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1

七月の海は、爽やかな風が吹いていた。

鮮やかなグリーンの水着。健康的な肌が午前の太陽に照らされている。砂浜に敷物を敷き、うつ伏せに寝る19歳の美少女。

男たちの視線が気になる。ちょっぴり怖いのがたまらない。お気に入りの時間。

純粋に水泳に来ている者ばかりではない。ナンパにも二通りある。本気で出会いを探しているタイプと、今夜の獲物を探している狼たちである。

純は、セクシーな身のこなしで仰向けになった。

彼女の魅力的な水着姿がもろに目立ってしまう。

美しい表情。見事な健康美。鍛え抜かれた体が、眩しく光る。

男たちがやって来た。しかし狼という感じではない。彼女は一瞬目を開けて確認した。5人。不良っぽくはない。

「彼女」

「え?」純は慌てたように上体をやや起こした。

「一人?」

5人の男たちに囲まれて、明らかに怯えた表情を見せる純。唇を噛み、皆を見てから、怖々答えた。

「はい」

「俺たちと遊ばね?」

口々に聞いてくる。慌てた様子の純は、小首をかしげながら眩しそうな目をした。肩まで届かない、やや染めた髪。

「遊ぶって、どういうことですか?」

「バカ大丈夫だよ。変なとこには連れてかねえよ。食事したり、喋るだけだから」

警戒心丸出しの純は、小声で答えた。

「あ、すいません、結構です」

「結構ってことは、OKってこと?」男たちはしつこい。

「いえ、お断りします」控えめな言葉とは裏腹に、気が強そうな顔に挑発的な美ボディ。

「断れると思う、お姉さん」

男たちは、いきなり純の両手両足を押さえつけた。純は焦った顔で目を見開いた。

「ちょっと、何するんですか、放してください!」

 


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2

男たちは危ない笑顔で脚やおなかを触ってきた。純は目を丸くする。

「ちょっと、何触ってるんですか、やめてください!」

「うるさいよ」

純の抗議を無視して触りまくる男たちに、純は怒った。

「だれが触っていいって言った? 大きい声出しますよ」

「大きい声出したら真っ裸にするよ」

純は怯んだのか、一瞬黙る。そんなことされたら、たまらない。

「彼女、生意気な態度取るなら水着上下とも取って逃げちゃうよ」

「わかった、やめて」

言うしかなかった。手足を押さえつけられた状態でビキニを剥がされたら、女の子はアウトだ。

「赤っ恥かかせてあげようか?」

「やめて、わかったから」

慌てる純の姿を見ていた男たちは、勝手にサディスティックな欲望を刺激され、興奮してしまった。

もしも水着を取られて逃げられてしまったら、全裸で置き去りにされた女の子はかなり困ることになる。そんなことを想像して、男たちは完全にエキサイトした。

「彼女、水着取って逃げるよ。いい?」

「ダメに決まってるでしょ、ちょっと手離して!」

無抵抗の状態では危険過ぎる。純は本気でもがいた。

「離してください」

「裸で放置は困る?」

「困ります」純は赤面しながら即答した。

「かわいい。じゃあ、何でも言うこと聞くか?」

彼女は確認するように聞いた。

「もしも言うこと聞かないと、水着を取って逃げる気ですか?」

「そうだよ。嫌なら言うこと聞きな」

純は唇を結び、男たちをながめると、言った。

「わかった。言うこと聞くから離して」


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3

女の子が観念したと思い、男たちは手を離して彼女を立たせた。

「さあ、どこ行く?」

「どこも行かないよ」純は涼しい顔で言った。

「そういう生意気なこと言うと・・・」

「何だって言うんだバッキャロー!」

純は男の首筋めがけて右ハイキック!

「あああ!」

危ない倒れ方をした。一瞬にして大注目だ。

「テメー何してんだこのガキ!」

突進する男に右フロントキックから右サイドキック!

前から来る男の腕を掴むと同時に、バックキックで別の男を吹っ飛ばす。そして腕を捻って倒すと腕固め。

「イタタタタタタ・・・」

4人目。純の顔を蹴り上げようとする男のキックを軽く交わすと、突進しながら飛び膝蹴り!

「だあああ!」

逃げようとする最後の一人の髪を掴むと、純は怒りの表情で凄んだ。

「おい、あたしがか弱い女だったら悪さしようとしたのか?」

「違う違う違う、俺たち口だけだから、そんな恥かかせたり悪いことしないから」

「本当か?」

「本当です、信じてください」

純は髪を離し、屈む男の背中に軽く右ミドルキックを見舞う。

「痛ッ」

「今度脅迫めいたことしてたら容赦しないからな」

怖い目で睨むと、純は自分の荷物を持ってその場を去った。大勢の海水浴客が呆然と純を見ていた。

(5対1でも勝てたかあ・・・)

でも男は相手が女だと油断する。強い女とわかって警戒しながら構えた男5人とは違う。純はそんなことを考えながら、砂浜を歩いていった。

 

 

 


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4

古い2階建ての一軒家。家の駐車場に車を止めると、男が一人、ゆっくり下りてきた。

グレーのスーツに白いワイシャツ。ノーネクタイ。精悍な顔。日が眩しいのか渋い顔をすると、鍵を差してドアを開けた。

殺風景な事務所だ。

中に入ると、ソファにどっかりとすわり、エアコンのスイッチを入れた。

菅葦探偵事務所を経営している探偵・菅葦友斗である。

過去も私生活もよほど親しい人間にしか話さないから、詳細はわからないが、年齢は46歳。独身。結婚歴はない。

「なぜ結婚しないの?」と聞くと、「なぜ結婚したんだ?」と聞き返すから、そのうちだれからも聞かれなくなった。

鍛え抜かれた肉体。180センチの長身。虎豹を思わせる闘争心溢れる風貌。

モテない男という感じには見えないが、どうやら仕事が危険過ぎるのが、独身の理由らしい。

事務所の電話が鳴る。菅葦は面倒くさそうな顔をして受話器を取った。

「はい」

『俺だよ』

「詐欺か?」

『冗談はいい。厄介な事件を担当した。きょう会えるか?』

菅葦は一瞬ためらうと、答えた。

「構わんが、受けるかどうかは、中身を聞いてからだ」

菅葦はハスキーでドスのきいた声。力強くゆっくり喋る。かなり個性的な声なので、名前を名乗らなくてもすぐにわかる声だ。

「場所はここでいいか?」

『ああ』

「・・・警部」

『何だ?』

「危ない話か?」

『ハハハ。安全な話なら、君に頼らないよ』


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5

大林警部は、車で菅葦の事務所に来た。紺のスーツを着ている。

ソファにすわり、菅葦と向かい合うと、テーブルにコンビニの袋を置いた。

「菅葦君。助手は雇わんのか?」

「足手まといになるだけだ」

大林は50歳。年齢は菅葦よりも4つ上だがほぼ同期だ。しかし役職は大林のほうが上だった。菅葦のように反骨精神が旺盛過ぎると、警察に限らず、どんな組織でも役職は上がらないものだ。

自分に逆らう人間を推薦する上司というのは、そういるものではない。

「どうせお茶を入れるのも面倒くさがると思って、コーヒーを買ってきたよ」

大林は冷えた缶コーヒーを2本テーブルの上に出した。菅葦は渋い顔で缶を手にすると、文句を言った。

「ホットじゃないのか?」

「きょうは暑いじゃないか」

「俺は夏でもホットだ」

「贅沢言いなさんな」

大林はコーヒーをひと口飲むと、早速話を始めた。

「簡単に言えば形を変えた売春事件だが、立証が難しいケースだ」

「・・・・・・」

「まずインターネットを使って、パソコンや携帯電話に、ダイレクトにメールを送る。そこで格闘技に自信がある女子を広く募集する」

「格闘技?」菅葦が少し関心を示した。

「ああ。まあ、悪の一味だ。そういう名簿くらい持っているだろ。無差別に撒くんじゃなく、柔道や空手をやっている二十歳前後の女子にメールを送信する」

菅葦は仕方なさそうに冷たいコーヒーを開けて飲んだ。

「見知らぬ者からのメールなんて開かずに即ゴミ箱行きにしてくれれば安全なんだが、セキュリティ意識が低いのか、簡単に開いて見てしまうんだな」

大林の嘆きに、菅葦は顔をしかめただけで、話の続きを聞きたがっていた。

「引き込むタイトルをつけるんだ。男を3人倒したら100万円の賞金とかな」



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