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11月6日のおはなし「妖怪退治」

 妖怪が出て困るとしきりに友人がこぼすので、様子を見に行くことにした。

 妖怪が出る所というのは得てして狭苦しくて、陰気だったり、湿気が多かったり、やけに寒い風が吹いていたりするものなのだが、着いてみればさして特徴のない土地柄だった。とりたててどうということのない住宅街で、だらだらと長い坂の途中にあって、建物が面している公道の道幅も広いし、まわりの建物も3階より高いものもなく、昼間なら日当たりも良さそうだし、これが家探しをしている立場ならいい物件を見つけた、ここに住んでもいいと言いたくなるような、思わず不動産屋を契約を交わしてしまいそうな、つまりむしろ感じのいい土地だった。

 まさにそれさ、と建物の外にある階段を二階に上がってすぐのドアの鍵を開けながら、友人は苦笑いを浮かべる。おれもここはいいと思ったんだ。外見も良かったし、中に入った感じも良かったし、だいたい間取りがどんぴしゃだったんだ。ここに来るまでは思いつきもしなかったような間取りなんだが、いったんこれを見てしまうともう、うちの家族のために用意されたとしか思えないような完璧な間取りだったんだ。

 それこそが罠だったのかも知れない、と思うが、口には出さない。うまそうな餌をつけた釣り糸が垂らされていたのかも知れない。友人はそれに食いついてしまい、場合によっちゃわたしだって食いついていたかも知れないと思う。それでどんな妖怪が出るのかと聞くと友人はほとほと困った顔つきで、いやそれがはっきりしないんだと言う。妙なことを言うと思って、はっきりしないとはどういうことだと問いかけると、いろいろ不思議なことは確かにあるが、妖怪がどうこういうような事件はないという返事だ。

 それはおかしい、妖怪が出て困ると言うから来たのではないかと言いかけてはたと気づく。そして用心深く見守ると、友人の顔がどうもはっきり見えない。目の焦点が合わないようにぼんやりとしているのだが、服はきちんと見えるので、目のせいではなく顔のせいだとわかる。あんまりじっと見ていたものだから、どうした、何かついているかと聞かれてしまった。あわてて何でもないと答えたものの、こちらがうすうす気づいていることに勘づかれたかも知れない。

 不意にみしみしと音がして、地震でも来るのかと身構えるがそうではない。納戸のドアが勝手に開いて中からわたしの腰高ほどもある巨大な眼球がひとつ出てきてこちらを見つめる。友人はと見ると、それには気づかない様子でちょうど隣のキッチンへ入って行くところだった。わたしも何食わぬ顔で友人の後を追うが、いきなり壁に阻まれる。友人が通ったはずの通路がなくなっている。壁を手探りするわたしを大きな目玉がじっと見ている。あまり心地のいいものではない。

 他に通路はないかと探すが、あとは窓くらいしかない。二階なので窓から出るわけに行かないが、他に開口部がないので、とりあえず窓を開けようとするが、窓の外に髪の長い女が立っているのに気づきぞっとする。もちろんそこにはバルコニーがあるわけではない。外には何もないただの窓だ。二階だから、そんな風に人がいるはずがない。 

 さすがに手を打たなくてはなるまい、というので、わたしはリュックサックから瓶を取りだし、わずかに蓋を開ける。するとまず目玉が吸い込まれ、次に窓の外の女が吸い込まれる。本当はいちばん怪しいのは友人の姿をしたあの男なので、その本体をおさえたかったのだが、やむを得ない。思いがけない収穫として壁の振りをして通路を塞いでいた何者かも吸い込むことができた。ぬり壁か何かだったのだろう。

 その通路を通って
友人が入ってくる。どうしたんだ、なかなか来ないからびっくりするじゃないか。けれど友人は瓶に吸い込まれることもない。じっと見るが顔は輪郭も造作もはっきりと見える。上手に化けたのかも知れないが、瓶に吸い込まれないところを見ると本物かも知れない。何だいそれは、と友人が問いかける。ああそれが例の、妖怪を退治する道具かい? ああその通りだ。これがそれだ。捕まえた妖怪を飼い慣らしてしまうっていうのも本当かい? その通りだ。なんなら飼い慣らしたところでおまえに進呈しようか。いやいや、そんなものはいらない。むしろその瓶の方が欲しいな。こいつは商売道具だ、譲るわけにはいかない。で、それ、いったい何て名前だ? これかい、ペットボトルさ。なんだって? 妖怪を飼い慣らしてペットに、ね。

(「ペットボトル」ordered by sachiko-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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奥付



妖怪退治[SFP0129]


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著者 : hirotakashina
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