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7

菅葦は事務所に戻ってきた。純がいるので驚いた。

「まだいたのか?」

「ハンバーグは美味しかった?」純が笑う。

「・・・何?」

「怒っちゃダメだよ」純は両手を出す。「あなたが怒ると怖そうだから」

菅葦はドアを開けた。純が遠慮がちに声をかけられるのを待っていると、菅葦が聞いた。

「まさか、尾行していたのか?」

「怒っちゃダメですよ」

「別に、怒らない」

あまり見られたくない密談だった。内容を聞かれたとしたら大変だ。菅葦は鋭い目で純を見る。

「入ってくれ」

「殺さないでね」

純は玄関に入るとドアを閉め、鍵も締める。

「尾行をしていたのか?」

「ええ、まあ」

「なぜ?」

「認めて欲しくて」純はメモを出して読み上げた。「10時10分。駅到着。10時20分ファミレスに入り、ハンバーグセットを注文。半熟卵をゆで卵にできないかとウエートレスに言って困らせる」

菅葦は渋い顔をしながら黙って聞いていた。

「そこへスーツ姿の男性が来店。しばし小声で談笑。11時30分店を出る」

「もういい」

「11時45分電車に乗り、11時50分最寄り駅に到着。11時52分、バスに乗る」

「もういいと言った」

「そして12時8分、事務所に帰宅」

菅葦は大事なことを質問した。

「ファミレスでの話は聞いていたのか?」

 

 

 


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8

純は真顔になると、菅葦の目を真っすぐ見つめた。

「聞こえてしまいました」

「・・・そうか」

純も聞く。

「あたしのこと、全く気づかなかったの?」

「探偵失格だな」

「元刑事の探偵にそのセリフを言わせるということは、探偵合格じゃないですか?」

明るい笑顔で迫る純に、菅葦は感心した。

「さすがは、闘技者だな」

純は、初めて誉められた気がして、笑顔がこぼれた。ニンマリする純に、菅葦は質問を繰り返す。

「で、話を全部聞いてしまったのか?」

「あたしは口堅いよ。でも、助手にしてくれないと、ネットで呟きそう」

「揺するのか?」菅葦が苦笑する。

「冗談よ。それより菅葦さん」純は真剣な顔で言った。「なぜあたしを選ばないの?」

「選ぶ?」

「とぼけないで。格闘技が得意で、若くて・・・まあ、かわいくないと言われたらそれまでだけど」

「かわい過ぎるのも危険だ」

「え?」純は目を丸くした。

「アバズレのように見えて、実は清らかな心の持ち主。それは最初から見抜いていた」

「嘘」

「でも、そこまで美人だと、悪党は別のことを考えそうで、それが心配だ」

純は落ち着かないそぶりで左右を見てから、菅葦を見つめた。

「菅葦さん、あたしのこと、そういう風に見ててくれたの?」

「そういう風にって、だれが見ても美人の部類だろう」

「嘘・・・」純は情けなくも舞い上がった。「ちょっと、凄い嬉しいんですけど」

 


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9

喜ぶ純を無視して、菅葦は言った。

「俺は何人も悪党を見てきた。だから奴らの考えることは察しがつく」

純も緊張の面持ちで話を聞いた。

「最初から話そう。知っての通り、奴らは賞金100万円など払う気はない。簡単だ。二人を倒しても三人目に絶対に勝てない強い男を用意すれば済む」

「卑怯なことするわね」

「それくらい見抜けずに応募する女も無謀過ぎる。強いと言ったって上には上がいる。プロレスラーには勝てないだろう」

純は何も言わずに菅葦を見ていた。

「でも、純のような上珠を見れば、気が変わる。ただ騙すんじゃなく、ボスは欲しいと思うだろう」

「上珠?」純が小首をかしげる。

「まどろっこしい罠にはめることなく、いきなりボスの寝室に直行。そんな事態も想定して作戦を立てなければならない」

純は唇を噛んで一瞬迷いが心をよぎったが、聞いた。

「あの警部が、マイクをつけるって言ったけど」

「マイクから音が聞こえなくなって、即突入しても、間に合わないかもしれないぞ」

「何とか助けてよ。裸にされる前に」純は不安な顔色で言った。

「腕の立つ男の刑事を何人か先に潜入させればいいが、俺の調べたところ、かなりの人数だ。一人や二人では押さえきれない」

「調べたの?」

「人脈はある。顔ぶれを調べたが、敵はただのチンピラじゃない。格闘技の有段者だ。張飛や呂布じゃあるまいし、一人で何十人もなぎ倒すのは無理だ」

純が笑顔で言った。

「菅葦さんが潜入してよ。そしたら安心」

「残念ながら俺が得意なのは、ハジキだ」

「げっ」

「全員撃ち殺すわけにも行かない」

 

 


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10

菅葦は語った。

「悪党は法の網をくぐる。規制をしても、地下に潜るだけだ」

「地下に潜る?」

「女をさらって監禁するんじゃない。罠を張って、女のほうから罠に飛び込んで来たんだ。しかも負けたら何でも言うことを聞くという約束に同意している。つまり、被害者も告訴しにくい」

「法には触れていないの?」純が聞いた。

「もちろん触れている。こんなことを商売にしていいわけがない。それに、奴らが撮って売っているのは裏だ。裏で密売している以上、犯罪だ」

純は意を決したように、菅葦に言った。

「あたしも、女を食いもんにする男は許せない。その警部を呼んでよ。作戦会議を開きましょう」

菅葦は渋い顔をすると、純に聞いた。

「思っている以上に危険だぞ。大丈夫なのか?」

「菅葦さんを信じている。絶対に助けてくれるって」

「重圧だな」菅葦が顔をしかめた。

「拷問されそうになったらペラペラ喋るから。ハハハ」

「それでいい」

「冗談よ」

「いやダメだ」菅葦が真剣な顔で言った。「拷問される前に全部喋るんだ。意地やプライドを捨てて哀願しろ。謝って許してくれそうなら謝るんだ」

純は唇を尖らせると、両手を上げて伸びをした。

「気が進まないけど、でも、あたしを心配して言ってくれてるんだろうから、嬉しいわ。言う通りに懇願します」

「無茶は禁物だ。よほどの鬼畜じゃない限り、女が弱気な顔で哀願したら、攻撃は緩む。悪党は、自分を恐れる者を好きだから」

 


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