」


第27話 ほこり高き三流クリエイター

 

 その日の夜、ぼくはピコザさんとミーちゃんと三人で、ピコザさんのなじみの店である『コーエンジ』へ行きました。

 

 カウンターでおいしいお酒を飲みながら、ワイワイとゲームの話しで盛り上がっていると、1匹の年配のトラさんが店のドアを荒々しく開けてフラフラと入ってきました。

 

 「あっ、先生。まいど!」

 

 店のマスターが親しげに声をかけたそのトラさんは、どうやら店の常連さんのようでした。トラさんはフラフラしながら、ぼくらの横のカウンターのイスに腰をドスンとおろすと、テーブルに顔をうつぶせてしまいました。

 

 「まいったなぁ。また今夜もベロベロだよ……」

 

 グラスをふきながらフウッとため息をつくマスターに、ミーちゃんが小声でたずねました。

 

 「あのぉ、マスター。もしかしてあのトラさんって……プライドさん?」
 「おっ、よくごぞんじで! そうそう、あの有名なイラストレーターのプライドさんだよ」
 「すっごお~い! ブブくん、私たちラッキーかも!」
 「ほんとだ! すげえ~!」

 

 ミーちゃんとぼくは、まるで少女漫画に出てくるキャラのように手を組んで目をキラキラさせながら叫びました。なぜなら、プライドさんはテレビや雑誌にも出る今をときめく超人気売れっ子イラストレーターだったからです。絵をかく仕事についているぼくとミーちゃんにとっては、それこそ神さまみたいな存在です。

 

 「まあ、まあ、落ち着いて。先生はプライベートだから、そっとしておいてね」

 

 マスターは苦笑しながら興奮して大騒ぎするぼくたちをたしなめました。ぼくとミーちゃんは、カウンターにうつぶしているプライドさんに向かってペコリと頭を下げてあやまり、またゲームの話の続きにもどりました。

 

 「きみたちはテレビゲームをつくってるのか? ヒック……」

 

 すると酔いつぶれ、うつぶして寝ていたと思っていたプライドさんが、突然ムクッと顔を上げてぼくたちに話しかけてきました。

 

 「は、はいっ! ぼくはゲームの絵をかいています!」
 「あ、あたしもです!」

 

 ぼくとミーチャンはあこがれの有名人に話しかけられ、まいあがりながら答えました。

 

 「テレビゲームの絵? フン! あんなの絵のうちにはいるのかね? ヒック……」

 

 ぼくは自分の耳をうたがいました。ミーちゃんもプライドさんの一言が信じられないという顔をしていました。なんと、プライドさんは酔っぱらってぼくたちにからんできたのです。うれしいやら、悲しいやら……。

 

 「やめてくださいよ、先生」

 

 マスターが止めようとするのを無視して、プライドさんはさらにぼくとミーちゃんにからみます。

 

 「きみたちは、あんなガタガタの幼稚な絵をかいて、ほんとうに満足しているのか? それとも世間に通用する実力がないから仕方なくかいてるのか?」

 

 ぼくはドキンとしました。なぜなら、ぼくがこの業界に入った理由はゲームが好きだったからではなく、プライドさんが言ったようにイラストの仕事がなかったからです。あたりといえば、あたりです。でも、ミーちゃんは違います。彼女は本当にゲームが好きでこの業界にはいったのですから。ミーちゃんはあこがれの人に自分の仕事をバカにされたことがとてもショックだったのでしょう。目に涙をうかべて、うなだれてしまいました。

 

 「あの……、おはずかしいですが、プライドさんがおっしゃったとおり、ぼくは絵の仕事がなくてこの業界にはいりました。でも、彼女は違います! あと、ぼくたちは少しでも良いゲームの絵をかこうと努力しているつもりです。たしかにプライドさんから見ればお話にならないガタガタで幼稚な絵なのかもしれません。それでも、ぼくたちはこの仕事にほこりをもってるんです」

 

 (言っちゃった……)

 

 ぼくは少しお酒に酔っていたのでしょう。天下の有名イラストレーターにむかってとても偉そうなことを言ってしまいました。

 

 「ほこり? フン。私はゲームのプログラマーは認めているよ。でも、絵をかいてる連中は正直言ってその業界では通用しない三流クリエイターばかりだと思っている。なんだ、あの絵は! でも、そんなやつらに限ってプライドだけは一人前ときやがる。たぶん、ゲームで小金がはいって自分の実力をカン違いしているんだろうな。ヒック……」

 

 「言い過ぎですよ、先生っ!」

 

 マスターは拭いていたグラスをカウンターにタン!と置くと、つかつかとプライドさんの前に歩みより腰に両手をそえて注意しました。

 

 「いいかげんにしてください、先生! これ以上、他のお客さんにからむのはやめてくださいませんか? 迷惑です」
 「からむ? 私はからんでんじゃないっ! 心配してるんだ! 若いクリエイターがゲームなんかで自分の才能のムダ使いをしているのが心配なだけなんだ! ヒック!」

 

 プライドさんは酔いも手伝って、まるで何かにとりつかれたようなすわった目で、ぼくらに力説します。そのあまりの勢いに、ぼくはだんだん自分の仕事に自信がなくなってきました。ミーちゃんはショックで泣いていました。

 

 「おい、何様のつもりだい……」

 

 熱くなった店の中の空気を冷ますかのように、だれかが低くゆっくりとした声でポツリとしゃべりました。その声の主はピコザさんでした。

 

 「おい、そこの絵かきさんよ。あんた、いったい何様のつもりなんだい?」
 「だれだ、おまえは?」
 「オレか? オレはこの2匹のなかまだ。あんたが言うところの三流クリエイターのなかまだよ」
 「なら、だまってろ。私は今、この未来ある若いクリエイターたちにアドバイスをしているところだ」
 「そいつは困るな。なかまの未来がくさっちまうぜ」
 「なんだと?」
 「たまたま絵かきで売れっ子になったぐらいで大物気どりかい? で、酒に飲まれて自分より弱い立場の若い連中にからんで酒のつまみにしてんのかい? さすが一流はやることがちがうねぇ……」

 

 ピコザさんはそう言った後ニヤリと笑うと、口にくわえたタバコに火をつけ、ゆっくりとふかしました。

 

 「フン、三流はそうやってすぐ一流をひがむ。そんな根性だからいつまでたっても三流のままなんだよ。くだらん。マスター、私は帰る! ヒック!」

 

 プライドさんは吐き捨てるようにそう言うと、イスからフラフラと立ち上がりました。

 

 「おい、一流さんよ」
 「なんだ?」
 「あんたさっきオレたちのことを、小金で自分の実力をカン違いした連中って言ってたよな?」
 「よくおぼえてるな。ちがうのか?」
 「その言葉、そのままそっくりあんたにお返しするぜ」
 「なんだと……」
 「超売れっ子だか人気もんだか知らねえけどさ、カン違いしてんのはあんたじゃないのか?」
 「どういう意味だ?」
 「いいかい、一流さん。オレたちはたしかにあんたが言うように三流かもしれない。でもな、オレたちはあんたみたいに相手を見下したことだけは絶対言わない。いや、言えないんだ。なぜならオレらが相手にしているのは、あんたが相手しているようなマスコミ業界の一流の動物たちじゃなく、ごく普通のどこにでもいる動物たちだからだ。そんな動物たちにはウソや思い上がったカン違いは通用しないんだよ」
 「だ、だからなんだ……」

 

 プライドさんはピコザさんの言葉を聞いて、まるで酔いが冷めたように真顔になってしまいました。

 

 「一流さんよ。あんたも昔は三流だったんだろ? でも、三流で食えなくても、その時のハートは一流だったんじゃないのかい?」
 「う……」
 「はっきり言わせてもらうよ。あんた、仕事では一流に成り上がったかもしれないが、ハートは三流に成り下がってるぜっ!」

 

 ピコザさんのスゴミのある声に、プライドさんはビックリして目をまんまるにしました。

 

 「ガオ~~ッ! う、うるさい! おまえたちのことを心配してアドバイスしてやったのに、なんだその態度は! この三流どもめが!」

 

 プライドさんはカウンターに飲み代をたたきつけると、まるで今まで酔っていたのがウソのようにしっかりとした足取りで店のドアへ歩み、ドアを荒々しく開けながらぼくたちに向かって捨てゼリフをはきました。

 

 「ふん! 一生、レベルの低いゲームのガタガタ絵でもかいてろ! ヒック!」
 「あんたも、せいぜい落ちぶれないように一流にしがみついてるんだな」

 

 ピコザさんのお返しの言葉にきれたプライドさんは、こわれるんじゃないかと思えるほど激しくドアをしめて店から出てゆきました。

 

 ぼくは、ピコザさんがぼくたちのつらい気持ちを代弁してくれたような気がしてうれしくなりました。そして、天の上の存在だったプライドさんよりピコザさんの方がずっと一流らしい気がしました

 

 「ごめんな、ミーちゃん、ブブくん。君たちのあこがれのイラストレーターを怒らせちまったよ」

 

 ピコザさんが頭をかきながらぼくらにあやまりました。同じくマスターもぼくらにあやまりました。

 

 「みんな、申し訳なかった……。 プライドさん、最近、仕事がうまくいってなくて荒れ気味だったんだよ。私はくだらんマスコミの仕事をするために絵かきになったんじゃない、ってね」

 「おやおや、ぜいたくな悩みでうらやましいもんだ。ねえ、ミーちゃ……」

 

 ピコザさんがミーちゃんの方を向くと、ミーちゃんは顔を両手でおおってシクシクと泣いていました。

 

 「ミーちゃん。ほんとうにごめんな……」

 

 ピコザさんがミーちゃんに頭をさげてあやまると、ミーちゃんは小さな声でポツリと言いました。

 

 「ううん。あたし、なんかうれしかったの……。ピコザさん、ありがとう……」

 

 ホッとした表情のマスターが、今まで店の中にかかっていたロックのBGMをとめ、ミーちゃんのお気に入りの曲に変えてくれました。

 

 曲は、ミーちゃんが大好きな映画のテーマ曲『星に願いを』でした


第28話 不良のたまり場

 

 その小犬の小学生を帰宅途中に見かけるようになったのは、3ヶ月ぐらい前からでした。

 

 その小学生は、ぼくのアパート近くにある小さなゲームセンターで、夜になるといつも同じゲームテーブルにすわっていました。テーブルの上には夕食と思われる菓子パンとジュースのペットボトルがおいてあり、暗い目をしていつも1匹で遊んでいるその姿はさびしげで、ぼくはその少年がどうにも気になってしかたがありませんでした――。

 

 「いよいよ来週から風営法(ふうえいほう)が改正されるみたいだな」

 

 ファルコン社長が新聞を読みながら仕事場に入ってきました。モグリンさんとミーちゃんは仕事の手を休め、その話題に興味をしめしました。

 

 「来週ですか。その条例でゲーセンのイメージが少しでも変わればいいですね。モグモグ」

 「そうね。今まではゲームセンター、イコール、不良のたまり場というイメージが強かったからね」

 

 (あのぉ……。フーエイホーってなんですか?)

 

 ぼくはその聞きなれない言葉の意味をミーちゃんに小声でたずねました。

 

 「風俗営業法(ふうぞくえいぎょうほう)のことよ。ゲームセンターやパチンコ屋さん、バー、スナックなんかの繁華街のお店に関する条例のことよ」
 「ふ~ん。それがどう改正されるんですか?」
 「んとね、例えばゲームセンターでいえば、夜は12時で閉店するようにとか、保護者のいない学生は夜の9時までとか。とくに小学生なんかは5時以降は入っちゃだめみたいね」
 「そんなにきびしくなるんですか?」

 

 ちょっと驚いたぼくにファルコン社長が言いました。

 

 「最近、ゲーセンで朝まで遊んでいる不良の学生たちが増えてきて、社会問題にもなってたからね。まあ、風営法の改正でゲームセンターのもうけは少し減ってしまうようだけど、ゲーム業界にとっては良いイメージチェンジになるから私は歓迎だな。さらば、不良のたまり場、って感じかな?」

 

 (さらば、不良のたまり場――)

 

 ぼくは社長の話を聞きながら、なぜか、あのゲームセンターでさびしく遊んでいた小犬の小学生のことを思い出しました。

 

 そして、風営法が改正された次の週――

 

 ぼくは、あの小学生のことが気になって、帰宅途中にゲームセンターをのぞいてみました。しかし、そこにはあの小学生の姿はありませんでした。

 

 ぼくは、ゲームテーブルをふいていた店のバイトのお兄さんに、あの少年のことをきいてみることにしました。

 

 「え? あんた、あの小学生の知り合い?」
 「いえ、そうではないんですけど、いつも遊びにきてたのに突然いなくなったので、ちょっと気になって……」
 「知らないの? 風営法が改正されたんだよ。だから、小学生は午後5時以降は入っちゃだめになったんだよ」
 「じゃあ、今日は来なかったんですか?」
 「いや、いつもの時間に来たけど、理由を言っておいかえしちゃったよ。まぁ、かわいそうっちゃ、かわいそうなんだけど……」
 「かわいそう?」
 「ああ、あの子、なんかウワサでは学校でイジメにあってるらしくてね。友だちもいないみたいなんだ。家庭もちょっとわけありみたいだしね。3ヶ月前に初めてここに来て、それから毎日来るようになったんだよ。あの子、よっぽど居場所がなかったんだろうなぁ」
 「居場所がなかった……」
 「ゲーセンは不良のたまり場って嫌ってる動物たちも多いみたいだけどさ、不良って居場所がないさびしい連中ばかりなんだよな。もちろん不良を肯定する気はさらさらないけど、でも、PTAや善良なる市民の方々は、そういう『世のオチコボレ』の連中には絶対居場所を与えたくないようで、ゲーセンも例外ではなかったということさ。……おっと、語っちまったな。仕事、仕事!」

 

 バイトのお兄さんは、ちょっとしゃべりすぎたかな? という気まずい顔をしながら店のカウンターへもどってゆきました。

 

 ぼくはあの小学生の話を聞いて、ちょっとセンチな気分になってしまいました。

 

 (まわりから不良のたまり場と悪口を言われている場所であっても、あの小学生にとっては唯一の心安らげる場所だったんだろうなぁ。でも、法律はあの子から居場所をうばい取った。あの子はこれからどこへ行くんだろう……)

 

 ぼくはゲームセンターから出て、すっかり暗くなった裏通りを見回しました。もしかしたら、あの子がどこかからこのゲーセンを見ているかもしれないと思って。でも、この日をさかいに、ぼくはあの少学生の姿を見ることは2度とありませんでした。

 

 それから、数週間後――

 

 ぼくはピコザさんと『コーエンジ』に行った時に、あの小学生のことを話しました。

 

 「だいじょうぶだよ、ブブくん。その小学生はもっと居心地のよい場所を見つけてそこで楽しんでいるはずだよ。きっと……」
 「どうしてそう思えるんですか?」
 「どうしてかって? それはね、大人が思う以上に子どもってやつは前向きに生きてける力を持っているからさ。それと……」
 「それと?」

 

 ピコザさんはグラスのお酒をグイッとのどに流し込んだあと、遠い目をしながらポツリと言いました。

 

 「オレも、子どものころ、そうだったから……」

 

 ぼくはそれ以上ピコザさんに話しかけることができなくなり、グラスのお酒を一気飲みして、むせてしまいました。



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