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第三章 後日談

 あの山は、一体どこにあるのでしょうか。

 私とヒロ君を救ってくれた、おじいさんや花子さん、茶屋のおばあさんは、どこにいるのでしょうか。

 あれからまた、数年が経ち、私の中の不思議体験は、少しずつ薄れてしまうはずでした

今私は、仕事をリタイアして、普通のおばさんをやっています。でも、仕事をしている間はずっと、中学生の子供達に、必ずといってよいほど、読み聞かせ話―不思議体験を語ってきました。子供達は一様に、興味を持って聞いてくれました。「あんたかい」という謎の言葉にも、いろいろな意見をだしてくれました。でも今となっては、この体験話を伝えることも、本にすることもできないまま、終わってしまうはずでした。

 ところが、この春、息子のヒロ君が二十七歳を迎え、亡くなった主人のタカヒロと同い年になったのです。と同じくして、ふってわいたように、縁あって息子に結婚話がもちあがり、この春、式をあげることとなりました。そんなある日、息子の所に遊びにきていた彼女に、ヒロ君が何気なくこんな話をしているのを耳にしたのです。 

「俺、昔のことなんだけど、小さいころ、かあさんと山登りに行ったことがあってさ。道に迷って遭難しかかったことがあったんだよ。そのとき知らないおじいさんに助けてもらったんだ。おばあさんには、お雑煮をもらって食べたんだよ。」

 何とあろうことか、あのときのことを息子は覚えていたのです!私は、思わず声をあげそうになりました。  

 私があの時、遭難せずに無事に帰ることができたのは、何よりこの息子を助けたい一心からでした。その気持ちを組んで、確かに山の神様達が、助けてくださったのかもしれません。けれど、今、息子の言葉を聞いたとたん、思ったのです。あの時もし遭難していたら、息子を助けられなかったら‥‥。

 そうです!あの時助かっていなければ、息子はこんなときを迎えることはなかったのです。そう思ったら、突然、またあの時の山登りでの不思議体験がよみがえってきました。そのときの様子や思いが、沸々と呼び覚まされる感じでした。

 今になってみれば、あの幼かった息子が、方向音痴の私に向かって、まるであの頃の夫の背中を思わせる姿で、私を分岐点まで連れて行ってくれたのは、偶然ではないと思えるのです。あの時の苦しかった山道・・・夫はあの時あの山にいたのでしょうか。私と息子を見守っていてくれたのでしょうか。

 息子が彼女と出会い、結婚を決めた二十七歳は、くしくも無くなった夫と同じ年なのです。あの時、助けてくれたおじいさん達が言った「あんたかい」という私以外の誰かとは、もしや夫のことだったのではないでしょうか。山を愛し、山で亡くなった人達のあの世界に、夫がいることを知っていて、あなたと言ったのです。ヒロ君と私まで、来てはいけない世界に入り込んだことを言いかけたのでしょう。夫が私とヒロ君を、もとの世界に戻れるよう、山の神様の力を借りて、助けてくれたのです。

 息子の結婚話を機にこの不思議体験話を、痛いほど、切ない程に思いおこし、感謝の気持ちでいっぱいになりました。切々とよみがえるあの時のあの情景に涙さえあふれてきました。

 この日を境に、私はやっぱりこの話を、聞いてもらいたい・知ってもらいたいと考え、本にしたいと、書こうと決めました。大切なたった一人の息子を守る事ができた不思議な体験話を・・。

 それにしても、やっぱり気になるのは、あの山です。あの山は、本当にどこにあるのでしょう?あの分岐点から、私は、別の山にいったのでしょうか?確かに山はあったのです

あの山のことを、もしかして誰か知っている人はいませんか?

私以外にも、私とよく似た体験をした事がある人はいませんか?

この不思議体験話を読んでそうそうとうなずいている人がいるかも知れませんよね。

どうしてもどうしても、伝えたかった私の話「山登り」はこれで終わりです。

 いつかまた、偶然にも、山登りをしていて、道に迷ってしまったら、ふとした瞬間に、おじいさんや花子さんに、めぐり合うことができるかもしれない。迷った山道を、相変わらずの方向音痴の私が、振り向いたら、そこにある目の前の背中は、きっと夫のものかもしれません。

 そうしたら、そのときこそ、この不思議体験話が、すっかり、すっきり、解けるのではないでしょうか。

そんな日を願って、私はこれから毎日を過ごします。あのとき助けられた大切な命だから、一日一日を大事に過ごします。

 おじいさん、花子さん、お茶屋のおばあさん、ありがとうございました。ここでお礼を言います。言っても言っても、言い尽くせないほど感謝の気持ちで一杯です。

 そのお陰で、ヒロ君は、私だけでなく、新しい家族を守るヒーローとして人生を歩んでいけます。

 それから、私が教鞭をとっている間、一生懸命話を聞いてくれた教え子のみんなにも、ありがとう!この話を覚えていてきっと懐かしんでくれるかもしれませんね。みんなのおかげで、今までの胸のつかえが下りたように思えます。

 こうして筆をとり、本にすることができたことに感謝感謝!!

 〝私の話、読んでもらえましたか?〟

 〝あなたはこの話をどう思いましたか?〟            完            

                       


この本の内容は以上です。


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