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13

13対1では勝てるわけがない。メチャクチャにされてしまう。純は唇を噛むと、駐輪場を出ようとした。

「待てよ」

「どきなよ」

「待てって言ってんだよ!」

強く押されて、純は壁に背中からぶつかった。

「何すんだよ、イテーなあ」

「おい、この子何?」

殴られた男が切れた口を押さえながら言った。

「こいつがいきなりぶん殴って来たんだ」

「いきなりなんか殴るわけないじゃん」純は即否定した。「高校生に変なことしようとしてただろ」

「うるせえ。おまえ絶対許さないよ」

純は神妙な顔をした。乱闘して組み伏せられたら犯されてしまう。勝てるわけがない人数に喧嘩を吹っかけるような無謀はできない。

「女の子。謝りな」リーダー格の男が笑顔で睨んだ。

「謝る?」純が顔をしかめた。

「悪いことしてないのに謝れないなんて言ったら泣かすよ」

「・・・・・・」

「謝らないならスッポンポンにしてボコボコにするよ。いいのか?」

スッポンポンと言われ、純はおなかに手を当てた。

「早く」

「すんま・・・」

純が聞こえない小声で呟くと、殴られた男は激怒した。

「ダメだよ、許さないよ」

「すいません」

「ダメだよおまえ。スッポンポンだよ」

それは困る。純は嵐が過ぎ去るのを待つように、無言で身構えた。

「土下座しろよ」

「ちょっと待ってよ」純はいきり立つ男を手で制した。

(悔しい・・・どうしよう?)

 

 

 


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14

そこへ、スーツ姿の男が入って来た。

「何をしてる?」

「何だテメー!」

「警察だ」

「ヤベ」

男たちは怯んだ。駐輪場で女一人に13人の男が迫っている。どう見ても恐喝だ。

「カツアゲか?」

「ちげーし」

菅葦はわざと逃げ道をあけるように、右端を歩いて純に近づく。男たちは回るように左側から外へ出て行く。無理に追わずに純のそばまで来た。

「逃げろ!」

13人は一斉に走って逃げた。菅葦は追わない。純は力が抜けたように深呼吸すると、菅葦を見た。

「刑事さん、ありがとうございます。助かりました。どうしようかと思った」

「大丈夫か?」

「はい」

「変なことはされてないか?」

「大丈夫です」

菅葦は男たちが遠くに行ったことを確認すると、渋い顔で言った。

「実は、俺は刑事じゃない。元刑事で、今は探偵だ」

「そうなんですか?」純は目を丸くして驚く。

「探偵だ、と言っても、それがどうしたと言われるのがオチだ」

「まあ、そうですけど・・・」純はかしこまった。「刑事じゃないならなおさら、命の恩人です。ありがとうございます」

本当に助かったので、純は自然に頭が下がった。

「なぜ囲まれてた?」

「高校生をここに引っ張り込んでいたから、助けようと思って」

「無謀だな。警察に電話するべきだ」菅葦が厳しい顔をする。

「最初3人だから、何とかなると思って。そしたら10人もあとから来たから、悔しいけど足がすくんで」

男3人相手に何とかなるというセリフに、菅葦は興味を持った。

 

 


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15

「君は、腕に覚えがあるのか?」

「格闘技は3歳の頃から」純は自慢げに言った。

「腕に自信のあるほうが危ないってこともあるぞ」

「あなたこそ」純は両拳を構えて見せた。「腕に自信があるからあの人数相手に怯まなかったんじゃないの?」

「膝が震え、心臓が喉まで来ていた」

「嘘ばっかし」純が白い歯を見せる。

「まっ、とにかく喧嘩はしないに越したことはない。喧嘩は犯罪だ。喧嘩自慢は、私は万引きが得意ですと言ってるのと同じだ」

さすがは元刑事。言うことが違うと純は苦笑した。でも命の恩人に逆らう気はない。

「あの、お名前は? あたしは梅島純です」

「純・・・。俺は菅葦だ」

「スガイさん」

菅葦は名刺を出して純に渡した。

「何かあったら警察か、俺のところに連絡してくれ。まあ、大丈夫だと思うが・・・」

お礼まわりはないと思うが、菅葦は悪の目線、悪人の発想に敏感だった。普通はここで終わるが、純はあまりにも魅力的だ。ナンパ目的で諦めない危険性は残っている。

「それじゃ、気をつけて」

「あの・・・」純は、行きかけた菅葦を呼び止めた。

「何だ?」

「事務所に遊びに行ってもいいですか?」

菅葦は渋い顔で純をじっと見る。

「ああ」

純は明るい笑顔を向けると、友好的な態度で言った。

「命の恩人です。ちゃんとお礼がしたいので」

「・・・・・・」

 

 

 


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1

翌日。

純は名刺の住所をあてにして、菅葦探偵事務所を探した。

「ここ?」

古い一軒家。ポストを見ると「菅葦友斗」と書いてある。

「ここだ」

車が止まっている。留守ではないようだ。純はチャイムを鳴らした。

「はい」

菅葦がドアを開けた。スーツ姿だ。純はかしこまった態度で長身の菅葦を見上げる。彼女は小柄ではないが、160センチまで行かない。

「こんにちは」

「・・・本当に来たのか」

「迷惑ならすぐに帰りますけど」

「迷惑じゃない」

菅葦は奥に行く。どうぞ、という意味だと取り、純は玄関に入り、ドアを閉めた。

「お邪魔します」

「どうぞ」

「あの、鍵は締めますか?」

「鍵?」菅葦は不思議そうな顔をした。

「殺し屋に狙われてそうで。締めといほうが良くないですか?」純が笑う。

「・・・そうだな」菅葦も少し笑みを見せた。

歓迎はされていると勝手に判断し、純は鍵を締めて中に入った。

二人はソファにすわって向かい合う。

「ドラマでは見たことありますけど、実際の探偵事務所に入るのは初めてです」

「そうか」

純は、やや緊張の面持ちでいたが、意を決して言った。

「実は、菅葦さんにお願いしたいことがあって来ました」

「何だ?」

「あたしを、アシスタントにしてもらえませんか?」

前置きなしの速攻だ。純は真顔で唇を噛み締め、菅葦の顔をじっと見た。

「アシスタント?」

「はい」

 


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2

菅葦は厳しい表情で純を見る。純は次の言葉を待った。

「何ができる?」

「え?」

いきなり質問を返され、純は一瞬戸惑った。

「格闘技」

「あとは?」

「掃除でも洗濯でも雑用をやる助手って必要じゃないですか? あと買い物とかも。あ、料理もできますよ」

菅葦は渋い顔をすると、ハッキリ言った。

「助手はいらない」

「でも・・・」

「今まで一人でやって来たんだ。助手はいらない」

純は怯んだが、諦めなかった。

「見習いで使ってみてください。一生懸命頑張りますから」

「俺がやっている仕事は浮気調査や人捜しじゃない。もっと危険な仕事だ」

「ハードボイルド小説みたいな?」純が生き生きとした目で身を乗り出す。

「とにかくダメだ。助手は足手まといになる」

菅葦の断定的な言葉に、純は俯いた。

「使う前から使えないって決めつけるんですね」

「そういうことじゃない」

「見習い期間中はギャラは安くても構いません」

菅葦は、諦めない純に、怖い顔で聞いた。

「なぜ探偵をやりたいんだ?」

「今、失業中で。派遣バイトをしてたんですけど、頭ごなしに怒鳴られると殺したくなるんですよね」

菅葦は笑った。

「そんなに短気じゃ探偵も無理だ」

「生活のために仕方なく働くのと、自分が選んだ道は違いますよ」

唇を尖らせる純。菅葦は、真剣に説得にかかった。

「危険なんだ。冗談抜きに。やめたほうがいい」



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