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11月9日のおはなし「バード・ウォッチャーへの道」

 どうしてぼくがその日バード・ウォッチングを始めることにしたのか、そのいきさつを書こう。

 小学生の頃、クラスの友達でやたらめったら植物に詳しい友達とか(「それはオナモミ。それはカタバミ。それはノゲシ」なんて感じであまりにもすらすら言うものだから、口からでまかせ言っているんじゃないかと疑いたくなったが、事実本当に詳しいのだった)、石の名前にめっぽう強い友達とか(「これはデイガンでラミナがよく見える、これはアンザンガン、白いところはシャチョーセキの結晶だね。それからこれはチャート」なんて感じであまりにも聞き取れない言葉をぺらぺら言うものだから、こいつ本当は外国人だったのかと思ってしまった)、そういうのが必ずいた。

 そういうのは「へーっ!」と感心こそすれ、では自分がそうなりたいかというとあんまりそんなことは思わなかった。でも、5、6年のクラスで一緒になった女の子が鳥に詳しくて、彼女が「見て、カワラヒワ!」だとか「いまコアジサシが飛んだよ」だとか「ほら、聞こえる? コジュケイの声。チョットコイって言ってるみたいでしょう?」だとか言うのを聞くと、すごく羨ましかった。どうしてぼくの親はぼくに鳥の名前とか鳥の鳴き声とか鳥の大きさとか鳥の色とか鳥の形とか、とにかく鳥のことをもっと教えてくれなかったんだろうと地団駄踏みたくなったもんだ。

 でもまあそんな気持ちも男子校の中学に進んだことですっかり忘れてしまっていたのだが、最近になって不意に「そうだ。鳥に詳しくなりたかったんだ」と思い出すことになった。これといったきっかけがあったわけではない。たまたま実家の両親の様子を見に田舎に帰り、近所をブラブラしていたらバードウォッチングをする人たちがいて、隣の人と鳥の名前をささやきあったり、双眼鏡を構えて真剣な表情でじっと何か(たぶん鳥)を見つめていたり、何かノートに書き込んだりしていた。その様子を眺めているうちに急に小学校の頃の気分を思い出したのだ。

 そうだった。鳥のことをもっと知りたいと思っていたのだった。鳴き声だけで「シジュウカラだね」なんて語り合い、こんにちはの代わりに「カワセミを観察できるポイントを見つけたよ、一緒に行くかい?」なんて言い合ったりするわけだ。こういう時、ぼくは自分でも意外な行動力を発揮する。ただちにその人たちに声をかけ、というか正確には、何十年ぶりに再会した彼女に、小学校5、6年のぼくに鳥の魅力を教えてくれた彼女に声をかけ、バードウォッチングの仲間に入れてもらうことにした。

 どういうわけか彼女はぼくのことを覚えていなかったが、まあ、30年も経っているんだ、そういうこともある。ぼくは早速仲間に入れてもらうことにした。小学校が一緒だったらしいということで彼女が相手をしてくれたのは、日頃は人見知りをするぼくとしてもまずまずラッキーなことだった。

「しかし、こんな家の近所に野鳥なんているんですか? スズメかカラスくらいしか見かけないけど」
と、尋ねてみると、彼女はにこにこ笑ってこう言った。
「スズメやカラスも野鳥なんですよ。それにね」とぼくの名前を呼んでくれ、それから続けた。「スズメだと思いこんでいる鳥がスズメだとは限りませんよ」
「いや、スズメくらいわかりますって」ついムキになってぼくは抗議し、すぐかたわらの芦がいっぱい生えたあたりを指さした。「ほらスズメ。いま飛んだ」

 実に嬉しそうに彼女は笑った。
「はずれ。スズメじゃないんですよ。見て、尾羽が扇みたいに広がったでしょ?」
「いやスズメでしょう」
「セッカっていう鳥なの」
「聞いたことないな!」彼女が困った顔をしたので、ちょっと大人げなく怒った口調になっていたことに気づき、あわててフォローする。「なにしろほら、今日が初めてなもんで」

 それから次々に、スズメのようなスズメでない鳥を教えてもらった。ホオジロ、カワラヒワ、シジュウカラ……どれもいままでスズメのバリエーションだと思っていた。スズメそのものも含めると、短時間で早くも5種類もの鳥を見たことになる。そう気づいてぼくは少し興奮していた。

「どうしよう。こんなにいっぱい鳥を見たら忘れてしまう」
「次から小さな手帳を持ってくるといいですよ。ほら、わたしなんかこんな風に書きつけているんです」
 見せてもらったリング式の小さなしゃれたノートには、几帳面な字で今日の日付や天気、鳥の名前やスケッチなどが書き込まれていた。
「あ、これほしいなあ」
「だめですよ。自分で書いてつくるんです」
「ええまあ」
「それからできれば双眼鏡とフィールド図鑑は早いうちに手に入れた方がいいですよ」
「はい」

 はいとは答えたものの、そんなにすぐに手に入れなくてもいいかなと思った。ぼくとしては、
ごくたまに彼女の双眼鏡を貸してもらえるだけで、全然構わなかったのだが。ひょっとすると、最後の方でちょっと頻繁に「見せてもらえます?」とか言いすぎたのかも知れない。彼女が真剣に双眼鏡を使っている様子を見ているとなんだかいますぐ双眼鏡を借りないと損するような気がしたんだ。

 次回の集合時間や場所の話を聞いて、その日は解散になった。別れ際に彼女が事務的なことを連絡するからと電話番号を聞いてきたので、大胆なことをするなあとドキドキした。急いで家に帰ったがすぐには連絡はなくて、早めの晩ご飯を食べて、ネットでフィールド図鑑の値段を見たり、安い双眼鏡はないか探しているところにやっと電話がかかってきた。言っていたとおり事務的な内容だった。

「次にいらしたときで結構ですけど、入会金と年会費を納めていただきたいんです」
「ええ」ぼくはとても乗り気だという姿勢を見せて言った。「もちろんです。値段によりますけど」
 冗談だと思ってくれたらしく彼女が短く笑う。支部型会員なら入会金の1000円以外に本部年会費1000円、そして支部年会費が3500円だという。しめて5500円也。双眼鏡とフィールド図鑑を入れると1万円は超えてしまいそうだ。

「割引とかないんですかね」
 冗談に聞こえるといいなと思いながら聞いてみた。
「割引?」気のせいか彼女の声が冷たくなった気がする。「大学生未満や、シルバー向けの割引ならありますけれど」
「あー。そうですよね。小学校の友達割引とか」
「ありませんから」
「えー。あー」彼女の語調の強さにちょっとびっくりする。その時電話越しに、おかあさん飯まだ?と聞く高校生くらいの男の子の声がする。「はい。お忙しいのに電話ありがとうございました。ではまた」

 再会を約束して電話を切る。でもふと思い出したがぼくはいつまでもこうして両親の所にいるわけにはいかない。鳥のことももっと知りたかったし、小学校時代の友達との再会も嬉しかったのだが、大変に残念だが次回は参加できそうにない。

(「割引」ordered by イチ-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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奥付



バード・ウォッチャーへの道


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著者 : hirotakashina
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