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第11話 社長のお願い

 

 「ブブくん。きみに話したいことがあるから、今夜食事につきあってくれないか?」

 

 仕事を終えて帰ろうとするぼくに、ファルコン社長が言いました。

 

 「え? あ、はい。わかりました」

 

 (話ってなんだろ? なんか仕事でヘマでもやらかしたっけ?)

 

 その夜――

 

 ぼくは都会の森で一番にぎやかな『かぶく町通り』にあるお寿司屋さんへ連れてってもらえることになりました。

 

 (やったあ! お寿司なんて何年ぶりだろう? ぼくの大好きな『生イチゴの軍艦巻き』が食べられるぞ。ブブー!)

 

 ぼくは社長の話のことよりも、お寿司のことで頭の中がいっぱいでした。

 

 夜の『かぶく町通り』はたくさんの動物たちで混雑し、とてもにぎやかでした。ただ、通りのあちらこちらに立っている黒いスーツを着た目つきの悪い狼さん達が、ちょっと怖かったです。

 

 「ブブくん。お寿司屋へ行く前に、ちょっと寄りたい店があるから付き合ってくれ」

 

 「もちろんです!」とぼくが答えると、社長は通りからちょっとはずれた場所にあるゲームセンターみたいな店に入りました。

 

 店の中にはゲームテーブルがずらりとならんでいましたが、なぜかそのすべてが『ポーカーゲーム』でした。

 

 「さてさて、どんな感じかな?」

 

 社長はそう言うと、受け付けカウンターに立っている狼のお兄さんからポーカーゲーム専用のコインを買い、ゲームテーブルについてゲームを始めました。そのゲーム機はゲームに勝つと中からコインがジャラジャラと出てくるタイプのものでした。ぼくは社長の向かいのイスにすわりゲームのようすを見守りました。

 

 ぼくは驚きました!

 

 社長は、まるでコンピュータ側のもち札をすべて知ってるかのように勝ち続け、あっという間にテーブルの上は勝ち取ったコインでいっぱいになりました。

 

 「う~む……。ちょっとヤバイかな……」

 

 社長はそうつぶやくと、勝ち取ったコインを持ってカウンターまで行き、それをさっきの狼のお兄さんにわたしました。するとお兄さんはそのコインと引き換えに社長に何かをわたそうとしましたが、なぜか社長はそれを拒んで受け取りませんでした。

 

 (なにしてんだろ?)

 

 けげんな顔をするぼくに社長は「いやぁ、今夜はついてたな!」と笑いながらぼくの肩をポンポンとたたきました。

 

 ぼくは、もしかしたら社長は本物のお金をかけるギャンブルゲームをやってたんじゃないかと思いました。でも、お金を受け取ったようすもなかったので、とりあえずこれは見なかったことにしようと思いました。そして、ぼくと社長は店を出てお寿司屋へと向かいました。

 

 (すごい! 回ってない!)

 

 ぼくは、そのお寿司屋が『回るお寿司屋』じゃなかったことにとても感動しました。お店のカウンターの席についた社長が、おてふきで手をふきながら言いました。

 

 「ブブくん。えんりょせずに、なんでも好きなものを食べていいぞ」

 

 (なんでも好きなもの?)

 

 ぼくは、その言葉が神さまの御言葉(みことば)に聞こえました。

 

 「す、すみません。生イチゴの軍艦巻き、おねがいします」

 

 ぼくは勇気をだして店の板前さんに注文しました。(ぼくは昔からお寿司屋の板前さんに注文するのが苦手なのです)

 

 「へいっ! イチゴ軍艦おまち!」

 

 板前さんがお寿司をぼくの目に前に出すと、ぼくは、すかさずそれを口にほおばりました。

 

 (おいひぃ~……)

 

 いったい何年ぶりでしょう。ひさしぶりに食べた『生イチゴの軍艦巻き』のおいしさに、ぼくの大きなホッペは今にも落っこちそうになりました。

 

 (ああ~…… し・あ・わ・せ!)

 

 その後も続けて『生イチゴの軍艦巻き』ばかり注文したので、社長や店の板前さんに笑われてしまいました。

 

 「ブブくんに、たのみたいことがあるんだが」

 

 ビールで顔をほんのり赤くした社長がぼくに話しかけました。

 

 「なんでしょう?」
 「ゲームの企画をやってくれないか? 以前から思ってたんだが、君のアイデアはなかなかおもしろいと思うんだ」
 「えっ、企画ですか? でも企画ならモグリンさんがいるじゃないですか」

 

 社長はビールをゴクリと飲んで言いました。

 

 「モグリンくんといっしょにやってほしいんだ。もちろんモグリンくんの企画が悪いと言っているわけじゃないんだよ。でも、ちょっと……」

 「ちょっと……なんですか?」

 「はっきり言うと、モグリンくんは『おたく』で、ちょっと自分の趣味にはしりすぎなんだ。私としては、もっとお客さんたちがやりたがってるゲームを企画してほしいんだが。でも、ブブくんは『おたく』じゃないアイデアマンだから、もしかしたら、ふたりが協力し合えば売れる企画が期待できるかなと思ってね」

 

 「なるほどぉ……。でも、ぼくが企画の仕事をしたら絵は誰がかくんです?」
 「たいへんかもしれないけど、絵もやってほしい」

 

 (え~っ!? ずいぶん働かせるなぁ)と、ぼくは思いました。でも、すぐにミーちゃんが言ってた『会社が困っているから助けてあげるの』という言葉を思い出し、ちょっと大人になって不満を言うのはやめ、ここは、こころよく引き受けておこうと思いました。

 

 「わかりました。ぼくでよければ、がんばります」
 「そうか! そいつはありがたい。さあ、お寿司をじゃんじゃん食べてくれ!」

 

 社長はとてもごきげんになり、ぼくが『もう食べられないよ~』と夢でうなされそうになるくらい、たくさんのお寿司をごちそうしてくれました。

 

 「じゃあ、明日からよろしくたのむ。会社を救ってくれ!」」

 

 お寿司屋から出た社長は別れぎわにそう言って、夜の『かぶく町通り』の雑踏の中へ消えてゆきました。

 

 「がんばりま~す! ブブーッ!」

 

 そう言って1匹になったぼくは、ふと、社長が別れぎわに言った「会社を救ってくれ」という言葉が、みょうに頭にひっかかりました。

 

 (『会社を救ってくれ』って、ずいぶん大げさだなぁ……)

 

 お寿司につられて企画の仕事を引き受けたぼくでしたが、その仕事がとんでもなく大変なものになるとは、その時のぼくには想像することができませんでした。


第12話 会社のピンチ

 

 たいへんなことがおこりました!

 

 その日、いつものようにぼくが会社に出勤すると、会社の入口前の廊下に、黒いスーツを着て怖い顔をした狼さん達が10匹ぐらいズラリとならんでいたのです。

 

 最初は、ぼくの会社とは関係ないんだろうと思ってたんですが、ぼくが会社の入口のドアノブに手をかけるやいなや、

 

 「おつかれさまっす!!」

 

 と、その狼さんたち全員がいっせいにぼくに向かって、スゴミのきいた声であいさつをしたんです。

 

 (な、なんだよぉ~? こわいよぉ~。ブブ~……)

 

 ビビりながら会社の中に入ると、すでに出社していたなかまたちが凍りつくかのように机のイスにすわっていました。

 

 「ピコザさん。 なにがおこったんですか?」

 「どうやら、仕事のクライアント(依頼人)からクレームがはいったらしい。しかし、クライアントがあんな連中だったとは……。オレも知らなかったぜ」

 

 ピコザさんはそう言いながら社長室のドアに向かって首をふりました。部屋の中からファルコン社長とだれかが、なにやらボソボソと話し合っている声が聞こえました。そして、その会話に聞き耳をたてていたゼロワンさんが言いました。

 

 「どうやら、クライアントさんは『確率』に対して不満みたいですワン」

 

 「確率って、先月作ったポーカーゲームの?」ピコザさんがゼロワンさんにききました。

 

 「はい。確率の『裏モード』がかたよりすぎるって、抗議にきているみたいなんですワン」

 

 「『裏モード』ってなんですか?」ぼくはゼロワンさんにききました。

 「えっ?」

 

 ゼロワンさんは、ちょっと気まずそうな顔をしました。ぼくはその顔を見て『ははぁ、あまり良いことではないんだな』と直感しました。

 

 「はやい話しが『インチキができるしかけ』ってことだよ~。モグモグ……」

 

 モグリンさんが緊張したうわずった声で答えました。顔がひきつり額に汗がにじんでいます。ぼくはそれを聞いて、先日、社長がポーカーゲームで楽勝したことを思い出しました。

 

 (だから社長は、あの時「ちょっとヤバイかな」って言ってたのかな?)

 

 ぼくはなんかイヤな気分になってきました。それが顔に出たんでしょう。ピコザさんが気を使ってぼくに言いました。

 

 「気にするな、ブブくん。インチキといっても、あくまでコンピュータの強さの確率を調整するだけで、100パーセント思い通りにするインチキじゃないから」

 

 ピコザさんに続いてゼロワンさんも説明します。

 

 「そうなんですワン! 完全なる『確率のインチキ』なんて今のプログラム技術では不可能ですワン。いや、たぶん未来も。もしそれができたら、それは確率とは言えませんワン。そのことがあのクライアントさんには理解してもらえないんですワン」

 

 ゼロワンさんの言ってることは、ぼくにはよくわかりませんでした。でも正直言って、そんな理屈を言ったところで『インチキなしかけを作る仕事』を受けたことは正当化できないんじゃないのかなぁ、と疑問に思いました。

 

 しばらくすると社長室のドアが開き、中からでっぷりと太った狼のおじさんが出てきました。ぼくは一目見て、廊下にならんでいた怖い狼さん達のボスだとわかりました。でも、意外だったのは、ボスのわりにはやさしげな顔をしていて、そのあたりにいるフツーのおじさんとあまり変わらなかったことです。

 

 「話しはわかった。じゃあ、がんばってくれよ、社長!」

 

 狼のボスは大声でそう言うと、ぼくらに『おつかれさん!』と声をかけながら会社から出て行きました。

 

 「ふう~……。まいったな……」

 

 社長室から疲れきった顔をした社長が出てきました。そして心配そうな顔をしたぼくらに向かって言いました。

 

 「心配かけてすまなかった。もう2度とギャンブルゲームの仕事は引き受けないから。いやぁ、でも事情を説明するのが大変だったよ。殺されるかと思ったぞ。ハハハハ……」

 

 「どうして、笑っていられるんですか?」

 「え? いや、その……。冗談だよ、ミーちゃん」

 「みんなにあやまってください! 社長!」

 

 さっきまで怖くてずっとふるえていたミーちゃんが、とつぜん社長に向かって大きな声を出しました。みんなはいつものミーちゃんらしくない行動にビックリしました。

 

 「す……、すまん」

 

 社長はミーちゃんの抗議に真顔になり、いつもの社長らしくない弱気な声であやまりました。

 

 「あたし、社長のことを本当に心配してたんですよ……。会社にお金がないのは知ってました。それでもみんなにお給料を出そうと、社長があんな仕事を無理に引き受けたことも知ってました。それには感謝してます。でも……、もうちょっと、みんなの気持ちも大切にしてほしかったです……」

 

 そう言い終わるとミーちゃんは大粒の涙をこぼしながら、はらはらと泣き始めました。

 

 ミーちゃんの話で『ことの真相』を知ったみんなの表情は暗くなりました。特にモグリンさんの表情は暗く、その目には涙が光っていました。

 

(なんでモグリンさんまで泣くんだろう……?)

 

 もしかしたらモグリンさんは、会社があんな仕事を引き受けてしまったのは、自分の企画したゲームがぜんぜん売れなかったせいだと思い、つらくなったのかもしれません。

 

 「いやな仕事だったのに、きみたちは不満のひとつも言わずにがんばってくれた。なのに、私はきみたちの気持ちも考えず傷つけてしまった。ほんとうにすまない……。私は社長失格だ……」

 

 社長はそう言うと、みんなに深々と頭を下げました。そして社長室へもどろうとドアを開け、立ち止まって元気のない小さな声でこう言いました。

 

 「もう、こんなところで働きたくないと思った社員は、遠慮しないで私に言ってくれ……。ムリに引き止めたりはしないし、退職金もがんばって出すから……」

 

 社長のその言葉にみんなは驚き目を大きく見開きました。部屋の中の時間が止まってしまったような気がしました。

 

 しばらくして、ピコザさんがフッとため息をついて言いました。

 

 「悪いが、オレはやめないよ……」

 

 社長をふくめ、みんながピコザさんの方を向きました。止まっていた時間が再びゆっくりと動き始めました。

 

 「まあ、小さな会社が生きてゆくためにはいろいろあるさ。時には生きてゆくために危ない橋もわたるだろう。でもオレは信じている。社長を。いや、オレがこの会社にはいるときに社長がオレに語ってくれた社長のゲームに対する夢を。それに、オレ、会社をやめても行くところがないしな……」

 

 「ピコザくん……」

 

 社長の手がちいさく震えていました。

 

 「あたしもちょっと言い過ぎました。ごめんなさい……。あたし、この会社が好きです。だから、もう少しここにいさせてください」

 

 ミーちゃんが涙をふきながら笑顔で言いました。

 

 「ぼ、ぼくもやめましぇん……。今度は絶対ヒットするゲームを企画しましゅから、ここにおかしてくだしゃい……グシュッ……」

 

 モグリンさんが涙と鼻水をダラダラ流しながら言いました。

 

 「もちろんぼくもやめませんワン! もし、またあのような仕事がきたら、今度はもっとバランスの良い確率プログラムをぜったい作ってみせますワン!」

 

 ゼロワンさんはそう言うとグッとこぶしを握りしめ、固く決意したような表情で天井を見上げました。(ゼロワンさんは、びみょうに空気が読めていないようです……)

 

 「ぼくもやめません。いや、やめられません。だって、先日、社長にお寿司をごちそうになった時に「企画でがんばります」って、約束したばかりですから」

 

 みんながそう答えると、社長は「そうか……。わかった」と言って社長室の中へ入って行きました。

 

 しばらくして、社長室の中から小さくすすり泣く声が聞こえてきました。


第13話 企画会議

 

 「たまにはお酒でも飲みにいかない?」

 

 ぼくは自分の耳をうたがいました。だって、あの『動物づきあい』の悪そうなモグリンさんがぼくをお酒にさそってくれたからです。

 

 「あ、ブブくん。もちろん『わりかん』だよ」

 「だれもおごってくれとは言ってませんよ!」

 

 ぼくはちょっとカチンときて、そのさそいを断ろうと思いましたが、大人げないのでやめました。

 

 その夜、ぼくはモグリンさんがよく行くというお店に連れてってもらいました。そのお店は『夏葉原』という電気街の裏通りにありました。

 

 『もえもえ』という名まえのそのお店は、壁一面にアニメやマンガ、映画のポスターがはられ、アニメのコスプレをした常連客でにぎわっていました。いかにもモグリンさんが好きそうなお店というかんじです。

 

 ぼくはてきとうに空いていた席にすわろうとしましたが、モグリンさんが「ここはうるさいから、もっと静かな席へゆこう」と言って、ぼくを店の1番奥の席へ連れて行きました。その席の横には『魔女っ子モエちゃん』の等身大フィギュアが立っていました。(なんだ、目的はそれかい……)

 

 「いつものやつ、お願いね!」

 

 モグリンさんは、いかにも常連っぽくカウンターにむかって注文しました。

 

 「ブブくんは?」

 「いつものやつって、何なんですか?」

 「ミルク猿酒だよ」
 「じゃあ、ぼくも同じものを」
 「同じもの? つまんないやつだなぁ~。クリエイターたるもの、すぐ人のマネをするようじゃダメだぞ、モグッ!」

 

 (そんな、おおげさなものかな?)とぼくは思いましたが。

 

 ぼくらはテーブルに置かれたミルク猿酒のグラスを手にもちカンパイしました。モグリンさんはそれをグイッと飲むと、おじさんみたいに「ぷは~」と酒くさい息をはき出しました。

 

 「社長から話しは聞いたよ。ブブくんも企画をやるんだってね」
 「ええ、モグリンさんのお手伝いをしろって。よろしくお願いします」
 「う~ん。でも、だいじょうぶかなぁ~? きみみたいな企画の素人(しろうと)が…ヒック!」

 

 もうお酒に酔って赤ら顔になったモグリンさんは、まるで別の動物のように自信満々な態度でぼくに言いました。どうやら、モグリンさんはお酒に酔うと態度が大きくなるみたいです。ぼくはモグリンさんに言いました。

 

 「モグリンさん、こんどの企画がヒットしないと会社は……」
 「わかってるよっ! 君に言われなくても。オイラだって売れるゲームを企画したいんだよ! モグモグッ!」

 

 モグリンさんは突然怒ってぼくに言い返しました。どうやらモグリンさんはお酒に酔うと怒りっぽくなるみたいです。

 

 「ああ、でもなぁ……。オイラも一生懸命考えてるんだけど、うまくいかないんだよなぁ~。オイラって才能ないのかなぁ~。もう、やめちゃおうかなぁ~ゲーム業界。ううっ、グスン……」

 

 モグリンさんは突然泣き声になってグチり始めました。どうやらモグリンさんはお酒に酔うとメソメソするみたいです。――っていうか、モグリンさん酒グセ悪すぎ!

 

 「オイラ、自分で言うのもなんだけど、かなりの『おたく』だから、すぐ自分の趣味にはしった企画を考えちゃうんだよなぁ……」

 

 (へぇ~。モグリンさんって、いちおう『おたくとしての欠点』を自覚してるんだ。ちょっと意外だな)

 

 「たしかに趣味にはしるのはどうかと思いますが、自分がやってみたいことを企画するのはダメなんですか?」
 「ダメだろね。自分がやってみたいことと、世間のお客さんたちがやってみたいことが一致するとはかぎらないからね。『お客のニーズ(要求)』と『開発側のシーズ(提供)』の違いって言うのかな。わかる? やはりニーズの方が大切だよ。でも、注意しなければならないのは、
ニーズに答えてばかりいたら独創性のある企画が生まれづらくなる危険性もある。つまりだな、ニーズとは……」

 

 (はぁ~……。そこまでわかっているんだったら、お客さんのニーズにあった企画を素直に考えればいいのに……)

 

 ぼくは、モグリンさんの『理屈っぽい話』につきあうのが面倒くさくなり、話題を変えようと思いました。

 

 「ところでモグリンさん。今、世間では何がはやってると思います?」
 「はやってるもの? そうだなぁ……。『クマさんプロレス』なんかは人気があるよね」
 「それってテレビゲームにできると思いますか?」
 「え? プロレスをゲームに?」

 「世間で人気があるものをゲームにすることができれば、みんなが遊んでくれる可能性が高くなるんじゃないですか? うまくゆけば大ヒットも期待できるし」

 

 モグリンさんは、まるで今まで解けなかった算数の問題が解けたようなハッとした目をしました。

 

 「なるほどっ! その手があったか!」

 

 モグリンさんの言う『その手』が、いったい『どんな手』なのかぼくにはわかりませんでしたが、そんなに驚くほどの意見ではないんじゃないかな? と思いました。

 

 「う~ん、でもなぁ~。どうなんだろ? はたしておもしろいゲームになるのかなぁ……」

 

 (あれ? いきなりトーンダウンしてるし)

 

 ぼくはアイデアにのってるのか、のってないのかよくわからない優柔不断(ゆうじゅうふだん)なモグリンさんの態度に、ちょっとイラッとしながら言いました。


 「だ・か・ら! それをおもしろくするのがぼくらの仕事なんでしょ? モグリンさん!」

 

 ぼくもお酒に酔ってちょっと気が大きくなってきたんでしょうか。ああ言えばこう言う煮えきらない態度のモグリンさんにガツンと言ってやりました。モグリンさんは、ちょっとビックリして目をまんまるにしました。

 

 「な、なるほど……。なかなかいいこと言うじゃないか、ブブくん」

 

 モグリンさんは企画の先輩であるプライドをたもつために、ぼくにガツンと言われた動揺をかくそうとしたみたいですが、声がおどおどしてバレバレでした。

 

 「よしっ、ブブくん! 新企画は『プロレス』でいってみようぜ! 明日から企画書をパパッと書いて社長に見せてみよう!」
 「え? もう、決まりですか?」
 「そ! 決まり、決まり。企画ってヒラメキが大切! ヒラメキ90%、理屈10%!」
 「そんなもんなんですか?」
 「そ! そんなもん。大ヒットする企画ってそんなもんだよ。理屈でこねあげた企画なんて、たいていうまくいかない」

 「ほんとうですか?」

 「信じろ! 理屈っぽいせいで、ヒットゲームの企画が1本もあげられないオイラが言うんだからマチガイないって! ――ところでブブくん、あの映画、見た?」

 

 企画の話しは、あっという間に終わり、あとはモグリンさんの『映画おたく話』が長々と続きました。モグリンさんは企画の話より、そっちの方の話し相手がほしくてぼくをお酒にさそったんじゃないかなと思いましたが、モグリンさんの楽しげな表情を見ているとつい帰れなくなり、おかげさまで終電に乗り遅れそうになりました。

 

 (あの企画、自信はすごくあるんだけど、あんなノリで決めちゃってよかったのかなぁ? 会社の運命がかかっているというのに。もっと慎重に考えるべきだったかなぁ。でも、まぁいっか! モグリンさんの言う『ひらめき』というものを信じてみよう……)

 

 ぼくは、終電の車窓の外に流れてゆく夜ふかしな街の夜景を見ながら、あの企画にかけてみようと決意しました。


第14話 新しい遊び方

 

 「企画書、こんなかんじでいいですか?」

 

 ぼくは3日かけて書いたプロレスゲームの企画書をモグリンさんに見せました。本当はモグリンさんが書くはずだったのですが、『企画書の書き方の勉強』をかねて、ぼくが書くことになったのです。

 

 モグリンさんはぼくの企画書に目を通したあと、腕を組んで考え込んでしまいました。

 

 「う~ん、どうかなぁ。モグモグ……」
 「どこかマズイところでもありますか?」
 「遊び方が今までにない新しいタイプだから、ゲームセンターのお客さんに受け入れられるかなぁ、と思ってね」
 「どの部分がですか?」

 

 モグリンさんは企画書の『遊び方』のページを開きました。

 

 「ここに書いてある『2匹のレスラーが接触したら、自動的に『技メニュー』が表示され、その中から好きな技を3秒内で選択決定します』――というところなんだけど」
 「だめですか?」
 「いや、そんなことはないと思うよ。オイラはこういうの好きだから。まるでアドベンチャーゲームの遊び方みたいで」
 「アドベンチャーゲーム?  ああ、たまにモグリンさんが仕事さぼってパソコンで遊んでるゲームですね」

 「エヘン……。そう、そのゲーム」
 「どこがアドベンチャーゲームの遊び方みたいなんですか?」
 「コマンドを使うところ」
 「コマンド?」
 「つまり、『話せ』とか『移動しろ』とかいう命令する言葉のことだよ」
 「命令……。ああ、なるほど。たしかに言われてみれば、ぼくの考えた遊び方はその『コマンド』というものに、ちょっとにてるかもですね。ボタンやレバーを使って技をかけるのではなく、『技名』を使って技をかけるようなもんですから……」

 

 ぼくは考え込んでるモグリンさんを見ているうちに、遊び方に対してちょっと自信がなくなってきました。

 

 「やはりコマンドを使ったゲームって、ゲームセンターには向いてませんかね?」

 

 不安げなぼくの顔を見て、逆にモグリンさんが質問をしてきました。

 

 「ところで、ブブくんはプロレスのどんなところをお客さんに楽しんでほしいの?」

 「どんなところ? はい、フンイキです!」

 

 ぼくはためらわず答えました。

 

 「フ、フンイキ?」

 

 変なことを言ったんでしょうか? モグリンさんがとてもビックリした顔をしました。

 

 「ぼくはプロレスが大好きです。まるで格闘のショーみたいで。それで、テレビでやっている『クマさんプロレス』見ながら思ったんですけど、ぼく以外のプロレスファンも、ぼくのようにショーっぽいところを楽しんでるんじゃないかなと。だから、そのフンイキが再現できて遊べるようになれば、プロレス好きのお客さんたちにも受け入れられるんじゃないかなと思ったんです」

 

 「う~む……」

 

 モグリンさんは腕を組んでだまりこんでしまいました。

 

 「あの、考え方、まちがってますか?」

 

 モグリンさんは頭をゆっくりと左右にふりながら答えました。

 

 「いやいや、そんなことはないと思うよ。ブブくんの言っていることはよくわかる。オイラもプロレスファンだからね。実はオイラも、そろそろそんなゲームが登場してもいいんじゃないかなとは思ってたんだ。たしかに今までにないタイプのゲームだから営業的に失敗したらこわいけど、オイラはやってみたくなったよ。この『プロレスごっこ遊び』を。モグモグッ!」

 

 (『ごっこ遊び』――。 まさにモグリンさんの言うとおりです。ぼくはプロレスの『ごっこ遊び』をお客さんに楽しんでもらいたかったのです)

 

 「いいぞ! ブブくん。そのコンセプトでいってみようぜ。ただ、このシステムはもうちょい、わかりやすくした方がいいな。あと、ここんところも修正した方が――」

 

 モグリンさんはぼくの企画書の不十分なところ次々と指摘してくれました。その指摘にはいつものモグリンさんのような『いいかげんさ』はなく、なるほどと思える論理的なものばかりでした。ぼくは、モグリンさんって『だて』に何年も企画をやってきたわけじゃないんだなぁ……と、ちょっと尊敬してしまいました。

 

 そして、それから数日後――

 

 モグリンさんが手伝ってくれたおかげで、ついに企画書が完成しました。ぼくが生まれて初めて作ったテレビゲームの企画書です。


 タイトルは――『ザ・クマさんプロレス』

 

 「そのまんまじゃん……」

 

 完成した企画書のタイトルを見ながら、モグリンさんがポツリとつぶやきました。


第15話 常識はずれの企画

 

 「プロレスかぁ……」

 

 ファルコン社長は、ぼくとモグリンさんとで考えた『ザ・クマさんプロレス』の企画書に目を通しながら、そうつぶやきました。その表情はあまり企画にのっているかんじではありませんでした。

 

 「ぜったいうけると思いますよ社長! ヒットまちがいなしっ! モグモグッ!」

 

 モグリンさんはいつになく生き生きとした目で社長にアピールしました。

 

 社長は読み終えた企画書をぼくの机の上におくと、ゆっくりとイスにすわり腕を組んで天井を見つめました。そして、しばらく何かを考えてこう言いました。

 

 「プロレスのゲーム化は、他のゲーム会社でも考えているんだよ」

 「えっ、そうなんですか? じゃぁ、早く作らないと先をこされてしまいますね、モグッ!」

 

 モグリンさんがニコニコしながら言いました。

 

 「いや、その心配はないよ」
 「え? どういうことですか」

 

 ぼくとモグリンさんは声をそろえて社長にその理由をききました。社長は言葉を慎重に選びながらゆっくりとしゃべり始めました。

 

 「いいかい、ブブくん、モグリンくん。みんなが考えているのに、だれもゲーム化しないのはどうしてだと思う?」

 

 社長の質問に、ぼくとモグリンさんは顔を見合わせしました。

 

 「たしかに、言われてみればそうですね……」モグリンさんが答えました。

 

 「みんなが考えているのにだれもゲーム化しないのは、それなりの理由があるからなんだよ」

 「それなりの理由?」

 

 ぼくとモグリンさんはまた顔を見合わせました。

 

 「つまり、キャラクター同士がからみ合う――いわゆる『格闘もの』を題材としたゲームを作っても、現実の格闘のおもしろさが表現できるかどうか全くわからないし、かりにおもしろくなりそうな可能性があったとしても、今のコンピュータの性能じゃ格闘のアクション性は再現できない。 ――つまり、今のゲームの常識からはずれた企画ということなんだよ」

 

 (ゲームの常識?)

 

 ぼくは、その社長に言葉にひっかかりました。だって、常識なんかにこだわってたら、面白いものや新しいものは絶対できないと以前から思っていたからです。なぜなら、ぼくが尊敬するピカチョやビートルズンなんかの偉大なクリエイターたちは、世の中の常識や固定観念にこだわらず常に新しい作品を作り続けたのですから。ゲームだって同じはずです。

 

 「社長! お言葉をかえすようですが、決してそんなことはないと思います。常識はずれな企画だとは、ぼくは思いません」

 

 ぼくは勇気をふりしぼって社長に反論しました。モグリンさんをふくめ会社のなかま全員がいっせいにぼくの方を見ました。社長はぼくの反論に何かを感じたのでしょうか? 今まで見たことがないようなキビシイ表情でぼくを見つめました。それでもぼくはドキドキしながら反論を続けました。

 

 「たしかに本物のプロレスのようなアクション性の高いゲームはできないかもしれません。でも、フンイキは再現できると思います。フンイキでも遊べる可能性はあると思います」

 

 モグリンさんがあわてながら、ぼくのフォローしてくれました。

 

 「社長! コンピュータゲームはいろんな遊びの可能性をもっているはずです。フンイキを遊ぶ……つまり『ごっこ遊び』でもお客さんを楽しませることはできると思うんです。モグッ!」

 

 ガメコン社長は、ぼくとモグリンさんの勢いのある反論に圧倒されたのか、目を大きく見開きました。そして、また目を細め、しばらく考え込んだあとぼくらにたずねました。

 

 「君たちは『フンイキ』や『ごっこ遊び』がゲームになると、本気で考えているの?」
 「はいっ!」

 

 「それが必ずおもしろくなると、本気で信じているの?」

 「はいっ!」

 

 ぼくとモグリンさんは声をそろえて答えました。

 

 「そうか……」

 

 社長はそう言ってゆっくりとイスから立ち上がり、ひと呼吸しました。

 

 「申し訳ないが、今、この場で企画の合否はだせない。ちょっと考えさせてくれ……」

 

 そう言うと、ファルコン社長は社長室へもどって行きました。

 

 「どうですかね? モグリンさん」

 

 ぼくはモグリンさんに小さな声でききました。

 

 「う~ん、ちょっとキビシイかなぁ……。だって、あんな複雑な表情をした社長の顔って初めて見たし」

 

 モグリンさんは不安げに答えました。

 

 「モグリン、ブブくん、もっと自信をもてよ。今の社長だったら、きっと君たちの情熱に答えてくれるはずさ」

 

 一部始終を見ていたピコザさんが、ぼくらをやさしくはげましてくれました。

 

 「ボクは社長とのつきあいが長いから知ってますワン! 社長は世間の常識とか固定観念とがとてもキライで、いつも新しいことに挑戦してゆくのが好きなキツネさんなんですワン!」

 

 いつもは冷静なゼロワンさんも、めずらしくコーフンして鼻水をたらしながらはげましてくれました。

 

 「あたしもそう思う。ただ、社長は今とても迷ってると思うわ。会社の経営のこともあるからこれ以上危険はおかしたくない。でも、ブブくんやモグリンの情熱にもかけてみたいって……」

 

 ミーちゃんが社長の苦しい胸の内を代弁してくれました。

 

 「モグリン、ブブくん! さぁ、もう一度社長にアタックするんだ。自分たちが本当におもしろくなると考えつくしたものを情熱と信念をもって相手に伝える。それが企画屋の仕事じゃないのか?」

 

 (情熱と信念をもって相手に伝える――それが企画屋の仕事)

 

 ぼくはピコザさんのその言葉に感動しました。モグリンさんも感動したようで目をウルウルしていました。

 

 「さぁ、早く! 社長もそれを待っているのかもしれない。それでもダメだったらオレも君たちといっしょになって社長を説得するよ」
 「あたしも!」
 「ボクもですワオーン!」

 

 ピコザさん、ミーちゃん、ゼロワンさんの熱いはげましの心が、ぼくとモグリンさんに勇気を与えてくれました。

 

 (この企画は、ただのゲーム企画じゃない。『森のげえむ屋さん』のみんなの夢そのものなんだ)

 

 ぼくはモグリンさんに(やりましょう!)と目で伝えました。モグリンさんも(わかった!)と目で答えてくれました。そして二人で社長室のドアをノックしました。



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