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第19話 もう1匹の自分

 

 「なるほど。どんなゲームかだいたいわかりました。ずいぶん斬新(ざんしん)なゲームですね」

 

 データーポンポコ社のゲーム開発部長のヌラリンさんが、ぼくにそう言いました。

 

 「ふん、斬新だからいいってもんじゃないよ! 今までにお客が慣れ親しんだゲームの遊び方を素直に引きついで、それを今風にアレンジするのが一番お客に受け入れられやすいんだ」

 

 カネポン社長はどうもこのゲームが気にいらないようです。それに対してヌラリンさんが言いました。

 

 「社長。たしかに社長のおっしゃることは正しいと思います。とても現実的な考え方だと思います。でも、だからと言って、いつまでも似たようなゲームばかり作っているとお客さんが飽きてしまって、ゲームからはなれてしまう危険性もありますよ」

 

 「うっ。ま、まあ、たしかにそれも言えなくはないが……」

 

 カネポン社長はエヘンとせきばらいをしながら、『ザ・クマさんプロレス』が表示されているテレビ画面のガラスを指でコンコンとたたきました。

 

 「しかし、このレスラーのドット絵はどうにかならんか? ちょっと、わかりずづらいぞ」

 

 カネポン社長が指差しケチをつけた絵は、ぼくがかいた2匹のレスラーが組み合っているドット絵でした。ぼくは、もうさっきまでのようにカチンとくる気力もなくなり、ただ落ち込んでゆきました。すると、ヌラリンさんがぼくに向かってこう言いました。

 

 「たしかに、このドット絵はわかりづらいですね」

 

 ぼくはショックでした。だって、ヌラリンさんはこのゲーム……というか、ぼくらの味方だと思っていたので、まさかケチをつけるはずはないと思っていたからです。ぼくはいよいよゲームに対する自信をなくしました。

 

 「カン違いしないでくださいね。わたしはケチをつけているんじゃありませんから」

 

 ヌラリンさんはそう言ってぼくにほほえむと、話を続けました。

 

 「たぶん、この絵をかかれた方には、これがレスラーが組み合っているカンペキな絵に見えるかもしれません。でも、それはあくまでかいた方の『思いこみ』なんです」

 

 (思いこみ?)

 

 ぼくは初めてそんなことを言われて、ちょっととまどいました。

 

 「つまり、この絵をかかれた方は『これは組み合っているレスラーなんだ』と思いこんでいるので、絵のおかしいところになかなか気づかないんです

 

 ヌラリンさんはニコニコしながらぼくの目を見ました。(たしかにヌラリンさんの言ってることはあたってるかも……)ぼくは自分の欠点をスバリと指摘されたような気がしてはずかしくなり、ヌラリンさんから目をそらしました。

 

 「でも、それは仕方がないことなんです。私だって、むかしはそうでしたから。だから訓練するしかないんです」

 「くんれん? どうやって訓練するんですか? ひたすらデッサンの勉強をするんですか?」

 

 ぼくはあせりながらヌラリンさんにたずねました。

 

 「もっと簡単な方法があります。もう1匹の自分を持つんです」

 「もう1匹の自分?」

 「そう、自分の中にもう1匹の自分――つまり、自分の絵をとてもきびしい目で批評する『さめた自分』を作って、そいつに批評させるんです」

 

 自分の絵をとてもきびしい目で批評できる『さめた自分』――。ぼくは、ヌラリンさんの言っている意味が最初はよくわかりませんでした。でも、言われたとおりに自分のかいたドット絵を(これは自分がかいた絵じゃないんだ)と思いながらさめた目で見てみると――あらあら、不思議! たしかにヌラリンさんが言ったとおりに絵のおかしい部分がわかってきたのです。

 

 「このゲームは斬新でヒットの可能性をもっていると思います。ただ、注意しなければならないのは、斬新で今までにないタイプのゲームだからこそ、普通のゲームの何倍もわかりやすいものにしなければならないんです。遊び方も絵もわかりやすくして、うんと『ゲームの敷居』を低くして、そしてどんなお客さんにも楽しく遊んでもらえるように何倍も努力する。それが新しいゲーム作りを目指すゲームクリエイターの義務だと思います」

 

 (そのとうりだ……)

 

 ぼくは、ヌラリンさんのとてもわかりやすい本質的な話に、目からウロコが落ちる思いでした。そして、なぜカネポン社長がヌラリンさんの言う事を素直にきくのか、その理由もわかったような気がしました。

 

 ヌラリンさんは、べつにむずかしい事を言っているのではなく、ただ『本質的なこと』を言っているだけなのです。でも、カネポン社長のような性格の動物さんは、つい、その『本質的なこと』を忘れて判断を誤ってしまうことがあるかもしれません。だから、カネポン社長はヌラリンさんみたいな動物さんを必要としているんでしょう。

 

 「わかっていただけました? えっと……、お名まえは?」

 「ブブともうします。おっしゃられたこと、とてもよく理解できました。アドバイスありがとうございました」

 「参考になったようでよかった。じゃあ、ブブくん。そんなかんじで絵の修正とゲームバランスの調整を進めてもらえますか?」

 「はいっ!」

 「では、社長。そういうことでよろしいですよね?」

 「う、うむ。まぁな……」

 

 カネポン社長はヌラリンさんに対し、ちょっとにえきらない返事をしました。

 

 「このゲーム、きっと社長を大もうけさせてくれますよ」

 「なにっ!? 大もうけ?」

 

 カネポン社長は『大もうけ』という言葉を聞いて急に機嫌がよくなりました。

 

 「それじゃぁ、ファルコンくん! ひとつよろしくたのむぞ!」

 

 カネポン社長はそう言いながら、ぼくらを無視してさっさと会社を出て行きました。そのあとについて会社を出てゆこうとしたヌラリンさんが、ぼくらの方を振り返ってこう言ってくださいました。

 

 「若さは挑戦だからね。応援しているよ、がんばって!」

 

 ぼくはとてもうれしくなって、出て行ったヌラリンさんに向かって深々とおじぎをしました。

 

 「ふぅ~……。ブブくん。たのむから、もう2度とあんなマネはしないでくれよ。心臓が止まるかと思ったぞ」

 

 ぼくが声の方を振り向くと、そこにはすっかり安心してヘナヘナになったファルコン社長が、イスにすわって苦笑いをしていました。


第20話 音の哲学者ピコザさん

 

 「サンプリングデータが使えるよ」

 

 ゲームサウンド担当のピコザさんが、ぼくに言いました。

 

 「サンプリングデータってなんですか?」
 「録音した本物の音のことだよ。本物のレスラーの声や観客の声とかが出せるよ」

 

 ぼくはビックリしました。だって、今までのゲームってピコピコという電子音ばかりで、本物の音がでることはなかったからです。

 

 「と、いっても合計で10秒ぐらいしか出せないけどね」

 

 でも、10秒もあればレスラーの声やレフリーのカウントの声なんかも、ギリギリで入りそうです。なんか本物のプロレスみたいになりそうで、ぼくはとてもワクワクしました。

 

 「わぁ~! ゲームが盛り上がりますね。ぜひ使いましょう。ところで、本物のレスラーやレフリーの声なんかはどうするんですか?」

 

 すると、モグリンさんがニヤニヤしながらぼく向かって言いました。

 

 「それは君の担当だよ」
 「えっ、ぼくですか? ぼくの声を録音するんですか?」
 「それが企画屋の仕事っちゅーもんだ」
 「ほんとうですかぁ? 恥ずかしいなぁ、トホホホ……」

 

 ――と、いうことでレスラーやレフリーの声はぼくが担当することになりました。プロレス会場の声援はプロレスのテレビ中継の音声から録音することになりました。

 

 「さあ、ブブくん。いってみようか。とりあえずいろんな声のパターンを録音してみて、その中から1番いいやつを使おう」

 

 そう言いながら、ピコザさんは安物のラジカセにつないだ録音マイクをぼくの口元に差し出しました。ぼくは恥ずかしくてたまらなかったのですが、これも仕事だから仕方がありません。

 

 『ウッシャーッ!』
 『フンガッ!』
 『アチョーッ!』
 『ドスコイ!』

 

 ぼくが思いつくだけのレスラーの気合の声を叫びまくると、それを聞いていたみんながいっせいに笑い始めました。すると、突然社長室のドアが開きファルコン社長が顔をのぞかせました。

 

 「なにしてんの?」

 

 最初はキョトンとした顔をしていた社長も状況が理解できたのか、笑いながら社長室にひっこみました。

 

 (も~! ぼくはシンケンなのに!)

 

 ひととおりの声を録音し終わり、ピコザさんはそれらの声をパソコンにとりこんで、その中から使えそうなものを選び始めました。フンイキがあり、かつ、秒数が短めの声がポイントです。

 

 「お、この声がいいな」

 

 ピコザさんは選んだ声を再生しました。

 

 『ワン! ツ~! スリヒィ~~!!』

 

 それは、緊張して声がひっくりかえってしまったレフリーのカウントの声でした。よりによって、どうして失敗した声なんかを選ぶんだろうと、ぼくはピコザさんのセンスを疑いました。ところが、モグリンさんやミーちゃん、ゼロワンさんまでもが口をそろえて、その声がいいと言うのです。

 

 「いい感じじゃん! モグッ!」
 「フンイキがでてるわね!」
 「気合が入ってグッドですワンッ!」

 

 ぼくは納得できない顔をしました。すると、ぼくの表情を見ていたピコザさんが言いました。

 

 「いい声かどうかを決めるのはブブくんじゃない。それを聞く側が決めるんだ」

 

 (なるほど、たしかにそのとおりかも。さすがピコザさん。たくさんのライブ演奏をして、たくさんのお客さんたちの反応を見てきただけあって、言う事が深いなぁ……)

 

 「どうせなら、ゴングの音も本物を使いたいな。モグ」

 

 無責任なモグリンさんの言葉にゼロワンさんがのってきました。

 

 「それはグッドですワン! でも、本物のゴングはここにはないので、テレビ中継の音声から録音したらいかがでしょうワン?」

 「うん、それしかないね。モグモグ」

 

 すると、その意見に対してミーちゃんが言いました。

 

 「でも、会場の声援とまざって聞きづらくならないかしら?」

 

 モグリンさんとゼロワンさんは「それもそうだね」と言って黙ってしました。

 

 「ゴングならそこにあるじゃないか」

 

 ピコザさんはそう言いながら立ちあがりました。みんなは、どこにあるんだ? という顔をしながらいっせいに仕事場の中をキョロキョロと見まわしました。

 

 「みんな、ちょっと目をつぶってくれるかな?」

 

 ぼくたちはピコザさんの言うとおりに目をつぶりました。

 

 (カ~~~ン!)

 

 ぼくは驚きました。その音はまるで本物のゴングの音みたいだったからです。思わず目を開けるとそこには右手にボールペン、左手にアルミの灰皿を持ったピコザさんが立っていました。なんと、ゴングの音の正体は『アルミの灰皿をボールペンでたたいた音』だったのです。まるで手品のしかけを見てしまったお客さんのように、なるほどと感心しているぼくらの前でピコザさんが言いました。

 

 「ゴングの音に聞こえるかどうかを決めるのは、この灰皿じゃない。君たちの耳が決めるんだ」

 

 う~ん。ぼくは、なんだかピコザさんが音の哲学者にみえてきました。


第21話 どたんばのお願い

 

 夏に開発をスタートしてから3ヶ月たち、季節はすっかり秋になっていました。

 

 『ザ・クマさんプロレス』もいよいよ完成です。

 

 ゲーム企画に初挑戦したぼくが、どうにかゲームの完成にこぎつけられたのも、みんなの協力やデーターポンポコ社のヌラリンさんのアドバイスがあったからです。この仕事につく前はずっとひとりで絵をかく作業をしていたぼくにとって、みんなで力を合わせてひとつのものを作り上げる作業はとても新鮮で感動的でした。

 

 「いよいよ完成ですねワン!」

 

 デバッグ(プログラムミスの修正)をしていたゼロワンさんが、にこやかな顔で言いました。たしかに完成と言えば完成ですが、実を言うとぼくは少し悩んでいました。それは、昨夜思いついた『あること』をどうしてもゲームに取り入れたくなり、それをゲームが完成した今になってゼロワンさんにお願いしていいものか、ということでした。

 

 「どうしましたワン?」

 

 ぼくの悩んでいる表情に気づいたのでしょう。ゼロワンさんがぼくに話しかけました。

 

 「あのう、完成しているのに言いづらいんですが……。システムを1個追加することってできますか?」

 

 ぼくはダメもとでゼロワンさんにきいてみました。

 

 最初はちょっと驚いた表情をしていたゼロワンさんでしたが、しだいにその表情はきびしいものへと変わってゆきました。

 

 (しまった! やっぱり言わなきゃよかった……)

 

 ぼくは後悔しました。なぜなら、ぼくら企画屋は簡単に仕様の変更や追加をプログラマーに言えますが、それはプログラマーにとって大変な作業になるということを知っていたからです。ましてや、バグとりもほとんど終了した今になってシステムの追加をお願いするということは、ゲーム作りの現場において非常識この上ないことだったからです。

 

 「……いいですよワン。どういうシステムですかワン?」

 

 ところが、ゼロワンさんは意外にもOKしてくれました。ぼくはビックリしました。だって彼に怒られるかと思っていたからです。

 

 「ただし、もう時間がないので、できなかったらできませんとハッキリ言わせてもらいますワン」

 

 やった! ぼくは最後のチャンスにかけてゼロワンさんに言いました。

 

 「2人で遊べるようにしたいんです」
 「2人で? どういうことですかワン?」
 「つまりプレイヤーAが操作しているレスラーAが、なかまのレスラーBにタッチしたら、今度はプレイヤーBが操作できるようにしたいんです」
 「つまり、タッグチームのようにプレイヤーも交代できるようにしたい、ということですかワン?」
 「そうです!」
 「……。特に問題はありませんね。できますよ。かんたんですワン」
 「ええっ!?」
 「しばらくまってくださいワン」

 

 そう言ってゼロワンさんは自分の机にもどり、パソコンをたちあげプログラムに何かを追加し始めました。

 

 そして10分後――

 

 「できました。さあ、ぼくと遊んでみましょうワン!」

 

 ぼくがゲームテーブルにつくと、ゼロワンさんはテーブルをはさんで反対側にすわりました。

 

 ぼくはワクワクしながら自分のレスラーを操作しました。そして、コーナーポストで待機していたゼロワンさんのレスラーにタッチしました。するとどうでしょう! 突然ゲーム画面が180度回転して、今度はゼロワンさんがレスラーを操作できるようになったのです。ぼくがやりたかったシステムどおりです。これを見ていたほかのなかまたちも感動して「オオ~!」と歓声をあげました。

 

 「すごいなあ……。ゼロワンさんありがとう!」

 

 するとゼロワンさんが言いました。

 

 「いやぁ、ブブくん。グッドアイデアですワン! ますますおもしろくなりましたね」

 

 ぼくはついにゲームが完成したことを実感し、うれしさのあまりその場でクルクルと回って小おどりしてしまいました。すると、それを見ていたゼロワンさんが苦笑いをしながらぼくに言いました。

 

 「でも、これからはできるだけ早くシステムの変更や追加は言ってくださいワン。今回はハードのモードチェンジだけの変更ですんだのでラッキーでしたけど……。できるならパッチはあてたくないんですワン」

 

 「パッチ?」

 

 するとモグリンさんが説明してくれました。

 

 「パッチワーク。『つぎはぎ』のことだよ。つまり、完成しているプログラムに後で新しいプログラムを強引に付け加えることだよ」

 「それのどこが問題なんですか?」

 

 私はモグリンさんにききました。

 

 「本来、想定していないプログラムだから、それが別のプログラムに悪さをして新たなバグを発生させる危険性があるんだよ。もしそれでバグがでたら、その原因を探すのがとてもタイヘンなんだ」

 「そうだったんですか……」

 

 ぼくはゼロワンさんの気持ちも考えず、いい気になってよろこんでしまった自分の無神経さに、ちょっと恥ずかしさを感じてしまいました。

 

 (ゼロワンさん、ありがとう。感謝しています。次回からはもっと早く言いますね……)


第22話 お客さまの評価

 

 「マスターアップ(完成)だ! みんな、おつかれさん!」

 

 ファルコン社長の大声が仕事場にひびきわたりました。ついに『ザ・クマさんプロレス』が完成したのです。

 

 「みんな、おつかれさん!」

 

 社長はみんなをねぎらうように、社員の肩をポンポンとたたいてまわりました。ぼくは社長の『ねぎらいの肩たたき』を受けながら、ゲームを無事完成させたことを実感し、ホ~ッと長い息をはいてひと安心しました。

 

 「さあ、次はロケテストだ。いくらいくか楽しみだな」

 「ぜったいうまくゆきますよ、社長!」

 

 モグリンさんが胸をはって社長に言いました。

 

 (ロケテスト!)――

 

 そうです! まだ安心なんかしていられません。大切なロケテストがまっています。いくらがんばってゲームを作っても、ロケテストでインカム(収入)が良くなければ意味がありません。インカムが悪いと、このゲームをほしがるゲームセンターが少なくなります。そうするとこのゲームを作って売ってくれるデーターポンポコ社がこのゲームをたくさん作ってくれなくなります。――つまり、『森のげえむ屋さん』はぜんぜんもうからないということになってしまうのです。もうからないと借金だらけのこの会社は……。ああ、想像しただけでも恐ろしくなります。ぼくは現実から逃げたくなりました。

 

 「ロケテストは明日の午前10時から、となり町のゲームセンター『キャロット』で開始する。モグリンくんとブブくんは現場に直行し様子を見てきてくれ」

 

 ぼくは社長の指示を聞いて気がめいってきました。以前、モグリンさんが企画したゲームのロケテストが失敗して、モグリンさんがめちゃくちゃ落ち込んでしまったことを思い出したからです。

 

 その日の夜――。ぼくは胸がドキドキしてなかなか寝つけませんでした。

 

 そして、次の日の朝。ぼくは眠い目をこすりながら、社長の指示にしたがってとなり町のゲームセンター『キャロット』へ直行しました。中にはいると客のふりをしたモグリンさんがすみの方でちょっとHな麻雀ゲームをやっていました。

 

 「どうです? モグリンさん」

 「平日だからね。まだ客の出足はよくないね。午後からが勝負というところかな? おっ、きたきた! ポン!」

 (ポンじゃないでしょ! も~、会社の運命がかかってるというのにノンキなんだから……)

 

 時計の針が午後2時をまわりました。午前10時から始まったロケテストでしたが、ゲームをやってくれた客はまだ10匹しかいません。ぼくはしだいに不安になってきてお腹がいたくなってきました。そんなぼくの気持ちを察したモグリンさんが言いました。

 

 「そんなにあせんなくてもいいよ。もともと、このゲームセンターは客が少ないんだ。でも、そのかわり、いろんなタイプの客が来る。今まではプロレスにあまり関心のなさそうな年配の客ばかりだったけど、この時間からメインターゲットの若い客や学生が増えてくるからこれからが勝負だよ。 ん? やった、ロン!」

 

 (そうならいいけど。でもなぁ……)

 

 その言葉に一度は安心したぼくでしたが、ゲーム画面でHなポーズをとる女の子のドット絵をニヤニヤしながら見ているモグリンさんを見て、ぼくはまた不安になりました。

 

 しばらくすると、1匹の学校帰りの中学生の小猿が入ってきました。小猿は『ザ・クマさんプロレス』に気づき、キャッ? と言いながらゲームテーブルにつき、100円だまを入れて遊び始めました。そして1分ぐらいでゲームオーバーになった小猿は腕組をして小首をかしげたあと、再びポケットから100円だまを取り出してゲームを再開しました。こんどは2分ぐらいでゲームオーバーになりました。小猿はスクッと立ち上がるとスタスタとゲームセンターから早足で出て行きました。

 

 (ああ~、帰らないでえ~!)

 

 ぼくはできるものなら小猿にしがみついて引き止めたくなりました。

 

 「ブブくん、気づいた? 今の小猿、ニヤニヤしてたぞ。こりゃあ、もしかして……」

 

 モグリンさんはどうも何かを予感したようです。そして、その予感は10分後に証明されることになりました。なんと、先ほどの小猿が5匹の友だちらしき小猿を連れてもどって来たのです。

 

 「キャッキャッ! ほんとだ、プロレスじゃん! はやく、やろうぜ!」

 

 小猿たちのリーダーらしき1匹が、まるで号令でもかけるかのように大声をだすと、全員がいっせいにゲームテーブルを取り囲み『ザ・クマさんプロレス』を始めました。

 

 「やべえ! タッチ、タッチ!」
 「キキッ、すげえ! ちゃんとプレイヤーも交代できるんだ!」
 「ウキャキャ♪ おまえヘタだなぁ。 敵からブレーンバスターくらってやんの!」

 

 ワイワイ言いながら『ザ・クマさんプロレス』を楽しんでいる小猿たちを見ながら、モグリンさんがぼくのそばに来て耳元でささやきました。

 

 「やったね、ブブくん! どうやら『森のげえむ屋さん』は倒産せずにすみそうだぜ。モグモグッ!」


第23話 大ヒットのごほうび

 

 ロケテストで大成功した『ザ・クマさんプロレス』は、ゲームセンターの年末商戦に向けて大量に出荷されました。

 

 クライアントのデーターポンポコ社は大もうけ! もちろん、わが『森のげえむ屋さん』も大もうけ! たまりたまった借金を全額返すことができたファルコン社長は、しばらくの間その顔から喜びの笑みが消えることがありませんでした。そして、ぼくも生まれて初めてのうれしい……というか、ビックリするような体験をすることになりました。

 

 その日、半休をもらったぼくはお昼過ぎに出社しました。すると、なんだか社内のフンイキがいつもと違います。なんていうか『みょうに明るい』のです。モグリンさん、ゼロワンさん、ミーちゃん、ピコザさん、全員がまるで神さまの祝福を受けたような幸せに満ちたおだやかな表情をしていたのです。

 

 「なにかあったんですか?」

 

 ぼくは、中でも一番幸せそうな表情をしていたモグリンさんにききました。

 

 「いやぁ、ブブくんのおかげだよ~。モグモグ~ッ!」

 

 他のメンバーも同調するかのように『うん、うん』とうなずきました。ぼくはモグリンさんの言っていることの意味がわかりませんでした。すると、社長室のドアが開き、ファルコン社長が顔をのぞかせてぼくをよびました。よばれるままに中へ入ると、社長がニコニコしながら大きな紙袋をぼくに手渡しました。

 

 「おつかれさま! さあ、受け取ってくれ」

 

 なんだろうと紙袋の中をのぞいたぼくは、わが目をうたがいました。なんと、その中には今まで見たこともないたくさんのお札がぎっしりとつまっていたからです。どう見てもその額はぼくの今までの年収をはるかにこえています。ぼくはビックリしすぎて、思わずおしっこをチビリそうになりました。

 

 「しゃしゃ、社長。こ、これは?」
 「ゲームが大ヒットしたボーナスだよ。安い給料なのに、それも気にせずにがんばってヒットゲームを作り、そして会社を救ってくれたみんなへの、会社からのお礼だよ」
 「こ、こんなにもらっていいんですか?」
 「当然だよ。君たちの努力で勝ち取ったお金だ。遠慮することはない。でも、大金だから早く銀行に預けた方が安全かもね」

 

 ぼくは社長にふかぶかとお礼をして、さっそく言われたように近くの銀行にお金を預けに行きました。銀行まではとても短い距離でしたが、ぼくにとっては普段の倍に感じました。というのも、なぜかまわりの動物たち全員がぼくの持っている大金を狙っているような気がしてならなかったからです。

 

 (ゲーム業界は今やゴールドラッシュ!)

 

 ぼくは、ふと、この仕事につくきっかけとなった仕事情報誌のことを思い出しました。当時はその宣伝コピーにつられて大もうけすることにあこがれていた自分も、いざ現実に大金を手にしてみると、(このままでは、自分はダメな動物になってしまうかもしれない……)という、わけのわからない不安感におそわれ、とまどってしまいました。まぁ、簡単に言えばただの小心者なだけなんですけどね……。

 

 お金を銀行に預けたあと会社にもどってくると、みんなは『うちあげ』の相談をしていたました。ぼくに気づいた社長が話しかけてきました。

 

 「ブブくん、さっきデーターポンポコ社のカネポン社長と電話してたんだけど、カネポンさん、きみのことをほめてたよ」
 「えっ、なぜですか?」
 「君の情熱がすばらしいって。それで、ブブくんをデーターポンポコ社の社員としてもらえないかってお願いされたんだけど、……どうする? 大企業の社員になれるぞ」
 「どうするって……。 もちろん、おことわりですよ! ぼくは大企業なんかに興味はありませんし、それに、この会社が大好きですから」

 

 あんなにゲームやスタッフのことを悪く言ってたくせに、いざゲームがヒットしたら手のひらを返したようにホメちぎるカネポン社長の調子よさに、ぼくは正直、ムカつきました。

 

 「クスッ。ブブくんらしいわね」

 

 ミーちゃんがそう言うと、みんながドッと笑いました。ぼくも照れ笑いをしました。社長も「そうか……」と安心したようにほほえむと、上着のポケットから折りたたんだ白い紙を大切そうに取り出しました。

 

 「あと、ヌラリンさんからファックスでメッセージをいただいた。読むから聞いてくれ」

 

 ぼくたちは笑うのをやめ、社長が読むヌラリンさんの言葉に耳をかたむけました。

 

 『森のげえむ屋さんのみなさん、このたびはゲームの大ヒットおめでとうございます。皆さんには大きな企業の社員にはない、強くて、ひたむきな情熱や夢があると思います。その情熱や夢をいつまでも忘れずに、これからもたくさんのお客さまに喜んでもらえるゲームを作っていってください。期待しています。

――株式会社データーポンポコ・ゲーム開発部長 ヌラリンより』

 

 ぼくは感動しました。もちろん、ほかのなかまたちも感動していましたぼくらにとってヌラリンさんのおほめの言葉こそ、一番のごほうびだったのかもしれません。

 

 (いや、やっぱりお金かな… えへへへ……)



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