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いつもの景色~メアリーの丘~

丘の上の草原からは、町が見渡せる。
お気に入りの場所だ。
少し抜け出したいときにここにきて、寝っころがって空を眺める。
靴ひもをほどいて、重い皮のブーツは脱ぎ捨ててしまうのが好きだった。

「はぁー!」

伸びをしてため息を一つ。深呼吸とは違う。
なにかを吐き出さなければ、息がつまりそうな生活を
ここにいる少しの間だけは忘れることができる。

そうやって生きた心地のする時間を確保しながら、
この世界でたった一人、彼女は13歳を生きていた。

草原の草が時折風になびく感じが好き。

ちょっと冷たい風が好き。

遠くでさえずる鳥の声が好き。

誰にも邪魔されずに一人で自分らしくいられるときが
何より好きだった。

メアリーには、家族はいない。

一緒に住んでいるおじさんとおばさんはいるけれど、
ただ、今だけ、少し面倒をみてくれているだけで
決して親切でもやさしいわけでもなかった。

裕福ではない暮らしの中、それでも食事だけは出してくれるのだから、
文句はいえない。

家に帰ったら、またお手伝いが山ほど待っている。
自分の大好きな本を読む時間など一分たりともなかった。

こうして学校帰りに寄り道して丘の上で風とお話するのが
内緒の贅沢だった。

この場所のことは誰にも教えていない。
見つかって奪われてしまうなんてことになったら、サイテーだ。

メアリーはまた
はぁ~と大きく息をはいた。

意を決したように、ぴょんと飛び起きて、
裸足のまま立ち上がった。

眼下に広がる町を見渡す。

「ここから見る町の景色が好き。
 だけど、この町にはもどらない。
 今だけ。あともう少し。14になったら、私はこの町をでるんだ」

そう心でつぶやいた。

「さよなら!またくるね!」

風に挨拶して、メアリーは元気よく走り出した。
自分で元気をださなければ、いい気分なんて向こうからはやってこない。

心の奥底にある淋しささえも友達にして、
メアリーはどこかに広がっているであろうキラキラした未来に
希望を持っていた。

きっと、私にも、そんな未来が待っている。

脱ぎ捨てたブーツは、おばさん家の娘、ケイトのお古で
もうボロボロだしとっても重たかったが
ないよりはましだ。

急いで拾って履くと、
夕暮れの町にむかって、一気に丘を駆け下りた。

そうだ、私は自分の人生を自分で切り開く。
こうやって風を切って走るように。

冷たい風をかき分けて走り抜けると頬が真っ赤に染まり耳は切れそうに痛い。
それがとても心地よくて、
今、生きてるという喜びが全身を覆う。

この感覚がたとえ一瞬でもあれば十分だ。
またこの丘にくる日まで生きていける。

ある男の最後

その足は獣の皮でつくった簡単な履物をはき、濡れた草むらの中を歩いていた。

足の感じからして大人の男だろう。
脛の濃い毛と汚れたふくらはぎが、野性的な生活を送っていることを物語っている。
森の中を進む男は、簡単なもので体を覆ってはいたが、それもすでに破れかけており、ひどく汚れていた。

ハァ、ハァ、ハァ

男の息遣いが辺りに響くだけで、他に人の気配はない。
一体どのくらい森の中をさまよっているのだろうか。
もう男は、自分でもどこへ行こうとしているのか、なぜ歩いているのか、わからなくなっていた。


ドサッ

最後の瞬間は冷たい草むらの上だった。
顔に濡れた草が当たる。冷たい濡れた地面の感触。男に、もう力は残っていなかった。

草の上に突っ伏して、それでも目を開けている男の胸中には、ある思いがこみ上げていた。

「俺のせいだ、、、俺のせいだ、、、俺が悪かったんだ。」

今にも途切れそうな命の営みが最後に彼にもたらしたのは、母を苦しめ死に追いやったことへの後悔だった。

****

母のことで思い出されるのは、ごつごつした大きな手だ。
小さな丸太小屋の、木でつくったテーブルに座りながら、母は岩のような手で何か料理をつくっている。

黒く汚れが染みついた傷だらけの手だけ見たら、女だと思う人はいないだろう。たくましいその手は、生きていくために、子供を育てていくために何でもやってきた証だ。
しかしまたその手はよく、彼をぶった。その手は大きくて、まだ小さかったころの男の身体を吹っ飛ばした。
それでも子供を育て上げるために、母が何を思い、何をしたのか、男は知らない。

*****
やんでいた雨がいつの間にかまた降り始めていた。
倒れてからどのくらいの時が流れただろう。もはや瞬きすらできない彼の目から涙が一筋、また一筋と流れ出た。

「悪かった。俺が悪かった」

それは、愛を受け取らなかったことへの謝罪。悪態ばかりつき、母を受け入れられなかった幼さを詫びる謝罪だった。

悔やまれるのは、愛することができた場面で、愛さないことを選んだこと。
愛を拒否し、愛であることを拒否した自らへの失望であった。
愛されていないと思い込むことより、愛さないと誓う方が罪深きことなのだと、この時気づいた。
愛であり損ねた無念さが体中に満ちたとき、男の命の営みは、終わりを告げた。

本格的に降り出した雨が男の涙に重なりながら
抜け殻となった肉体を急激に冷やしていった。

ヨハンのヒーリング

ヨハン、またものすごい眠気がきて、寝てしまった。
ヨハンにヒーリング方法を伝授してもらおうと思ってもねむくなっちゃってダメだわ。
書きながら、実際に試すというのは、トランスにはいっている状態だからできない感じだし。

問題ないよ。
ねむくなるのは、いいことだよ。
ちゃんとトランスにはいって脳波がそのような状態になっていくということだから。
僕からの語りかけの書き取りとヒーリングを同時に行うには、君の脳のチャネルがもう一段階発展して、
本当の自動書記に近づいていくことが求められているんだ。
あと何回かやればできるようになるから気にしないで、トライしてほしい。

わかった。
ヒーリングについてのヨハンの考え方を教えて。記録しておきたいんだ。

基本的には肉体には、自然に調和のとれた健やかなる状態に戻ろうとする本能、力が働く。
ところがその元に戻ろうとする力がなんらかの別の力によって、止められていたり、
うまく作動しないようにセットされている場合、このなんらかの理由というものに働きかけて、
同じ目的…つまり調和した状態に戻るという、本来の流れにプラスの力として作用するように戻すことができる。
これをヒーリングと呼ぶ。
ただ、ある種の意図をもった力がそこに存在していると考えることができるので、
それ自体は悪いことではなくて、力があるとみるんだ。
ということは、別々のプログラムで動いていた力を一つにするというプロセスをサポートしていくということ。
それをしているんだということに、しっかりと意図を合わせて、そして働きかけるんだ。
調和のとれた状態にするのは、肉体が本能でやるからね。
その肉体の本能をどこまでも信頼するというのが、まず基本のスタートラインだ。

その人の自然治癒力に欠陥があって、足りないから補うと考えるのとは全く違う。
自然治癒力に間違っているとか、足りないとか、欠けているというものはない。
すべて完璧にシステムに繋がっていて、行われるものだ。
さて、ではもう一度やってみようか。

はい。

自動書記はできるところまででいいから、まずは僕のヒーリングの方法を体験してほしい。

わかった。

じゃあまずまたあの草原を思い出して、匂や風の感じ、温度、音、色、リアルに。
そして光の柱に僕とはいるよ。入るときは僕と一緒だ。僕が一緒に入って、その後光のエネルギーと融合する。
ここがあなたの第一関門だね。光の柱と融合して全体になるんだ。
そこまでやってみよう。

はい。

君がいる場所は?

春の感じ。結構風が温かい。そして風もある。この感じ、まとわりつくような。春。
あれ?だれかいる!
あの無念で死んだ男と丘の上の女の子だ。
そして、私。


もしかして、この草原の感じは一緒?景色は全然違うけど、
まさか、みんなこの光の柱で行き来しているの?
・・・・ポータル?

光の柱はどこにでも出現できる。君がそれを意図して呼べばだ。
そうしてその柱はすべてを知っている。
すべてへのマスター室なんだ。今はそれをエネルギーを読むということに使う。
僕がサポートするから安心して。
さあ、あなたのいる緑の場所をもっとリアルに思い描いて、意識がしっかりそこに入るんだ。
そうすればすべての理解がキミにもたらせる。

ヨハン・・・書くことが維持できないよ・・・


ヨハンと光の柱

もう一度光の柱のやり方を教えるよ。もう一回最初からやってみよう。
さっき途中までやったから、だいたいのことはわかるよね。
あのいつもの草原に大きな光の柱が立っている。
そして中にはいって、肉体を創っている概念を手放して、あなた本来のエネルギーにもどって、僕と融合しよう。
そこまでやってみて。
いいかい、君であることをやめるんだよ

私はどこにいっちゃうの?

どこにも行かない。
君がキミだと思っているその意識はどこにもいかないし、もともといっしょだということがわかる。
やってみて。許すんだよ。ただ、自分がなくなることをゆるすんだよ。
自分という幻想がなくなることをゆるすんだよ
しがみつくのをやめるんだ、自分という幻想に。それは執着だよ
大丈夫。、面白いから手放してみてごらん。

手放したい。手放したいよ。
だけど・・・だめなんだ。怖いんだ。
ねえ、光になることを頑なに拒んでいる・・・立ちふさがっているものの正体はいったい何?

ハートの保護膜

個であることから出るのを恐れている、ぎゅっと頑なな存在が何なのか、あなたはわかるかな?

・・・悲しいんです。とても。とても。私がダメだったから。

泣いているあなたは、いくつなの?

3歳。お父さんに、わかって気づいて欲しい。あなたも「愛なんだと。」
あなたも自由なる魂なんだと。あたしが愛することでお父さんの魂が気づくと信じて来たのに、それが起こらない。悲しい。お父さんを救うと誓ったのに、私のやり方が悪いから、助けることができない。

だからあなたはそこからでるのが怖いのか。ハートの膜の中から。

だってそうでしょ。保護膜だよ。なくなったら私がもっと傷つくかもしりれない。
愛を愛として伝えた行為が深く私を失望させたぐらいなのに。

あなたの力不足とかやり方が悪いわけではないよ。
お父さんにはお父さんのこの人生におけるミッションがある。それを全うしているだけだ。
そのことを見てみれる場所までこないか?
そして自分でそれをみてみて、感じてみてはどうかな?

・・・はい。

君の中の小さな三歳の子供も一緒に連れておいで。あの子に見せてあげよう。
あの時何が起こっていて、お父さんは何を選び、何を成し遂げようとしているのか。

はい。

そうして、そらは内なる底へと旅をはじめた。まだ幼い自分を連れて。
*****

心の中に意識を向けて入り込んでいく。そこに現れたのは一つの大きな箱。
箱の中を開けてみたら、綺麗なお花がたくさんでてきて、辺りがパッと華やかになった。
カラフル。嬉しさがこみ上げてくる。そうだそうだ、子供の頃って毎日がこんな感じだったよね。
幼き頃のうきうきした気持ちを思い出しながら箱を覗きこんで、ギョッとした。
何か得体のしれない塊がある。

「これは何?」

そっと触れてみる。
「犠牲者意識」という感覚がドーンと飛び込んできた。

玉手箱の中、お花、カラフル、犠牲者意識。
繋がっている。ハートで。私は父から、愛と虚しさを一緒に受け取ったのですか?

光と影はワンセット。光を受け取ればその分深い影も一緒にうけとる。
生きる虚しさ。一緒にもらっている。
それがハートを開くのを最後まで戸惑わせている、ハートを開かないように前にたちふさがっているもの。
人生、生きるとは虚しいものだという信念だ。
それは神の力の前でなすすべもなく打ちのめされた被害者としての意識から生まれている。
被害者がいて加害者がいるという世界。二元性の世界を確かなものとするために必要な信念だ。
それは自分の外に力を与え、自らが神になることを放棄する選択。

お父さんのものというより、人類のもつ集合的なもの。
お父さんの生き方をある面からみれば、生きることは虚しいものという想いを通り抜けさせて、昇華させようとしている行為といえる。これは本当に愛の行為なのだよ。お父さんの魂は自らがその膿の出口となって、被害者がいて加害者がいる分離の世界に真っ向から挑んだんだ。これは犠牲でやっているのではない。深いところで同意して、それを今回はやることで、自分のそして人類の抱えているもののバランスを取ろうとしている行為なんだよ。
お父さんは、数多く、支配的な人生を送ってきた。
そして自分が今世で学ぶべき課題を愛とともに、それを解き放つという仕事にしたんだ。
いいかい。
愛と共に解き放つことで、君にその分離の世界の存在を教えた。
君はそれを傷というなすりつけられたものではなく、
愛という温かい包みで受け取り、そして今、そのことを許そうとしている。
許すのは、人類が抱えている人間の矛盾をだ。
これこそが、お父さんという存在とお前との間でなされていた契約。約束ごとだよ。

だから、あなたは、力不足で父を救えなかったのではないんだ。
君は、見事にそれを受け取った。そして今それを「光と影という二元性の力関係」から「光そのものである」という世界へと連れて行こうとしているんだよ。
さあ、偉大なる仕事だよ。
ハートを開いて一緒にその虚しさのエネルギーも光であるということを許そうではないか。

ハートの保護膜を出たとき、あなたは体験することになる。
神というエネルギーの前で犠牲者として嘆くことと、
自我の策略をすべて手放して無条件に神のエネルギーを受け入れることのまるで違うことを。

二元性のフィルムをはがしたとき、
虚しさという形をまとって見えたエネルギーが一体何なのか、君はそれを目の当たりにして驚くだろう。

私が見ているその景色を君も一緒に感じてみてほしい。さあ、行こう。
これこそ本当の冒険だよ。お前ならいける。

お父さんの魂がまとっている肉体という乗り物に惑わされないで。
それがどんなふうに見えたとしても、それはお父さんのすべてではない。


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