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ぼくのことば

共有

 

 ぼくの言葉 ぼくの声も

 きみのもとへ きみのものに

 そして世界を共有する

 

 

循環

 

 伝えられなかった言葉は ぼくの身体の中で腐敗する

 形を変えて悪臭を放ち やがて新たな言葉の糧となる

 ぼくは何度も同じことを繰り返す その循環の果てに

 きみへ何を伝えられるだろう

 

 

言葉の景色

 

 ぼくの目には「炎」から水流が見える

 ぼくの目には「川」から火炎が見える

 でも それは きみからは見えない

 同じ景色を二人は見ることができない

 

 ぼくには絵を描く才能がない

 ぼくには歌を唄う才能もない

 でも言葉を紡ぐ

 視力にも聴覚にも叶わない ただ人の間にだけ存在を許される

 言葉を紡ぐ

 きみへ繋がる架け橋を ともすれば崩れそうな橋を繋ぐ

 そこから見える景色を きみは気に入るだろうか

 

 

手紙

 

 ぼくの書いた手紙は でこぼこだらけで 曲がりくねってばかりで
 それでも だれかに 届くように 願っていた
 回りくどい言い回しは 素直に書くと 自分が傷つくから
 本当の気持ちは 隠したまま 何かを伝えようとしている
 少し卑怯かもしれない

 それでも きみは
 でこぼこに足を引っ掛けながら
 曲がりくねった道に息を切らしながら
 折り重なった ことばの真ん中で 途方に暮れる
 ぼくのもとへ 来てくれる

 ぼくを呼ぶ声が聴こえる
 うずくまっていたぼくは 立ち上がる
 きみの姿が 今 まっすぐに見える

 

 

 

 言葉は翼だ 言葉を操る人々が心を込めて作り上げるイカロスの翼

 やがては天上の太陽に溶かされて消えゆく運命にある 

 それでも人は言葉を紡ぐ

 どこか見知らぬ誰かの心で息づけるように願いながら

 少しでも天使の翼に近づけるように祈りながら

 青空へ たった一人で飛び立つ

 

 

 

 調子っぱずれなきみの歌を いつも聴いているよ

 誰とも似ていないメロディ 支離滅裂な言葉たち

 でも そのぶんだけ 整っていないだけ

 きみのことを余計に知ることができるのかな

 

 もしも ぼくが勇気を出して唄ったら

 きみも同じように聴いてくれるのだろうか

 

 

宇宙の果てにいるきみへ

 

 ぼくの宇宙には 色んな星があるんだ

 きらきらと赤く輝く さそりの目玉のような星や

 不健康そうに青白い まるで存在しないような星や

 他から光を受けて ようやく見えるような星も

 そのすべてが ぼくの宇宙の中にあるんだ

 

 でも どれも遠すぎて 暗すぎて 見えなくなるよ

 

 あの星には どんな人が住んでいるの?

 あの星には どんな風が吹いているの?

 あの星には どんな空が広がっているの?

 

 だから何度も交信してみるよ

 薄い空気 震わせて

 きみをずっと呼びかけているよ

 

 ぼくはここにいるよ

 きみはどこの誰なの

 どんなに小さな声でもいい

 ただ 応えてほしい


この世の果て

加速

 

 時間は加速する

 誰も追いつけない

 

 歩き疲れたとうずくまれば 周りには立ち止まった人たち

 それは嫌だと立ち上がれば また世界には私一人きり

 

 途中で力尽きても誰もそばにいない

 

 時間は加速する

 世界も加速する

 今日も誰かを遺して

 ただ加速する

 

 

質問

 

Q, きみは何が欲しいんだ

A, わかりません

Q, きみは何がしたいんだ

 

 

規則

 

 きみ纏う 服や仮面を 褒めている

 人はきみと目

 合わさずにいる

 

 きみはきっと素直に喜べない

 

 

道程

 

 きみが歩くたびに きみの手や足や目や口が 落ちていく

 いつか きみは 敷かれたレールで運ばれて 死んでいく

 きみは抜け道を探すことにした

 

 

抜粋

 

 きみはきみの指や足首を探している

 どこかに落とした自分のパーツを見つけられずにいる

 今まで回り道ばかりしていたから

 自分で道を選んだこともないから

 これまで自分が何をしていたかのさえ わからない

 だから見つけられない

 やり直せない

 

 

直線

 

Q, この直線の上に これまでの人生の出来事を書いてみて下さい

A, ぼくの人生はこんな直線で表せるほど単純じゃない

Q, ……

 

 

しるし

 

 早すぎる時の流れが きみの手足を吹き飛ばしていくよ

 原型を留めることさえできず ただ小さくなっていくよ

 

 それなら きみは時の流れになんか乗らないほうがいい

 二度と戻ってこられないくらいなら

 一歩進んで 二歩下がって

 そこに美しい模様を描こう

 生きた証を 刻み込むんだ


ハイカラ

深夜の読書

 眠れないから暗がりに煌々と明かりを点けて読書してた
 丑三つ時 両親や近所の人に気づかれぬよう息を殺して
 部屋は冷気が充満して しんと静まり返り
 まるで誰もいないみたい
 本の中の誰かさんの声が 目の前で踊っている

 本の文字を指でなぞる 伝わる文字の感触
 遠い作者の皮膚のようで とっても冷たかった
 もはや内容なんて どうでもよくなって
 ページに頬を押しつけて 温めてみる

 そして私は目を閉じた
 夢の中では 果たして誰と出会えるだろう
 その誰かは 私にとって何者なのだろうか



きみの指先

 きみの指先が 空をなぞると
 虹が生まれる
 きみとぼくにしか 見えないけれど
 それが嬉しい

 きみの指先が 川面なぞると
 ぶどう酒が溢れる
 きみとぼくにしか 味わえないが
 それだから酔える

 きみの指先が 文字をなぞると
 意味が生まれる
 きみとぼくにしか 読めないけれど
 だから素敵だ

 きみの指先が ぼくの世界を変えていく



ジュリ

 ジュリ その瞳が曇らぬように
 人の悪意を見ずに済むように
 両手で覆ってあげるね
 それくらいしか ぼくにはできない

 ジュリ この世界はきみに相応しくない
 誰もが自分の正義を主張して
 他人に真っ赤な言葉を投げかけては
 世界を血で染め上げていく
 人の作った世界なんて もう真っかっかで
 いつ神さまからレッドカードを出されても
 おかしくはないんだよ
 お前らの存在自体が ルール違反だって
 その日が来るまで 二人で口を閉じて
 瞳も閉じて 眠っていたい

 だけれど それはできないから
 ぼくはきみの瞳が 血塗られぬように
 少し先回りして 少しでも美しい道を探そう
 赤いばらの茨や 唐辛子の実なんかは
 きみのために 取り除いておこう
 そのために ぼくが傷ついても
 気づかれぬように 道化のように笑みを張りつかせて
 ぐるぐる巻きの包帯で いつでもハロウィン気分
 お菓子だって 他の奴からぶんどってくるよ

 だからジュリ きみはきみのままで



ぼくがぼくでなくなったら

 後悔することばかりで
 自分の記憶の海に溺れるばかりで
 ぼくがぼくであることを恐れていて

 だからぼくは名前をなくし
 存在を消して ただ風となりたくて
 どこにも留まらず
 誰の記憶からも消え去りたくて

 そうしたら 過去を捨て未来を捨て
 自由に空を漂うことができるでしょうか

 でも そうしたら
 ぼくは何を考えて 何を感じられるでしょうか



ぼくのユニ

 ユニは夢を生きている
 まぶたを閉じて 額から伸びる角で物事を感じている
 ユニの髪は琥珀色
 この星の記憶が宿っているけれど 本人はそれを知らない

 ユニはいつも笑っている
 笑顔はひしゃげ 額から伸びる角がまっすぐに空をさしている
 ユニの指は桜色
 この街の桜と同じ色だけれど 本人はそれを知らない

 そんなユニに恋をして ぼくは後を追うけれど
 ユニはそれを知らない
 手を伸ばして 触れてみても
 ユニはそれに気づかずに
 一歩飛び出して ステップ踏み出して
 ただ一人だけ踊り狂う
 ぼくが真似しようとしても
 次の瞬間にはピタッと止まって
 どこか別の場所へ駆けだしてく

 ユニはずっと同じところにはいられない
 だからぼくも同じところにはいられない
 ユニ以外のものは全て 過去に捨ててきた
 それなのに ぼくはユニを捕まえられずにいる
 そんなぼくのことなど どこ吹く風で
 ユニは好き勝手に進んでいく

「待って」とぼくは叫んだ
 ユニは答えなかった
「待って」とぼくは走った
 ユニは振り返らなかった
 それなので ぼくは
 走って 走って 走り続けて
 ユニを追い越して 振り返ると両手を広げた
 目を閉じたままのユニは それに気づかずに
 その額から伸びる角で ぼくの胸を突いた
 赤い血が噴き出す ユニの動きが止まる
 閉じられていたまぶたが見開かれた
 ユニの瞳は 真っ赤だった
 それを見て ぼくは笑った
 口から熱い血だまりを溢れさせながら

 やがてユニは何も言わずに ぼくから離れてしまった
 けれど その額にもう角はない
 ユニの角は 今でもぼくの胸に突き刺さっている
 水晶のように輝きながら 血をこびりつかせ
 キラキラと ぼくの胸を照らしている



回り道


 最短距離の道があるかもしれないけれど
 少しだけ回り道してみる

 遠回りして その間 人に追い越されても
 自分の気持ちに嘘をつかないで
 行きたい道を進んで
 きみに会いにゆく

 その最中 観た景色を 伝えるためにも



空の隙間

 

 灰色の雲の向こう
 隙間から太陽の光が漏れている
 まるで雲が濡れているように

 

 これまで楽しかったことなんて
 あの空と同じように
 少しだけ なんだけど

 

 この景色があんまり綺麗だから
 まだ生きていけるような気がした


ソラリス


 意味もない文字をつづる
 誰にとっても価値のない 文字を

 

 自分の頭だけで完結した世界は
 誰の心も動かせず
 動かしたとしても 誤解されて

 

 それでも綴り続けたら
 文字は繋がり合い 一本の糸となって
 きみのもとへ届くかも



淡い色鉛筆画

 

 淡い色鉛筆画のように曖昧な世界があればいいのにな
 細かなハッチングで絡み合い、
 指でこすればぼやけるような
 物と物の、色と色との境界線が無かったら
 悩まないのになぁ



夢現の鏡面

 

 きみは次元を飛ぶのか
 目に映る全てに 自分を映しながら
 例えば会社の行き帰りに通る公園に
 或いはそびえ立つビル街の頂点に
 過去を 未来を 覚える

 

 しかしやがて気づくだろう
 目に映るものは 自分ではないこと
 まるで別の存在であり 交われはしないこと
 我に返ったとたん きみは想う
 自分は世界の歯車の一部に過ぎないと

 

 物質に挟まれ 車輪の出っ張りを研磨され
 世界を動かす部品となる
 いや 既になっていた
 生まれたときから そうだった
 ただ自分の空想に閉じこもっていただけだ
 硝子細工の夢を追いかけて
 水泡のような煌めきに魅せられていた

 

 それでも きみの心の臓を開けてみたら
 溢れ出す輝き
 夢現の鏡面に吸いつくように 飛んでいく
 そこに映るのは かつての夢のかけら
 揺れる水面 揺らぎはきみの気持ちから
 ぼくらは夢と現実の狭間を見つめながら
 身動きが取れないままに 生きている



マトリョーシカ

 

 これは人間の歴史です
 過去も未来も すべて内包する
 人類の進化の縮図です


 

きみの色のジャム


 マーマレードにイチゴ
 キウイにピーナッツ
 トーストにつけて食べたら
 泣きたくなるような味

 

 朝食がのどを通らない
 今朝から絶不調

 

 でも、このジャムはいつまでもある訳じゃないから
 いつかは食べ尽くせる日が来るから

 

 ぼくは日々色の変わる瓶ごしに
 まだ、きみを見ている



ほんとのぼくは

 

 ほんとのぼくは 空を飛べて
 岩よりも硬い肌を持ち
 氷細工のように 冷ややかな
 そんな強固なものなんだ

 

 だからきみの手に 掴まれて
 柔らかな皮膚に包まれて
 じわり心を溶かされるような
 そんなに弱々しい人間じゃない

 

 それは ほんとのぼくじゃない
 頬を伝うのは 涙なんかじゃない



私の中のソラリス

 

 何をしていても 凪いだ海のように
 狂おしい感情にも 動かされない
 静かなるソラリスの海よ

 

 もはや芸術にも心動かされず
 しゃくり声すらあげず こぼれる涙も
 怒りすら 胸を締めつけない

 

 それなのに 時折襲う発作は
 心臓が破裂するほどの 鼓動は
 夜になると 見下してくる
 あの月のせいなのか

 

 ソラリスの海が 月の光を反射させる
 ちらちらと揺れる輝き
 それがどこで瞬くか わたしは知らない
 どこの誰がそれを見つめているのかも
 知ることはない

 

 気まぐれな ソラリスの海 


楽園のリンゴ

あこがれ


 夢見る隙に 去っていく

 後ろ姿だけで あとはみんなまぼろし

 ぼくの心の内にあるもの


 それがあこがれ



彼の死


 彼の目は虹色に輝いていた。

 彼の世界は七色に染まり、いつだって綺麗だった。

 彼は幸せなまま死んだ。

 周囲の人々には、彼が血だまりの中で死んだようにしか見えなかった。



さよなら地球

 

 地球の海がなくなりかけたとき 

 生きものみんな涙を流した 

 ただ彼らはとっくの昔に宇宙に避難していたので 

 その涙は地球には届かなかった  

 代わりに狭苦しい宇宙船の中に 

 涙の海が生まれた 

 そこで彼らはみんな 

 新しい生命としてやり直すことにした



楽園のリンゴ


 坊や いつも私を見上げている

 お腹を空かせて 青白い顔で

 真っ赤に熟れた 私を


 坊や そんなに私が欲しいなら

 蜜でたっぷりした身体を携えて

 この樹から 堕ちてあげる



 さぁ お食べ

 あなたは私を持ち上げて 口元へ

 けれど そばを通った女の子が泣き出して


 あなたは私をその子へやってしまった



 その子のお母さんは 私をジャムにしたわ

 長く食べられるように って

 熱い炎で コトコト煮詰められて

 想うのは あなたのことばかり



 でも 今朝 知ったわ

 あなた 飢え死んじゃったって

 瓶の中で 聞かされたの



 ねぇ 坊や

 私 あなたのために 何ができたかしら

 いずれ すぐそばへ 行く身だけれど

 今も考えているの



隠しごと

 

 大事なものは目に見えないように 大事な言葉は口にできない 

 口にしたとたん ぼくのものでなくなるから 



狂った愛


 きみの泣きじゃくる顔が好き

 ぼくのために傷つく姿が好き


 だからぼくはいくら傷ついても平気

 その分だけきみはぼくに縛られるから

 傷つけば傷つくほど ぼくはきみからは見捨てられない

 二人は離れられっこないんだ



無償の愛について


 真っ白お月さま 触れたらミルクの雫が零れるよ

 地球に降り注いで 夜の闇を和らげてくれるよ

 だってお月さまは 地球に恋をしているもの



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