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10

今度は濱尻宝が出てきた。

「あ、お疲れーらいす」

「それやめたほうがいいと思うよ」幸奈が優しく忠告した。

「何で?」

「何でって、100%滑るし、相手を脱力されるだけから」

「この前パートさんに言ったら受けたよ」

「失笑を受けたと誤解して何度も連発する売れない芸人みたいね」

幸奈のきつい一言も歌声に聴こえるのか、濱尻は笑顔だ。

「幸奈っち。いつ食事ご馳走してくれるの?」

「いつそんな約束した?」幸奈はびっくりした。

「いいじゃん、たまには。ホテル誘ってるわけじゃないんだからさあ」

「セクハラですよ」

睨む幸奈。しかし濱尻宝も積極果敢だ。

「バカだな幸奈姫は」

「何がバカよ?」

「ふざけて誘ってるわけじゃないよ。照れ隠しじゃん。俺結構マジに誘ってるんだよ。それを断り続けてセクハラって意味わかんないよ」

職場を出会いの場所だと思っている濱尻宝と加藤竜佐にとっては、セクハラ対策を推進する幸奈は天敵というわけか。

「ごめんなさい。気持ちは嬉しいけど、ちょっとダメですね」

「嘘、ふるう?」濱尻は目を丸くした。「わあ、告白される前にふられた。最悪」

彼は両手で頭を抱えながら、夕空を仰いだ。涙目だ。演技か本気かは判断できないが、幸奈は少し心を痛めた。自分を好いてくれる人をむげにできるほど、自惚れてはいなかった。

「よくわかったよ。やめっかな」

「辞める?」幸奈は焦った。

「君には関係ないよ。それじゃ」

片手を上げて去っていく濱尻宝。悪い男ではないのだが、タイプではない。こればかりはどうしようもない。幸奈も思わず夕日を見つめた。

「もう、ふられて会社辞めるなんて、知らないよ」

 


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1

朝、いちばん最初に部品管理室に入るのは、幸奈で、次が前川社長だ。

「おはよう」

「おはようございます」

「きょうさあ、山宮さん休みだから」

「嘘」幸奈は目を見開いた。

「さっき電話あった。紅さん一人で大丈夫かなあ?」

社長はあっさり聞いてくれた。幸奈はややムッとする。

「無理ですよ。自分の仕事だけでも大変なのに、電話出たり、入庫も出庫も両方やるんなんて絶対無理です」

「じゃあ、だれか応援寄越す?」

「お願いします」

幸奈はそう言ったが、思いとどまった。

「応援て、だれを寄越すんですか?」

「まあ、空いてるのは加藤君と濱尻君の二人だけだから」

「だったら寄越さなくていいです」

「そういうこと言うなよう」社長は困り果てた。

「だって、かったるいとか、面倒くせーとか言われながら説明するんなら、あたしが一人でやったほうが早いです」

「一人で大丈夫?」社長が明るい笑顔。

(ハッ?)

「だからその二人が来るならって話です」

「じゃあ、よろしく。本社も結構ギリギリだからさあ。頑張って」

社長は行ってしまった。幸奈は諦めた。

「ダメだ。残業だ。こうなったら夜10時まで残業して残業代つけてやる」

平社員なのだ。最高責任者の社長があれだけいい加減で無責任なのに、無理して2倍働くこともない。幸奈はムッとすると、ゆっくり作業しようと決めた。

 

定時の夜5時半になっても幸奈が帰らないので、社長から電話がかかって来た。

『終わりそう?』

「終わるわけないじゃないですか」

『何時くらいになる?』

「早くて10時ですね」

幸奈の答えに、社長は慌てた。

『残業代はつかないよ』

「サービス残業は違法ですよ。違法をしろと?」

『・・・・・・』

「タイムカード通りにお願いします」

『あ、まあ、頑張って』

曖昧な返事のまま社長は電話を切った。

納期というものがあるから、残りの仕事を明日に回すことができない。こういう仕事は辛い。残業もやむを得ない。

 


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2

夜10時を回った。ようやく片付いた。

「そろそろ帰るかな。明日も仕事だから」

幸奈は作業を終えると、ロッカールームへ行った。汗びっしょりだ。自分への御褒美に一杯飲みたくなった。飲むといってもファミリーレストランで食事しながらビールを少しだけだが、店に行くなら着替えたかった。

アパートに直行ならこのまま帰るが、作業着でファミレスに行く勇気はない。彼女は人一倍お洒落だった。

「ふう・・・」

一人だから気軽。バッと全部脱いだ。セクシーな水色の下着姿。自慢のボディ。幸奈は口もとに笑みを浮かべ、ロッカーにあるハンガーに作業着を掛けた。

部品管理室のドアを開ける音。

「え?」

ここの鍵を持っているのは社員だけ。社長か。幸奈は息を潜めた。泥棒だったら大変だ。

足音が近づいて来る。泥棒なら忍び足が基本だろう。電気が点いているのにドカドカ来るということは、社長か。

「あれ、幸奈っちいるの?」

濱尻宝の声。幸奈は安堵した。泥棒だったら怖過ぎる。

「宝君、いるよ」

「そっか」ロッカーに近づいて来る。

「待って、今着替えてるから」

「嘘!」

濱尻は歩みをやめない。いくら何でも下着姿は恥ずかしい。幸奈は大きい声を出した。

「30秒待って! お願いだから」

しかし関係なくロッカーで隠されている更衣スペースを覗く。魅惑的な下着姿の幸奈を見て、濱尻はエキサイトした。

「ワオ!」

「見るな!」

「セクハラ?」

怖い表情で歩み寄る。幸奈は慌てふためいた。両手を出して濱尻を制する。

「ちょっと待って、ちょっと待って」

「かわいい。ビビってる」

「やめなよ、ビビるに決まってるじゃん」幸奈は壁まで下がって顔を紅潮させた。

「幸奈。大好きな女の子の下着姿なんか見たらさあ。理性なんか万里の果てまで飛んじゃうよ」

かなり良くない展開だ。濱尻は酔っ払っている。

「飲んでたの?」

「そう。ぐでんぐでん。ちょっとどこかで休もうと思ってさあ」

幸奈は急いでロッカーからシャツを出すと、体を隠した。

 

 


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3

不真面目にもほどがある。会社はホテルではない。

「何度もこういうことあるの?」幸奈が睨んで聞いた。

「こういうことって?」

「酔って終電とかなくなったら、ここに泊まったりしてないでしょうね?」

「社長に言う?」

「言わないよ。言ったら首にされちゃうよ」

「それもいいかな」

濱尻がさらに近づく。幸奈は膝が震えた。

「待って、待って、きゃあ!」

濱尻が掴みかかる。幸奈は抵抗した。

「ちょっと、触ったら許さないよ」

「許さないとどうなるの、セクハラ?」

「セクハラじゃないよ、痴漢だよ」

「生意気!」

濱尻は何を思ったか、幸奈を抱き上げた。

「きゃあ!」

そのままダンボール箱が腰の高さまで積んであるところをベッド代わりに、幸奈を仰向けに寝かせた。

「待って、何をするの!」

濱尻が上に乗る。危ない。幸奈は本気で抵抗した。

「やめなさいよ! 怒るよ!」

かなり酔っている濱尻は、勢いに任せておなかを触りまくる。

「幸奈、いい体してるじゃん」

「それ以上触ったら警察に言うよ、やめな」

「そういう生意気なこと言うとスッポンポンにするよ」

よくもそんな恐ろしいことを。裸にされたら困る。幸奈は刺激しないようにした。

「待って宝君。全部冗談でやってるんでしょ?」

「本気だよ」

濱尻が幸奈のいちばん大切なところを狙う。彼女は防御しきれずうつ伏せになった。すると、濱尻は慣れた手つきで幸奈の両手首を後ろでクロスさせ、彼女が握っていたシャツで縛ってしまった。

「こらあ! ほどきなさい!」

暴れる幸奈に構わず、濱尻は千鳥足でロッカーへ行き、タオルを手にすると戻って来た。幸奈は必死に抵抗したが、足首もギュッと縛られてしまった。

セクハラどころではない。初めて味わうレイプの恐怖に、幸奈は蒼白になった。

「待ってよ、宝君、ほどいて」

 


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4

水色の下着姿がよく似合う。濱尻は興奮した。

「幸奈。大好きな女の子が手足拘束されて無抵抗で目の前にいる。こんな場面て一生に一度しかないよね?」

「知らないわよ!」

「何その生意気な態度は。素っ裸にしちゃうよ」

濱尻が襲いかかる。幸奈はもがいた。

「待って、わかったから!」

「何がわかったの?」

どうすればいい。幸奈は息を乱した。

「あたしをどうするつもり?」

「どうしようかな。特に考えてないよ」

とにかく無抵抗というのは危険過ぎる。ほどいてもらうしかない。アニメではないのだ。正義の味方が助けに参上することはない。

「宝君。お願いだからほどいて」

「かわいい!」

身じろぎする色っぽい動きは、狼性を刺激して返って危険が高まる。

「でもさあ、女の子が無抵抗だとさあ。こういう意地悪したくなるよね」

「え?」

濱尻はいきなり幸奈の両脇をくすぐりまくる。

「キャハハハハハ、やめて、あははははは、やははははは・・・」

幸奈は真っ赤な顔をしてもがいた。怒り心頭だが笑うしかない。悔しくてたまらない。

「やははは、やめて、あははははは、お願い、きゃはははっははは・・・やめて・・・」

やめてくれた。

「はあ、はあ、はあ・・・」

罵倒したらまたくすぐられてしまうから、何も言えない。哀願するしかなかった。

「宝君。くすぐりはやめて。息できない」

「嘘」

「ホント」

「くすぐりは苦手なんだ?」笑顔で聞く。

「得意な人はいないでしょう?」

「幸奈はMなんだ?」

「・・・・・・」

セクハラを通り越してやりたい放題の言いたい放題。許せないが本人は卑劣な行為をしているという自覚がなさそうだ。しかし、無抵抗なのに刺激すれば、またSな意地悪をされてしまう。

「宝君、本当にやめて。お願いですから」

「かわゆい!」

 



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