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12月21日のおはなし「リハーサル通りに」

 階下から馬鹿笑いが聞こえてきて目を覚まされた。暗闇の中でしばらく横たわったまま、また眠り直そうかどうしようかと思っていたが、あまりに楽しげな笑い声がするので様子を見に行くことにした。何と言っても同じチームのメンバーだ。友好を深めるのも、ものごとを成功に導く秘訣ではある。

 階段を降りると、ちょうど正面のソファに座っていたミスター・ジョージが声をかけてきた。
「いよっ、真打ちの登場だな」
「楽しそうだから仲間に入れてもらおうと思ってな」
 ミスター・ジョージというのはもちろん偽名だ。コードネームのようなものだ。寄せ集めのメンバーの本名をお互いに伏せるため、こんな呼び名をつけた。もちろん洒落だ。本当は全員日本人だ。

 ミスター・リンゴが立ち上がって振り向き、人なつっこい笑顔で迎え入れてくれる。ミスター・リンゴはメンバーの中で唯一初老で、礼儀正しく、コミュニケーションも取りやすい。あとの3人のように突然切れて騒ぎ出すこともない。ミスター・ポールとミスター・ジョンは馬鹿笑いの余韻を残した顔のままこちらに向かって頷く。わたしはミスター・リンゴが差し出してくれた缶ビールを開け、一口飲む。

「調子はどうだ?」
「つまんねーこと聞くなよ」ミスター・ジョンが言う。「リハーサル通りに。あんたの描いた青写真通りに全ては運ぶ。まかせなって」
「それを聞いて安心した」わたしは缶ビールをもう一口飲んで尋ねる。「何の話をしていたんだ?」
「いままでにドジ踏んだときの話だよ」
 とミスター・ジョージ。
「縁起でもない」
「でもおかしいんだって!」

 それから4人が口々にそれぞれの失敗談を話し始める。ミスター・ポールの話は以前のヤマで組んだイカレポンチのとんでもないエピソードだった。銀行強盗に踏み込んで早々
3人も意味なく射殺したくせに、逃走中のクルマがネコをはねてしまうと突然泣き出して、挙げ句に運転していた仲間を射殺してしまったという、まるで笑えない話だったが、“ザ・ビートルズ”の4人には大受けだった。ミスター・ポールが、「水道管の調子が悪くて」とでもいうような困った表情で話すのがおかしいのだろう。

 ミスター・リンゴの話は期待通りナンセンスな笑いに満ちていたが、よくよく聞いてみると別に失敗談でも何でもなく、ターゲットの邸宅に入ってから盗み終えて出てくるまでどれだけハラハラし通しだったかというだけの他愛もない話だった。でも話全体がよくできていて面白かった。何度も噴き出してしまった。

 ミスター・ジョンの話はシュールすぎてよくわからなかったが、人望だろうか、全員が手を叩いて笑っていた。殺してしまった金持ち夫婦の遺体を間違えて何度も踏んづける話のどこが面白いものかと思ったが、そんな大人げないことは言わず、わたしも合わせて笑っておいた。そんな4人の話の中で、警察官が犯行現場の検証をしている真っ最中にその部屋に侵入してしまったミスター・ジョージの話がピカイチにおかしかった。

「このヤマが終わったらどうするんだ、みんな?」
 笑いがおさまった頃、私が尋ねるとまずミスター・ジョージが即答で返事をした。
「チベットに行く」
「チベット?」
「そう。これはもう夢だったんだ。寺院に入って修行する」
「はあ?」ミスター・ポールが聞く。「坊さん志願者がどうしてこんな仕事しているんだ?」
「いいじゃないか」わたしはそれぞれの価値観までどうこうする気はないので言った。「チベットに行って坊さんになるために地下金庫を破る。結構なこった」
「修行をする前に落ちるところまで落ちなきゃいけないんだ」ややせっぱ詰まった調子でミスター・ジョージは言う。「盗み、犯し、殺す」

 わたしは聞かなかった振りをして話を先に進めた。
「ミスター・ポールの予定は?」
「おれは遊ぶよ。南の島に行って飲んで食って使えるだけ金を使って遊べるだけ遊ぶ」何やら不満そうにミスター・ポールは言う。チベットの話が意外すぎて少し鼻白んだらしい。くだらないプライドだ。「女の子を連れてケイコス島に行く」
「ケイコス島って何だ?」
 ミスター・リンゴが聞くと、ミスター・ポールは肩をすくめて首を横に振る。
「知るもんか。彼女がそこでイルカと泳ぐんだってさ」
「なんだよ。女の子を連れて行くんじゃなくて、お前が連れていってもらうんじゃないか」
 みんながどっと笑う。

「いやだねえ刹那的な生き方は」ミスター・ジョンがバカにした調子で言う。「いまさえ良ければいいってもんじゃないぜ」
「ミスター・ジョンはどうするんだ?」
「愛だよ。愛こそがすべてさ」似合わないことを言うのでみんなが笑う。「やってやってやりまくる。金の続く限り。なびく女のいる限り」
「どっちが刹那的だ」ミスター・ポールは半ば本気で怒っている。「何も残らないじゃないか」
「そう!」ミスター・ジョンは言う。「おれのは刹那“的”じゃなくて刹那“主義”なんだ。ほんものの刹那に、一瞬にすべてをかけるんだ」

「だれがいい話をしろって言った?」とミスター・ジョージ。またみんなが笑う。「プロデューサーさんはどうするんだよ?」
 4人がわたしを見る。わたしは微笑んで、正直に答える。
「次の仕事にかかるだけだ」
「ひい〜っ!」ミスター・ジョージは素っ頓狂な声を上げる。「この山が終わっても、まだ儲け足りないってか? 仕事の鬼なのか、刹那主義の親玉なのか?」
「ミスター・リンゴは?」ミスター・ジョンが尋ねる。「これが終わったらどうするんだ?」

 ミスター・リンゴはちらっとわたしの方を見る。わたしはうなずく。次の瞬間、ミスター・リンゴは何度も練習したとおりに拳銃を抜き、ミスター・ジョン、ミスター・ジョージ、ミスター・ポールの順に射殺した。予想通り、拳銃に手をかけられたのはミスター・ジョージだけだった。

 全てが終わるとミスター・リンゴは、というよりも、わたしの依頼人の橋本氏は拳銃をテーブルの上に置き、泣き出した。わたしは橋本氏の肩を叩き「よかったですね」と声をかける。

「うまく行ったじゃないですか。娘さんの仇が取れて。大丈夫これでもう終わりです。あとはわたしがやりますから、橋本さんは前に話したとおりキレイに身体を洗って、着替えていて下さい」と言った。それからわたしは部屋の片付けにかかったが、その間も橋本氏はその場でずっと身を震わせて泣き続けていた。

(「刹那」ordered by くー-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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この作品は、くーさんからいただいたお題「刹那」を元に3つの別々な(でもリンクする)作品を書いた3部作の1つです。良かったら合わせてお楽しみください。

SFP0173「瞬間の海
SFP0174「リハーサル通りに」(この本です)
SFP0175「刹那詩

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奥付



リハーサル通りに(微修正版)


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著者 : hirotakashina
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/hirotakashina/profile


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