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 と駆け出していきます。すると、どうでしょう。おばあさんの姿が過去の姿へと変わっていくではありませんか! びっくりするあっちゃんたちを尻目に、赤いリボンを揺らして、袴の裾を海に濡らして、遠くの人影へと駆けていきます。おばあさんが海の向こうまで辿り着くと二人は抱き合いました。

 二つの影が、一つに重なります。

 そのとき、あっちゃんが立っていた地面がぐにゃりと曲がりました。あっちゃんは思わずお庭の芝生の上に転んでしまいます。レジやカイくんもきゃあと叫んでいます。

 空も、海も、太陽すらぐるぐるぐるぐる回っていました。もちろん海の向こうの二人の姿を再び見ることも叶いません。あっちゃんは「おばあちゃーん!」と声を張り上げますが、空間の歪みにかき消されてしまいました。それに合わせて思考回路もぶちりと捻じ切られます。

 気がつくと、あっちゃんは白いテーブルに突っ伏していました。あれ、と目をこすりながら辺りを見渡します。レジもカイくんもテーブルの上で大の字の体勢になっていました。

「おばあちゃんは……?」

 あっちゃんは首を傾げつつも、二人を起こしてあげました。そしておばあさんの行方を訊ねてみましたが、どちらも首を横に振るばかりです。

 テーブルの上には潮の香りを放つ紅茶が置かれていました。すっかり冷めてしまったのか湯気が立ちのぼる気配もありません。

 三人でその場で呆然となっているところ、おうちのガラス戸ががらりと音をたてて開けられました。そこには、若かりし頃のおばあさんそっくりの人が立っていました。

「あら、お嬢ちゃん。こんなところでどうしたの?」

 あっちゃんは、ほえ、とお姉さんを見上げます。ひょっとしたら若返ったおばあさんかもしれない、と思いましたが、Tシャツに小ぶりのオーバーオールという現代的な服装がそれを否定していました。そこで今までのことを正直に話しました。

 すると、おばあさんによく似た人が少し悲しそうな顔をします。どうしたのかな、と返事を待っていたら、お姉さんは驚きの言葉を口にしたのです。

「おばあちゃんなら、一ヵ月前に亡くなったわよ」

 あっちゃんは、えっ、と息を呑みました。カイくんもぷしゅうと言います。レジに至っては、身体を真っ黒にしてぷすぷすと燃えかすのようになっていました。

「でも、あっちゃん。ほんまにおばあちゃんとここで会ってん」

「ありえないわよ。だって本当の本当に亡くなったんだもの。あたし、お葬式にも出たんだから

 二度目の衝撃に、あっちゃんは言葉を失いました。そして悟ります。オオデマリさんたちが言葉に困っていたのは……このお庭に入ったときに覚えた違和感は……。

 そしておばあさんの正体は…………。

 余所のおうちのお庭だというのに、あっちゃんは青空へと悲鳴をびんびん響かせました。

 

******

 

「まさか、おばあちゃんが幽霊やったとはな~っ」

 レジがふよふよ浮きながら、のんびり言い放ちます。それにあっちゃんは手のひらをべしっと叩きつけました。レジが前のめりになって危うく地面へダイブしそうになります。

「な、何するんやー。あっちゃん、酷いやないかー」

「うっさいわ! あっちゃん怖がりなの知ってて何でそないなこと言うんや!」

「だってほんまのことやん。おばあちゃんはおじいさんとの思い出の歌を忘れてもうたから〝悪ぼっくり″に取り憑かれて幽霊に

「うわーうわー! 言うなアホーっ」

 ごん、と鈍い音が辺りに響きます。むすっとした顔のレジが盛り上がった頭を撫でました。

 もう日暮れが近く、あっちゃんの影が閑静な住宅街に伸びています。白いワンピースも真っ赤な夕日にさらされて、すもも色に染まっていました。

 ポシェットから顔を覗かせているカイくんが言います。

「でも、良かったですよ。あなた方がいなければおばあさんも〝悪ぼっくり″になってしまっていたかもしれません。どうもありがとう」

 カイくんはにゅるりとした胴体をほんのちょっぴり曲げました。その態度があんまり素直だったので、あっちゃんは全身がむず痒くなってしまいます。

「な、何やー? チミにそこまで感謝されるなんて想像できへんかったでー」

 ほっぺたが赤いのは、きっと夕陽のせいだけではありません。あっちゃんはうつむきながら帰り道を歩きます。と、そこで何かを忘れていることを思い出しました。

 何だったかなー、と考えているうちに、忘れ物が頭にぱっと浮かびます。

「あーっ、し・じ・みーっ」

 そうです。あっちゃんは海岸にバケツとスコップを忘れてきてしまったのでした。

 急いで戻ろうとしましたが、空がすもものような朱色からぶどうのような藍色に変わっているのを見てやめました。だって、暗くなったらそれこそお化けが出そうだからです。うう、と名残惜しさに呻きます。

 しかし、あっちゃんはすぐに良いアイディアを思いつきました。ポシェットへ目線を落とします。そこにはうってつけの食材がありました。

 レジも気づいたらしく万歳します。

「わーい、今夜は巻貝じるやぁーっ」

 カイくんがぷしゅうと砂を吐き出しました。

「な、何を言っているんですかーっ! ボク、何も悪いことしてないじゃないですかー」

 それに、あっちゃんは申し訳なさそうに返します。

「ごめんな。でも、あっちゃんたちも生きていかなあかんねん。ありがとう、チミのことは絶対に忘れない――」

「感動的な台詞で誤魔化そうとするなーっ!」

 カイくんの絶叫が夕焼けにこだましました。そのとき、カラスのあほう、あほう、という鳴き声が聴こえたとか聴こえなかったとか。

 

 とまぁ、あっちゃんたちは迷えるおばあさんの魂を救ったんだとさ。めでたし、めでたし。

 

 

 

 ……ちなみに、あっちゃんたちは約束どおりやあちゃんのおうちへ着くと、おいしいお味噌しるを作って食べたんだそうです。カイくん、巻貝じるにされなくて良かったですね!

 

 今度こそ。めでたし、めでたし。

 

   おしまい


奥付



『うたえ! アッチャン×ヤーチャン』シリーズ

思い出は貝がらン中


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著者 : むらさきあおい
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/rc5fnlg2/profile


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