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              その一

 ここは空高くみんなが見ている雲よりもずっと遠い遠い天上の国。両手を広げてもまだ足りないほどの大きな鍋に何やら怪しげな液体がぐつぐつと煮えています。腐りかけのピンク色とでもいうような何とも形容のしようのない色とそれにそぐわない雪解けの後のやっと開き始めた花びらから香る仄かな甘い匂いをさせています。

 大分お歳を召したおばあさんが時折鍋の様子を見に来てはぶつぶつと何やら呟いて去っていきます。

 ここには地面もないのにあちらこちらに大きな木がたくさん生えていてそれぞれに赤色や黄色緑色などの色鮮やかな大小様々な果実がたわわに実っています。おばあさんは木の前に立ちひょいと跳び上がるとふわりと木の天辺まで到達し手のひら大になった果実を一つ又一つと手に取り持ってきた籠の中に放ります。

 ひと飛びひょい  ひと飛びひょい

 籠の中はいつのまにかたくさんの果実で一杯です。おばあさんはそれを色ごとに分け形の揃った果実をきれいに並べて天日干しします。

 ここは太陽に近い分日差しがとっても強く、あっという間に乾燥します。おばあさんは大きなすり鉢を使い乾燥した果実を一つ一つ丁寧に摩り下ろします。

 ごりごり ごりごり

 摩り下ろした果実はお皿に入れられます。細かくきれいに砕かれた果実の粉は色鮮やかで色ごとに分けられたそれは絵の具のように見えます。おばあさんはそれらを持って鍋のところへと戻ってきました。

 おばあさんは鍋の様子を見ながら赤色の摩り下ろした果実を入れたり緑色の果実を入れたりしています。ときおり大きな棒でかき混ぜます。そしてそのまま何処かへ行ってしましました。

 やがて一週間が経ち一カ月が過ぎ一年二年と月日が経ちました。ここの時間の感覚は地上とは違っています。早くなったり遅くなったりします。どのくらいの月日が過ぎ去っていったのでしょう。

 おばあさんが再び鍋の前にやってくると鍋の表面の中央辺りに黒い粒がたくさん浮いています。おばあさんは網目の細かいざるを使いそれらを残らず掬いました。ざるの中でその小さな黒い粒は動いているように見えます。

 おばあさんは天上の国の雲の端まで歩きざるの中の黒い粒を地上に向かって一粒残らず放り投げました。

 

 黒い粒はばらばらになりました。

 

 ひらりひらりと風に舞いながらおちていきました。

 


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