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第14話 新しい遊び方

 

 「企画書、こんなかんじでいいですか?」

 

 ぼくは3日かけて書いたプロレスゲームの企画書をモグリンさんに見せました。本当はモグリンさんが書くはずだったのですが、『企画書の書き方の勉強』をかねて、ぼくが書くことになったのです。

 

 モグリンさんはぼくの企画書に目を通したあと、腕を組んで考え込んでしまいました。

 

 「う~ん、どうかなぁ。モグモグ……」
 「どこかマズイところでもありますか?」
 「遊び方が今までにない新しいタイプだから、ゲームセンターのお客さんに受け入れられるかなぁ、と思ってね」
 「どの部分がですか?」

 

 モグリンさんは企画書の『遊び方』のページを開きました。

 

 「ここに書いてある『2匹のレスラーが接触したら、自動的に『技メニュー』が表示され、その中から好きな技を3秒内で選択決定します』――というところなんだけど」
 「だめですか?」
 「いや、そんなことはないと思うよ。オイラはこういうの好きだから。まるでアドベンチャーゲームの遊び方みたいで」
 「アドベンチャーゲーム?  ああ、たまにモグリンさんが仕事さぼってパソコンで遊んでるゲームですね」

 「エヘン……。そう、そのゲーム」
 「どこがアドベンチャーゲームの遊び方みたいなんですか?」
 「コマンドを使うところ」
 「コマンド?」
 「つまり、『話せ』とか『移動しろ』とかいう命令する言葉のことだよ」
 「命令……。ああ、なるほど。たしかに言われてみれば、ぼくの考えた遊び方はその『コマンド』というものに、ちょっとにてるかもですね。ボタンやレバーを使って技をかけるのではなく、『技名』を使って技をかけるようなもんですから……」

 

 ぼくは考え込んでるモグリンさんを見ているうちに、遊び方に対してちょっと自信がなくなってきました。

 

 「やはりコマンドを使ったゲームって、ゲームセンターには向いてませんかね?」

 

 不安げなぼくの顔を見て、逆にモグリンさんが質問をしてきました。

 

 「ところで、ブブくんはプロレスのどんなところをお客さんに楽しんでほしいの?」

 「どんなところ? はい、フンイキです!」

 

 ぼくはためらわず答えました。

 

 「フ、フンイキ?」

 

 変なことを言ったんでしょうか? モグリンさんがとてもビックリした顔をしました。

 

 「ぼくはプロレスが大好きです。まるで格闘のショーみたいで。それで、テレビでやっている『クマさんプロレス』見ながら思ったんですけど、ぼく以外のプロレスファンも、ぼくのようにショーっぽいところを楽しんでるんじゃないかなと。だから、そのフンイキが再現できて遊べるようになれば、プロレス好きのお客さんたちにも受け入れられるんじゃないかなと思ったんです」

 

 「う~む……」

 

 モグリンさんは腕を組んでだまりこんでしまいました。

 

 「あの、考え方、まちがってますか?」

 

 モグリンさんは頭をゆっくりと左右にふりながら答えました。

 

 「いやいや、そんなことはないと思うよ。ブブくんの言っていることはよくわかる。オイラもプロレスファンだからね。実はオイラも、そろそろそんなゲームが登場してもいいんじゃないかなとは思ってたんだ。たしかに今までにないタイプのゲームだから営業的に失敗したらこわいけど、オイラはやってみたくなったよ。この『プロレスごっこ遊び』を。モグモグッ!」

 

 (『ごっこ遊び』――。 まさにモグリンさんの言うとおりです。ぼくはプロレスの『ごっこ遊び』をお客さんに楽しんでもらいたかったのです)

 

 「いいぞ! ブブくん。そのコンセプトでいってみようぜ。ただ、このシステムはもうちょい、わかりやすくした方がいいな。あと、ここんところも修正した方が――」

 

 モグリンさんはぼくの企画書の不十分なところ次々と指摘してくれました。その指摘にはいつものモグリンさんのような『いいかげんさ』はなく、なるほどと思える論理的なものばかりでした。ぼくは、モグリンさんって『だて』に何年も企画をやってきたわけじゃないんだなぁ……と、ちょっと尊敬してしまいました。

 

 そして、それから数日後――

 

 モグリンさんが手伝ってくれたおかげで、ついに企画書が完成しました。ぼくが生まれて初めて作ったテレビゲームの企画書です。


 タイトルは――『ザ・クマさんプロレス』

 

 「そのまんまじゃん……」

 

 完成した企画書のタイトルを見ながら、モグリンさんがポツリとつぶやきました。


第15話 常識はずれの企画

 

 「プロレスかぁ……」

 

 ファルコン社長は、ぼくとモグリンさんとで考えた『ザ・クマさんプロレス』の企画書に目を通しながら、そうつぶやきました。その表情はあまり企画にのっているかんじではありませんでした。

 

 「ぜったいうけると思いますよ社長! ヒットまちがいなしっ! モグモグッ!」

 

 モグリンさんはいつになく生き生きとした目で社長にアピールしました。

 

 社長は読み終えた企画書をぼくの机の上におくと、ゆっくりとイスにすわり腕を組んで天井を見つめました。そして、しばらく何かを考えてこう言いました。

 

 「プロレスのゲーム化は、他のゲーム会社でも考えているんだよ」

 「えっ、そうなんですか? じゃぁ、早く作らないと先をこされてしまいますね、モグッ!」

 

 モグリンさんがニコニコしながら言いました。

 

 「いや、その心配はないよ」
 「え? どういうことですか」

 

 ぼくとモグリンさんは声をそろえて社長にその理由をききました。社長は言葉を慎重に選びながらゆっくりとしゃべり始めました。

 

 「いいかい、ブブくん、モグリンくん。みんなが考えているのに、だれもゲーム化しないのはどうしてだと思う?」

 

 社長の質問に、ぼくとモグリンさんは顔を見合わせしました。

 

 「たしかに、言われてみればそうですね……」モグリンさんが答えました。

 

 「みんなが考えているのにだれもゲーム化しないのは、それなりの理由があるからなんだよ」

 「それなりの理由?」

 

 ぼくとモグリンさんはまた顔を見合わせました。

 

 「つまり、キャラクター同士がからみ合う――いわゆる『格闘もの』を題材としたゲームを作っても、現実の格闘のおもしろさが表現できるかどうか全くわからないし、かりにおもしろくなりそうな可能性があったとしても、今のコンピュータの性能じゃ格闘のアクション性は再現できない。 ――つまり、今のゲームの常識からはずれた企画ということなんだよ」

 

 (ゲームの常識?)

 

 ぼくは、その社長に言葉にひっかかりました。だって、常識なんかにこだわってたら、面白いものや新しいものは絶対できないと以前から思っていたからです。なぜなら、ぼくが尊敬するピカチョやビートルズンなんかの偉大なクリエイターたちは、世の中の常識や固定観念にこだわらず常に新しい作品を作り続けたのですから。ゲームだって同じはずです。

 

 「社長! お言葉をかえすようですが、決してそんなことはないと思います。常識はずれな企画だとは、ぼくは思いません」

 

 ぼくは勇気をふりしぼって社長に反論しました。モグリンさんをふくめ会社のなかま全員がいっせいにぼくの方を見ました。社長はぼくの反論に何かを感じたのでしょうか? 今まで見たことがないようなキビシイ表情でぼくを見つめました。それでもぼくはドキドキしながら反論を続けました。

 

 「たしかに本物のプロレスのようなアクション性の高いゲームはできないかもしれません。でも、フンイキは再現できると思います。フンイキでも遊べる可能性はあると思います」

 

 モグリンさんがあわてながら、ぼくのフォローしてくれました。

 

 「社長! コンピュータゲームはいろんな遊びの可能性をもっているはずです。フンイキを遊ぶ……つまり『ごっこ遊び』でもお客さんを楽しませることはできると思うんです。モグッ!」

 

 ガメコン社長は、ぼくとモグリンさんの勢いのある反論に圧倒されたのか、目を大きく見開きました。そして、また目を細め、しばらく考え込んだあとぼくらにたずねました。

 

 「君たちは『フンイキ』や『ごっこ遊び』がゲームになると、本気で考えているの?」
 「はいっ!」

 

 「それが必ずおもしろくなると、本気で信じているの?」

 「はいっ!」

 

 ぼくとモグリンさんは声をそろえて答えました。

 

 「そうか……」

 

 社長はそう言ってゆっくりとイスから立ち上がり、ひと呼吸しました。

 

 「申し訳ないが、今、この場で企画の合否はだせない。ちょっと考えさせてくれ……」

 

 そう言うと、ファルコン社長は社長室へもどって行きました。

 

 「どうですかね? モグリンさん」

 

 ぼくはモグリンさんに小さな声でききました。

 

 「う~ん、ちょっとキビシイかなぁ……。だって、あんな複雑な表情をした社長の顔って初めて見たし」

 

 モグリンさんは不安げに答えました。

 

 「モグリン、ブブくん、もっと自信をもてよ。今の社長だったら、きっと君たちの情熱に答えてくれるはずさ」

 

 一部始終を見ていたピコザさんが、ぼくらをやさしくはげましてくれました。

 

 「ボクは社長とのつきあいが長いから知ってますワン! 社長は世間の常識とか固定観念とがとてもキライで、いつも新しいことに挑戦してゆくのが好きなキツネさんなんですワン!」

 

 いつもは冷静なゼロワンさんも、めずらしくコーフンして鼻水をたらしながらはげましてくれました。

 

 「あたしもそう思う。ただ、社長は今とても迷ってると思うわ。会社の経営のこともあるからこれ以上危険はおかしたくない。でも、ブブくんやモグリンの情熱にもかけてみたいって……」

 

 ミーちゃんが社長の苦しい胸の内を代弁してくれました。

 

 「モグリン、ブブくん! さぁ、もう一度社長にアタックするんだ。自分たちが本当におもしろくなると考えつくしたものを情熱と信念をもって相手に伝える。それが企画屋の仕事じゃないのか?」

 

 (情熱と信念をもって相手に伝える――それが企画屋の仕事)

 

 ぼくはピコザさんのその言葉に感動しました。モグリンさんも感動したようで目をウルウルしていました。

 

 「さぁ、早く! 社長もそれを待っているのかもしれない。それでもダメだったらオレも君たちといっしょになって社長を説得するよ」
 「あたしも!」
 「ボクもですワオーン!」

 

 ピコザさん、ミーちゃん、ゼロワンさんの熱いはげましの心が、ぼくとモグリンさんに勇気を与えてくれました。

 

 (この企画は、ただのゲーム企画じゃない。『森のげえむ屋さん』のみんなの夢そのものなんだ)

 

 ぼくはモグリンさんに(やりましょう!)と目で伝えました。モグリンさんも(わかった!)と目で答えてくれました。そして二人で社長室のドアをノックしました。


第16話 仕様書よりも大切なこと

 

 みんなの応援に勇気づけられたぼくとモグリンさんは、企画を通してもらうためにもう一度ファルコン社長にアタックしました。

 

 (さ、早く社長に情熱と信念を伝えるんだ! 社長もそれを待っているのかもしれない)

 

 ピコザさんが言ってたことは、どうやら当たりのようでした。

 

 ぼくたちの情熱が社長の迷っている心に決断をつけさせたようです。社長は『ザ・クマさんプロレス』の企画にGOサインを出してくれました。

 

 社長はみんなを集めてこう言いました。

 

 「きみたちのこの企画に対する情熱と夢に私はかけてみる。だから絶対おもしろいゲームになるように、失敗をおそれず、妥協せず、最後までがんばってくれ。期待してる!」

 

 「やったぁーーーっ!!」

 

 みんなから歓声があがりました。

 

 さぁ、いよいよ『ザ・クマさんプロレス』の開発スタートです。おっと、わすれちゃいけない! ぼくはゲームの企画だけではなく、グラフィックの方もがんばらなくちゃいけません。こりゃタイヘンだ。でも自分たちが絶対おもしろくなると信じたゲームを作るのです。すこしぐらいタイヘンでもそんなのぜんぜん苦にはならないでしょう。(たぶん……)

 

 それから3日後――

 

 「ブブくん、ゲームの仕様書はもうできてますかワン?」

 

 ゼロワンさんがぼくにききました。

 

 「仕様書?」
 「ワン? あ、そっか。ブブくんは企画が初めてだから仕様書の意味がわかりませんね。つまり仕様書というのは、ゲームを作るためにプログラマーやグラフィッカー、そしてサウンドクリエイターにわたす設計図みたいなもんですワン」
 「ゲームを作るための設計図……ですか?」

 

 ぼくはその言葉を聞いてちょっと頭がいたくなりました。なぜなら、ぼくはプログラムに関する知識がまったくなかったからです。なにをどういう風に書けばよいのかサッパリです。グラフィックやサウンドはなんとか書けそうなんですが……。

 

 ぼくはモグリンさんに教えてもらおうと彼をさがしました。しかし、どうやら出かけたようで社内には見あたりませんでした。

 

 (こまったな……)

 

 途方にくれているぼくに、ゼロワンさんがニコニコしながら話しかけてきました。

 

 「ブブくん、そんなに思いつめないでくださいワン。仕様書の書き方がわからないのなら、直接ボクにやりたいことを言ってくれてもかまいません。ぼくがなんとかしますからワン」
 「えっ? それでいいんですか?」
 「ほんとうはきちんと書類にした方がよいですワン。でも、それよりも大切なのは、ブブくんがやりたいことをボクがちゃんと理解して、それをプログラムで表現できるかどうかということなんですワン。だから、必ずしも書類にこだわる必要はありません。なんでもボクに言ってくださいワン!」
 「わあ、助かります! なんでも言っちゃっていいんですね?」
 「ええ。ただし、できることはできる、できないことはできないと、はっきり言いますワン」

 

 ぼくはゼロワンさんの話しを聞いて、プログラムに対するコンプレックスが少し消えたような気がしました。そして、とても自由な気持ちになりました。

 

 「あ、いけない! 5インチフロッピーがなくなってる。買いに行かなくてはワン」

 

 ゼロワンさんはそう言いながらデイパックを背負い、フロッピーやその他の備品を買いに電気街の『夏葉原』へ出かけました。

 

 ゼロワンさんが出かけている間に、ぼくはゼロワンさんに伝えたいことをまとめようと思いました。そしてパソコンのワープロをたちあげていると、ピコザさんが近づいてきてポツリと言いました。

 

 「オレたちは幸せだよ」
 「えっ? なにがですか?」

 

 ぼくはピコザさんが言った『幸せ』の意味がわかりませんでした。

 

 「オレみたいな音屋や、ブブくんのような企画屋や絵かき屋が言うことって、けっこう『あいまい』なところが多いだろ?」
 「う~ん……。たしかに。ぼくの頭の中なんか『あいまい』だらけですよ」
 「ゼロワンくんは、そういうオレたちみたいな連中がもつ良い意味の『あいまい』さを大切にしてくれる、ちょっとめずらしいプログラマーなんだ」
 「そんなにめずらしいんですか?」
 「ああ。この業界には、口ではうまく伝えることができない『あいまい』なイメージを嫌って話を聞こうとしないプログラマーや、与えられた仕様書どおりしか書かない事務的なプログラマーがけっこう多いからね。まぁ、彼らの仕事には『あいまいさ』が許されないから、仕方ないっちゃあ、仕方ないけど……」

 

 ぼくはゼロワンさん以外のプログラマーのことはよく知らないので、なんとも言えないのですが、ただひとつ言えることは『ゼロワンさんと話していると自由な気持ちになれる』ということです。そんな気持ちにさせてくれるゼロワンさんといっしょに仕事ができるぼくは、ピコザさんの言うように『幸せ』なのかもしれません。

 

 もしかしたら、ゼロワンさんは、ぼくらみたいな『あいまい』な仕事を理解できるように影で努力してくれてるのかもしれません。もし、そうだったら、ぼくもゼロワンさんに甘えてばかりいないで、苦手なプログラムのことを少しは勉強し、逆にプログラマーのゼロワンさんの気持ちが少しでも理解できるようにしなくちゃなぁ、と思いました。

 

 しばらくすると、ゼロワンさんが買い物からもどってきました。そして、背おっていたデイパックを机の上におろすと中から一冊の本をとりだしました。

 

 「プログラム関係の本ですか?」

 

 ぼくはゼロワンさんにたずねました。

 

 「いえ、私が好きなファンタジー作家の新作ですワン。この作家さんの作品っておもしろいんですよ。だって、書いてることが非論理的というか、論理を超えてるというか、……はやい話がぶっ飛んだ内容なので読んでいてワクワクするんですワン!」

 

 ぼくはゼロワンさんが『あいまい』なことに対して、なぜあんなに大らかでいられるのか、その理由がちょっとだけわかったような気がしました。


第17話 心の余裕

 

 『ザ・クマさんプロレス』の開発期間は3ヶ月です。

 

 ぼくはグラフィックと企画も受け持っていますが、企画を受け持つということは同時にディレクター(監督)みたいな役割もしなければならないので、とても忙しくてタイヘンです。

 

 開発がスタートして最初の1ヶ月は、研究のためにとテレビで放映されている『クマさんプロレス』をみんなと見ながらワイワイと楽しくやっていましたが、2ヶ月目にはいるとゲームがしだいに目に見えるかたちになってきて『ああ、ぼくは今、ゲームを作っているんだなぁ……』という実感と責任感がわいてくるようになりました。ぼくはこの責任感が仕事にほどよい緊張とメリハリをつけてくれるので気に入っています。

 

 しかし、ゲームが目に見えるかたちになってくると困った問題もおこってきます。それは『最初に頭の中でイメージしたゲームのおもしろさ』と、『実際に目に見えるかたちになったゲームのおもしろさ』との間にズレが生じることです。

 

 つまり、最初に頭の中で考えたゲームのおもしろさは『理想』ばかりで、気づかない『欠点』がたくさん隠れています。それを、プログラムという方法で現実に遊べるかたちにしてゆくことで、それらの隠れた『欠点』が魔法のように表面にあらわれてしまうのです。

 

 「まぁ、新しいタイプのゲーム作りってそんなもんだよ。遊びを発明するみたいなもんだから最初から理想どおりにゆくわきゃないよね。かんじんなのは、いかにして理想と現実とのズレを調整してゲームのかたちに仕上げてゆくかが、プロの腕の見せどころだよ」

 

 と、モグリンさんがぼくをはげましてくれました。

 

 「そうですワン。そこのところのトライアンドエラー(試行錯誤)が、ゲーム開発のおもしろさでもありますワン」

 

 「よおし! オレもブブくんやモグリンに負けないように、ゲームサウンドがんばらなくちゃな。ゲームをうんと盛り上げるためにも」

 

 「ブブくん。絵をかくのがタイヘンになったら、遠慮せずにあたしに言ってね。あたしブブくんのぶんまでがんばるから!」

 

 ゼロワンさんやピコザさん、ミーちゃんも、ぼくをはげましてくれました。

 

 (ありがとう、みんな!)

 

 ぼくは、みんなのはげましに感謝しながら、少しでもおもしろいゲームになるようにテストプレイを何度もくりかえしました。そして、とりあえず『プロレスごっこ』のおもしろさが楽しめるかたちにまでもってゆくことができました。

 

 でも……。なんていうか……。なにかものたりません。

 

 (なにが、ものたりないんだろう?)

 

 ぼくは必死になって考えましたが、それがどうしてもわからないのです。

 

 そして、開発がスタートしてから3ヶ月が過ぎました――

 

 いよいよ開発の締め切りが近づいてきました。しかしスケジュールの方はちょっと遅れぎみです。ぼくはかなりあせってきて、正直、心に余裕がなくなってきました。

 

 「まぁ~、あせってもしょーがないって」

 

 そういうモグリンさんのはげましも、今のぼくには『はげまし』ではなく、他人ごとの無責任な言葉に聞こえてしまうのです。正直、かなりヤバイ状態です。そして、その『心の余裕のなさ』が、とんでもない失敗をやらかしてしまうことになるとは……。

 

 そんな、ある日――

 

 緊張した表情のファルコン社長が、みんなを集めて言いました。

 

 「突然だが、今夜、このゲームを買ってくださるという取引先の社長がゲームの見学にお見えになられる。この会社にとってとても重要な方なので、みんな失礼のないように」


第18話 若気のいたり

 

 午後7時過ぎ――

 

 有名ゲームメーカーであるデーターポンポコ社の社長さんが、ぼくらが開発している『ザ・クマさんプロレス』を見学するために会社にお見えになりました。

 

 そのタヌキの社長さんは、いかにも社長という感じのかんろくのあるお腹をしていました。でも、目つきがなんとなく相手を見下すような感じで、ぼくの想像したイメージとちょっと違ってました。社長さんの後ろには顔色のよくないやせたカワウソさんがヒョロリと立っていました。どうやら社長さんの部下のようで、いっしょにゲームの見学に来られたようです。

 

 「データーポンポコ社のカネポン社長だ」

 

 ファルコン社長はめずらしく緊張しながらそう紹介しました。

 

 ぼくは、カネポン社長とファルコン社長は仲良しだときいていたので、きっとカネポン社長もファルコン社長のように新しいタイプのゲームに対して理解のある方だろうなぁ、と期待していました。ところが……

 

 「紹介はいいから、はやくゲームを見せてくれ!」

 

 カネポン社長はぼくらにあいさつもせず、すごくいばった口調でファルコン社長に命令しました。ゼロワンさんがファルコン社長の指示でゲームを立ち上げると、ゲームテーブルのテレビ画面に『ザ・クマさんプロレス』が表示されました。

 

 「ふ~ん、プロレスねぇ……。プロレスをテレビゲームにして、ほんとうにおもしろくなると本気で思ってるのかねぇ。企画者はだれ? 遊び方を説明してくれ」 

 

 カネポン社長は、いきなりぼくらの作っているゲームにケチをつけはじめました。ぼくはちょっとカチンときました。他のなかまもムッとした顔をしていました。でも、ファルコン社長だけは相変わらず緊張した表情で額に汗をにじませていました。

 

 ぼくはカネポン社長にゲームの遊び方を説明しました。

 

 「このクマさんレスラーを動かして、敵のレスラーと組み合わせます。そうしたら技のメニューが出ますから、好きな技を3秒内に選択して……」
 「なんかイライラするゲームだな!」

 

 ぼくが説明している途中でカネポン社長がまたケチをつけました。ぼくは、またカチンときましたが、グッとがまんして説明を続けようとしました。

 

 「もういいよ!」

 

 いきなりカネポン社長が、ぼくの説明を中断させました。ファルコン社長やみんなはビックリしました。

 

 「もっと期待したのに、なんだこりゃ!? こりゃ売れないよ。おまえもそう思うだろ?」

 

 カネポン社長は後ろ立っていた部下のカワウソさんにききました。カワウソさんはもの静かな口調で「社長、結論をつけるにはちょっと早すぎますよ。最後まで説明を聞きませんか?」と答えました。

 

 「んなもん、聞いても時間のムダだよ!」

 

 カネポン社長のその一言に、ぼくの頭の奥でプチッと何かがキレる音がしました。たしかに、うちにとっては取引先の大切な社長さまかもしれませんが、もうちょっとものの言い方があるんじゃないでしょうか? これが普段のぼくだったらグッとガマンしたでしょうが、ゲーム開発で疲れて『心に余裕』がなかったせいか、ちょっと荒々しい気持ちがわきあがってきました。

 

 「それに、そのレスラーにかかれている白いドットはいったいなんのつもりだ? 君がかいたのか? ただのゴミにしか見えないぞ」

 

 カネポン社長は、今度はドット絵をかいていたミーちゃんの所へ行ってケチをつけ始めました。ぼくはついにキレました! 「プロレスラーの光る汗を表現したかったの」と、少ないドットと色数をやりくりしながら一生懸命工夫してくれたミーちゃんの絵までもバカにしたからです。ぼくは思わずミーちゃんを見ました。ミーちゃんはうつむいていました。

 

 「ちょっとどいてください! ぼくがその白いドットの意味を説明しますから!」

 

 ぼくは、ミーちゃんの横でふんぞり返っていたカネポン社長をどかそうと、わざと激しく肩をぶつけてやりました。

 

 「な、なんだぁ……?」

 

 今まで社長に逆らう動物は1匹もいなかったのでしょうか。ぼくの予期せぬ反抗的な態度に、カネポン社長はまるでハトが豆鉄砲をくらったような驚いた顔をしました。

 

 (あ、しまった! やっちゃった……)

 

 ぼくがとった乱暴な態度に、会社のみんなはビックリしているだろうと思いながら、ぼくはまわりを見まわしました。すると意外や意外。ビックリしていたのはファルコン社長とミーちゃんだけで、ほかの3匹はうつむいてニヤニヤしていたのです。

 

 「まあ、まあ、カネポン社長。だから最後まで説明を聞きましょうって」

 

 興奮して顔を赤くしているカネポン社長の肩を、カワウソさんがなだめるようにポンポンとたたきました。

 

 「う、うむ……。 まぁ、君がそう言うなら……」

 

 ぼくはビックリしました。あんなにいばりまくっていたカネポン社長が、まるで呪文にかけられたかのようにカワウソさんの言う事をすなおにきいたからです。

 

 カワウソさんはカネポン社長にむかってニコリと笑った後、ぼくのそばに歩み寄り、こう言いました。

 

 「私はデーターポンポコ社のゲーム開発部長のヌラリンともうします。私、このゲームにとても興味があります。もっとくわしく説明を聞かせていただけますか?」

 

 ヌラリンさんの、そのおだやかなしゃべり方が、凍りついていたファルコン社長とミーちゃんの心を溶かし、そしてぼくの荒々しい気持ちも一気に溶かしてゆきました。と、同時に、冷静になったぼくは、自分がしでかした『ことの重大さ』に絶望的な気持ちになり、どんどんと落ち込んでゆきました。



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