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11月16日のおはなし「辻斬り」

平次郎「旦那、聞きましたか。今月五件目でげすよ」
旦那「辻斬りか」
平次郎「はあ。それも何だか得体の知れない結社か何かの仕業だって噂で」
旦那「相変わらず耳が早いな」
平次郎「ところで今日はなんです、わざわざあっしを呼び出したりなんかして」
旦那「うむご苦労である」
平次郎「ご馳走でもくれるんすか」
旦那「ご馳走ではないが、茶菓くらいなら出そう」
平次郎「トカレフか何かで」
旦那「チャカとかハジキとか、そういうのではない。今日は一つ話しておきたいことがあるのだ」
平次郎「なんでげしょう」
旦那「お主は二十四節気というのを知っておるか」
平次郎「にじゅうしせっきとゆーの?」
旦那「知らぬのか」
平次郎「いやいや。知らぬってえますか」
旦那「では知っておるのか。二十四節気であるぞ」
平次郎「ええ。あの、あれで、ずいぶん古くから伝えられてるってえ」
旦那「ふんふん。よく承知しておるな」
平次郎「昔は石同士を、こう、ぶっつけて割ったものをナイフがわりに」
旦那「馬鹿者! それは石器であろう。そうではない。わしは二十四節気と申しておる」
平次郎「アントニオ・タブッキならあっしにもわかるんですが、シセッキというのはどうにもこうにも」
旦那「何を言うておるか。それにシセッキではない。二十四節気だ」
平次郎「へえ」
旦那「春分はわかるだろう」 
平次郎「へえへえ」
旦那「夏至、秋分、冬至もわかるだろう」
平次郎「へえへえへえ」
旦那「立春、立夏、立秋、立冬もわかるだろう」 
平次郎「へえ、へえ、へえ、へえ」
旦那「そういうのが一年通して全部で二十四あって、これを二十四節気という。季節を細かく分けたものであるな」
平次郎「へえ。まだ八つしか出ていませんな。他にはどんなのがあるんでげしょう?」
旦那「それよ!」
平次郎「は?」
旦那「いや何でもない。他にはそうだな、お主が知っていそうなものといえば啓蟄や小暑、大暑、小寒、大寒といったあたりかな」
平次郎「へえ。聞いたことがありまさあ」
旦那「では七十二候は知っておるか」
平次郎「質が十二個、もう取り返せませんな。質流れですな」
旦那「質が十二個ではない。七十二候だ」
平次郎「あ! あの、あれで。ほれ、巷では大層な人気だそうで」
旦那「適当なことを申すでない。先の二十四節気それぞれを初候、次候、末候の三つに分け、全部で七十二にしたものが即ち七十二候である」
平次郎「するってえと一年が七十二個に切り刻まれちまったてことでげすか」
旦那「よくわかったな。その通りだ」
平次郎「季節の辻斬りが出ましたかね」
旦那「馬鹿を言うでない。こうして一つの候がだいたい五日ばかりになる」
平次郎「なんだってまた、そんな細かく切り刻んじまったんでげしょう?」
旦那「むう。畑仕事にしても狩りにしても季節の細かい変化が目安になったからであろうな」
平次郎「じゃあやっぱり立春、みたいな名前がついているんで」
旦那「いかにも。例えば立春の初候は『東風解凍』などと申してな」
平次郎「ははあ。豆腐をまちがえて冷凍庫に入れっちまったもんで、あわててレンジでチンと」
旦那「わけのわからぬことを口走るでない。東からの風がぶ厚い氷をとかし始めるということであるぞ」
平次郎「なんだ。当たり前のこと言ってらあ」
旦那「たわけ! そのように気候や動植物の変化を見事にとらえて季節を表しておるのだ」
平次郎「それならあっしにだってできそうだ。『桜が咲き始めた』なんてのを思いつきまさあ」
旦那「さよう。『桜始開』というのがちゃんとある」
平次郎「先を越された」
旦那「七十二候相手に張り合ってどうする」
平次郎「負けん気なもんで」
旦那「さてなぜわしがこのような話をするのかわかるか」
平次郎「聞けばご馳走かなんか出るんですかね」
旦那「そういうことではない。お主を見ていると『半夏生』という候を思い出すのだ」
平次郎「いや、旦那。あっしのはおでこが広いだけで、こりゃあ何も薄くなったわけじゃあないんで」
旦那「ハゲではない。ハンゲショウである」
平次郎「丹下左膳のお友達かなんかで」
旦那「半夏という薬草が生える頃という意味だそうだ」
平次郎「ははあ。半夏が生えるで、半夏生。じゃ薄化粧ってのは薄毛が生えるってことで?」
旦那「馬鹿を申すでない。ところがややこしいことに半夏生という植物もあるのだ」
平次郎「半夏とは別に? それも薬草なんで?」
旦那「それが違うからややこしい。ちょうど半夏生の時期に花を咲かせるからその名が付いたと言われている」
平次郎「そりゃまた紛らわしいことを」
旦那「おまけにこの葉の表面が一部分は緑を残しながら白く変わってまるで半分だけ化粧したようになる」
平次郎「半分化粧で半化粧。あっ」
旦那「おまけに半夏生という候は、夏至から数えて十一日目、だいたい七月二日ごろなのだが、この数字、見覚えがあろう」
平次郎「七と二、ややっ、七十二候の七と二!」
旦那「いかさまさよう」
平次郎「こいつぁあ全体どういうことでげしょう」
旦那「さらにもう一つ。七月二日というのは、一年を三百六十五日とすると、百八十三日目、ちょうど半分、真ん中の日なのだ」
平次郎「また半分が出てきた! 何もかもまっぷたつだ!」
旦那「いかにも」
平次郎「え? なんです。ダヴィンチ・コードでげすか、これは。バチカンの陰謀で?」
旦那「お主は時々わからんことを申すな。どうだ、不思議であろう?」
平次郎「一体全体何のまじないなんで? それに、あっしを見ていると思い出すってどういうことで」
旦那「わからぬか」
平次郎「あっ。あっしは、ななな何も知りませんぜ。そんな伊勢神宮の秘密も法隆寺の謎も、知ったこっちゃありませんぜ。そんな、何もかもまっぷたつに……。あ! 旦那、あっしをどうしようってんで。まっまさか、だだ旦那が辻斬りの!」
旦那「うろたえるな。そういうことではない」
平次郎「では、なんでげしょう」
旦那「その、『なんでげしょう』とお主が言うたびに、半夏生の不思議を思い出してしまうと言うことを話したかった」

(「半夏生」ordered by kyouko-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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辻斬り


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著者 : hirotakashina
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