閉じる


試し読みできます
受訴:訴訟を受理すること。
受訴裁判所:ある事件に関し、判決手続が将来係属すべき、あるいは現に係属する、またはかつて係属した裁判所。

呪詛:うらみに思う相手に災いが起こるように神仏に祈願すること。まじない。のろい。

試し読みできます
「じゅそさいばんしょぉ?」
 円が怪訝そうな声を上げ、その隣に座った沙耶もまた、不思議そうに首を傾げた。
「そう」
 そんな二人の正面に座った直純は一つ頷くと、
「受ける訴え、と書いて受訴裁判所。受訴っていうのは、訴訟を受理する、受け付けること。で、ある事件に関し、判決手続を係属、つまり取り扱っている裁判所のこと。それが本来の法律用語」
 ここまではいい? と二人の方を見る。沙耶は眉をよせて真剣に考える顔をしていた。
「まあ、小学生には難しいよね。円は?」
「よくわかんないけど、法律の話なわけね? で?」
 とあっさりと言った。
「少しは考えるとかして欲しいんだけど、まあいいや」
 呆れたように直純は笑い、
「ここからが本題。裁判に至るまでにもつれた人間関係やらの怨念が、じゅそ裁判所という音にひっぱられ、怪異が多発しているんだ」
 オッケー? と尋ねると、今度は沙耶が何度か小刻みに頷いた。
「円は?」
「ん? 怨念がどうのってとこまではわかったけど、音にひっぱられてってどういうこと?」
「だから、本来の受訴と、呪いの方の呪詛って音が同じだろ? ケータイの変換も呪詛裁判所になるし」
 当たり前のように言う直純に、
「だぁかぁらぁー」
 苛立ったように円は机を爪でたたき、
「呪詛ってなによ」
 円が言った瞬間、直純は心底呆れたようにため息をつき、沙耶も沙耶で驚いたように隣に座る円を見上げた。
「え、なに?」
 二人の反応に驚いたような声をあげる円。
「あのさ」
 額に手を当てて、わざとらしくため息をついてみせながら直純は、
「仮にも、一応、とりあえず、一海の次期宗主なんだからさ。基本的な用語ぐらい覚えておこうよ」
「うるさいわねー」
 円は不満そうに唇を尖らせ、
「知識はあんたの担当、実践は私の担当って決めたでしょう?」
「だからって物には限度ってものがあるじゃん。まあいいけど。どうせ言っても無駄だろうし」
「無駄ってなによ」
「沙耶、わかる?」
 二人のやりとりを黙って見ていた沙耶は、突然水を向けられ、少し慌てたように背筋を伸ばすと、
「えっと。恨んでる相手に、悪い事が起きるように呪いをかけること。おまじないみたいに。丑の刻参り? とかそういうの……」
 それから伺うように直純の顔を見上げた。直純は優しく微笑むと、
「正解」
 手を伸ばし、沙耶の頭を撫でた。円も最初微笑ましそうにそれを見ていたが、
「まったく、それに比べて円は」
 再び小言を言われそうになると、慌てて、
「で。その話はつまり、仕事の話でしょう?」
 真面目な顔を作って、身を乗り出して見せた。
「ああ」
 直純は一度頷く。
「宗主が、その怪異について俺と円と、もし可能ならば実地研修も兼ねて沙耶で調べてこい、と」
 直純の言葉に円は不敵に笑って頷き、
「え、え、あたしも?」
 沙耶はおろおろと二人を見比べた。
「大丈夫よー、父様が沙耶もって言うならそんな強いなにかがいるわけじゃないんだろうし、ちゃんと修行もしてるんでしょう? そろそろ実地は妥当じゃない?」
「うん、沙耶がちゃんと修行してるのはわかってるし。俺も円も一緒に行くんだし。ね?」
 そっくりな切れ長の目を優しく細めて笑う二人に、沙耶はゆっくり頷いた。
「本当に、大丈夫。さっきの呪詛の話、完璧だったし。誰かさんと違って」
 嫌みっぽく言われた言葉に、もう終わった話だとのんびりお茶を飲んでいた円はそれを吹きそうになった。
「やだっ、直しつこい。小姑!」
「しつこいじゃないだろ。露骨に話そらしといて。円の考えてることなんて、お見通しなんだから。産まれたときからのつきあいなんだし。大体、円はね」
 ねちねちと説教を始める直純と、うるさそうにそれを聞き流す円。ふたりのやりとりを見ながら、沙耶はすこぅしだけ、楽しそうに微笑んだ。



試し読みできます

奥付



呪詛裁判所にようこそ!


http://p.booklog.jp/book/38844


発行日:二〇一一年十一月三日
発行:人生は緑色(ジミ)
      http://freedom.lolipop.jp/

著者 : 小高まあな
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/kmaana/profile

連絡先:freedom@tg.lolipop.jp

感想はこちらのコメントへ
http://p.booklog.jp/book/38844

ブクログのパブー本棚へ入れる
http://booklog.jp/puboo/book/38844



電子書籍プラットフォーム : ブクログのパブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社paperboy&co.



試し読みできます

試し読みはここまでです。続きは購入後にお読みいただけます。

この本は有料です。閲覧するには購入する必要があります。
購入するにはしてください。
有料本の購入に関しては、こちらのマニュアルをご確認ください。
販売価格100円(税込)

読者登録

小高まあなさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について