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12月2日のおはなし「覚醒」

 深夜、真っ暗な中で目を覚ます。
 妙にくっきりと頭が冴えている。
 ふだんあまりそんな時刻に目を覚まさないので、
 少し不思議な気がしている。

 目をあけてからしばらくして、そこが真の暗闇だということに気づく。どんな微かな明かりもない。鼻をつままれてもわからないなどという表現があるが、鼻をつままれたら鼻をつままれたことはわかるだろうに、などと考えながらも光を求めて忙しく視線をさまよわせる。

 本当に何も見えない。あの表現を言い替えるなら、鼻をつまもうとしている奴の手がすぐ目の前にあってもわからないというところ。ただただ黒々と果てしなく深い闇の中、微かな陰影すらない。だからそれが夢だと分かる。ぼくの寝ている部屋では真の暗闇なんてものがあるはずもないから。

 夢なら夢でかまわないが、とぼくは考える。そうとなったら真の暗闇でしか見えないものを見たいものだ。脳内閃光と呼ばれる原始的な図形。あるいは視覚の欠落を埋めようと脳が描き出す幻覚。頼るべき一切の情報がない中でぼくの脳は何を描き出すのだろう。

 しかし次の瞬間ぼくは苦笑いをする。その結果がこの暗闇なんじゃないか。自由に描き出していいのに今晩の夢はわざわざ真の暗闇の中にいるという状況を用意したわけだ。真の暗闇の夢を見せるというのはどんな意味があるのだろう? そう思った途端、遠くに小さな光の点が見える。

 光だ。と思う間もなくそれはものすごい勢いで近づいてきて、そうこうするうちに近づいていたのは光ではなく自分の方だったことがわかる。すさまじいスピードで光めざして移動していたのである。だんだん明かりが近づくにつれ、いろいろなものの影が見えるようになってくる。

 左右を流れるように過ぎ去って行くのは森だ。森の手前には交通標識があって、落石注意やこの先カーブありなどの他に、鹿にも猪にも見えるようなシルエットが描かれた野生生物への注意を促す標識や、制限速度80,000kmという冗談のような標識を見てぼくは首をひねる。

 そう。ぼくはクルマの助手席あたりにいて何するわけでなく窓の外を眺めている。あまりのスピードのためシートに押さえつけられているような不自由さはあるが、別に身動きできないわけではない。ただあまりのスピードに息を詰めて固まっている。運転手が誰か見ることもできずにいる。

 やがてクルマは光のすぐそばまで来る。それは意外にも小さな店のネオンサインだ。さほど明るいわけではない。うねうねと読みとりにくい文字を目で追うと「underground」と書かれいてる。不意にクルマから押し出されて外に出る。乱暴なと思って振り向くとそれはクルマではなかった。

 それは鹿とも猪ともつかぬ巨大な生物で、ぼくはその生き物の左目の中に座っていたのだ。運転手など最初からいなかった。ぼくはこの巨大生物に運ばれていたのだ。ぼくがお礼を言えばいいのだろうか、それとも一方的に拉致されてきたのだろうかと考えているうち巨大生物は姿を消した。

 後ろからいきなり声をかけられてびっくりして振り向く。その様子がおかしかったのか声の主は口元をおさえてけらけらと笑う。女だ。女は色とりどりに群舞する蝶の模様がついたワンピースに、極彩色の蝶をあしらった髪飾りをして、婉然と微笑んでいた。なぜかぼくにはそれが巨大生物の変身だとわかる。

 ようこそアンダーグラウンドへ。ぼくに視線をからみつけるようにして女は囁く。見たかったものは、みんなここにあるわ。そしてネオンサインの下のドアが開く。そこには真の暗闇が口を開けている。ぼくの足はすくんでいるのに、まるで放り込まれるような勢いでぼくはその扉をくぐる。

 そして目を覚ます。ぼくはベッドの上にいて目を開いている。カーテンの縁からうっすらと街灯の明かりが漏れて天井の一部が明るい。ここには真の暗闇はない。ただ耳元には女の声がはっきりと残っている。ようこそアンダーグラウンドへ。見たかったものはみんなここにあるわ。

(「underground」ordered by イチ-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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奥付



覚醒


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著者 : hirotakashina
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