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「…お前たち、もう少し静かにしてくれないか?危うくケビンにばれるところだったぞ」

柱の裏では、未だに蒼星石が翠星石の口を塞いだ状態でいた。

蒼星石が苦笑いをすると、クロエは小さくため息を吐いた。

「…蒼星石、そろそろ離してやれ」

蒼星石が離すと、翠星石は勢いよく息を吸った。

「はぁ…はぁ…。空気がうまいですぅ。って蒼星石ひどいですぅ!姉を殺す気ですか!?」

「ははっ、ごめんごめん。でも、ばれるよりはましだったんじゃないかな」

「うぅ…もう知らんですぅ!」

「……もういいかな?」

二人のやり取りを苦笑いで見ていたクロエが、口を開いた。

「ケビンは今寝ている。夢の世界とやらに恐らく入れるはずだ。お願いできるか?」

「分かりました」

「了解ですぅ」

双子が返事をすると、クロエは休憩室に案内した。

休憩室に向かう途中、机の上に古ぼけたマスクがあるのを翠星石が見つけた。

「このぼろっちいマスクは何ですか?ケビンのに似ている気もするですが…」

クロエがそのマスクを見ると、少し苦い顔をした。

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「…それはケビンの親父、ロビンのマスクだったものだ…」

「お父様のマスク…?」

「へぇ、なんだかんだ言っても、やっぱり父親が好きなんですかねぇ?」

「ふふっ、そうだったら良いのだがな。あいつがこれを持ってきた…盗ってきた理由は、父親へ仕返しするためさ」

「えっ…?」

「ケビンの父親は、ライバル、キン肉マンに不覚にも敗れた。未だかつて破れたことのないロビン家の敗北に、父親は多くの非難を浴びた」

クロエは何かを思い抱いているのか、マスクを持ち上げると、複雑な表情でマスクの傷を撫でた。

「額の部分に大きな裂け傷があるだろう?これは、ロビンがキン肉マンに敗れた時の傷だ。これを見るたびに、ロビンはあの時の屈辱を思い出すそうだ。そしてケビンは、父親に最大の屈辱を与えるため…このマスクを奪った」

「…なんて…」

「残酷な仕返しだ…。気高いロビンにとって、あの敗北を想起するマスクを奪われるというのは、過去をえぐられる以上の苦痛だろう」

クロエは静かにマスクを置いた。

「なんて捻くれた野郎ですぅ!これは一度翠星石がお説教してやるですぅ!」

「落ち着いてよ翠星石。でも、中々根が深い問題なんだね…これは大仕事になりそうだな」

「…よろしく頼む」

三人は休憩室前に着くと、窓から中を窺った。

「…大丈夫ですぅ…。あいつは完全に眠ってるですよ…」

翠星石が小声で報告する。


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「よし…じゃあ入るけども、ケビンの眠りは浅いから、くれぐれも音は立てないようにね…?」

蒼星石がそういうと、静かにドアを開けた。

中に入ると、早速双子は、夢の扉を開けた。
ケビンの頭上に暗雲のようなものが立ち込めて、思わずクロエは声を出しそうになったが、すんでのところで堪えた。

「では、翠星石達は行くですけども、クロエはここで待ってるですか?」

「いや、私も行かせてもらおう。ケビンのパートナーとして、この目で見届けたい」

「分かったですぅ。それじゃあ翠星石たちの後に続くですよ」

そう言うと、翠星石はケビンの頭上に出来た渦の中心に飛び込んだ。
続いて蒼星石も飛び込む。

「…待ってろよ、ケビン…」

クロエも続いて飛び込んだ。

渦から抜け出すと、そこには灰色の世界が広がっていた。

「な、何だここは…!?」

「ケビンの心の中だよ。夢の世界は、その人の心の中を表すのさ…」

クロエが見渡すと、周りには超人達の死体や、血痕の付いた凶器などがあちこちに散らばっていた。

「心がかなり荒んでるですぅ。余り見ていたくねぇですぅ」

「そうだね。早く心の樹のところまで行こう」

そう言うと、二人は宙に浮かび、蒼星石は心の樹の方へと飛んでいった。

「良いですかデカ超人。飛ぶコツはですね…っていないですぅ!?」

既にクロエはそこにいなく、蒼星石に走って付いていっていた。

「こんの体力バカ超人~!翠星石を置いていくなですぅ!」

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三人が心の樹に向かっていると、徐々に景色が変わっていった。

「少しずつ明かりが見えてきたですぅ」

「倒れている人達も、殺されてるというよりも、ノックアウトされたって感じだね」

確かにそこの周辺には、武器や血などは無く、超人オリンピックで倒した超人などがいた。

だが、明るさはまだ遥か彼方にあり、クロエ達の周辺は、未だ明るいとは言えない。

「私の力でも、ケビンの心を晴らせていないのか…」

「いや、そんなことはないよ。あの向こうにある光は、クロエが灯したものさ。クロエの気持ちは確かにケビンに伝わっているよ」

蒼星石は彼方の光を指しながら、微笑んだ。

「おっ、着いたですぅ」

泉が見えると、二人の人形はゆっくりと降りてきた。

そしてしばらく歩くと、大きく捩れた樹に出くわした。

「大きいですぅ…でも、凄く曲がってて、窮屈そうですぅ」

「この大きな枝が、樹を真っ直ぐ成長させるのを妨げているんだね…」

そこには立派に成長している木があった。
だが、その木は自らの枝によって大きく曲げられ、斜めを向いていた。

「これが、ケビンの心の樹…なのか?」

「そうですぅ。立派に捻くれて成長しやがってるですね。これは矯正が大変そうですぅ」

「この枝が邪魔なんだけど、この枝には沢山の葉がついてる。恐らく、切ったら幹の成長を弱めてしまうかもしれない」

「仕方ないですぅ。ここで切っとかないと、いずれこの樹は折れちまうですぅ」

「そうだね。じゃあ、レンピカ…!」


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蒼星石は大きな鋏を取り出し、邪魔な枝を切ろうとした。

「うっ…!」

突然、蒼星石の左手に石がぶつかり、鋏を落としてしまった。

「な、なんですぅ!?」

翠星石も驚いて辺りを見回す。
すると、ケビンの樹の上から、人が飛び降りてきた。

「…てめぇら…何してやがる…!?」

三人の前に姿を現したのは、ケビンと同じマスクを被った、十歳くらいの男の子だった。

「…お、お前は…ケビン…なのか?」

「だったらどうした!言っておくが、俺を親父と同じ正義超人だと思うんじゃねぇぜ!俺の樹に触れた代償は、死でもって償わせてやる!」

「おいケビン…!俺が分からないのか!?」

「知らねぇな…!だが、お前からはダディと同じ匂いがする…反吐が出る匂いだ…!」

ケビンは、本当に憎らしいものを見るような態度でクロエに言った。

「恐らくあいつは、忌まわしい過去を隠すために、潜在的本能が生み出したものだ。多分、何を諭しても通じないと思うよ」

「……」

「じゃあ、力ずくでどかすです!スィドリーム!」

翠星石は、如雨露を取り出すと、ケビンの足元に向かって水をかける。

ケビンの足元から大きな蔓が現れると、ケビンに襲いかかる。

ケビンは斜め前に飛ぶ。回避。ケビンは一気に翠星石との距離を詰める。

翠星石は空中に逃げようとした。
だが、それよりも早くケビンが追いつく。



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