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親子酒

ダウンロードしていただきまして、誠にありがとうございます。ってことは、ほんの少しくらいは落語に興味をもってくだすってるお客さんってわけですな。

最近はあたしのとこにも、落語を習いにきている人がけっこういまして。何かの足しになるかとは思いますけどね、なんらか足しにはなるようです。

不景気な世の中ですよね。み〜んなけっこう生活が苦しいもんです。落語の中には、江戸の貧乏庶民が、なんだかんだ気楽でたくましく生きてる姿が、たわいもない会話で語られてるんですな。これが、いいんだそうです。夫婦の会話なんて、まるでウチのかかあとのやり取りみてぇで。
酒で愚痴を吐くおとうさん。そう、そこのあなた。いやいや、その隣のあなたです。帰りの電車で落語でも読んで、気楽に生きていこうって元気をもってってくださいまし。

さて酒といえば、ある大店(おおだな)の親子は大変な酒好きだったんですが、あるとき、父親は考えた上で息子にこう切り出しまして。

父親
どうも、酒というものは人との間違いを起こしやすし、体を壊しやすい。
お前はこれからという体。酒はやめたほうがいい。
その代わり、父さんも酒はやめるから!
息子
お互いに禁酒ですか。
父親
そういうことだ。
どうだ!?
息子
わかりました!

そんなこんなで三月(みつき)が経ちました。
禁酒をして三月ぐらいのところが、いちばん辛いようで……。

父親
おばあさんや。今晩はバカに冷えるな。
こういうときは、あったかくなるような物を飲んで寝てぇな。
母親
じゃぁ、お湯でも飲みますか?
父親
いえね。ピリッと目の覚めるような物を飲みたいんだよ。
母親
唐辛子の水でも、どうですか?
父親
あたしをいじめようってのかい。( *`ω´)
母親
じゃぁなんですよ、飲みたい物って。
父親
ちょいと、こう内緒で、こんなこと…(酒を飲む手つき)
母親
いけませんよ。 ( ̄^ ̄)
父親
どうしていけないんだい。いいじゃないか、少しぐらい。
母親
禁酒をしたんでしょう?
それも、あなたから言い出しておいて、なんです!?
父親
だから、少し…。 (^_^;)
母親
少しならいい、多くてはいけないというんだったら、はなから、禁酒の約束なんてしなきゃよかったんですよ。
父親
あたしはね。自分のためじゃないんだ。(せがれ)のためを思って禁酒をしたんですよ。だから、いいじゃないか。そろそろ三月たつんだから。立派なもんですよ。ここいらで、ちょいと息抜きに…。
母親
いけません。
父親
少し。
母親
駄目です。 ( ̄^ ̄)
父親
ほんの一本。
母親
断ります。 ( ̄^ ̄)
父親
杯に一杯。
母親
いけません。( ̄。 ̄)
父親
じゃ、一っ垂らし。
母親
いけません。( ̄。 ̄)
父親
見るだけ!
母親
いけません。( ̄。 ̄)
父親
見るだけもいけないのかい!?((;꒪д꒪;))
母親
だいいち、この家にお酒はありません。
父親
なんで、ないんだ。あんなにあったじゃないか。
母親
なにを言ってんです。二人が禁酒の約束をした日、あたしがきれいに片付けましたよ。
父親
一人で飲んじゃったのかい?
母親
そうじゃありませんよ。近所の衆に貰ってもらいましたよ。ですから、家には一っ垂らしもありません。
父親
残らず、近所の人にやったの? 近所がうらやましいね。
母親
酒飲みはこれだから、いやなんですよ、あたしは。
少し譲ってですよ。(せがれ)が我慢できずに飲みはじめてしまった、てんなら、あなたもお飲みなさい。
そうじゃないでしょう? 伜のほうがしっかりしてますよ。酒のさの字も口にしていませんよ。
父親
うん…。知ってますよ。伜にはそういう意思の堅いところがある。父親譲りだ。
母親
なにを言ってんです。父親のどこに意思の堅いところがあります?
あなたの意思はグニャグニャです。意思だけじゃなくてあそこも。
父親
ばあさん。しらふで人に(から)むなよ。
ばあさんはしらふの上がよくないね。あたしゃ、飲んだってそんなには絡みませんよ。( ̄へ ̄|||)
父親
だからさ、ばあさん。もうここまで言い出したんだから、あたしだって、「そうだね。飲んではいけないね」とは言えませんよ。あとには退けない、というやつだ。
といって、子供じゃないんだから、窓を開けて近所に聞こえるように泣き叫ぶわけにもいかないし。 と、あとは、ばあさんの出番だ。どうだい。今晩だけ、目をつぶって、大目に見ておくれよ。
母親
あたしは不器用ですから、目をつぶって大目に見るなんて、そんな器用なことは出来ません。
父親
そんなにいじめないでおくれよ。 (´・_・`)
母親
いけません。
父親
そう冷たいことを言いなさんな。あたしはばあさんの仇じゃないんですよ。亭主なんですよ。その亭主がこうして頭を下げて頼んでんですよ。
母親
頭を上げてください。無駄ですから。下げたって、お酒は出ませんよ。
父親
おい。ばあさん。ものにはついでということがあるだろう?
母親
どういうついでですか?
父親
今晩は冷えるから、湯たんぽを入れたついでに、お(かん)をつけるとか…。
母親
勝手なついでですね。
父親
浮世には義理というものがありますよ。
母親
そうでしょうね。 ( ̄。 ̄)
父親
人には情けというものがある。
母親
そうでしょうね。 ( ̄。 ̄)
父親
夫婦には愛というものが。
母親
ありませんッ。 ( ̄^ ̄)キッパリ
父親
はっきり言ったね。
母親
じゃ、…ほんの少しだけですよ。
父親
飲ましてくれるのかい。(・∀・)ありがたや、ありがたや。
じゃ、すまないが、買いに行ってきておくれな、ばあさん。
母親
買うことありませんよ。
父親
だって、家には酒はないはずだろう?
母親
あたしゃ、いずれ、こうなると思ってましたから、一本、隠しておきました。
父親
こりゃ、恐れ入ったね。「いずれこうなると、思ってた…」。
普通、ここまで気を使ってくれませんよ。ばあさんや。やっぱり、あたしのグニャグニャにまだ、未練はあるんだね。
母親
ありゃぁしませんよ。そのかわり、(せがれ)が帰ってこないうちに、さっさと寝てくださいよ。
父親
倅は今晩は得意先を五、六軒回ることになってるんだ。遅くなるはずだ。
戻ってくるまで、トロトロやってませんよ。キューッとやって、ストンと寝ますから、伜とは顔を合わせなくてすみますよ。
母親
ほんとに一本だけですよ。(´・_・`)
父親
あぁ、一本でいい。

ところが、そうはいかないのが、酒で……。
拝んで頼むようになる。はなは、片手で。「しょうがないわね。これだけですよ」
これが、両手で拝むようになる。「これっきりですよ」
そのあとは、「この通り」てんで、恥も外聞もなく土下座しますね。「これで、おしまいですよ」
こいつを飲んじまうと、「あと、五、六本、持ってこい!」
てんで、お父っつぁんはベロベロ。

父親
おーい。酒がありませんよ。
母親
それだけ、酔ってんですから、本懐は遂げたでしょう。
父親
本懐? あたしは仇討ちをやってるわけじゃないんですよ。
母親
あなた、あなた! \(;゚∇゚)/
父親
なんだい。 ヽ(´o`;
母親
(せがれ)が戻ってきましたよ! \(;゚∇゚)/
父親
こりゃいけない。そう言われてすぐに立てる歳じゃないんだ。こういうことは、早めに言いなさい。
こうなったら、逃げ隠れしませんよ、親として。ばあさんや。ここを片付けなさい。早く。
(廊下の倅へ)伜か。こっちへ入りなさい。
息子
(ヘベレケに酔って)お父っつぁん。ただ今、帰りました(ドタ-ンと倒れる)
父親
どうしたんだ、そのざまは?
息子
お父っつぁんに言われた通り、川口屋さんに伺いました。
旦那さまがおいでになって、ちょうど、一杯召し上がってるとこでした。
「いいとこへきてくれた。一人で寂しいとこだ。さぁ、いこう」と言うのです。
で、あたしは、はっきりと言いました。
「実は、親父と禁酒の約束をしました。折角ですが、飲むわけにはいきません」

そしたら、「馬鹿なことを言うな。こんな旨いものをやめるとは、なにごとだ。いいから、飲め」
「いえ、そうはいきません。親と子が、否、男と男がいったん約束をしたんですから、どんなことがあっても、飲みませんッ」
「なぜにそう強情を張るんだ。飲まなければ、うちの出入りを止めるぞ。それでもいいのか」と、こう言いますから、あたし、怒っちゃった。

「たとえ、出入りを止められようとも、殺されようとも、飲まないといったら、飲みません」
そしたら、「偉いッ」って。
「その意気が気に入った。どうだ。その意気で一献、いくかッ」ってぇますから、
「じゃぁ、いただきましょう」
二人で二升五合(にしょうごんごう)あけました。
考えてみると、お父っつぁん。好きなものってぇやつは、やめよう、やめようと思ってもなかなかやまりませんな、お父っつぁん。
父親
馬鹿野郎。
馬鹿や・ろ・う。(♯`∧´)
お前はなんと情けない男だ。あれほど飲まないと約束をしておきながら。三月たつか、たたないかのうちに、もう、酒を口にしてしまって。
お父っつぁんをみなさい。酒は見るものいやですよ。
あたしがお前に(やかま)しく言うのも、お前の身を思えばこそ。
この身代(しんだい)をお前に譲って、お父っつぁんは安心して隠居をしようと思って…、いると…、言うのに……。

おい、ばあさん!伜の顔を見てごらん、伜の顔を。
七つにも八つにも見えるよ。こりゃ、化け物だ!(((;꒪д꒪;)))
駄目だ、駄目だ。こんな化け物みたいなやつに、この身代は譲れねぇ!
息子
お父っつぁん。
俺だって、こんなグルグル回る家は貰ったってしょうがねぇ。
[完]

原作:江戸小咄
脚色/口演:六代目 三遊亭圓窓
「圓窓五百噺」その一八九より


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最終更新日 : 2013-12-13 23:01:29

「らくごったぁ!」のご紹介

「らくごったぁ!」は、落語界の重鎮・三遊亭圓窓師匠監修のもと、落語をツイッター風にアレンジして読むiPhone用電子ブックアプリです。
この電子書籍版は、「らくごったぁ!」無料版から2席を再録し、より多くの人にツイッターのように楽しめる落語「らくごったぁ!」の楽しさをお伝えするために発行いたしました。

アプリ版では、噺に登場する役ごとに、今居る「そんな感じの人」の顔アイコンがはめられており、落語をまさにツイッターのタイムラインを読む感覚で楽しめます。
iPhone/iPod Touch/iPadユーザーの方は、App Storeで「らくごったぁ!」と検索して、ダウンロードしてお楽しみください。

 

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最終更新日 : 2013-12-13 23:05:04

目黒の秋刀魚

グルメブームで、「あれが旨い」「これが旨い」といろいろと言われていますが、「腹の減っているときに、不味い物はない」とか、「出来立てが一番旨い」とか、「物は器で食わせる」とか、人によって意見も違うようで。

三太夫
殿。お体の具合はいかがでござりますかな?
御門守
相変わらずじゃ。
体が悪いわけじゃないはずだが、なにやら、だるい日々が続いておる。
三太夫
屋敷内にこもりっきりはお体によいはずございません。
いかがでございましょう?本日は久しぶりの晴天でございます。遠乗りをなさりましては?
御門守
遠乗り…? 馬に乗るのか。
三太夫
さよう。遠くまで馬を走らせます。
御門守
……馬が疲れて不憫(ふびん)である。さようなことは、余は好まん。
三太夫
お体のためでござりまするぞ、殿。
御門守
ならば、三太夫も一緒に出るか。
三太夫
手前はこの歳でございますので、遠慮させていただきます。
その代わり、屈強の若者を付けさせますので、いずこなりとも、遠乗りをなさいませ。
御門守
ならば、余も代わりの者を立てるぞ。
三太夫
手前の代わりはいくらもいますが、殿の代わりはございません。
御門守
もうよい。相わかった。遠乗りに出る。馬を引け。

嫌がる殿様をむりやり遠乗りに出させましたが、遠乗りといいますと、今でいうサイクリングのようなものでしょう。
殿様の馬と家来の馬が五騎ほど、本郷のお屋敷を出まして、相当に走りました。やってきましたのが、目黒。

御門守
やぁ、一同の者。思ったより早く着いたの。
家来A
殿のお腕前には驚嘆(きょうたん)いたしました。
御門守
余は、空腹を覚えた…。弁当を持ってまいれ!
家来A
はッ (・_・;
御門守
いかがいたした?
家来A
申し訳ございません。
このように遠くまで馬を走らせるとは思いませんでしたので、弁当は持参いたしませんでした。(>_<)
御門守
持参しなかったのか…。
ないとなると、なおさら空腹を覚えるな……。もう動けん……。どこかに弁当は落ちてないか…?
家来A
一面の原でございまして、弁当は落ちてはございませんでしょう。(´・_・`)
御門守
さようか……。(´・_・`)

殿様はがっかりして遠くの空をぼんやりと見ていると、秋のことですから、赤トンボがスーー、スーーと飛び交っております。

御門守
あれは食せんか?
家来B
赤トンボは食べられません。

と、ちょうど時分どき。
近くの農家でなにか焼いているようで、殿様の鼻の中に異な香りが入ってきた。
クンクン…、クンクン……。殿様は捜査に出動した警察犬みたいに、盛んに鼻をクンクンさせましたが、なんの匂いかは、わかりません。

御門守
なんじゃ、この香りは?
家来B
秋刀魚(さんま)を焼く匂いでござりましょう。
御門守
サンマ、とはなんじゃ?(・_・?)
家来B
魚にござります。
御門守
サンマと申す魚であるか。余はまだ食したことはないようじゃな。
家来B
さようでございます。
御門守
苦しゅうない。そのサンマとやらを求めてまいれ。
家来B
秋刀魚は下魚(げうお)。庶民の食べる物。殿のお口に合う魚ではござりません。(・_・;
御門守
余の口に合わない、と申すか。この際じゃ。余のほうから合わすぞ。
家来B
それはなりません!
御門守
ならんと申すか!たわけたことを申すな!( *`ω´)
あれはいかん、これはいかんと申すは、太平の贅沢である。
大名たりとも一朝ことあらば、なんなりとも食さんければならんぞ。苦しゅうない。求めてまいれ。\(`д´)/
家来B
ははぁ。

仕方がないから、家来二人が匂いを頼りに秋刀魚を捜しに出かけました。
すると、一軒の農家。
中を覗くと、土間で焚火をして秋刀魚を五、六匹、串を通して火にあぶり、ジュージューいわしている最中。ワケを話して、一本を十二文、三本ほど分けてもらった。

縁の欠けた皿の上に乗せて、こいつを大事そうに持って、足早に戻ってきた。
秋刀魚からまだ、煙が出てまして、まるで、聖火ランナーみたいなもんで。

この秋刀魚を殿様の前に差し出す。
殿様が見ると、真っ黒で細長く、ところどころに木の燃えかすがくっ付いていて、煙を立てて、プチュプチュいっている。

御門守
この魚は泣いておる。
家来B
泣いているわけではござりません。お箸をどうぞ。

箸を持たされましたが、どっから手を付けていいか、見当もつかない。
下手に触ると、飛びつくんじゃないかと思いますから、手が硬くなりました。

御門守
誰か、手を貸せ。
家来C
ためらってはなりませんぞ、殿。
御門守
なんとか致せ。
家来C
しからば。

家来がていねいに秋刀魚の皮をむいて、見栄えがいいようにしました。 殿様はやっと、安心をして、こわごわ一口召し上がって…

御門守
……うん、美味(びみ)である。(⌒-⌒)

そりゃ、そうでしょうね。
といいますのは、普段、煮たり焼いたりした料理だって、そのまますぐに殿様の前に出すわけじゃない。
お家転覆を謀って毒が入っていては大変ですから、まず、鬼役(おにやく)という毒味をする家来が、殿様と同じ料理を食べて確かめる。

この鬼役はつらい役ですよ。毒が入っていれば、即、死ぬんですから。

鬼役が念には念を入れて、食べてもなんでもないとなると、やっと、殿様の前に持って行って、出す。
そうなると、どんなに贅沢を尽くした料理だって、冷たくなって、硬くなって、つっぱらかっている。
殿様の食事はこれが三度三度ですから、旨いもんじゃないですよ。

ところが、今日は油ののった、焼き立てですから、旨いのなんのって。

いつもの食事ですと、ほとんど、一箸しか付けません。
「もっと食べたいな」となると、「()わりを持て」と言います。すると、その一箸しか付けてない料理を下げて、新しい同じ料理を出す。贅沢なもんですね。
料理は残らず食べるもんじゃない、というマナーで育っている。
ところが、今日のこの秋刀魚は一箸で止まらなかった。
あまりにも旨かったし、腹も減ってましたから、二箸、三箸と止まらなくなっちゃった。
片っぺらをきれいに食べてしまって、そのあと、頭と尻尾を持つと、クルッとひっくり返すと、こっちもきれいに食べちまった。
頭も見事に食べた。尻尾も「パリパリしてて旨い」てんで食べた。
三匹を、家来があっという間に片付けてしまった。
そのあと、「お湯を持ってまいれ」
家来がお湯を持ってくる。手を洗うのかと思ってたら、そうじゃない。残った骨にお湯をかけてスープにして、旨そうに飲んだ。

御門守
骨は残してやったぞ。そのほう。あとを食せ。
家来C
こうまでされますと、食べるところがございません。
御門守
遠慮いたすな。
家来C
遠慮ではございませんで。猫でも食べませんでしょう。
御門守
さようか。しかし、サンマと申すものは旨いものであるのう。
家来C
さようでございますか。(^_^)
御門守
百姓は大名よりも旨い物を食しておるのう。百姓が(うらや)ましい。しばらくの間、ここにベースキャンプを張れ。
家来C
それは無理でございます。(^_^;)
御門守
無理か……。
家来C
殿にお願いがございます。屋敷に戻りましたら、秋刀魚のことはお忘れいただきとう存じます。秋刀魚のことは一切、他言無用に願います。
御門守
なにッ。サンマのことを申してはならんのか。(・_・?)
家来C
重役方の耳に入りますと、我ら役目の手落ちと相なります。
どうぞ、この先、秋刀魚のことは無言ということで。
御門守
さようか。そのほうたちの迷惑となってはいかんな。 相わかった。サンマのことは言うまい!

約束をして、屋敷に戻りました。
そして、それからまた、冷たくて、硬くて、つっぱった食事が続きました。
さあ、殿様は秋刀魚の味が忘れられない。
寝ては夢… 起きては現(うつつ)… 幻の…
サンマ サンマ サンマ 苦いか 塩っぱいか
サンマに会いたい……。サンマに会って、この苦しい胸の内を打ち明けたい……。
おー、サンマよ……。お前は、今、どこにいるんだ……。

これはもう、殿様は秋刀魚に恋い患いをしたも同然。
冷たい、硬い、つっぱらかった食事には箸を付けなくなった。日に日に、痩せるばかり。
髭は剃らないから、口の回りは黒く汚れ、風邪をひいたのか水っぱなを垂らし、目は焦点が定まらず、ぼんやりとしている。
そうなると、家来も心配ですから、入れ替わり立ち代わり、見舞いにやってきます。

三太夫
殿。ご機嫌はいかがでございますかな?
御門守
おぉ、三太夫。目黒というところを知っておるか。
三太夫
これはまた、突然でございますな。
目黒でございますか。詳しくは存じませんが、風光明媚(ふうこうめいび)にして、なかなかよいところと聞いております。
御門守
そうではない。風光明媚はどうでもよいのじゃ。
三太夫
と、申しますと…?
御門守
それはあくまでも黒く、かつ、あくまでも長く。煙を吐き、プチュプチュ音をなす。そして、その身は一箸では飽き足らず、二箸、三箸と続き。
家来C
殿。殿ッ。
; ̄ロ ̄)!!
御門守
なんじゃ?
家来C
三太夫さまの前でなにをおっしゃいます。あの折の約束事、お忘れですか?
御門守
わかっておる。口には出さん。サンマとは言わん。
家来C
言っております!(>_<)

さて、ある日、殿様は親戚の黒井御塀守(ごへいのかみ)のところへ客として招かれて行きました。

御塀守
本日はお忙しい中をようこそのお運びで、厚くお礼を申し上げます。
つきましては、お客様のお好みの料理を調達いたしますによって、なんなりとも、仰せつけのほどを。

殿様はこれを聞いて、夢じゃないかと喜んじゃいました。
自分の屋敷では、こんなことを言われたことはなかったんですから。

御門守
しからば、サンマじゃ! \( ̄▽ ̄)/
御塀守
は…?
御門守
サンマじゃ! \( ̄▽ ̄)/
御塀守
は…?
御門守
わからんか。あくまでも黒く、かつ、あくまでも長く。煙を吐き、プチュプチュ音をなす。そして、その身は一箸では飽き足らず、二箸、三箸と続く、サンマである!!
御塀守
ははぁ……ッ。(・_・;?

主はすぐに台所へ飛んで行きました。

御塀守
殿様は確かに「秋刀魚」とおっしゃった。
家来D
魚の秋刀魚でござりますか。
御塀守
恍惚とした顔と声で、「あくまでも黒く、かつ、あくまでも長く。煙を吐き、プチュプチュ音をなす。そして、その身は一箸では飽き足らず、二箸、三箸と続く、サンマである」とおっしゃった。 魚の秋刀魚以外には考えられない。
家来D
では、町内の魚屋で買ってまいります。
御塀守
町内の店で買い求めたとあっては、当家の名折れになるかもしれん。魚河岸で求めてくるのじゃ。
家来D
ははッ。(`_´)ゞ

家来はすぐに馬を飛ばして、魚河岸へ。
今、東京の魚市場は築地(つきじ)にありますが、昔は魚河岸といいまして、日本橋にありました。
買ってきました生きのいい秋刀魚。
この親戚側は考えました。
油の強い秋刀魚をこのまま焼いて食べさせたら、ジンマシンになるかもしれないからと、秋刀魚を開きにして蒸しにかけましたから、油だけじゃない、汗まで抜いてしまった。フライ級のリミットまで体重を落とした。生きのいい秋刀魚もフラフラになってしまった。
それだけじゃありませんで、黒い皮は見苦しいということで、きれいにむいてしまった。
それに、骨を喉に引っかけるといけないということで、虫眼鏡で覗きながら毛抜きで小骨を一本、一本抜いた。
食べやすいようにと、()り鉢ですって、団子のように丸めて、蓋付きの椀の中に入れて、殿様の膳の上に他の料理と一緒に出した。

殿様は、膳を前にして戸惑っちゃいました。秋刀魚がどこにあるか、わからない。

御門守
サンマはいずこにある? (‥ )ン?( ‥) ン?
御塀守
椀の中に入っております。

殿様は涎を垂らさんばかりに、蓋をひょいと取って、中を見ると…、

御門守
……? なんじゃ、これは…? 黒くない…。長くもない…。煙を吐いておらん…。プチュプチュと言っておらん。白い団子であるな。
これはなんじゃ?(・_・?)
御塀守
(あつら)えになりました秋刀魚でござります。
御門守
これがか…?(?_?)
そうか、わかったぞ。他の者の目をごまかすために、かように姿を変えて現われたのじゃな。
苦労しておるの、このサンマは。

喜び勇んで、箸で挟んで、口に入れてみたが、旨くもなんともない。
そりゃそうですよ。秋刀魚の旨味である油を完全に抜いてしまったんですから。パサパサ、パサパサしてて、綿を食ってるようなもんで。

御門守
これ、これはなんであるか。( ̄。 ̄)
御塀守
秋刀魚でござります。
御門守
確かにサンマであるか。いずれで、買い求めた? (゚ペ)?
御塀守
日本橋魚河岸でござります。(´・_・`)
御門守
それでいかん!サンマは目黒に限る!\(`д´)/
[完]

原作:古典落語
脚色/口演:六代目 三遊亭圓窓
「圓窓五百噺」その二七七より


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最終更新日 : 2013-12-13 23:01:37

奥付

 

らくごったぁ!〈電子書籍版〉


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著者 : 三遊亭圓窓
 


ブクログのパブー本棚へ入れる
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最終更新日 : 2013-12-13 23:02:20

この本の内容は以上です。


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