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5

完全に酔いが回っている濱尻は、危ない笑顔で迫る。

「今なら何でも言うこと聞きそうだな」

「え?」

「結婚して」

「何言ってるの」幸奈は焦った。

「無理だよね。俺のこと男と思ってないもんね」濱尻はまた幸奈の両脇に手を伸ばした。

「男と思ってるから怖がっているんでしょ」

「嘘。俺怖い?」

「怖いよ」

なぜか満足な顔をした濱尻宝は、幸奈のおなかを触りまくる。

「触らないで」

「いいじゃん、おなかくらい」

「ダメに決まってるでしょ」

「そういう生意気なこと言うと、もう少し下に移動しちゃうよ」

「わかった、やめて!」幸奈は両膝を曲げて防御した。

濱尻はおなかを触る。諦めるしかなかった。大切なところを責められるよりはマシだ。

「幸奈」

「何?」

「付き合って」

「本気で言ってるの?」幸奈は睨んだ。

「本気だよ」

「じゃあ、ほどいて。手足縛って迫るって、男のやることじゃないよ」

濱尻は黙っていたが、急に冷たい表情に変わった。

「完全に脈なしだな。よくわかったよ。バイバイ」

おなかをポンと叩くと、濱尻はダンボールの束から下りて、さっさとドアへ向かう。幸奈は慌てて叫んだ。

「待って宝君! ほどいて!」

「おやすみ」

「待ってください! 待ってください! 宝君!」

しかし濱尻は振り向かずに行ってしまう。幸奈は仕方なく言った。

「わかった。友達からっていうのじゃダメ? 宝君!」

濱尻はドアを開けて出ていった。まさかこのまま放置されるとは思わなかった。最後はほどいてくれると思っていた。

「どうしよう?」


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6

幸奈はもがいた。何とか自力で外そうと試みたが、キッチリ縛られているから無理だった。

「どうしよう?」

手首だけならまだしも、両足首も縛られているから立ち上がることもできない。ダンボールの束は1メートルくらいの高さがあるから、落ちたら怪我をしてしまう。両手両足を拘束された状態だと、倒れたときに受身が取れないから危ない。

「朝が来る前に何とかしないと」

今は何時頃だろうか。幸奈は神妙な顔で辺りを見回した。いちばん最初に来るのは前川社長。下着姿で手足を縛られているなんて、こんな恥ずかしい格好は死んでも見られたくなかった。

この気持ちは男にはわかるまい。幸奈は濱尻の人格を疑った。酔っていたなど言い訳にならない。

それに社長に発見されたら大問題になる。ヘタしたら警察沙汰だ。濱尻に縛られたと本当のことを言うしかない。

再びドアが開いた。

「あ、宝君、戻って来てくれた」

近づく足音。幸奈は言った。

「宝君。怒ってないからほどいて・・・あっ!」

濱尻ではない。加藤竜佐だ。幸奈は血の気が引いた。竜佐も驚いて幸奈を見ている。セクシーな水色の下着姿。しかも手足を縛られている。加藤竜佐は怪しい笑みを浮かべると、幸奈に言った。

「いい格好してるな」

幸奈は呼吸が乱れた。嫌いな男に哀願するのは悔しい。しかし、そんなことは言っていられない。変なことをされたら人生終わりだ。

「竜佐君。ほどいてください」

「宝とか言ってたなあ。濱尻に意地悪されたのか?」

「・・・何もされてないわ」

「放置プレイか?」

「そんなんじゃない。早くほどいて」

「何その態度?」竜佐は容赦なく幸奈のおなかを触る。

「触るな!」

 


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7

幸奈が怒鳴ると、竜佐はムキになり、彼女の秘部を押さえた。

「やめろバカ! 手離せ貴様!」

激しく抵抗する幸奈。しかし竜佐はピタッと女の急所を的確に押さえて離さない。幸奈は仕方なく哀願した。

「わかったやめて、一生のお願いですから」

竜佐は手を離した。

「幸奈。無抵抗の状態で嫌いな男が目の前にいるって、スリル満点だろ?」

「別に、嫌ってなんかいないわ」

「嫌いだろ、俺のこと? 何で嫌うんだよ」

幸奈は困り果てた。嫌いなのは事実だが、この状況では強気に出れない。

「まずほどいてください」

「ほどかないよ。泣かすよ」

「泣かす?」

「大人になってから泣かされるのって悔しいだろう」

幸奈は胸のドキドキが止まらない。何をするつもりなのか。

「幸奈。セクハラとか言ってんじゃねえよ。二度と俺に逆らわないと誓うか?」

「意味がわかりません」

「意味? 教えてやろうか」

悔しいけど怖い。加藤竜佐は濱尻とは比較にならないほどのワルだ。幸奈は赤い顔で言った。

「ほどいてください。お願いします」

「だから。二度と社長にチクるとかやめろよ」

「チクる? 何語?」

首をかしげる幸奈。竜佐は急にムッとすると、彼女を抱き上げた。

「ちょっと待って、何をするの?」

慌てる幸奈に構わず、竜佐は抱き上げたままドアに向かう。

「え?」

彼はドアを開けた。幸奈は血相変えると、暴れながら叫んだ。

「わかったやめて! それだけはやめて! それだけは許して!」

 

 


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8

竜佐はドアを閉めると、幸奈をダンボールの上に放り投げた。

「きゃあ!」

「おまえ、今度生意気なこと言ったらホントに外に転がすよ」

そんなことされたら、たまらない。悔しいけどしおらしくするしかなかった。

「それだけはやめてください」

「よし。低姿勢だから今回だけは許してやる。でも今度は本当にやるよ」

そう言うと、加藤竜佐はドアを開けて出ていった。

幸奈は再び、一人とり残された。プライドが傷ついた。嫌いな男に哀願するのも、偉そうにされて逆らえないのも、耐え難い屈辱だ。

「悔しい・・・」

女を何だと思っているのか。男は平気で女を脅す。また悪い男は脅し方を心得えている。裸にされると言われれば弱いし、下着のまま外に出すと脅されれば、言うことを聞いてしまう。

腕力では敵わないから、暴力をほのめかされたら逆らえない。幸奈は寝ながら目を閉じた。セクハラの根底にあるものがわかった気がする。

「パワハラだ」

セクハラとは、要するにパワハラのことだ。男女平等はもはや当たり前の時代なのに、未だに女よりも男が上という根拠のない勘違いをしている男が、女を力で押さえようとする。

女性の社会進出を歓迎するナイトも多くいるが、まだまだ男のほうが上という幻想を抱く男は、積極的な女性を「女のくせに出しゃばり」と感じる。

しかし、男女平等だから「出しゃばり」や「生意気」ということはあり得ないのだ。

思索をしていると、濱尻宝が戻って来た。

「あっ」

「幸奈。無事だったか」

酔いが醒めている感じに見える。幸奈は真顔で濱尻を見すえたが、ほどいてもらうためには、強くは言えない。

「宝君。絶対来てくれると思ったよ」

「マジ?」

「ほどいてください。ほどいてくれたら、尊敬します」

「尊敬はいらないよ。俺が欲しいのは愛情だから」


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9

幸奈は唇を結んで濱尻を見つめた。濱尻は彼女に近づくと、静かに囁いた。

「何か俺、酔っ払ってたみたいで。ここまでやったら弁解の余地はないよね。一生許さないでしょ?」

「そんなことない。変なことされたわけじゃないから。今すぐほどいてくれたら、全部忘れます」

「ホントか?」

「ホント」

濱尻は幸奈の足首をほどいた。

「ありがとう」

「うつ伏せになって」

幸奈は濱尻を信じてうつ伏せになった。あっさり両手首もほどいてくれた。

「ありがとう」

幸奈は手首をさすって深呼吸すると、ダンボールから下りた。

「幸奈」

「ん?」

濱尻はいきなり土下座した。

「ゴメン!」

幸奈は冷たく無視してロッカーへ行き、服を着た。帰り支度をして濱尻を見たが、まだ土下座していた。そのまま素通りして帰ろうと思ったが、ほどいてくれたら許すと約束したことを思い出し、肩を叩いた。

「もういいよ」

二人は一緒に部品管理室を出た。

「二度とこんなことしたらダメだよ」

「わかったよ。幸奈。一発ビンタしてもいいよ」

バン!

「あああ!」

間髪入れずに思いきり叩かれたので、濱尻はびっくりした。しかし幸奈は口を真一文字にして、泣きそうな顔で睨んでいる。濱尻は言葉が出ない。

濱尻のせいで酷い目に遭ってしまった。最悪の事態は避けられたが、心は深く傷ついた。セクハラや性犯罪をやる男の特徴として、女の誇りを全く考えていないという共通点がある。

嫌いな男に哀願するのは屈辱的だ。でも身を守るためには仕方なかった。アニメのスーパーヒロインではないのだ。意地を張ったために取り返しのつかないことをされたら意味がない。


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