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第十二幕

 久し振りに見たその家はやっぱり小さく見えました。ヴァーキーはその小さな家の短い煙突の上に立つと、まずひずめに付いた泥を落としました。そして、

「よぉし!」

そう、ヴァーキーは一声上げると、

 

コロコロコロコロコロコロッ、パラパラッ、ストン。

 

以前よりも細くなったせいか、丸くなったヴァーキーの体は煙突の中をスルスル落ちていきました。そして見覚えのある部屋の中で、すすだらけの細い体をうんと伸ばしました。目の前には、以前と同じように壁際のテーブルのすぐ先に二つの部屋があります。右側からはお母さんの寝息が聞こえてきます。そして左側の部屋からはスヤスヤとした安らかな寝息…ではなく、何かにうなされているような声が聞こえてきました。

「ではひと仕事!でもその前に…」

そっと扉を開けたヴァーキーは、桃色の布団にくるまった、ちょっとだけ大きくなった少女に向けて鼻をかざし、

 

ヴォォォォー!

 

と、あたりの空気を一気に吸い込みました。しかし、

 

ウップ……。

 

それはグルメなヴァーキーにはすぐにわかりました。吸い上げた夢が大人顔負けの悪夢だったということを。しかし、ここで音を上げている訳にはいきません。ヴァーキーは一つ大きく呼吸をして気持ちを切り替えました。

「“ずっと心残りだったんだ!さあ、借りを返すときがきた!”」

そう心の中で言うと、ヴァーキーは鼻と体を時計まわりに三回まわし、不思議な呪文をつぶやきました。

「イーイーイーイー♪アーーアーアー♪」

これはヴァーキーが何度も失敗を繰り返して見つけた術でした。ヴァーキーは呪文をつぶやき終えると、

 

ヴォォォォー!

 

今度は鼻から目一杯息を吐き出しました。

「“この間はごめんね。今のオレにできることは…これくらいだ”」

ヴァーキーは細くなった体を引きつらせながら心の中でそう言いました。

「今のオレの実力ではオレの体の色と同じような白と黒の夢しか見させてあげられないんだ…」

自分の無力さを感じたヴァーキーは少し感傷的になりつつも、弱い自分をごまかすためにより力強く息を吐き出しました。しかしその音があまりにも大きかったせいか、桃色の布団がモゾモゾと動くと布団の中から少女がはい出てきました。

「…あれぇ…」

眠たそうな顔を浮かべた少女はヴァーキーのことを見ながらこう言いました。

「誰かと思ったら…ずっと前に私の夢を食べちゃったバクだわ!わたしの悪い夢を食べてくれてありがとう。そして、わたしにステキな夢を見させてくれてありがとう」

とっても大きくて、すごくまん丸で、かなり…寝ぼけた瞳がヴァーキーのことを見つめています。ずっと見つめられて恥ずかしくなったヴァーキーの顔は赤色に染まりました。それを見た少女はクスッと笑い再び目を閉じました。すると、

「あれ!?」

目をつぶった少女の顔がさらに笑顔になりました。

「夢に色がついたよ!この花、赤くてすごくキレイ!」

顔を赤く染めたままのヴァーキーもその声を聞いて驚きました。

「あれ!?赤いボール!!…あ…!」

スージーがそう言うと手を伸ばしました。しかし、そこには誰もいません。でもスージーは誰もいなくても手をたぐりよせました。

「…お父さんだ!!」

スージーがそう叫びました。そのときヴァーキーは気が付きました。

「“そうか…!オレの顔が赤く染まったからだ!”」

息を整える事も忘れたヴァーキーはさらに息を吐き出しながら思いました。

「“スージーが見つめてくれて恥ずかしくなったおかげで夢に色がつけられたんだ!よし!”」

そう考えたヴァーキーはありったけの力で鼻から「夢」を吐き出しました。それはとても激しく苦しい仕事でした。ですからヴァーキーの顔は白くなり、青くなり、紫になり、色んな色に変わりました。でも、顔色を変えて「夢」を吐き出し続ける目の前でスージーが嬉しそうな表情を浮かべてくれました。それを見たヴァーキーの顔色は本当は苦しいはずなのに再び赤く染まりました。

「お父さん!帰ってきてくれたんだね!ずっと会いたかったんだよ!お父さんあったかい!お父さん大好き!」

少女の目から、きっと夢の中のお父さんと同じくらいあたたかい涙がこぼれました。何粒も何粒も涙がこぼれていくのを見て、ヴァーキーは息を吐くのを止めました。そして、ハァハァする息をおさえながら、出会ったころと同じようにスヤスヤと寝息を立て始めたスージーにこうつぶやきました。

 

「きっと、その“夢”はかなえられる。大丈夫。君ならとてもステキな幸せを引き寄せられるよ」


第十三幕

 この話しは夢を食べるエリートのバクたちの間にまたたくまに広がりました。悪夢ばかりを食べていたバクたちは、ヴァーキーに習った“夢を与える”方法をまねました。

 

「イーイーイーイー♪アーーアーアー♪」

 

するとどうしたことでしょう!いつの間にかその町の人間たちは良い夢を見るくせがつき、空襲を恐れて寝付けなかった人々も寝ることが大好きになりました。バクたちも食べる夢のどれもがおいしいものばかりになり、気付けば町のみんなに笑顔が戻りました。

 そして、バクたちの間である噂が広がりました。

「どうやら、人間どもがやっていた“大きなセンソウ”とやらは終わったらしいぞ。スージーという名の少女が見るだけだったはずの夢を叶えたらしいぞ」

 

 いつしか、こわすのが得意だった人間たちはつくることの方が得意になっていました。そんな人々が作った新しい十字架に今夜もヴァーキーが止まります。そしてそこで一息つくと、広い夜空に向かって再び飛び立ちました。

 

 おいしそうな夢の香りを探すために。悪い夢を見る人間には良い夢をあげるために。

 そして、夢は叶えるためにあると教えるために。

 

 

 

 

 

9514字

 

 

 

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編集 75°and 遠名 奏

 

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遠名 奏 HP → http://tonakanata.jimdo.com/

 

 

 

 

※ このお話はフィクションです ※


この本の内容は以上です。


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