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ぼくのげんじつ

夕空の朱に青


 夕方は美しい時刻だ。空は青く紅い。ほのかな陽光に今日の苦しみが洗われるようだ。
 きみは世界を汚いと言うけれど、それは人が不完全だからだ。人の生み出した建造物は自然には勝てない。だから脆く壊れやすい。すべてが万人に認められるものではないだろう。
 それでも、ぼくらはこの空の下に息づいている。美しい空にさらされて生きている。
 きみは夜が怖いと言うけれど、普段の青空はレイリー散乱によるものだということを知っているか。暗闇こそが空の本来の姿だ。つまり宇宙の色。宇宙は混沌(カオス)だ。地球という閉ざされた空間の法則など通用しない。遠近感など存在せず、星は等しくきみの目に届く。遠い星も近い星も。空とはすべてを内包するものなのだ。
 きみはいつも何かに怯えているけれど。
 きみが見方をちょっぴり変えれば青空の向こう側に星は瞬く。夜空の反対側には太陽が輝いている。夕方はそのことを一瞬だけ教えてくれる時刻。きっと神さまが悩んでばかりいるぼくらに、人生のヒントをこっそり教えてくれているのだろう。

 夕空の朱に青。すべてが等しく在る世界で。
 ぼくは親愛なるきみへこの詩を捧ぐ。
 

手紙


 ぼくの書いた手紙は でこぼこだらけで 曲がりくねってばかりで
 それでも だれかに 届くように 願っていた
 回りくどい言い回しは 素直に書くと 自分が傷つくから
 本当の気持ちは 隠したまま 何かを伝えようとしている
 少し卑怯かもしれない

 それでも きみは
 でこぼこに足を引っ掛けながら
 曲がりくねった道に息を切らしながら
 折り重なった ことばの真ん中で 途方に暮れる
 ぼくのもとへ 来てくれる

 ぼくを呼ぶ声が聴こえる
 うずくまっていたぼくは 立ち上がる
 きみの姿が 今 まっすぐに見える
 
 

夢現のきみ


 きみの海を 泳いでいく
 青や赤の、様々な形をした魚 波に揺らぐ海草
 すぐに消えていく水泡も 募りつのるマリンスノーも
 すべて聴きたい
 海底で声も押し潰されそうだけれど 共に唄いたい

 きみの姿が見えないまま唄うけれど
 たまに声と声が重なる瞬間を夢見て
 ずっと待っている
 

もしも きみがくじらなら


 もしもきみがくじらなら
 ぼくはイルカになりたい

 やがて きみが大きな大きな姿を見せる
 その身体には 苔がびっしりとこびりついていて
 きみがどんな世界を泳ぎ続けていたのか想像できる

 上手な泳ぎ方など知らない
 きみにぶつかったり 傷つけてしまったりもある
 きみから嫌われたり 波に追いやられたりすることもある
 そもそも ぼくなど小さすぎて きみからは見えないのかもしれない

 それでも寄り添っていたいんだ
 冷たい海で 一人にさせたくないから
 

水面


 きみと一緒に湖を眺めていた その水面に二人が映る
 太陽の陽ざしが差し込んで 輝きの中に佇むぼくら
 周囲はすっかり秋めいて 葉は赤く染まって風に乗り
 水面へ落ちる

 その波紋が きみを泣かせた
「どうしたの」 ぼくが訊ねると
「悲しいの」 きみが泣きじゃくる
「静かな水面が変わってしまったから」

 きみの涙が湖に波紋ひろげ 水面の二人が揺らいでく
 太陽の陽ざしも散らばって ぼくらの姿も見えなくなった
 周囲はすっかり秋めいて 冷たい風が肌を撫でる
 その冷たさに ぼくも涙した

きみとぼく

トランプ


 ぼくらは いつも トランプで遊んでいる
 手持ちのカードを全て 明かすことは 絶対にない
 でも トランプは ジョーカーを含めて 54枚揃って 全部だから
 ぼくらのゲームは いつまでも終わらない
 永遠に お互い 欠けたまま



一目ぼれ


 きみを初めて見た瞬間 全身に電流が走った
 きみのこと 何も知らなかったけれど 愛したいと思った
 けれど きみを知るたびに あのときの気持ちが薄れていく
 本当の本当に 全身全霊を賭して きみを愛していたのは
 何も知らない あの一瞬だけだった


言葉


 彼の言葉が 彼女を傷つけた
 人間は言葉が無ければ 意思疎通できないので 言葉を使うけれど
 言葉は不完全で 全てを伝えることはできないから
 彼女は混乱して 誤解して 勝手に落ち込んで 狂ってしまった
 狂って 狂って 狂い落ちて 沢山の人を傷つけて
 やがては 彼をも 傷つけた
 だけれど 彼は 彼女をそんなにしてしまったことに 責任を感じていたから
 どこまでも傷ついて 傷ついて やがて 言葉を失った
 その瞬間 彼女は正気に戻って 自分の罪に気づく
 しかし 最早 一生 その十字架を背負うしかなかった


 

地獄で見上げた空


 彼と少女は いつも一緒だった
 少女は彼をとても愛していたし 彼も少女のことをとても愛していたけれど
 少女を遺して 彼は死んでしまった
 これからも 少女は 長い人生を 生きていかなければならない
 彼は天国で 神さまに頼んだ

「どうか、彼女が一生を終えるまで生き永らえさせて下さい」

 すると 神さまは こう言った

「その代わり、彼女が死んだあと、輪廻を無視したお前は地獄行きだぞ」
「構いません。それで彼女が悲しまないなら」

 そうして 彼はもう一度 彼女のもとへ 還っていった
 だけれど 少女は 生き返った彼に怯えた
 彼は少女を励まそうとしたけれど 少女はそれすら拒絶した
 彼は少女から離れるしかなかった

 しばらくして 少女は 老いて死んだ
 それまで たった一人で生きていた彼も 死んだ
 約束どおり 彼は地獄に連れていかれて 様々な痛みを経験することになった
 彼は少女を恨んだ 後悔していないはずがなかった
 それなのに 血が滲む身体を引きずって 見上げた空には
 少女と過ごした幸せな日々が 浮かんでいる
 彼の瞳から 透明な雫が溢れでた



Lunatic


 僕と彼女、いつも一緒。彼女は月、僕は唄い踊る狼男。

 彼女は僕の心のハープを、白く細い指でかき鳴らす女神。彼女は演奏が上手いから、僕のようなしわがれた声の男でも上等な楽器になれる。彼女は僕を唄わせ、躍らせる名人なんだ。
 僕はターンするたびに、周りの人々の咽喉を掻っ切る。その腰に手を回すと、エスコートをしながら首に噛みつく。そして、血がついた口元を拭いもせずに唄い続けるんだ。
 今はまだ、こうして踊らされていたいから。

 僕と彼女、いつも一緒。彼女は月、僕は唄い踊る狼男。

 

 


 雨が降りしきる中で ぼくときみは 二人きり
 雨宿りしながら ただ そばにいる
 ずうっと こうだったらいいのに
 だって ぼくには 何一つ 取り柄がないんだ

 晴れ渡る空の下で ぼくよりも美しい生き物がいる
 きっと きみは 彼らに目を奪われるだろう
 晴れ渡る空の下で ぼくよりも上手に唄うものがいる
 きっと きみは 彼らの声に耳を傾けるだろう
 晴れ渡る空の下で ぼくよりも楽しい話をするものがいる
 きっと きみは 彼らの話を聞くと お腹を抱えて笑うだろう

 でも今は 雨の中で 他にだれも来やしないから
 ぼくときみは 二人きり
 こんな ぼくの気持ちを映したような
 灰色の靄がかかった 世界の中で

出口


 ずっと迷路の中をさまよっていた
 出口がわからずに途方に暮れていた

 そんなときに、きみがぼくの手を取って
「出口まで一緒に行こう」って、言ってくれたんだ
 ぼくは嬉しかった
 きっと、きみがぼくを導いてくれると思ったから

 でも本当は違うんだ
 きみもずっと迷路の中をさまよっていた
 出口がわからずに人知れず泣いていた
 だからぼくの手を掴んで
「出口まで一緒に行こう」って言ったんだ

 そのことに気がついて
 ぼくは迷路の真ん中できみを抱き締めた

 もう出口なんていらない
 ぼくはここで、きみのそばにいる

きみのことば

きみのことば

 

 きみからもらったことばを たにんにたべられました

 だからぼくは たにんのはらを かっさばいて とりかえしました

 するときみがなきました

「そこまでしてきくようなことばじゃないよ」

 それでも ぼくにはたいせつなことばです

 

 

きみのことば

 

 きみからもらったことばを うちにもってかえりました

 しお こしょう あじつけをしてたべてみます

 しかし とってもまずいので ほかにもいろんなあじつけをためしました

 どれもこれも きにいりませんでした

 ここまでくると ぼくにもんだいがあるようなので

 こころをくりぬいて あじもわからぬまま ほおばりました

 

 

きみのことば

 

 きみからもらったことばが おなかのなかであばれました

 ベッドのうえ おなかをさすってみても なかなかおとなしくなりません

 ですから キッチンで みずをのんでみました

 そしたら きみのことばが ぼくののどをとおって でてきてしまいました

 けっきょく きみのことばは ぼくのものにはなりませんでした

 

 

きみのことば

 

 きみからもらったことばを どうにかして なつかせようとしました

 おいしいクッキーをあたえても 「ほしくない」と くびをふり

 たのしいおはなしをきかせても 「ききたくない」と みみをふさぐ

 ぼくはこまってしまったので うちからそとへでて きぶんをいれかえようとしました

 そしたら きみのことばは いそいで ドアのむこうへにげていってしまいました

 おいかけたけれど もう つかまえることはできませんでした

 

 

きみのことば

 

 きみからもらったことばを なくしてしまいました

 ぼくはかなしくて よぞらをみあげました

 ほしがきらきらと とおくでかがやいています

 きっと きみのことばは あのほしのようなものだったのです

 

 

きみのことば

 

 きみからもらったことばを おもいだそうとしています

 ぼくはなんども くちずさんでみるのですが

 ところどころ まちがっているように おもうのです

 きみのことばを ぼくはただしくうけとれない

 かなしくおもっていたら

 なくしたはずのこころが もどってきました

 

 

きみのことば

 

 きみへあいにいきました

 きみはぼくをみて 「ひさしぶりだね」と わらいました

 そのとき ふれたてのひらが

 とてもあたたかくて うれしくて

 こころがあってよかったな と おもいました


ぼくの世界

綿毛

 

 風に吹かれて 飛ばされる綿毛のように

 ぼくらも同じところに留まることができない

 強い強い風に ただ背中を押されて生きている

 

 

犬と猫

 

 とあるドキュメンタリーで 人類がみんないなくなったら

 犬は餓死して 猫は勝手に生きていく って言っていたよ

 

 一緒に死んでくれる犬はかわいそう

 一匹で路頭に迷う猫もかわいそう

 

 だからぼくは

 きみと心中しようかどうか 迷っている

 

 

青いばら

 

 青いばらのように 他人から「ありえない」と拒まれるぼくら

 青いばらのように 他人から「興味深い」と見世物にされるぼくら

 

 常識というものが ぼくらから色を奪っていく

 ぼくらを無味乾燥な白で塗りつぶしていく

 

 それならいっそ 二人一緒に散ってしまおうか

 

 

プリザーブド・フラワー

 

 きみがくれたプリザーブド・フラワー まだ綺麗なままだよ

 白い花びらは柔らかくて きみの肌とよく似ている

 触れたらちょっぴり冷たいところも きみそのもの

 

 それなのにきみはもういない

 ぼくに永遠は重すぎるようだ



コンクリート・ジャングル

 

 かつて人類は獲物を求めて狩りに出かけた

 かつて人類は獲物を得るために暴力をふるった

 かつて人類は新たな世界を夢見て海へ漕ぎ出し

 かつて人類は古い世界を捨ててきた

 

 今も人類は生きるために歩きっぱなしで

 今も人類は生きるために兵器を作り続け

 今も人類は電脳世界の海へ漕ぎ出し

 今も人類は手に負えない世界で迷い続けている

 

 人類は大して進化していないようだ



きみはともだち

 

 みんながぼくを知っているふりをする

 ぼくじゃないぼくを語っている

 

 でもきみだけは ぼくのことを喋らない

 ただ手を取って 温もりを与えてくれる

 だから きみはぼくのともだち

 そして ぼくもきみのともだち

 

 

街中の星

 

 夜の街に 人工の星が輝いている

 絶え間なく 「ぼくはここだよ」と叫んでいる

 月や星の光は穏やかなのに

 人間の作った灯りは 目を突き刺してくる

 

 人工の星が ぼくらを狂わせる

 夜に眠らせず 暗闇の中を彷徨わせる

 自業自得だとしても ぼくらは苦しんで苦しんで

 また人工の星へすがりつく

 そんな悪循環が どこまで続くのだろう

 

 ああ でも 空が白んできたよ

 人工の星が消えていく 「もう大丈夫だから」って

 今日もまた太陽が世界を救った


あいについて

 

 ぼくは雪だ

 

 音もなく ただ降り積もり

 人々に 煙たがられる

 子供らに こねくり回される

 

 まったく価値のない雪だ

 

 だけどきみに 触れたとき

 一瞬だけ 燃え上がり

 満足げに 散っていく

 

 きみの肌に 紅い痕を残して

 

 

ミイラの街

 

 傷ついたところに 包帯を巻こう

 これ以上 抉られることのないように

 

 そうして どんどん 包帯が巻かれていって

 ぼくらは どんどん 鈍感になっていって

 それでも だんだん やめられなくなって

 最後には お互い 臆病になって

 包帯の向こうにある肌に 触れることもできなくなって

 

 そんなミイラだらけの街が 世界中にひろがっていく

 

 

 

 細胞どうしが繋がって 心が繋がると

 子を生す

 

 細胞どうしが繋がって 心が繋がらなくても

 子を生す

 

 細胞どうしが繋がらないと 心が繋がっていても

 子は生されない

 

 細胞が止めようのない水流なら

 心はぼくらが灯す炎だ

 

 

i

 

 きみが好きで 繋がっていたかったのに

 ぼくは i しか知らない

 きみを知らない

 

 だから話が噛み合わなくて

 きみを悲しませて 傷つけて 失って

 ようやく きみの気持ちが わかる

 

 たった一人で 愛を知る

 

 

一方通行

 

 もう誰も愛さない

 そんなあなたへ ずっと手紙を送っています

 もうポストから溢れそうなほどです

 それなのに あなたは一文字も読んでくれない

 ぼくの心もくじけてしまいそうだ

 

 

 

 古傷に きみが触れる

 ぼくの傷口から 真っ赤な血が流れる

 きらきらと輝きながら

 いつまで経っても 想いは褪せない

 

 

大いなる愛

  

 愛を失って傷ついても 時間が痛みを癒していく

 気にしていた傷口が目立たなくなる

 

 周囲を見渡せば 美しい景色が広がっている

 光り輝く世界で 優しい人たちが歩いている

 

 だからぼくは 世界へと戻っていける

 だからぼくは 大いなる愛を信じる



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