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第9話 クリエイティブってなに?

 

 「もっと自由に考えたいなぁ! モグモグ~ッ!」

 

 とつぜんモグリンさんが大きな声でひとりごとを言いました。

 

 「どうしたんですか?」

 

 ぼくがモグリンさんにきくと、モグリンさんは頭の後ろに手をまわしてイスにふんぞりかえりながら言いました。

 

 「次のゲームの企画なんだけどさぁ、前回のゲームの流用(りゅうよう)にしてくれって、社長が言うんだよ」

 「りゅうよう? りゅうようって、どういう意味ですか?」

 「つまりぃ~、前回作ったゲームのプログラムをほとんど変えないで、見た目や遊び方だけを変えるということだよ」

 

 そう答えるとモグリンさんは、前から考えていた自信作の企画書を不満そうにポンと机の上にほうり投げました。

 

 「どうしてムカついているんですか? ラクそうでいいじゃないですか?」

 

 ぼくがそう言うと、モグリンさんはあきれた顔をしてぼくに言いました。

 

 「わかってないなぁ、きみは。そういう問題じゃないんだよ。オイラみたいな、つねに新しいものに挑戦したい企画屋にとっては、ちっともクリエイティブじゃないから楽しくないんだよ」

 

 「楽しくないって……。仕事だからしかたないと思いますが」

 

 モグリンさんはちょっとワガママなのかなぁ? と、ぼくは思いました。でも、モグリンさんの言ってることもわからないわけではないです。だってぼくだって、いつも同じ絵ばかりかかされて、かきたい絵をぜんぜんかかせてもらえなかったら、仕事に不満をもってしまうだろうなと思ったからです。

 

 「気持ちはわかりますワン!」

 

 横で話を聞いていたプログラマーのゼロワンさんがぼくたちに話しかけてきました。

 

 「ボクもモグリンさんが言うように、いろんな新しいプログラムに挑戦したいですワン。でも、そういう仕事をするには、もっと大きな会社にはいらないとむずかしいと思いますワン。なぜなら、それってお金もかかるしスタッフもたくさん必要ですからワン」

 

 するとモグリンさんが言いかえしました。

 

 「そうかなぁ~? クリエイティブなことをするって、お金とかスタッフの数の問題じゃないと思うけどな。どんな状況だろうがやる気さえあればできると思うよ」

 

 ゼロワンさんは、モグリンさんのもっともらしい意見に黙ってしまいました。

 

 「だったら、流用でもクリエイティブなゲーム企画は考えられるはずだよね

 

 とつぜん仕事場に入ってきたファルコン社長がモグリンさんに言いました。どうやら社長はとなりの社長室で、ぼくらの話をコッソリと聞きいていたようです。

 

 「モ、モグッ!?」

 

 モグリンさんは、すごくあわてた顔をして社長の方を振り向きました。

 

 「どんな状況だろうが、やる気さえあればクリエイティブなものは考えられる……。すばらしい考え方じゃないか、モグリンくん! じゃあ、やる気をだしてがんばってくれたまえ。期待してるよ」

 

 社長はニコリと笑ってモグリンさんの肩をポンポンとたたき、社長室へもどって行きました。

 

 「は、はいっ! がんばりますっ!」

 

 モグリンさんは、さっきとはまるでちがった態度で元気よく社長に答えました。それを見ていたぼくとゼロワンさんは、なんかおかしくなって、思わずプッとふきだしてしまいました。

 

 「な、なにが、おかしいんだよぉ~!」

 

 モグリンさんは顔を真っ赤にして、机の上にほうり出していた自信作の企画書を引き出しの中にしまうと、ブツブツ言いながら流用ゲームの企画書を書き始めました。


第10話 ロケテストの試練

 

 『森のげえむ屋さん』で作っているゲームは『アーケードゲーム』といって、ゲームセンターで遊ぶためのものです。

 

 ぼくはテレビゲームって、ゲームセンターでしか遊ぶことができないものと思っていました。でも、モグリンさんが言うには自宅でもテレビゲームは遊べるそうです。ただ、それを遊ぶための機械の値段がとても高く、おまけにゲームセンターのようなおもしろいゲームソフトがまだまだ少ないそうです。

 

 「でも、いつかは、値段が安くてゲームセンターのゲームが遊べる家庭用ゲーム機が必ず発売されると思うよ。そうしたら、そのゲーム機はものすごく人気がでるだろうね。だって、ゲームセンターみたいにお金を気にせず、ゆっくりと遊べるから」

 

 そう言っていたモグリンさんの目は、いつになくかがやいていました。

 

 さて、さて――。

 

 モグリンさんが考えた流用ゲームの『どきどきドミー』は、あっという間に完成しました。だって、前に作ったゲームのルールとグラフィックを変えただけなんですから。でも『見ため』が違うとぜんぜん別のゲームに見えてしまうから不思議なもんです。

 

 「さあ、ロケテストだ。いくらいくかな?」

 

 完成したゲームを見ながらファルコン社長が言いました。

 

 「ロケテストって、なんですか?」

 

 ぼくは社長にききました。

 

 「ああ、そうか。ブブくんは初めてだったね。ロケテストというのはね、このゲームをゲームセンターにおいて、何人のお客さんが遊んでくれたかを調べるテストのことだよ」

 

 ゼロワンさんが続けて言いました。

 

 「インカムがいいと、ロケテストは成功となりますワン!」
 「えっ? イン…カム?」

 

 インカムの意味がわからないぼくに、横にいたミーちゃんが教えてくれました。

 

 「収入のことよ。お客さんがゲームを遊ぶために払ってくれたお金のこと」
 「なるほど~。で、どれくらいのインカムがあればテストは成功なんですか?」

 

 こんどは社長が答えてくれました。

 

 「そうだなぁ……。 1日で5000円以上だったらOKかな? もし、10000円以上だったら大成功だよ。そうなったら、たくさんのゲームセンターがそのゲームを買ってくれるから大もうけできるんだ」

 

「大もうけ! よいひびきですねぇ。『どきどきドミー』もインカムがよいといいですね!」

 

 ぼくはちょっとワクワクしてきました。

 

 

 そして、次の日――

 

 ぼくはモグリンさんといっしょに、ロケテストが行われている街のはずれの小さなゲームセンターへ行きました。

 

 その店は、ほかにもたくさんのロケテストがおこなわれているようで、『新作登場!』と書かれたポップという小さな紙の看板が、あちらこちらのゲームテーブルの上に置かれていました。もちろん、ぼくらのロケテスト用のゲーム『どきどきドミー』のゲームテーブルの上にも。

 

 ぼくとモグリンさんは客のふりをしてテストのようすを観察することにしました。ああ、なんかドキドキしてきました。

 

 30分たちました――

 

 まだ、だれもぼくらのゲームを遊んでくれません。

 

 1時間たちました――

 

 店に入ってきた1匹のカバのお客さんが、『どきどきドミー』の前で立ち止まり、じっくりと見たあと、イスにすわって100円玉を入れて遊び始めました。

 

 (やったあ!)と、ぼくは心の中でよろこびました。しかし、カバさんはすぐにゲームオーバーになったようです。するとカバさんはヌッと立ち上がって「クソゲー…」とボソリとつぶやくと、怒ったように別のゲームテーブルへ移動してしまいました。

 

 ぼくは、モグリンさんの方を横目で見ました。モグリンさんはとてもキズついた顔をしてうつむいていました。

 

 しばらくすると、4匹の猿の学生さんたちがキーキーとさわぎながら店の中に入ってきました。そして1匹の猿の学生さんが『どきどきドミー』を見つけると、「なんだこりゃ?」と言いながらゲームテーブルにつき遊び始めました。

 

 (こんどは、どうかな?)

 

 そう思いながら、ぼくは横目でチラチラと学生さんたちの方を観察しました。

 

 どうやら、その学生さんも前のカバさんと同じように、すぐにゲームオーバーになったみたいで、テーブルをバンとたたいて「ムキーッ! つまんねえ!」とわめきました。横で見ていたなかまの学生たちも「絵もヘタだしなぁ~」「クソゲー」とののしりました。そして、さんざんぼくらのゲームの悪口を言って外へ出てゆきました。

 

 ぼくは自分がかいた絵をけなされてショックをうけました。でも、モグリンさんは、ぼくよりもショックをうけたらしく、落ち込んで深~くうなだれていました。

 

 それから3時間後――

 

 ぼくとモグリンさんは、ずっとロケテストの様子を観察していましたが、結局、お客さんは5匹もついてくれませんでした……。

 

 「会社にもどりましょうか?」

 

 ぼくがモグリンさんにそう言うと、モグリンさんは「先にもどっていいよ……」と、とても暗い顔をしながら言いました。

 

 「じゃあ、お先に……」

 

 ぼくは、そう言って店を出て会社へと向かいました。でも、ちょっとモグリンさんのことが気になったので、再びゲームセンターへもどって店の中をのぞいてみました。

 

 モグリンさんはテーブルの上にたくさんの100円玉を積み上げてゲームをやってました。でも、そのゲームはロケテストをしていた『どきどきドミー』でした。

 

 (あ、モグリンさん、それってインチキだよ……。でも、ないしょにしとくね……)

 

 ぼくはさびしい気持ちになって店からはなれました。

 

 結局、3日間やったロケテストは、さんざんな結果に終わりました。

 

 たしかに流用で作ったゲームだったけど、モグリンさんは少しでもおもしろくなるようにと、いろんなアイデアを出してがんばってました。でも、そんな努力もインカムが悪いとなんの意味もないようです。現実はきびしいです。

 

 (企画屋ってタイヘンだなぁ……)

 

 ぼくは、体調が悪くなったと言って会社を休んでしまったモグリンさんの机を見ながら、ゲーム作りのきびしさを実感しました。


第11話 社長のお願い

 

 「ブブくん。きみに話したいことがあるから、今夜食事につきあってくれないか?」

 

 仕事を終えて帰ろうとするぼくに、ファルコン社長が言いました。

 

 「え? あ、はい。わかりました」

 

 (話ってなんだろ? なんか仕事でヘマでもやらかしたっけ?)

 

 その夜――

 

 ぼくは都会の森で一番にぎやかな『かぶく町通り』にあるお寿司屋さんへ連れてってもらえることになりました。

 

 (やったあ! お寿司なんて何年ぶりだろう? ぼくの大好きな『生イチゴの軍艦巻き』が食べられるぞ。ブブー!)

 

 ぼくは社長の話のことよりも、お寿司のことで頭の中がいっぱいでした。

 

 夜の『かぶく町通り』はたくさんの動物たちで混雑し、とてもにぎやかでした。ただ、通りのあちらこちらに立っている黒いスーツを着た目つきの悪い狼さん達が、ちょっと怖かったです。

 

 「ブブくん。お寿司屋へ行く前に、ちょっと寄りたい店があるから付き合ってくれ」

 

 「もちろんです!」とぼくが答えると、社長は通りからちょっとはずれた場所にあるゲームセンターみたいな店に入りました。

 

 店の中にはゲームテーブルがずらりとならんでいましたが、なぜかそのすべてが『ポーカーゲーム』でした。

 

 「さてさて、どんな感じかな?」

 

 社長はそう言うと、受け付けカウンターに立っている狼のお兄さんからポーカーゲーム専用のコインを買い、ゲームテーブルについてゲームを始めました。そのゲーム機はゲームに勝つと中からコインがジャラジャラと出てくるタイプのものでした。ぼくは社長の向かいのイスにすわりゲームのようすを見守りました。

 

 ぼくは驚きました!

 

 社長は、まるでコンピュータ側のもち札をすべて知ってるかのように勝ち続け、あっという間にテーブルの上は勝ち取ったコインでいっぱいになりました。

 

 「う~む……。ちょっとヤバイかな……」

 

 社長はそうつぶやくと、勝ち取ったコインを持ってカウンターまで行き、それをさっきの狼のお兄さんにわたしました。するとお兄さんはそのコインと引き換えに社長に何かをわたそうとしましたが、なぜか社長はそれを拒んで受け取りませんでした。

 

 (なにしてんだろ?)

 

 けげんな顔をするぼくに社長は「いやぁ、今夜はついてたな!」と笑いながらぼくの肩をポンポンとたたきました。

 

 ぼくは、もしかしたら社長は本物のお金をかけるギャンブルゲームをやってたんじゃないかと思いました。でも、お金を受け取ったようすもなかったので、とりあえずこれは見なかったことにしようと思いました。そして、ぼくと社長は店を出てお寿司屋へと向かいました。

 

 (すごい! 回ってない!)

 

 ぼくは、そのお寿司屋が『回るお寿司屋』じゃなかったことにとても感動しました。お店のカウンターの席についた社長が、おてふきで手をふきながら言いました。

 

 「ブブくん。えんりょせずに、なんでも好きなものを食べていいぞ」

 

 (なんでも好きなもの?)

 

 ぼくは、その言葉が神さまの御言葉(みことば)に聞こえました。

 

 「す、すみません。生イチゴの軍艦巻き、おねがいします」

 

 ぼくは勇気をだして店の板前さんに注文しました。(ぼくは昔からお寿司屋の板前さんに注文するのが苦手なのです)

 

 「へいっ! イチゴ軍艦おまち!」

 

 板前さんがお寿司をぼくの目に前に出すと、ぼくは、すかさずそれを口にほおばりました。

 

 (おいひぃ~……)

 

 いったい何年ぶりでしょう。ひさしぶりに食べた『生イチゴの軍艦巻き』のおいしさに、ぼくの大きなホッペは今にも落っこちそうになりました。

 

 (ああ~…… し・あ・わ・せ!)

 

 その後も続けて『生イチゴの軍艦巻き』ばかり注文したので、社長や店の板前さんに笑われてしまいました。

 

 「ブブくんに、たのみたいことがあるんだが」

 

 ビールで顔をほんのり赤くした社長がぼくに話しかけました。

 

 「なんでしょう?」
 「ゲームの企画をやってくれないか? 以前から思ってたんだが、君のアイデアはなかなかおもしろいと思うんだ」
 「えっ、企画ですか? でも企画ならモグリンさんがいるじゃないですか」

 

 社長はビールをゴクリと飲んで言いました。

 

 「モグリンくんといっしょにやってほしいんだ。もちろんモグリンくんの企画が悪いと言っているわけじゃないんだよ。でも、ちょっと……」

 「ちょっと……なんですか?」

 「はっきり言うと、モグリンくんは『おたく』で、ちょっと自分の趣味にはしりすぎなんだ。私としては、もっとお客さんたちがやりたがってるゲームを企画してほしいんだが。でも、ブブくんは『おたく』じゃないアイデアマンだから、もしかしたら、ふたりが協力し合えば売れる企画が期待できるかなと思ってね」

 

 「なるほどぉ……。でも、ぼくが企画の仕事をしたら絵は誰がかくんです?」
 「たいへんかもしれないけど、絵もやってほしい」

 

 (え~っ!? ずいぶん働かせるなぁ)と、ぼくは思いました。でも、すぐにミーちゃんが言ってた『会社が困っているから助けてあげるの』という言葉を思い出し、ちょっと大人になって不満を言うのはやめ、ここは、こころよく引き受けておこうと思いました。

 

 「わかりました。ぼくでよければ、がんばります」
 「そうか! そいつはありがたい。さあ、お寿司をじゃんじゃん食べてくれ!」

 

 社長はとてもごきげんになり、ぼくが『もう食べられないよ~』と夢でうなされそうになるくらい、たくさんのお寿司をごちそうしてくれました。

 

 「じゃあ、明日からよろしくたのむ。会社を救ってくれ!」」

 

 お寿司屋から出た社長は別れぎわにそう言って、夜の『かぶく町通り』の雑踏の中へ消えてゆきました。

 

 「がんばりま~す! ブブーッ!」

 

 そう言って1匹になったぼくは、ふと、社長が別れぎわに言った「会社を救ってくれ」という言葉が、みょうに頭にひっかかりました。

 

 (『会社を救ってくれ』って、ずいぶん大げさだなぁ……)

 

 お寿司につられて企画の仕事を引き受けたぼくでしたが、その仕事がとんでもなく大変なものになるとは、その時のぼくには想像することができませんでした。


第12話 会社のピンチ

 

 たいへんなことがおこりました!

 

 その日、いつものようにぼくが会社に出勤すると、会社の入口前の廊下に、黒いスーツを着て怖い顔をした狼さん達が10匹ぐらいズラリとならんでいたのです。

 

 最初は、ぼくの会社とは関係ないんだろうと思ってたんですが、ぼくが会社の入口のドアノブに手をかけるやいなや、

 

 「おつかれさまっす!!」

 

 と、その狼さんたち全員がいっせいにぼくに向かって、スゴミのきいた声であいさつをしたんです。

 

 (な、なんだよぉ~? こわいよぉ~。ブブ~……)

 

 ビビりながら会社の中に入ると、すでに出社していたなかまたちが凍りつくかのように机のイスにすわっていました。

 

 「ピコザさん。 なにがおこったんですか?」

 「どうやら、仕事のクライアント(依頼人)からクレームがはいったらしい。しかし、クライアントがあんな連中だったとは……。オレも知らなかったぜ」

 

 ピコザさんはそう言いながら社長室のドアに向かって首をふりました。部屋の中からファルコン社長とだれかが、なにやらボソボソと話し合っている声が聞こえました。そして、その会話に聞き耳をたてていたゼロワンさんが言いました。

 

 「どうやら、クライアントさんは『確率』に対して不満みたいですワン」

 

 「確率って、先月作ったポーカーゲームの?」ピコザさんがゼロワンさんにききました。

 

 「はい。確率の『裏モード』がかたよりすぎるって、抗議にきているみたいなんですワン」

 

 「『裏モード』ってなんですか?」ぼくはゼロワンさんにききました。

 「えっ?」

 

 ゼロワンさんは、ちょっと気まずそうな顔をしました。ぼくはその顔を見て『ははぁ、あまり良いことではないんだな』と直感しました。

 

 「はやい話しが『インチキができるしかけ』ってことだよ~。モグモグ……」

 

 モグリンさんが緊張したうわずった声で答えました。顔がひきつり額に汗がにじんでいます。ぼくはそれを聞いて、先日、社長がポーカーゲームで楽勝したことを思い出しました。

 

 (だから社長は、あの時「ちょっとヤバイかな」って言ってたのかな?)

 

 ぼくはなんかイヤな気分になってきました。それが顔に出たんでしょう。ピコザさんが気を使ってぼくに言いました。

 

 「気にするな、ブブくん。インチキといっても、あくまでコンピュータの強さの確率を調整するだけで、100パーセント思い通りにするインチキじゃないから」

 

 ピコザさんに続いてゼロワンさんも説明します。

 

 「そうなんですワン! 完全なる『確率のインチキ』なんて今のプログラム技術では不可能ですワン。いや、たぶん未来も。もしそれができたら、それは確率とは言えませんワン。そのことがあのクライアントさんには理解してもらえないんですワン」

 

 ゼロワンさんの言ってることは、ぼくにはよくわかりませんでした。でも正直言って、そんな理屈を言ったところで『インチキなしかけを作る仕事』を受けたことは正当化できないんじゃないのかなぁ、と疑問に思いました。

 

 しばらくすると社長室のドアが開き、中からでっぷりと太った狼のおじさんが出てきました。ぼくは一目見て、廊下にならんでいた怖い狼さん達のボスだとわかりました。でも、意外だったのは、ボスのわりにはやさしげな顔をしていて、そのあたりにいるフツーのおじさんとあまり変わらなかったことです。

 

 「話しはわかった。じゃあ、がんばってくれよ、社長!」

 

 狼のボスは大声でそう言うと、ぼくらに『おつかれさん!』と声をかけながら会社から出て行きました。

 

 「ふう~……。まいったな……」

 

 社長室から疲れきった顔をした社長が出てきました。そして心配そうな顔をしたぼくらに向かって言いました。

 

 「心配かけてすまなかった。もう2度とギャンブルゲームの仕事は引き受けないから。いやぁ、でも事情を説明するのが大変だったよ。殺されるかと思ったぞ。ハハハハ……」

 

 「どうして、笑っていられるんですか?」

 「え? いや、その……。冗談だよ、ミーちゃん」

 「みんなにあやまってください! 社長!」

 

 さっきまで怖くてずっとふるえていたミーちゃんが、とつぜん社長に向かって大きな声を出しました。みんなはいつものミーちゃんらしくない行動にビックリしました。

 

 「す……、すまん」

 

 社長はミーちゃんの抗議に真顔になり、いつもの社長らしくない弱気な声であやまりました。

 

 「あたし、社長のことを本当に心配してたんですよ……。会社にお金がないのは知ってました。それでもみんなにお給料を出そうと、社長があんな仕事を無理に引き受けたことも知ってました。それには感謝してます。でも……、もうちょっと、みんなの気持ちも大切にしてほしかったです……」

 

 そう言い終わるとミーちゃんは大粒の涙をこぼしながら、はらはらと泣き始めました。

 

 ミーちゃんの話で『ことの真相』を知ったみんなの表情は暗くなりました。特にモグリンさんの表情は暗く、その目には涙が光っていました。

 

(なんでモグリンさんまで泣くんだろう……?)

 

 もしかしたらモグリンさんは、会社があんな仕事を引き受けてしまったのは、自分の企画したゲームがぜんぜん売れなかったせいだと思い、つらくなったのかもしれません。

 

 「いやな仕事だったのに、きみたちは不満のひとつも言わずにがんばってくれた。なのに、私はきみたちの気持ちも考えず傷つけてしまった。ほんとうにすまない……。私は社長失格だ……」

 

 社長はそう言うと、みんなに深々と頭を下げました。そして社長室へもどろうとドアを開け、立ち止まって元気のない小さな声でこう言いました。

 

 「もう、こんなところで働きたくないと思った社員は、遠慮しないで私に言ってくれ……。ムリに引き止めたりはしないし、退職金もがんばって出すから……」

 

 社長のその言葉にみんなは驚き目を大きく見開きました。部屋の中の時間が止まってしまったような気がしました。

 

 しばらくして、ピコザさんがフッとため息をついて言いました。

 

 「悪いが、オレはやめないよ……」

 

 社長をふくめ、みんながピコザさんの方を向きました。止まっていた時間が再びゆっくりと動き始めました。

 

 「まあ、小さな会社が生きてゆくためにはいろいろあるさ。時には生きてゆくために危ない橋もわたるだろう。でもオレは信じている。社長を。いや、オレがこの会社にはいるときに社長がオレに語ってくれた社長のゲームに対する夢を。それに、オレ、会社をやめても行くところがないしな……」

 

 「ピコザくん……」

 

 社長の手がちいさく震えていました。

 

 「あたしもちょっと言い過ぎました。ごめんなさい……。あたし、この会社が好きです。だから、もう少しここにいさせてください」

 

 ミーちゃんが涙をふきながら笑顔で言いました。

 

 「ぼ、ぼくもやめましぇん……。今度は絶対ヒットするゲームを企画しましゅから、ここにおかしてくだしゃい……グシュッ……」

 

 モグリンさんが涙と鼻水をダラダラ流しながら言いました。

 

 「もちろんぼくもやめませんワン! もし、またあのような仕事がきたら、今度はもっとバランスの良い確率プログラムをぜったい作ってみせますワン!」

 

 ゼロワンさんはそう言うとグッとこぶしを握りしめ、固く決意したような表情で天井を見上げました。(ゼロワンさんは、びみょうに空気が読めていないようです……)

 

 「ぼくもやめません。いや、やめられません。だって、先日、社長にお寿司をごちそうになった時に「企画でがんばります」って、約束したばかりですから」

 

 みんながそう答えると、社長は「そうか……。わかった」と言って社長室の中へ入って行きました。

 

 しばらくして、社長室の中から小さくすすり泣く声が聞こえてきました。


第13話 企画会議

 

 「たまにはお酒でも飲みにいかない?」

 

 ぼくは自分の耳をうたがいました。だって、あの『動物づきあい』の悪そうなモグリンさんがぼくをお酒にさそってくれたからです。

 

 「あ、ブブくん。もちろん『わりかん』だよ」

 「だれもおごってくれとは言ってませんよ!」

 

 ぼくはちょっとカチンときて、そのさそいを断ろうと思いましたが、大人げないのでやめました。

 

 その夜、ぼくはモグリンさんがよく行くというお店に連れてってもらいました。そのお店は『夏葉原』という電気街の裏通りにありました。

 

 『もえもえ』という名まえのそのお店は、壁一面にアニメやマンガ、映画のポスターがはられ、アニメのコスプレをした常連客でにぎわっていました。いかにもモグリンさんが好きそうなお店というかんじです。

 

 ぼくはてきとうに空いていた席にすわろうとしましたが、モグリンさんが「ここはうるさいから、もっと静かな席へゆこう」と言って、ぼくを店の1番奥の席へ連れて行きました。その席の横には『魔女っ子モエちゃん』の等身大フィギュアが立っていました。(なんだ、目的はそれかい……)

 

 「いつものやつ、お願いね!」

 

 モグリンさんは、いかにも常連っぽくカウンターにむかって注文しました。

 

 「ブブくんは?」

 「いつものやつって、何なんですか?」

 「ミルク猿酒だよ」
 「じゃあ、ぼくも同じものを」
 「同じもの? つまんないやつだなぁ~。クリエイターたるもの、すぐ人のマネをするようじゃダメだぞ、モグッ!」

 

 (そんな、おおげさなものかな?)とぼくは思いましたが。

 

 ぼくらはテーブルに置かれたミルク猿酒のグラスを手にもちカンパイしました。モグリンさんはそれをグイッと飲むと、おじさんみたいに「ぷは~」と酒くさい息をはき出しました。

 

 「社長から話しは聞いたよ。ブブくんも企画をやるんだってね」
 「ええ、モグリンさんのお手伝いをしろって。よろしくお願いします」
 「う~ん。でも、だいじょうぶかなぁ~? きみみたいな企画の素人(しろうと)が…ヒック!」

 

 もうお酒に酔って赤ら顔になったモグリンさんは、まるで別の動物のように自信満々な態度でぼくに言いました。どうやら、モグリンさんはお酒に酔うと態度が大きくなるみたいです。ぼくはモグリンさんに言いました。

 

 「モグリンさん、こんどの企画がヒットしないと会社は……」
 「わかってるよっ! 君に言われなくても。オイラだって売れるゲームを企画したいんだよ! モグモグッ!」

 

 モグリンさんは突然怒ってぼくに言い返しました。どうやらモグリンさんはお酒に酔うと怒りっぽくなるみたいです。

 

 「ああ、でもなぁ……。オイラも一生懸命考えてるんだけど、うまくいかないんだよなぁ~。オイラって才能ないのかなぁ~。もう、やめちゃおうかなぁ~ゲーム業界。ううっ、グスン……」

 

 モグリンさんは突然泣き声になってグチり始めました。どうやらモグリンさんはお酒に酔うとメソメソするみたいです。――っていうか、モグリンさん酒グセ悪すぎ!

 

 「オイラ、自分で言うのもなんだけど、かなりの『おたく』だから、すぐ自分の趣味にはしった企画を考えちゃうんだよなぁ……」

 

 (へぇ~。モグリンさんって、いちおう『おたくとしての欠点』を自覚してるんだ。ちょっと意外だな)

 

 「たしかに趣味にはしるのはどうかと思いますが、自分がやってみたいことを企画するのはダメなんですか?」
 「ダメだろね。自分がやってみたいことと、世間のお客さんたちがやってみたいことが一致するとはかぎらないからね。『お客のニーズ(要求)』と『開発側のシーズ(提供)』の違いって言うのかな。わかる? やはりニーズの方が大切だよ。でも、注意しなければならないのは、
ニーズに答えてばかりいたら独創性のある企画が生まれづらくなる危険性もある。つまりだな、ニーズとは……」

 

 (はぁ~……。そこまでわかっているんだったら、お客さんのニーズにあった企画を素直に考えればいいのに……)

 

 ぼくは、モグリンさんの『理屈っぽい話』につきあうのが面倒くさくなり、話題を変えようと思いました。

 

 「ところでモグリンさん。今、世間では何がはやってると思います?」
 「はやってるもの? そうだなぁ……。『クマさんプロレス』なんかは人気があるよね」
 「それってテレビゲームにできると思いますか?」
 「え? プロレスをゲームに?」

 「世間で人気があるものをゲームにすることができれば、みんなが遊んでくれる可能性が高くなるんじゃないですか? うまくゆけば大ヒットも期待できるし」

 

 モグリンさんは、まるで今まで解けなかった算数の問題が解けたようなハッとした目をしました。

 

 「なるほどっ! その手があったか!」

 

 モグリンさんの言う『その手』が、いったい『どんな手』なのかぼくにはわかりませんでしたが、そんなに驚くほどの意見ではないんじゃないかな? と思いました。

 

 「う~ん、でもなぁ~。どうなんだろ? はたしておもしろいゲームになるのかなぁ……」

 

 (あれ? いきなりトーンダウンしてるし)

 

 ぼくはアイデアにのってるのか、のってないのかよくわからない優柔不断(ゆうじゅうふだん)なモグリンさんの態度に、ちょっとイラッとしながら言いました。


 「だ・か・ら! それをおもしろくするのがぼくらの仕事なんでしょ? モグリンさん!」

 

 ぼくもお酒に酔ってちょっと気が大きくなってきたんでしょうか。ああ言えばこう言う煮えきらない態度のモグリンさんにガツンと言ってやりました。モグリンさんは、ちょっとビックリして目をまんまるにしました。

 

 「な、なるほど……。なかなかいいこと言うじゃないか、ブブくん」

 

 モグリンさんは企画の先輩であるプライドをたもつために、ぼくにガツンと言われた動揺をかくそうとしたみたいですが、声がおどおどしてバレバレでした。

 

 「よしっ、ブブくん! 新企画は『プロレス』でいってみようぜ! 明日から企画書をパパッと書いて社長に見せてみよう!」
 「え? もう、決まりですか?」
 「そ! 決まり、決まり。企画ってヒラメキが大切! ヒラメキ90%、理屈10%!」
 「そんなもんなんですか?」
 「そ! そんなもん。大ヒットする企画ってそんなもんだよ。理屈でこねあげた企画なんて、たいていうまくいかない」

 「ほんとうですか?」

 「信じろ! 理屈っぽいせいで、ヒットゲームの企画が1本もあげられないオイラが言うんだからマチガイないって! ――ところでブブくん、あの映画、見た?」

 

 企画の話しは、あっという間に終わり、あとはモグリンさんの『映画おたく話』が長々と続きました。モグリンさんは企画の話より、そっちの方の話し相手がほしくてぼくをお酒にさそったんじゃないかなと思いましたが、モグリンさんの楽しげな表情を見ているとつい帰れなくなり、おかげさまで終電に乗り遅れそうになりました。

 

 (あの企画、自信はすごくあるんだけど、あんなノリで決めちゃってよかったのかなぁ? 会社の運命がかかっているというのに。もっと慎重に考えるべきだったかなぁ。でも、まぁいっか! モグリンさんの言う『ひらめき』というものを信じてみよう……)

 

 ぼくは、終電の車窓の外に流れてゆく夜ふかしな街の夜景を見ながら、あの企画にかけてみようと決意しました。



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