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「岐路の一答」 芋屋だーら

 
 クリスマスは明後日なり。
 小雪降る商店街は隣邑の巨大シヨツピングモールに客をとられて閑散としており、スピーカーの流す音楽、辻の電飾いずれも粗末なれば我が心を慰むるに足らず。
 駅前書肆の三階奥にてその頬笑の我が心を貫きしは僅々二時間前のことなり。
 余はその時、定期に購読する漫画雑誌及びピンク色売場の図籍より見出したる麗艶なる幼女の半裸にて緊縛さる表紙絵の一冊を持ち、支払いカウンターに並びき。
 いつさいの邪念はもとより思念さえ絶ちて佇みたりしが、
「驫木君」
 と我名を以て呼ばれて驚き、顔を起こせば其は懐かしき中学の同級生、市井渚なり。
「こつちへ」
 と言われて本を差し出した瞬間、手にした一書の破廉恥なるに気づいて愕然とせしが、渚の手すばやくマニユアル動作して金額を言うのみにて我がエロ本については表情も変えず。黒の袋へ本を収めて、
「じやあ、お客さんいるからまた後でね」
 と言われたる余の心、たちまちにしてその頬笑の虜となれり。

 そもまた後でねとは如何なる謂か。
 言葉の含意せるところは奈辺か。
 渚は地味な中学生にて、余とは親しかりき。卒業後は別の高校なれば逢うことなしに過せしが、今ここで再会するに何らかの天意を思わざるべからず。クリスマスは明後日なり。
 弾むごとき我心。
 これしきで動揺するを我ながら可笑しく思うも、外の寒気の亦心地よきに、上機嫌に通を闊歩すればいよいよこの運命善哉と叫びたくなり、次はいつ逢えるや、連絡先を聞かねばと様々想念を巡らせるうち、懐かしき面々の十数人が前より来り。みな中学の同級生なり。
「あ」
 と一人が余を指させり。他の者は、
「わ」
 と言ふ。

 結論を述べれば今日これより「魚民」にて同窓会の開催されるを余は知らされざりき。渚は、余も参加するものと思いて斯く述べたるを余は何を愚かしく勘違いしたものぞ。
 否、何より愚かしきは余の態度なり。何の予定も無き身なれば辞を低くしてでも同行を願い出、以て友無き日常の孤独を改むるに如くなし、渚との邂逅を価値あるものに転化するに如くなし。
 然るに嗚呼、これを告げられし余は何の故にや、
「これから用事があるから」
 と答えたる。

 

初出:
「岐路の一答」 芋屋だーら
http://texpo.jp/texpo/disp/42132


「銀座商店街戦争」 茶屋休石

 
 街は戦場と化していた。
 どこからともなく現れた軍勢が街を蹂躙した。
 ニュースはそれを伝えなかった。
 助けは来なかった。自衛隊も、警察も。
 住民たちは逃げようとしたが道路は軍隊に封鎖され、それ以外の場所でも突如として現れた壁が行く手を遮った。
 何が起きているんだ。誰も答えを教えてくれはしなかった。
 季節は冬へと変わり、街は雪に包まれた。
 不思議なことに食料と生活必需品、そして武器が知らぬ間に届けられた。物資を積んだトラックが乗り捨てられているのだ。
 敵がいる。武器がある。自然と住民たちは銃を手にした。
 その前線の一つに、ここ銀座商店街があった。
 酒屋でかつての店主たちが古びたストーブを囲んでいた。
「うぅ、今日は一段と冷えるの」
「昨日も同じ事を言うとったぞ」
 皆、半ば隠居の身、店を畳んだものや次代に託したものばかりであった。
 若者はショッピングモール奪還作戦に出払っている。
 今ここにいるのは老人たちばかりである。
「まさかこの歳で戦争に駆り出されるとはの」
 ストーブの上には薬缶が乗っており中には徳利が入っている。
「この酒を飲むのもこれで最後になるやもしれんな」
「なに縁起でもないことを」
「そういう意味とは違う。この酒は送ってきてくれんのじゃ」
 老人たちはほのかに酔っていた。戦場は街の向こう側、遠く離れている。
 半鐘が打ち鳴らされた。見張りは金物屋である。
「なんじゃ」
「金物屋ボケとるからのぅ」
「見に行ったほうが良かろう。鐘を鳴らされ続けちゃたまらんわい」
 重い腰をあげると「よっ」と一声かけて外套を着こみ、手袋をはめ、冷たい小銃を肩にかける。
「敵が来ていたらどうする?」
「なぁに、返り討ちよ」
「そうさな。冥土の土産に一花咲かせねばなるまいて」
「また縁起でもないことを」




初出:
「銀座商店街幻想」 茶屋休石
http://p.booklog.jp/book/40667/page/798139

「つないで」 たきてあまひか

 
 僕とユキコは、帰り道の学校から商店街の入り口までの間、手をつないで帰る。
 どうしてつなぐのかというと、恋人だから。
 どうして商店街の入り口までかというと、恋人だってコトを、家族には隠しているから。
 小さな商店街だというのに、ここには2件も八百屋が有って、片方が僕んちでもう片方がユキコんちなんだ。親通しがライバルだなんて現代の悲恋だねって言ったら、ユキコに笑い飛ばされちゃったけど。
 そんなわけで終業式の日の帰り道も、僕ら二人は手をつないだ。
 ちらちらと白い雪が舞っている。ユキコの吐く息が、白くてきれいだ。
「冬って寂しいよね」
「寂しいって、なにが?」
「だって、せっかく手をつないでいるのに、手袋ごしだもん」
 ユキコはつないだ手をぶんぶんと振って、膨れっ面のフリをする。ほっぺたが真っ赤だ。
 僕は手袋を外して「ほら」とユキコに手を向けた。
「冷たくない?大丈夫?」
「真冬に冷水で野菜を洗ったりするんだぜ、八百屋の息子は冷たいのは得意なんだ」
 ユキコも手袋を外して、僕の手を取る。
「そうだね、八百屋の娘も冷たいのは得意だよ」
 その手は、温かかった。
「それにしても。どうしてまた、今日は直接手をつなぎたくなったのさ。昨日までは手袋ごしでも気にしてなかったのに」
「んー?そうだねえ」
そろそろ商店街の入り口が近づいて来た。手を離す地点だ。
「明日から冬休みで、通学も無いじゃない?この辺じゃおおっぴらに手はつなげないし……だから手をつなぐのは、今年は最後かも知れないから。最後くらい、ちゃんと繋ぎたいなって」
 さっきまでつないでいた手を小刻みに振りながら「じゃね!」とユキコは笑った。
 さっきまでつないでいた手を振り返しながら、来年までのほんの数日がとても遠いなと思った。
 さっきまでつないでいた手は、いま、とても冷たい。




初出:
「つないで」 たきてあまひか
http://amahika.tumblr.com/post/14396288074
 

「プレイ・ア・ロール」 アマモリトオル

 
 ホビットのシーフであるデップの先導で俺達パーティは遺跡を進む。
「待って」
 小さいが耳に届く声、エルフのマチだ。彼女が唱えていた生命探知の魔法に反応があったのだ。
「またクソ敵か?」
 ドワーフ戦士のブルが鼻息を荒げマチに訊く。
「違う。でもこれは一体……」
 マチの困惑を見かねた先導のデップが俺に顔を伺う。
「……ナギ、どうする?」
「ナギ殿にお任せします」
 マチが自信なさげにそう言う。
「――行こう」
 俺の一声で方針が決まった。ブルが俺の肩を叩く。
 この遺跡から宝を持ち帰れば俺の帰りを待つ妻子にも少しは夫や父親の役割を果たせる、そんな思いに背中を押されたのだ。
 これが最後。そう胸に刻みつけ遺跡の奥へと進んだ。

 林を抜けると風景が変わってきた。雑多な建築が乱立し、その入り口には異国の文字が記されたゲートがある奇妙な遺跡だ。
 先導のデップも警戒して歩みを緩める。この先に行けば終わり、そんな予感が背筋を凍らせた。
 デップ、止まれ!
 そう言おうとした直前、デップの皮手袋はゲートの柱に手をかけていた。
「何やってんのタカシ?」
 デップの前に幻影が現れた。
「ママ!」
 その幻影に無邪気な声で答えたデップはゲートを潜ると黒髪の男の子へと姿を変えてしまった。
「貴様、仲間に何をした!」
 幻影を切り捨てようとしたブルにも新たな幻影が迎える。
「キミちゃん、帰ろ?」
「お父さん!」
 ブルの声は既に彼のものではない。姿も可愛い女の子に変わっていた。
「ウソよ、こんな事って!」
 マチの悲鳴も幻影の呼びかけよってかき消えた。マチは太った少年になった。
「バカな!」
 俺は叫んだ。仲間が皆子供に変わるなんて。だが俺は変わる訳にはいかない、妻と子が待っているんだ。
 しかし目の前のゲートに書かれてある文字は『よいのみや商店街』としっかり読め、その奥の通りからは肉屋のコロッケの香りが鼻を刺激する。何なのだ、これは!
「違う!」
 恐れを振り払うようにもう一度叫ぶ。だが――
「ゆうちゃん」
 そう呼ばれた瞬間、張り詰めていた俺の意識は急速に溶けていった。

「どうしたの?」
「忘れちゃいけない大事な『やくわり』があったような気がして」
「何言ってるの、ヘンな子ね。ほら晩御飯はあんたの好きなハンバーグよ」
「やったぁ!」





初出:
「プレイ・ア・ロール」 アマモリトオル
http://p.booklog.jp/book/3080/page/808861
 

「さよなら、テキスポ星人」 U.C.O.

 
「何でよ一緒に×××行こうっていったじゃない!」
「何だよ俺だって××に会わせたかったさ!」

 年末だ。言い換えれば、師走も最盛期。心急き苛立つ人々の増える時節なれど、この男女の口論はとりわけ激しかった。大声自慢の商店街の呼び込みが、たじろぐ程に。女の方は臨月。各々両腕に大きな買い物袋と、福引き券を多数。叫ぶ言葉はなぜか異星語混じり。
 この際、翻訳機を通してお聴き頂くべきだろう。

「だからさ、悪かったと思って色々買ってやってんだろ?」
「何よ半分は自分の《地球》みやげのくせに! 私なんて《テキスポ語》まで覚えたのよ?」
「仕方ないだろ、お前あの《帰還船》にはデカすぎんだよ」

 喧しくやり合いながら交互に八角のガラポンを回してゆく。余程クジ運がないのか、台に積まれるのはティッシュばかり。
 粒子嵐による銀河ハイウェイの長期閉鎖まで、もう間もないのであった。迂回路もなくはないが、帰星を考える者らにはこれが最後の機会となる。

「なっちゃんの彼氏は帰らないんだってよ? いいわねー、これだから《マザコン》は!」

 途端、男女の間に不穏な空気が流れる。
 売り子が声を張り上げた。「あの! あと一回です!」

「分かった。次にもし当たりが出たら、俺も《地球》に残る」
「ティッシュだったら即絶縁ね。せいせいするわ」

 女がさっと手袋を取り払い、薬指から抜いた指輪を台に叩きつける。男もそれに倣う。
「さあ、勝負!」
 ガラポンのレバーに、二人手を重ねた。
 ――音が出ない。不思議がって二度回すが、やはり何の音もしなかった。
 世話役らしき男が慌てて顔を出し、頭を下げる。
「すみませーん玉切れのようで! お詫びにこちらの券を差し上げます、新年もどうぞ、ごひいきに!」

  *

 あの二人、今頃券を見て驚いていることだろう――。

 【特別ご搭乗券】テキスポ星行き
   離陸予定:地球時間2012年×月×日
    機種別:貨物(地球人スキン搬送用)
   ※空コンテナ転用のため快適な乗り心地は…………



初出:
「さよなら、テキスポ星人」 U.C.O.
http://ucoo.web.fc2.com/hall1/goodlucktexpian.html
 


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