閉じる


<<最初から読む

22 / 37ページ

第21話 どたんばのお願い

 

 夏に開発をスタートしてから3ヶ月たち、季節はすっかり秋になっていました。

 

 『ザ・クマさんプロレス』もいよいよ完成です。

 

 ゲーム企画に初挑戦したぼくが、どうにかゲームの完成にこぎつけられたのも、みんなの協力やデーターポンポコ社のヌラリンさんのアドバイスがあったからです。この仕事につく前はずっとひとりで絵をかく作業をしていたぼくにとって、みんなで力を合わせてひとつのものを作り上げる作業はとても新鮮で感動的でした。

 

 「いよいよ完成ですねワン!」

 

 デバッグ(プログラムミスの修正)をしていたゼロワンさんが、にこやかな顔で言いました。たしかに完成と言えば完成ですが、実を言うとぼくは少し悩んでいました。それは、昨夜思いついた『あること』をどうしてもゲームに取り入れたくなり、それをゲームが完成した今になってゼロワンさんにお願いしていいものか、ということでした。

 

 「どうしましたワン?」

 

 ぼくの悩んでいる表情に気づいたのでしょう。ゼロワンさんがぼくに話しかけました。

 

 「あのう、完成しているのに言いづらいんですが……。システムを1個追加することってできますか?」

 

 ぼくはダメもとでゼロワンさんにきいてみました。

 

 最初はちょっと驚いた表情をしていたゼロワンさんでしたが、しだいにその表情はきびしいものへと変わってゆきました。

 

 (しまった! やっぱり言わなきゃよかった……)

 

 ぼくは後悔しました。なぜなら、ぼくら企画屋は簡単に仕様の変更や追加をプログラマーに言えますが、それはプログラマーにとって大変な作業になるということを知っていたからです。ましてや、バグとりもほとんど終了した今になってシステムの追加をお願いするということは、ゲーム作りの現場において非常識この上ないことだったからです。

 

 「……いいですよワン。どういうシステムですかワン?」

 

 ところが、ゼロワンさんは意外にもOKしてくれました。ぼくはビックリしました。だって彼に怒られるかと思っていたからです。

 

 「ただし、もう時間がないので、できなかったらできませんとハッキリ言わせてもらいますワン」

 

 やった! ぼくは最後のチャンスにかけてゼロワンさんに言いました。

 

 「2人で遊べるようにしたいんです」
 「2人で? どういうことですかワン?」
 「つまりプレイヤーAが操作しているレスラーAが、なかまのレスラーBにタッチしたら、今度はプレイヤーBが操作できるようにしたいんです」
 「つまり、タッグチームのようにプレイヤーも交代できるようにしたい、ということですかワン?」
 「そうです!」
 「……。特に問題はありませんね。できますよ。かんたんですワン」
 「ええっ!?」
 「しばらくまってくださいワン」

 

 そう言ってゼロワンさんは自分の机にもどり、パソコンをたちあげプログラムに何かを追加し始めました。

 

 そして10分後――

 

 「できました。さあ、ぼくと遊んでみましょうワン!」

 

 ぼくがゲームテーブルにつくと、ゼロワンさんはテーブルをはさんで反対側にすわりました。

 

 ぼくはワクワクしながら自分のレスラーを操作しました。そして、コーナーポストで待機していたゼロワンさんのレスラーにタッチしました。するとどうでしょう! 突然ゲーム画面が180度回転して、今度はゼロワンさんがレスラーを操作できるようになったのです。ぼくがやりたかったシステムどおりです。これを見ていたほかのなかまたちも感動して「オオ~!」と歓声をあげました。

 

 「すごいなあ……。ゼロワンさんありがとう!」

 

 するとゼロワンさんが言いました。

 

 「いやぁ、ブブくん。グッドアイデアですワン! ますますおもしろくなりましたね」

 

 ぼくはついにゲームが完成したことを実感し、うれしさのあまりその場でクルクルと回って小おどりしてしまいました。すると、それを見ていたゼロワンさんが苦笑いをしながらぼくに言いました。

 

 「でも、これからはできるだけ早くシステムの変更や追加は言ってくださいワン。今回はハードのモードチェンジだけの変更ですんだのでラッキーでしたけど……。できるならパッチはあてたくないんですワン」

 

 「パッチ?」

 

 するとモグリンさんが説明してくれました。

 

 「パッチワーク。『つぎはぎ』のことだよ。つまり、完成しているプログラムに後で新しいプログラムを強引に付け加えることだよ」

 「それのどこが問題なんですか?」

 

 私はモグリンさんにききました。

 

 「本来、想定していないプログラムだから、それが別のプログラムに悪さをして新たなバグを発生させる危険性があるんだよ。もしそれでバグがでたら、その原因を探すのがとてもタイヘンなんだ」

 「そうだったんですか……」

 

 ぼくはゼロワンさんの気持ちも考えず、いい気になってよろこんでしまった自分の無神経さに、ちょっと恥ずかしさを感じてしまいました。

 

 (ゼロワンさん、ありがとう。感謝しています。次回からはもっと早く言いますね……)


第22話 お客さまの評価

 

 「マスターアップ(完成)だ! みんな、おつかれさん!」

 

 ファルコン社長の大声が仕事場にひびきわたりました。ついに『ザ・クマさんプロレス』が完成したのです。

 

 「みんな、おつかれさん!」

 

 社長はみんなをねぎらうように、社員の肩をポンポンとたたいてまわりました。ぼくは社長の『ねぎらいの肩たたき』を受けながら、ゲームを無事完成させたことを実感し、ホ~ッと長い息をはいてひと安心しました。

 

 「さあ、次はロケテストだ。いくらいくか楽しみだな」

 「ぜったいうまくゆきますよ、社長!」

 

 モグリンさんが胸をはって社長に言いました。

 

 (ロケテスト!)――

 

 そうです! まだ安心なんかしていられません。大切なロケテストがまっています。いくらがんばってゲームを作っても、ロケテストでインカム(収入)が良くなければ意味がありません。インカムが悪いと、このゲームをほしがるゲームセンターが少なくなります。そうするとこのゲームを作って売ってくれるデーターポンポコ社がこのゲームをたくさん作ってくれなくなります。――つまり、『森のげえむ屋さん』はぜんぜんもうからないということになってしまうのです。もうからないと借金だらけのこの会社は……。ああ、想像しただけでも恐ろしくなります。ぼくは現実から逃げたくなりました。

 

 「ロケテストは明日の午前10時から、となり町のゲームセンター『キャロット』で開始する。モグリンくんとブブくんは現場に直行し様子を見てきてくれ」

 

 ぼくは社長の指示を聞いて気がめいってきました。以前、モグリンさんが企画したゲームのロケテストが失敗して、モグリンさんがめちゃくちゃ落ち込んでしまったことを思い出したからです。

 

 その日の夜――。ぼくは胸がドキドキしてなかなか寝つけませんでした。

 

 そして、次の日の朝。ぼくは眠い目をこすりながら、社長の指示にしたがってとなり町のゲームセンター『キャロット』へ直行しました。中にはいると客のふりをしたモグリンさんがすみの方でちょっとHな麻雀ゲームをやっていました。

 

 「どうです? モグリンさん」

 「平日だからね。まだ客の出足はよくないね。午後からが勝負というところかな? おっ、きたきた! ポン!」

 (ポンじゃないでしょ! も~、会社の運命がかかってるというのにノンキなんだから……)

 

 時計の針が午後2時をまわりました。午前10時から始まったロケテストでしたが、ゲームをやってくれた客はまだ10匹しかいません。ぼくはしだいに不安になってきてお腹がいたくなってきました。そんなぼくの気持ちを察したモグリンさんが言いました。

 

 「そんなにあせんなくてもいいよ。もともと、このゲームセンターは客が少ないんだ。でも、そのかわり、いろんなタイプの客が来る。今まではプロレスにあまり関心のなさそうな年配の客ばかりだったけど、この時間からメインターゲットの若い客や学生が増えてくるからこれからが勝負だよ。 ん? やった、ロン!」

 

 (そうならいいけど。でもなぁ……)

 

 その言葉に一度は安心したぼくでしたが、ゲーム画面でHなポーズをとる女の子のドット絵をニヤニヤしながら見ているモグリンさんを見て、ぼくはまた不安になりました。

 

 しばらくすると、1匹の学校帰りの中学生の小猿が入ってきました。小猿は『ザ・クマさんプロレス』に気づき、キャッ? と言いながらゲームテーブルにつき、100円だまを入れて遊び始めました。そして1分ぐらいでゲームオーバーになった小猿は腕組をして小首をかしげたあと、再びポケットから100円だまを取り出してゲームを再開しました。こんどは2分ぐらいでゲームオーバーになりました。小猿はスクッと立ち上がるとスタスタとゲームセンターから早足で出て行きました。

 

 (ああ~、帰らないでえ~!)

 

 ぼくはできるものなら小猿にしがみついて引き止めたくなりました。

 

 「ブブくん、気づいた? 今の小猿、ニヤニヤしてたぞ。こりゃあ、もしかして……」

 

 モグリンさんはどうも何かを予感したようです。そして、その予感は10分後に証明されることになりました。なんと、先ほどの小猿が5匹の友だちらしき小猿を連れてもどって来たのです。

 

 「キャッキャッ! ほんとだ、プロレスじゃん! はやく、やろうぜ!」

 

 小猿たちのリーダーらしき1匹が、まるで号令でもかけるかのように大声をだすと、全員がいっせいにゲームテーブルを取り囲み『ザ・クマさんプロレス』を始めました。

 

 「やべえ! タッチ、タッチ!」
 「キキッ、すげえ! ちゃんとプレイヤーも交代できるんだ!」
 「ウキャキャ♪ おまえヘタだなぁ。 敵からブレーンバスターくらってやんの!」

 

 ワイワイ言いながら『ザ・クマさんプロレス』を楽しんでいる小猿たちを見ながら、モグリンさんがぼくのそばに来て耳元でささやきました。

 

 「やったね、ブブくん! どうやら『森のげえむ屋さん』は倒産せずにすみそうだぜ。モグモグッ!」


第23話 大ヒットのごほうび

 

 ロケテストで大成功した『ザ・クマさんプロレス』は、ゲームセンターの年末商戦に向けて大量に出荷されました。

 

 クライアントのデーターポンポコ社は大もうけ! もちろん、わが『森のげえむ屋さん』も大もうけ! たまりたまった借金を全額返すことができたファルコン社長は、しばらくの間その顔から喜びの笑みが消えることがありませんでした。そして、ぼくも生まれて初めてのうれしい……というか、ビックリするような体験をすることになりました。

 

 その日、半休をもらったぼくはお昼過ぎに出社しました。すると、なんだか社内のフンイキがいつもと違います。なんていうか『みょうに明るい』のです。モグリンさん、ゼロワンさん、ミーちゃん、ピコザさん、全員がまるで神さまの祝福を受けたような幸せに満ちたおだやかな表情をしていたのです。

 

 「なにかあったんですか?」

 

 ぼくは、中でも一番幸せそうな表情をしていたモグリンさんにききました。

 

 「いやぁ、ブブくんのおかげだよ~。モグモグ~ッ!」

 

 他のメンバーも同調するかのように『うん、うん』とうなずきました。ぼくはモグリンさんの言っていることの意味がわかりませんでした。すると、社長室のドアが開き、ファルコン社長が顔をのぞかせてぼくをよびました。よばれるままに中へ入ると、社長がニコニコしながら大きな紙袋をぼくに手渡しました。

 

 「おつかれさま! さあ、受け取ってくれ」

 

 なんだろうと紙袋の中をのぞいたぼくは、わが目をうたがいました。なんと、その中には今まで見たこともないたくさんのお札がぎっしりとつまっていたからです。どう見てもその額はぼくの今までの年収をはるかにこえています。ぼくはビックリしすぎて、思わずおしっこをチビリそうになりました。

 

 「しゃしゃ、社長。こ、これは?」
 「ゲームが大ヒットしたボーナスだよ。安い給料なのに、それも気にせずにがんばってヒットゲームを作り、そして会社を救ってくれたみんなへの、会社からのお礼だよ」
 「こ、こんなにもらっていいんですか?」
 「当然だよ。君たちの努力で勝ち取ったお金だ。遠慮することはない。でも、大金だから早く銀行に預けた方が安全かもね」

 

 ぼくは社長にふかぶかとお礼をして、さっそく言われたように近くの銀行にお金を預けに行きました。銀行まではとても短い距離でしたが、ぼくにとっては普段の倍に感じました。というのも、なぜかまわりの動物たち全員がぼくの持っている大金を狙っているような気がしてならなかったからです。

 

 (ゲーム業界は今やゴールドラッシュ!)

 

 ぼくは、ふと、この仕事につくきっかけとなった仕事情報誌のことを思い出しました。当時はその宣伝コピーにつられて大もうけすることにあこがれていた自分も、いざ現実に大金を手にしてみると、(このままでは、自分はダメな動物になってしまうかもしれない……)という、わけのわからない不安感におそわれ、とまどってしまいました。まぁ、簡単に言えばただの小心者なだけなんですけどね……。

 

 お金を銀行に預けたあと会社にもどってくると、みんなは『うちあげ』の相談をしていたました。ぼくに気づいた社長が話しかけてきました。

 

 「ブブくん、さっきデーターポンポコ社のカネポン社長と電話してたんだけど、カネポンさん、きみのことをほめてたよ」
 「えっ、なぜですか?」
 「君の情熱がすばらしいって。それで、ブブくんをデーターポンポコ社の社員としてもらえないかってお願いされたんだけど、……どうする? 大企業の社員になれるぞ」
 「どうするって……。 もちろん、おことわりですよ! ぼくは大企業なんかに興味はありませんし、それに、この会社が大好きですから」

 

 あんなにゲームやスタッフのことを悪く言ってたくせに、いざゲームがヒットしたら手のひらを返したようにホメちぎるカネポン社長の調子よさに、ぼくは正直、ムカつきました。

 

 「クスッ。ブブくんらしいわね」

 

 ミーちゃんがそう言うと、みんながドッと笑いました。ぼくも照れ笑いをしました。社長も「そうか……」と安心したようにほほえむと、上着のポケットから折りたたんだ白い紙を大切そうに取り出しました。

 

 「あと、ヌラリンさんからファックスでメッセージをいただいた。読むから聞いてくれ」

 

 ぼくたちは笑うのをやめ、社長が読むヌラリンさんの言葉に耳をかたむけました。

 

 『森のげえむ屋さんのみなさん、このたびはゲームの大ヒットおめでとうございます。皆さんには大きな企業の社員にはない、強くて、ひたむきな情熱や夢があると思います。その情熱や夢をいつまでも忘れずに、これからもたくさんのお客さまに喜んでもらえるゲームを作っていってください。期待しています。

――株式会社データーポンポコ・ゲーム開発部長 ヌラリンより』

 

 ぼくは感動しました。もちろん、ほかのなかまたちも感動していましたぼくらにとってヌラリンさんのおほめの言葉こそ、一番のごほうびだったのかもしれません。

 

 (いや、やっぱりお金かな… えへへへ……)


第24話 ビギナーズラック

 

 初心者が初めて挑戦したことが、たまたま大成功をおさめることがあります。ギャンブルの世界では、そのことを『ビギナーズラック(初心者の幸運)』といいます。

 

 ゲーム業界でもそれとに同じように、新人が企画したゲームが大ヒットすることがあります。そのようなビギナーズラックな成功を得た新人は、その後ふたつのタイプに別れてゆきます。

 

 ひとつは、『成功は幸運なだけだったのだ』と自覚し、その後もうぬぼれずに努力してゆくタイプ。

 

 もうひとつは、『成功は自分に才能があったからだ』と、うぬぼれてしまうタイプ。

 

 ――おはずかしい話ですが、ぼくは、どうやら『うぬぼれタイプ』だったようです……。

 

 『ザ・クマさんプロレス』の大ヒットの喜びがまださめきらない2月のある日のこと。ファルコン社長がぼくとモグリンさんにある指示をしました。

 

 「友人の社長からゲームの監修をたのまれたんだ。モグリン、ブブくん。すまないが、その会社へ行ってアドバイスしてやってくれないか?」

 

 社長の指示を受けたぼくとモグリンさんが向かったその会社『キマジメ電子』は、もともとはゲームテーブルなどの筐体(きょうたい)の部品を製作していた会社でしたが、ゲームソフトはヒットするとすごくもうかるということを『ザ・クマさんプロレス』の成功で知り、最近になってゲームソフトの開発も始めたそうです。

 

 「社長のキマジメともうします。ファルコン社長にはいつもお世話になっております。本日はよろしくお願いいたします」

 

 ぼくたちを出迎えてくれたキマジメ電子のキマジメ社長は、とてもまじめそうな柴犬の社長でした。なんでも、昔はバリバリの営業マンだったそうです。どおりで礼儀正しく腰が低いわけです。

 

 キマジメ社長に案内してもらった開発室には、ぼくらと同じ20代っぽいゲーム開発の社員が5匹いました。おカタイ会社なのでしょうか? 全員が『キマジメ電子』という文字のはいった作業服を着ていました。

 

 「見てほしいゲームは、これなんですが……」

 

 『ゴリさん空手道』――

 

 開発室のまんなかに置いてあったゲームテーブルで動いていたそれは、今までだれも作ったことがない空手の対戦ゲームでした。

 

 「おい、あれを見ろよ!」

 

 モグリンさんがゲームテーブルの操作パネルを指さしました。なんと、そこには操作レバーが2本もついていました。

 

 「ボタンを使わず、2本のレバー操作の組合せだけで技をだすんですニャ」

 

 ゲームテーブルのそばに立っていた開発のリーダーらしきトラ猫さんが、ずり下がったメガネを人差し指でクイクイと上げながら説明してくれました。ぼくはそのトラ猫さんからゲームの遊び方を教えてもらい、さっそくプレイしてみました。

 

 (そ、操作が、むずかしい……)

 

 ぼくは2本のレバーの操作にてこずってぜんぜん技が出せず、あっという間にゲームオーバーになってしまいました。その後、モグリンさんも挑戦してみましたが、やはりぼくと同じようにぜんぜん技が出せずにゲームオーバーになってしまいました。

 

 「いかがでしょう?」

 

 キマジメ社長が不安げな表情でぼくらにききました。ぼくは正直、困ってしまいました。2本のレバーで遊ぶというアイデアはスゴイと思いましたが、かんじんの操作が難しくては意味がないと思ったからです。

 

 「一般のお客さんには操作が難しいのではないでしょうか?」
 「やはりそう思われますか? 実は私もうまく操作できないんですよ……」

 

 キマジメ社長は少しガッカリしながらぼくの意見に同意しました。すると、その会話をそばで聞いていたトラ猫さんが口をはさみました。

 

 「え、そうですかニャ? そんなに操作が難しいですかニャ? 先日、近所の子どもたち数匹をよんで、テストプレイをしたんですが、みんなすぐになれて楽しく遊んでくれましたニャン」

 

 ぼくはトラ猫さんの意見に少しムッとしました。まるで「あなたたちがヘタだからだ遊べないんだ」という意味にもとれたからです。アクションゲームがヘタなぼくとモグリンさんは、なんだかバカにされたような気がして気分が悪くなりました。思わずぼくはトラ猫さんに言い返してやりました。

 

 「その子どもたちは、全員アクションゲームが得意だったんじゃないですか? アクションが得意な数匹の子どもたちが楽しく遊べたからといって、すべてのお客さんが遊べるとは限らないと思います。もっと多くのデーターをとって判断する必要があるのではないでしょうか?」


 「そ、そういうもんですかニャ~……」

 

 トラ猫さんはうなだれて黙り込んでしまいました。ぼくは、ちょっと言いすぎたかな? と思いましたが、自分の考え方に自信があったので気にしないことにしました。なぜなら、ぼくにはヒットゲームを作った実績があるからです。エッヘン!

 

 「操作性をウンと簡単にして、あとタイトル画面に演出を入れたり、試合と試合の間にボーナスゲームを入れたらいかがでしょう? そうすれば、もっとおもしろくなると思いますよ」

 

 そんなアドバイスをして、ぼくたちはキマジメ電子をあとにしました。

 

 「どうだった?」

 

 ぼくたちが会社に帰ってくるやいなやファルコン社長がききに来ました。モグリンさんが答えました。

 

 「あのゲームは、ちょっとキビシイんじゃないかと思いますよ」
 「ぼくもモグリンさんと同じ意見です。操作がむずかしすぎて遊べたもんじゃありません」

 

 ぼくとモグリンさんの報告を聞いた社長は、少しガッカリしながら言いました。

 

 「そうかぁ……。それはざんねんだ。実はあの会社、今、経営が苦しいみたいだから、もしゲームがおもしろくなりそうだったら、うちで買い取って売るつもりでいたんだ」

 

 そして、1ヵ月後――

 

 「ブブくん! 『ゴリさん空手道』のロケテストやってたぞ!」

 

 お昼休みを使ってゲームセンターに遊びに行ってたモグリンさんが、会社に帰ってくるなり興奮しながらぼくに言いました。

 

 「へぇ……。で、どうでした?」
 「それが、すげえ大人気で、客が行列をつくってたんだ!」
 「えっ!? ほんとですか? アチチ……!」

 

 ぼくは驚いたひょうしに、飲んでいたコーヒーを股間にこぼしてしまいました。モグリンさんが言うには、ぼくたちがアドバイスした演出とボーナスゲームは入っていましたが、操作性はほとんど変わっていなかったそうです。

 

 「だって、あんなに操作が難しいのに」
 「それが、みんな普通にプレイしてたんだ。つまりオイラたちがヘタすぎただけなんだよ」
 「うっ……」

 

 『先日、近所の子どもたち数匹をよんで、テストプレイをしたんですが、みんなすぐなれて楽しく遊んでくれましたニャン』

 

 ぼくは、キマジメ電子のトラ猫さんの言葉を思い出しました。そして、モーレツな自己嫌悪に落ちいってしまいました。

 

 (ぼくは、始めて企画した自分のゲームがヒットしただけで、自分の考え方がすべて正しいと思いこんでた。そして自分がゲームがヘタなことを棚に上げてトラ猫さんの素直な意見を無視してしまった。はぁ~……。うぬぼれてたなぁ~……)

 

 それから1週間後――

 

 『ゴリさん空手道』のロケテストは大成功をおさめ、『ザ・クマさんプロレス』をこえる大ヒットゲームになりました。そして、その後の『対戦格闘ゲーム』のお手本となりました。

 

 「プロレスゲームの成功って、ビギナーズラックだったのかなぁ?」
 

 社長が、ぼくらのうぬぼれをいましめるかのような皮肉を言いました。

 

 しばらくの間、ぼくとモグリンさんの肩身のせまい日々が続いたのは、言うまでもありません。トホホホ……。


第25話 科学とゲーム

 

 今夜はひさびさに会社のなかま全員で『飲み会』をすることになりました。

 

 場所は『コーエンジ』という名前の小さなバーで、ピコザさんの音楽なかまが経営するお店でした。

 

 店に入ると、そこには壁一面にロックミュージシャンのポスターや、常連さんが写ったコメントつきのポラロイド写真がたくさん貼られ、お店というよりまるでサークル活動の部室のようでした。お店のゴリラのマスターがピコザさんに声をかけました。

 

 「よお、ピコザ、ひさしぶり! 今日は友だちとかい?」
 「ああ、会社のなかまなんだ。マスター、きょうはサービスたのむよ」
 「あいよ。ピコザのなかまだったら大歓迎さ!」

 

 そう言うと、マスターは店内にかかっていたロックのBGMをとめ、ぼくたちが話しやすいように静かめの曲に変えてくれました。

 

 「かんぱ~~い!」

 

 ぼくたちはグラスを高くかかげて乾杯をしました。そして、とてもおいしいマスターの手料理に舌つづみをうちながら、みんなで時間のたつのも忘れて盛り上がりました。

 

 「そういえば、ピコザってテレビゲームを作ってたんだよな」

 

 マスターがピコザさんにききました。

 

 「ああ、そうだけど……」
 「先日、オレんとこの子どもにきかれたんだけど、テレビゲームを最初に考えた動物ってだれなんだい?」
 「えっ?」

 

 思わぬマスターのマニアックな質問に、ピコザさんはちょっととまどってしまいました。

 

 「だれなんだ? そうだ、モグリンなら知ってるよな。だってゲームの企画屋だから」

 

 ビールをグイグイ飲んでいたモグリンさんは、いきなり質問をふられたせいで、ウッとむせて鼻からビールを吹き出してしまいました。

 

 「キャッ! モグリン、きたない!」

 

 となりにすわっていたミーちゃんがビックリして飛び上がり、思わずモグリンさんの頭をはたきました。

 

 「イテテ……。最初にテレビゲームを作った動物さんですか? えっと、それはですね……」
 「それは?」

 

 ピコザさんとマスターはモグリンさんの次の言葉をまって、身を乗り出しました。

 

 「だれだっけ?」
 「なんだよ~!」

 

 ピコザさんとマスターがなかよくズッコケました。

 

 「もしかして、『ポン』というゲームを作った動物さんじゃないですか?」

 

 ぼくは以前読んだゲーム雑誌の記事を思い出して言いました。

 

 すると、今まで静かにお酒を飲んでいたゼロワンさんが、グラスをテーブルの上にタン! と乱暴に置いて大声で言いました。

 

 「ちがいますワン! ゲームの世界で仕事をしているのに、そんなことも知らないとは、まったくけしからんですワン!」

 

 いつもとは違う、ちょっと乱暴な態度のゼロワンさんにみんな驚きました。

 

 ゼロワンさんの顔は赤く、目がすわってました。どうやらゼロワンさんはお酒に酔うと、ちょっと怒りっぽくなるようです。ピコザさんは苦笑いしながらゼロワンさんの肩をポンポンとたたいてなだめました。

 

 「まあまあ、ゼロワンくん。じゃあ、聞かせてくれないか? その動物のことを」
 「わかりましたワン! ――その動物さんは『ウイリー・ヒギンボーサム』という名前の科学者ですワン。1958年のことですワン。彼は自分が所属していた国立研究所に見学にくる学生さんたちに、もっと科学を楽しんでほしいと思っていましたでワン」

 

 「ふ~ん。最初にゲームを考えた動物さんって科学者だったんだぁ……」

 

 ミーちゃんが意外そうな顔で言いました。酔いが手伝っているのか、ゼロワンさんの説明はよどみなく進みます。

 

 「それで、5インチのオシロスコープに今のテニスゲームのようなものを作り、研究所の見学コースに置いたんですワン。見学に来た学生さん達は大喜びしましたでワン」


 「ほぉ~。ずいぶんサービス精神のある学者さんだったんだな」

 

 マスターがアゴをさすりながら感心するように言いました。

 

 「ただ、そのサービスにはちょっとしたわけがあったんですワン」

 

 「わけ? わけってどんな?」

 

 ぼくはお酒を飲む手を止めて、モグリンさんの話に聞き入りました。


 「実はその科学者は、戦争中に核爆弾開発計画のスタッフの1匹だったんですワン。彼は祖国のために良かれと思いその開発にたずさわったんですワン。しかし、その結果は――」

 

 みんなはゲームを最初に考えた動物さんが核爆弾の開発スタッフと聞いて驚き、黙ってしまいました。なぜなら、その爆弾がどんなに恐ろしいものか、みんな良く知っていたからです。

 

 「科学は人を幸せにするものだと信じていた彼にとって、自分がそのような爆弾開発に参加してしまったという事実はとてもつらかったでしょうワン……。つぐないの意味もあったのでしょうか? 戦争が終わると、彼は世界平和のために『核拡散防止運動』にその身をささげたんですワン」

 

 ぼくはテレビゲームを誕生させた動物さんにそんな過去があったとは知りませんでした。ミーちゃんがゼロワンさんにききました。

 

 「ゼロワンさん。つまり、その科学者さんは、科学はみんなを悲しませるためではなく、みんなを喜ばせるためにあるんだということを知ってほしくて、その最初のゲームを作ったということなのね」
 「そのとおりですワンッ!」

 

 ピコザさんがカラになったグラスにお酒をそそぎながら言いました。

 

 「みんなに喜んでもらうためか……。それって音楽にも共通する大切なハートだよなぁ」
 「ステキなお話ね……。あれ? モグリン、あなた泣いてるの?」
 「ううっ、シクシク……。なんか感動するなぁ……」

 

 ミーちゃんのとなりにいたモグリンさんが泣いていました。そして、涙といっしょに流れ出た鼻水をピッ!と指ではじいたら、それがミーちゃんの顔についてしまいました。

 

 「キャ~ッ! モグリン、きたない!」

 

 ミーちゃんは、またモグリンさんの頭をはたきました。

 

 「いやぁ、いい話を聞かせてもらったよ。うちの子どもの良いみやげ話になった。そのお礼といっちゃなんだが、みんなにお酒をごちそうするよ。さあ、好きなのを言ってくれ」
 「はい! じゃあ、オイラは生ビールを大ジョッキで!」

 

 今、泣いていたのがウソのようにモグリンさんが笑顔でマスターに注文しました。まったく、モグリンさんの性格にはついてゆけないなぁ……。



読者登録

平野文鳥さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について