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第1話 ぼくはテレビゲームがきらいです

 

 ぼくの名まえはブブ。

 

 一流のイラストレーターをめざして『田舎の森』から『都会の森』へ出てきました。でも、都会ってきびしいですね。ぼくよりも上手なイラストレーターがたくさんいるせいか、思ったようなイラストの仕事はなかなか見つかりませんでした。

 

 そうこうしているうちに、持ってきた生活費も底をつきはじめ、このままでは生活ができなくなりそうなので、とりあえずなんでもいいから仕事をさがそうと思いました。そして、本屋さんで買ってきた仕事情報誌をパラパラとめくっていると、ある宣伝コピーに目が止まりました。

 

 『イラストレーター募集! 今やテレビゲームはゴールドラッシュ!』

 

 そのページには、あるテレビゲーム会社がイラストレーターを募集する記事が書かれていました。


 「ブブー! やったぁ。ついにイラストの仕事を見つけたぞ!」と、ぼくは大喜びしましたが、ただ、その会社がテレビゲームを作っているというところが、ちょっと気になりました。

 

 「だって、ぼく、テレビゲームがきらいなんです」

 

 その理由ですが――

 

 むかし、ぼくの故郷の『田舎の森』にあった小さなゲームセンターに『マンベーダー』という動物が悪い人間達をやっつけるテレビゲームがはいりました。すると、それまで一緒に遊んでた友だちがそのゲームに夢中になり、それをプレイするために毎日のようにゲームセンターにひきこもってしまったんです。ぼくもその友だちにつきあって、そのゲームをやってみたことがありますが、どうもヘタくそなのか、すぐにゲームオーバーになってしまいます。

 

 (こんなもののどこがおもしろいのかなぁ? みんなで外で遊んだ方が、ずっと楽しいのに……)

 

 ぼくは『マンベーダー』に夢中になっている友だちの丸まった背中を見ながら、そう思いました。そして、その日から、ぼくから友だちをうばいとったテレビゲームがきらいになってしまったというわけです。まぁ、俗に言う『さかうらみ』というやつなんでしょうが……。

 

 (でも、ゲームがきらいだからといって、せっかくの仕事のチャンスをムダにするのも、もったいないしなぁ。う~ん……)

 

 ぼくは悩みました。そして、よく考えてひとつの答えをだしました。

 

 (とりあえずこのままじゃ生活できなくなるから、わがままを言うのはやめよう。テレビゲームはもうかるらしいから、もうかったらさっさと会社をやめて、そのお金で本当にやりたいイラストの仕事が見つかるまで生活すればいいや)――と。

 

 ちょっとズルイかな? と思いましたが、ぼくにも『したたかに』生きてゆく権利があるはずだと自分を納得させ、とりあえずその会社の面接を受けることにしました


第2話 面接

 

 面接を受けるテレビゲームの会社は『森のげえむ屋さん』という名まえで、『都会の森』の一番にぎやかな場所から少しはなれた所にある、おんぼろマンションの3階にありました。

 

 会社の入口のドアベルをチリンチリンとならすと、中から「はあ~い!」と言いながらネコの女の子が出てきました。

 

 「あ、面接のかたですね? おまちしてました。中へどうぞ!」

 

 ネコの女の子はニコニコしながらぼくを会社の中へとおし、応接用のソファーにすわらせました。中はちょっと広めのワンルームで、そこで4匹の会社員が仕事をしていました。


 一番近くの机にいたのは、ヘッドフォンをかけた、ちょっとこわい顔をした鳥さんで、パソコンの画面を見ながらリズムにのって首をフリフリしていました。

 

 そのとなりには、丸いメガネをかけたネクラそうなモグラさんが、なにかブツブツとひとりごとを言いながらパソコンのワープロを打っていました。

 

 さらにそのとなりには、とてもまじめそうなフンイキの犬さんが、ものすごいスピードでパソコンのキーボードをカタタタタ……と、機関銃のように打っていました。

 

 そして、一番おくの窓際の机にいたのが、30歳すぎぐらいのキツネさんで、窓の外の青空をジ~ッと見つめていました。

 

 (なんか、ずいぶん小さな会社だなぁ。それに、みんなへんな動物さんばっかりだし。ネコの女の子はかわいいけど……)

 

 ぼくは、ちょっと不安になってきました。

 

 「社長。おみえになりましたよ!」

 

 ネコの女の子がキツネさんにそう言うと、そのキツネさんはスクッと立ち上がり、キビキビとした歩き方でぼくのもとへやってきました。どうやらそのキツネさんは、この会社の社長さんだったようです。

 

 「ようこそ。私はこの会社の代表をやっておりますファルコンともうします。では、さっそく履歴書と作品を見せていただけますか?」

 

 ファルコン社長はそう言うと、ぼくがわたした履歴書と作品に目をとおしはじめました。

 

 仕事をしていた社員たちはぼくのことが気になったのか、全員でぼくのことを横目で見ていたようで、ぼくがみんなの方をみるといっせいに目をそらしました。

 

 「テレビゲームはお好きですか?」

 

 履歴書を読んでいたファルコン社長が、顔を上げてぼくに質問をしました。

 

 「ブ? あ、はい。もちろん!」

 

 ぼくはウソをつきました――。

 

 けっこう自分は『したたか』だな、と思いました。

 

 「ブブさん、イラストがお上手ですね。ただ、うちでは紙の上には絵をかきませんが、それでもかまいませんか?」

 「ブ? どういうことですか?」

 

 ぼくは社長の言っていることの意味がわかりませんでした。

 

 「じゃあ、こちらへどうぞ」

 

 ファルコン社長はそう言うと、ぼくをキーボードを機関銃のように打ちまくっている犬さんのそばまでつれていきました。犬さんの横にはなぜかゲームセンターにあるゲームテーブルが置いてありました。

 

 「ゼロワンくん。ツール、たちあげてくれる?」
 「わかりましたワン!」

 

 ゼロワンという名まえの犬さんが、かろやかにキーボードを打つと、となりに置いてあったゲームテーブルのテレビ画面に不思議な『マス目もよう』があらわれました。

 

 「ここに絵をかいてもらうんです」
 「ブ? ここに……ですか?」

 

 ぼくが不思議そうな顔をすると、ファルコン社長がふたたびゼロワンさんに「あれを見せて」と言いました。ゼロワンさんは「わかりましたワン!」と答え、またかろやかにキーボードを打ちました。

 

 すると、テレビ画面の『マス目もよう』の中に、カクカクした猿さんの絵があらわれ、それがピコピコと単純なアニメで動きはじめました。ぼくはビックリしました。

 

 「これは、ドット絵というんですよ」

 

 ビックリして口をあんぐりと開けているぼくの顔を見ながら、ファルコン社長はそう言いました。


第3話 ドット絵とコンピュータ

 

 テレビ画面に表示されている『マス目もよう』は、縦長の長方形のマスが縦に16列、横に16列ならんでいました。ファルコン社長はさらに説明します。

 

 「この『ドット』いうマスのひとつひとつを塗りつぶしながら、絵をかくんですよ」

 

 ぼくはその話を聞いて、小さいころにお父さんに連れてってもらった銭湯で見た『タイル画』を思いだしました。

 

 「ブブさん。ちょっとかいてみますか?」
 「え? どうやってかくんですか?」
 「テーブルの側面についているゲームレバーを動かしてドットを選び、ボタンを押してください」

 

 言われたとおりにやってみると、ドットのひとつに色がつきました。

 

 「そうそう! その調子で色をつけていってください。色を変えたいときは、マス目の横にあるパレットから選んでください。全部で7色あります。時間をさしあげますから何か自由にかいてみてください」

 

 そう言うとファルコン社長は席をはずしました。ぼくはドットをポチポチとひとつひとつ塗りつぶしながらロボットの絵をかいてみました。

 

 「ワンワン! わぁ、うまいですね! では、かんたんなアニメも作ってみませんか?」

 

 ぼくの作業をそばで見ていたゼロワンさんが言いました。

 

 「アニメ? そんなのができるんですか」
 「ええ。では、その絵をいったんセーブしますワン」
 「セーブ?」
 「次に新しい画面を出しますから、ちがうポーズのロボットの絵をかいてみてくださいワン」

 

 ゼロワンさんが何をしようとしてるのかぼくにはわかりませんでしたが、とりあえず言われたとおりにかいてみました。

 

 しばらくして、ロボットが走るポーズの絵ができたので、ゼロワンさんにそれをつげると、彼は「ワン!」と言ってキーボードをカターン!とたたきました。

 

 すると、どうでしょう。さきほどかいた立っているロボットの絵と、今かいた走っているロボットの絵が2パターンのアニメとなって画面にあらわれたのです。

 

 「ブブー! わぁ、走ってる走ってる!」

 

 ぼくは、いとも簡単にアニメがつくれたことに感動しました。

 

 「ワン! いい走りっぷりですね! 今のテレビゲームのキャラクターのほとんどは、こうやってかかれているんですワン」

 

 ぼくはゲームはきらいだったけど、ゲームのドット絵をかくのはおもしろそうだなと素直に思いました。

 

 「ほぉ! これははじょうずだ。合格ですね。どうです、ブブさん。私たちといっしょにテレビゲームを作ってみませんか?」

 

 もどってきたファルコン社長が、ぼくがかいたドット絵のアニメを見ながらそう言いました。

 

 「なんか、おもしろそうですね! ブブー!」

 

 ぼくは興奮しながらそう答えました。

 

 「ワン! コンピューターはこれからどんどん進化しますから、これから、もっと、もっと、おもしろいことができるはずですワン!」

 

 (これから、もっと、もっと、おもしろいことができる――)

 

 ぼくはゼロワンさんが言ったことにワクワクして、この仕事にものすごく興味がわいてきました。そして、この仕事をやってみたいと思いました。

 

 「ぼくでよろしかったら、よろしくおねがいします。 ブブ~ッ!」

 

 ぼくは頭を下げてファルコン社長にそう言いました。

 

 「そうですか、来てくれますか。じゃあ、ブブくん。あしたからよろしく!」

 

 こうして、ぼくは面接に受かり『森のげえむ屋さん』という名まえのゲーム会社で絵を――いや、ドット絵をかくことになりました。

 

 あんなにゲームがきらいだったぼくなのに、自分でも不思議です。もしかしたら、ぼくはゼロワンさんが言ってた、どんどん進化して、もっと、もっと、おもしろいことができる『コンピュータ』につきあってみたくなったのかもしれません。

 

 ぼくはゲームがちょっと好きになりそうです。


第4話 ファルコン社長の夢

 

 『森のげえむ屋さん』の面接に受かったぼくは、次の日から社員としてドット絵をかく仕事をすることになりました。 

 

 会社の先輩たちはみんなとてもやさしく、困ったことがあったらいろいろと親切に教えてくれました。そして、1ヶ月もすると会社にもなれ、先輩たち一匹一匹がどんなキャラクターなのかもだんだんわかってくるようになりました。

 

 まず最初はファルコン社長について、ぼくが知ったこと――

 

 ファルコン社長は『森のげえむ屋さん』を作る前は、業界でも有名なゲームメーカーのデーターポンポコ社の役員だったそうです。

 

 データーポンポコ社は、もともとはゲームセンターのテレビゲームを動かすための『基板(きばん)』というものを作っていた会社でした。そして、テレビゲームがたいへんな人気になり、たくさんの基板が注文されるようになったおかげで大もうけをし、それから、テレビゲームのソフトも作るようになってから、またもうかって、大きな企業になったそうです。まさに順風満帆(じゅんぷうまんぱん)な企業というやつですね。

 

 ところが、ファルコン社長はそこでの安定した生活に疑問を感じるようになり、いつしか『自分のゲーム会社を作って、そこでみんなが楽しめるゲームを作りそれを大ヒットさせたい』と、いう大きな夢をもつようになったそうです。そして、データーポンポコ社をやめ、部下だったゲームプログラマーのゼロワンさんを引き抜いて今の『森のげえむ屋さん』を作ったそうです。

 

 ただ、やめた時にファルコン社長が開発したゲームの基本プログラムを無断でもっていったとかで、データーポンポコ社の社長さんとちょっともめたそうです。それで、ファルコン社長が『おわびにデーターポンポコ社のために売れるゲームを作ります』とデーターポンポコ社の社長さんに約束したので、今ではうまくいっているそうです。

 

 ぼくは、むかしから夢を持つことは大切だと思っていましたが、どうやら、このゲーム業界にはファルコン社長のように、ぼくよりも何倍も大きな夢を持っている動物さんたちがいるのだなぁと思いました。

 

 ファルコン社長はとても頭の回転がはやく、とくにお金の計算はコンピュータなみで、経営に関してもつねに現実的な思考の持ち主らしいです。あと、宇宙を天体望遠鏡で観察するのが大好きなロマンチストでもあるそうです。

 

 夢をもち、現実的で、ロマンチスト――

 

 ああ、ファルコン社長って、きっと女性にもてるんだろうなぁ。ぼくもいつか社長のような動物になって女性にもてたいです。はぁ~……。


第5話 会社の頭脳ゼロワンさん

 

 『森のげえむ屋さん』の頭脳とも言えるプログラマーのゼロワンさんは、むかしはプログラムとは全く関係ない仕事をしていたそうです。そして、その時にコンピュータゲーム開発にあこがれるようになり、その仕事をやめたあと独学でプログラムを学んだそうです。

 

 ぼくはプログラマーって頭が良い動物さんしかなれないと思っていたので、ゼロワンさんが独学でプログラマーになったという話を聞いたとき、ゼロワンさんはメチャクチャ頭が良い動物さんなんだろなぁ、と思いました。

 

 ある日、ファルコン社長とゼロワンさんとで昼食をとっていた時、ぼくが「ゼロワンさんってムチャクチャ頭が良いんですね」と言ったら、「そんなことないですワン」と謙遜(けんそん)しました。ゼロワンさんが言うには、プログラマーにもいろんなタイプがいて、ゼロから新しいプログラムが設計できるプログラマーは天才的な頭の良さが必要ですが、すでにできあがったプログラムを使いこなすタイプのプログラマーなら、ちょっとがんばって勉強をすればだれにでもなれるそうです。

 

 「ボクは、使いこなすタイプのプログラマーですワン」

 

 とゼロワンさんは笑いながら、またまた謙遜(けんそん)しました。

 

 「それでも、数学とかが得意じゃないとダメですよね?」とぼくがきくと、ゼロワンさんは「プログラムというのは命令の文章ですから、論理的というか、きちんと作文が書ける力があればぜんぜんOKですワン」と言いました。

 

 「作文が書ければ? じゃあ、ぼくにもなれますか?」ときいたら、ゼロワンさんは「もちろんですワン!」と答えてくれました。

 

 すると、いっしょに昼食をとっていたファルコン社長が、ちょっといぢわるな目でチャチャをいれました。

 

 「ゼロワンくんは、気が短いところもプログラマー向きなんだよね」


 「どういうことですか?」とぼくが社長にきくと、こう説明してくれました。

 

 「気が短いと、できるだけムダなくテキパキと仕事がしたくなる。そのためにはプログラムをできるだけ効率よく書かなければならない。それで、結果的に効率の良い優秀なプログラムになってしまうというわけだ。『遊び好き』ならもっといいよ。だって、早く仕事を終わらせて遊びたいから、ものすごい集中力と頭脳でプログラムを書いちゃうから」

 

 「ボクは短気で遊び好きではありませんワン! プンプンッ!」

 

 どうやらゼロワンさんは社長のチャチャにカチンときたらしく、ちょっと怒りながら食事をバフバフとがっつきました。

 

 (やっぱり、ちょっと気が短いみたい……)と、ぼくは思いました。

 

 ちなみにゼロワンさんはパズルや麻雀が大好きで、特に麻雀はとても強いそうです。ファルコン社長も麻雀が強いらしいですが、「ゼロワンくんにだけはかなわない」と、おっしゃってました。

 

 ゼロワンさんは謙遜(けんそん)ばかりしてましたが、やっぱり頭がすごく良いみたいです。ぼくはパズルが苦手で、考え方もあまり論理的ではないので、どうもプログラマーには向いてないようです。ブブ……。



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