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11

「ほら行くぞ、ボンボンボンって」

「やめて、待って」

「ほらボンボンボン」

本気で叩かれたら本当に危ない。純は身じろぎした。悔しいけど力で押さえつけられたらどうにもならない。

そのとき、ブワンという鈍い音が聞こえた。男たちは後ろを振り向くとパトカーが止まっているので仰天した。

「ヤベ!」

男たちは純から離れた。純はおなかを押さえて横になったままだ。

警察の声がマイクで響く。

「そこの3人、そこを動かないで」

「逃げろ!」

皆はバイクに飛び乗ると、慌てて逃走した。

「そこの3人、止まりなさい!」

静かな早朝に、サイレンの音が鳴り響く。警官が一人パトカーから出ると、車は追跡を開始した。近所の人も何ごとかと出て来ている。

赤面しながら唇を噛む大注目の純は、おなかを押さえて片膝をついていた。

「大丈夫ですか?」警官が聞く。

「大丈夫です」

 

それから純は警察官に事情を聞かれ、経緯を話し、部屋に戻った。

疲れ果ててベッドにうつ伏せに倒れる。

「悔しい・・・」

悔しいし、恥ずかしいし、痛いし、最悪だ。海では5対1で圧勝できたのに、今は3対1で負けた。やはり人数ではない。それより危なかった。危うく殺されるところだった。

警察が来なかったら部屋に入られてしまったかもしれない。あの状態で脅されれば、部屋番号を答えるしかない。

「女だと思ってバカにしやがって」

修行が足りない。純は心底そう思った。


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12

懲りない純は、きょうも夜の街をさまよい歩く。女豹のように鋭い目をギラギラ光らせ、獲物を探す。

いつでも動きやすいようにというか、ファイトしやすいようにジーパン姿だ。

「ちょっとやめてください!」

女の悲鳴。自分も女だということを忘れているのか、純は声のするほうへ駆けていった。

狭い駐輪場に女子高校生が引っ張られている。腕を掴んでいるのは若い男3人だ。

「やめてください、離してください!」

「来いよ」

純は怖い顔で近づくと、男たちに怒鳴った。

「何やってるんだテメーら?」

「何!」

一瞬驚いたが、若い女なので男たちは強気に出た。

「何だよテメー」

純は高校生の前に行くと、男の腕を思いきりトーキック!

「痛!」

「行っていいよ」純が高校生に言う。

「え、でも」

「足手まといだ。早く行けっつーの」

高校生を人質に取られたら手が出せなくなってしまう。それに純は男ではないから、高校生と愛が芽生える必要はない。彼女を逃がすと、純は駐輪場に男たちを追い詰めた。

「おまえら、いつも女に悪さしてんのか?」

「何、この子? やっちゃう?」

「やっちゃおうか?」

男たちが歩み寄る。純は最初に来た男にカウンターの右ストレート顔面!

「あああああ!」

両手で顔を押さえて倒れた。かなり効いたようだ。純は笑顔で睨むと、両拳を構えた。

「次はだれだ?」

「ちょっと待てよ」男二人が怖気づく。

「待たねえよ」

そのとき、調子に乗る純の背後から、大勢の靴音が聞こえた。純は慌てて振り向く。

「え?」

「どうしたあ?」

柄の悪そうな若い男が約10人。これはあまり良くない展開だ。

(嘘・・・)

 


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13

13対1では勝てるわけがない。メチャクチャにされてしまう。純は唇を噛むと、駐輪場を出ようとした。

「待てよ」

「どきなよ」

「待てって言ってんだよ!」

強く押されて、純は壁に背中からぶつかった。

「何すんだよ、イテーなあ」

「おい、この子何?」

殴られた男が切れた口を押さえながら言った。

「こいつがいきなりぶん殴って来たんだ」

「いきなりなんか殴るわけないじゃん」純は即否定した。「高校生に変なことしようとしてただろ」

「うるせえ。おまえ絶対許さないよ」

純は神妙な顔をした。乱闘して組み伏せられたら犯されてしまう。勝てるわけがない人数に喧嘩を吹っかけるような無謀はできない。

「女の子。謝りな」リーダー格の男が笑顔で睨んだ。

「謝る?」純が顔をしかめた。

「悪いことしてないのに謝れないなんて言ったら泣かすよ」

「・・・・・・」

「謝らないならスッポンポンにしてボコボコにするよ。いいのか?」

スッポンポンと言われ、純はおなかに手を当てた。

「早く」

「すんま・・・」

純が聞こえない小声で呟くと、殴られた男は激怒した。

「ダメだよ、許さないよ」

「すいません」

「ダメだよおまえ。スッポンポンだよ」

それは困る。純は嵐が過ぎ去るのを待つように、無言で身構えた。

「土下座しろよ」

「ちょっと待ってよ」純はいきり立つ男を手で制した。

(悔しい・・・どうしよう?)

 

 

 


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14

そこへ、スーツ姿の男が入って来た。

「何をしてる?」

「何だテメー!」

「警察だ」

「ヤベ」

男たちは怯んだ。駐輪場で女一人に13人の男が迫っている。どう見ても恐喝だ。

「カツアゲか?」

「ちげーし」

菅葦はわざと逃げ道をあけるように、右端を歩いて純に近づく。男たちは回るように左側から外へ出て行く。無理に追わずに純のそばまで来た。

「逃げろ!」

13人は一斉に走って逃げた。菅葦は追わない。純は力が抜けたように深呼吸すると、菅葦を見た。

「刑事さん、ありがとうございます。助かりました。どうしようかと思った」

「大丈夫か?」

「はい」

「変なことはされてないか?」

「大丈夫です」

菅葦は男たちが遠くに行ったことを確認すると、渋い顔で言った。

「実は、俺は刑事じゃない。元刑事で、今は探偵だ」

「そうなんですか?」純は目を丸くして驚く。

「探偵だ、と言っても、それがどうしたと言われるのがオチだ」

「まあ、そうですけど・・・」純はかしこまった。「刑事じゃないならなおさら、命の恩人です。ありがとうございます」

本当に助かったので、純は自然に頭が下がった。

「なぜ囲まれてた?」

「高校生をここに引っ張り込んでいたから、助けようと思って」

「無謀だな。警察に電話するべきだ」菅葦が厳しい顔をする。

「最初3人だから、何とかなると思って。そしたら10人もあとから来たから、悔しいけど足がすくんで」

男3人相手に何とかなるというセリフに、菅葦は興味を持った。

 

 


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15

「君は、腕に覚えがあるのか?」

「格闘技は3歳の頃から」純は自慢げに言った。

「腕に自信のあるほうが危ないってこともあるぞ」

「あなたこそ」純は両拳を構えて見せた。「腕に自信があるからあの人数相手に怯まなかったんじゃないの?」

「膝が震え、心臓が喉まで来ていた」

「嘘ばっかし」純が白い歯を見せる。

「まっ、とにかく喧嘩はしないに越したことはない。喧嘩は犯罪だ。喧嘩自慢は、私は万引きが得意ですと言ってるのと同じだ」

さすがは元刑事。言うことが違うと純は苦笑した。でも命の恩人に逆らう気はない。

「あの、お名前は? あたしは梅島純です」

「純・・・。俺は菅葦だ」

「スガイさん」

菅葦は名刺を出して純に渡した。

「何かあったら警察か、俺のところに連絡してくれ。まあ、大丈夫だと思うが・・・」

お礼まわりはないと思うが、菅葦は悪の目線、悪人の発想に敏感だった。普通はここで終わるが、純はあまりにも魅力的だ。ナンパ目的で諦めない危険性は残っている。

「それじゃ、気をつけて」

「あの・・・」純は、行きかけた菅葦を呼び止めた。

「何だ?」

「事務所に遊びに行ってもいいですか?」

菅葦は渋い顔で純をじっと見る。

「ああ」

純は明るい笑顔を向けると、友好的な態度で言った。

「命の恩人です。ちゃんとお礼がしたいので」

「・・・・・・」

 

 

 



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