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3

女の子が観念したと思い、男たちは手を離して彼女を立たせた。

「さあ、どこ行く?」

「どこも行かないよ」純は涼しい顔で言った。

「そういう生意気なこと言うと・・・」

「何だって言うんだバッキャロー!」

純は男の首筋めがけて右ハイキック!

「あああ!」

危ない倒れ方をした。一瞬にして大注目だ。

「テメー何してんだこのガキ!」

突進する男に右フロントキックから右サイドキック!

前から来る男の腕を掴むと同時に、バックキックで別の男を吹っ飛ばす。そして腕を捻って倒すと腕固め。

「イタタタタタタ・・・」

4人目。純の顔を蹴り上げようとする男のキックを軽く交わすと、突進しながら飛び膝蹴り!

「だあああ!」

逃げようとする最後の一人の髪を掴むと、純は怒りの表情で凄んだ。

「おい、あたしがか弱い女だったら悪さしようとしたのか?」

「違う違う違う、俺たち口だけだから、そんな恥かかせたり悪いことしないから」

「本当か?」

「本当です、信じてください」

純は髪を離し、屈む男の背中に軽く右ミドルキックを見舞う。

「痛ッ」

「今度脅迫めいたことしてたら容赦しないからな」

怖い目で睨むと、純は自分の荷物を持ってその場を去った。大勢の海水浴客が呆然と純を見ていた。

(5対1でも勝てたかあ・・・)

でも男は相手が女だと油断する。強い女とわかって警戒しながら構えた男5人とは違う。純はそんなことを考えながら、砂浜を歩いていった。

 

 

 


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4

古い2階建ての一軒家。家の駐車場に車を止めると、男が一人、ゆっくり下りてきた。

グレーのスーツに白いワイシャツ。ノーネクタイ。精悍な顔。日が眩しいのか渋い顔をすると、鍵を差してドアを開けた。

殺風景な事務所だ。

中に入ると、ソファにどっかりとすわり、エアコンのスイッチを入れた。

菅葦探偵事務所を経営している探偵・菅葦友斗である。

過去も私生活もよほど親しい人間にしか話さないから、詳細はわからないが、年齢は46歳。独身。結婚歴はない。

「なぜ結婚しないの?」と聞くと、「なぜ結婚したんだ?」と聞き返すから、そのうちだれからも聞かれなくなった。

鍛え抜かれた肉体。180センチの長身。虎豹を思わせる闘争心溢れる風貌。

モテない男という感じには見えないが、どうやら仕事が危険過ぎるのが、独身の理由らしい。

事務所の電話が鳴る。菅葦は面倒くさそうな顔をして受話器を取った。

「はい」

『俺だよ』

「詐欺か?」

『冗談はいい。厄介な事件を担当した。きょう会えるか?』

菅葦は一瞬ためらうと、答えた。

「構わんが、受けるかどうかは、中身を聞いてからだ」

菅葦はハスキーでドスのきいた声。力強くゆっくり喋る。かなり個性的な声なので、名前を名乗らなくてもすぐにわかる声だ。

「場所はここでいいか?」

『ああ』

「・・・警部」

『何だ?』

「危ない話か?」

『ハハハ。安全な話なら、君に頼らないよ』


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5

大林警部は、車で菅葦の事務所に来た。紺のスーツを着ている。

ソファにすわり、菅葦と向かい合うと、テーブルにコンビニの袋を置いた。

「菅葦君。助手は雇わんのか?」

「足手まといになるだけだ」

大林は50歳。年齢は菅葦よりも4つ上だがほぼ同期だ。しかし役職は大林のほうが上だった。菅葦のように反骨精神が旺盛過ぎると、警察に限らず、どんな組織でも役職は上がらないものだ。

自分に逆らう人間を推薦する上司というのは、そういるものではない。

「どうせお茶を入れるのも面倒くさがると思って、コーヒーを買ってきたよ」

大林は冷えた缶コーヒーを2本テーブルの上に出した。菅葦は渋い顔で缶を手にすると、文句を言った。

「ホットじゃないのか?」

「きょうは暑いじゃないか」

「俺は夏でもホットだ」

「贅沢言いなさんな」

大林はコーヒーをひと口飲むと、早速話を始めた。

「簡単に言えば形を変えた売春事件だが、立証が難しいケースだ」

「・・・・・・」

「まずインターネットを使って、パソコンや携帯電話に、ダイレクトにメールを送る。そこで格闘技に自信がある女子を広く募集する」

「格闘技?」菅葦が少し関心を示した。

「ああ。まあ、悪の一味だ。そういう名簿くらい持っているだろ。無差別に撒くんじゃなく、柔道や空手をやっている二十歳前後の女子にメールを送信する」

菅葦は仕方なさそうに冷たいコーヒーを開けて飲んだ。

「見知らぬ者からのメールなんて開かずに即ゴミ箱行きにしてくれれば安全なんだが、セキュリティ意識が低いのか、簡単に開いて見てしまうんだな」

大林の嘆きに、菅葦は顔をしかめただけで、話の続きを聞きたがっていた。

「引き込むタイトルをつけるんだ。男を3人倒したら100万円の賞金とかな」


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6

大林は、臨場感たっぷりに、菅葦に詳細を説明した。

履歴書を送らせ、次に面接。そこでルックスのいい格闘女子を選び、いざ本番。柔道着や空手着に着替えて、道場へ行く。

1対1の試合で男と戦う。3人勝ち抜けば賞金100万円。試合は総合格闘技。打撃、投げ、関節技もOKの、いわゆる何でもありルールだ。問題は、女子が負けた場合、何でも言うことを聞く。

そこまで説明を聞くと、菅葦が口を開いた。

「何でも言うことを聞く?」

「かわいい女の子だ。察しはつくだろう」

菅葦は厳しい表情で想像した。

「・・・・・・」

長い黒髪の美少女。空手着を着て男と相対する。

「おりゃあ!」

腹への左中断蹴り一発で男を倒す。KO勝ちだ。次の男が出て来る。いきなりタックル。倒された。彼女は必死に逃れようとするが、素早くアキレス腱固めが入ってしまう。

「アタタタタタ・・・ちょっと待って」

真っ赤な顔で技を解こうとするが無理だ。彼女は武人の情けを期待して男を見つめる。

「待って、待ってください」

男はもとより許す気などない。彼女はたまらずタップアウト。レフェリーが逃げ道をつくれないように確認する。

「降参か?」

「外して」

「降参か?」

「わかった、降参、降参!」

すると、男たちが大勢集まって来た。柔道着を来た男たちに囲まれた彼女は、両手を出して叫ぶ。

「ちょっと待ってください! ちょっと待ってもらえますか?」

「裸だあ!」

「オオオオオオオ!」

「待って! やめて! きゃあああああ!」

「・・・・・・」

菅葦は、やや表情を動かしたが、大林を見た。

「なぜ犯罪を立証できないんだ?」

「その辺の道端を歩いているお嬢さんを連れ去るわけじゃない。本人は負けたら好きにされることに同意しているんだ。絶対勝つから関係ないと」

「・・・ふう」

「しかもそれは裏Vとして撮影されている。被害者も脅されているんだろう。訴える子がいない。まあ、自分にも否があるからな」

大林はコーヒーを飲みほすと、怖い顔で言った。

「でも女を食いもんにして金を稼いでいるのは事実だ。放ってはおけん」

 


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7

菅葦もコーヒーを飲みほした。

「よく調べたな、警部」

「問題は作戦だ。一網打尽にしたい。いちばん最良な方法は、現行犯だ。俺たちは囮捜査以外の方法をあれこれ考えたんだが、なかなか浮かばない」

「・・・囮捜査はダメなのか?」

「おいおい」大林は笑った。「警察は囮捜査なんかやらないよ。覚醒剤取締りや痴漢は別にしても、この手の囮捜査は危険過ぎる」

「そうだな」

たとえば女捜査官が囮になったとしても、万が一失敗したら、取り返しのつかないことをされてしまう危険性がある。スパイではあるまいし、女性警察官にそんなリスキーな任務を強要することはできない。

大林は急に笑顔になると、声を落とした。

「そこで君に頼みがあるんだ」

「頼み?」

「格闘技の経験がある女子を一人、探してくれないか?」

菅葦は鋭い視線を大林に向けた。

「探してどうする?」

「どうするって、そんなこと聞くなよ。わかるだろう」

「警察官も危険だからやらない仕事を、一般市民にやらせると?」

「だれも一般市民とは言っていないよ。いるだろう。そういうのがへっちゃらな女の子」

菅葦は渋い顔をした。

「今のセリフを録音しておけば良かった。警部の言葉とは思えない。揺すれる」

「暗殺するさ」大林は指でピストルの形をつくると、菅葦に向けた。

「じゃあ、マスコミに高く売るか」菅葦が真顔で言う。

「無理は承知だ。でも、こうして冗談を言っている間にも、犠牲者は出ているかもしれん」

 

 



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