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現代の日本人よ(1)

  「日本人は多くの物を手に入れた分だけ、良識を失ったぜよ。

  つまり金の量が幸せの量だと思っちゅうがやろう。

  それが今の日本人の姿じゃ。

  ・・・わしらはそんな事のために命を捨てたがやないぜよ!」


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― その1 ―  一筋の涙

  海に来ていた。

  ドッ、ドーン・・・。

  波は何度も何度も繰り返し押し寄せ、人の心を浄化し、ただ無償の恵みを与え続けている。

  ・・・海は全てを知っている。

  気の遠くなる程の長い年月の中で、数多あまたの生死に関わってきたのだ。

  (父上が居てくれたから立ち上がれた、何度でも)

  心の中で竜馬は呟いた。

  幼き日に繋いだ父の手の温もり、真新しい防具姿を喜んでくれた父の笑顔、涙を堪えて旅立ちを見送ってくれた父の涙。・・・

  もう思い出の中にしか父は居ない。

 

  我が家に戻ると、継母が遺品を片付けていた。父の愛用していたものばかりが並んでいる。

  その中に見覚えのある書物を見付けた。

  「これは・・・」

  古惚けた四書五経だった。

  (望月と諍いを起こして退塾した時のものだ)

  そう、嘗て竜馬が楠山塾で使っていたものである。

  「竜馬は、身分という不条理のせいで頓挫したけど、いつかきっと勉学を再開してくれるに違いない、・・・と言って大切に保管されていましたから」

  (・・・でも、もうその時には戻れん)

  「そして貴方の御活躍を耳にするたびに、あいつは我が家の自慢だ、・・・と言って我が事以上に喜んでおられました・・・」

  継母・伊与の言葉に竜馬は遠い目をした。

 

  思い出の中には後悔ばかりがある。

  そんな竜馬に優しい言葉を掛けてくれたのは姉の栄だった。

  「貴方は私のように辛い思いで苦しむ必要は無いのですよ」

  出戻りの栄はその存在を只管ひたすらに隠し、日陰の身となって暮らしてきたが、両親を失った弟の姿を不憫に思えたのだろう。

  「もっともっと思いっきり生きてみなさい。貴方には希望がある、・・・素敵じゃないの」

  そう言って励ましてくれた。

  「この世の中の誰が敵になっても、私は貴方の味方ですよ。だから心配は要らない、私がこの命に換えても、きっと世に出してあげますから」

  瞬間、竜馬の心に日差しが差し込んだような気がした。外は凍りつくような空気に光が射してキラキラと舞っていても、姉の言葉は温かい。

  ・・・だが数年後には、奇しくもその言葉が現実のものになってしまうのである・・・。

 

  そんな竜馬の耳に噂が流れて来た。

  萩の吉田松陰が野山獄を出され実父・杉百合之助の許に預けられたというのだ。

  (そうか、良かった)

  竜馬はホッとした。だが金子重輔が獄中で病死したと知ると、途端に表情が曇る。

  (・・・冬を越えられなかったのか、・・・無念じゃったろう)

  ツーッ、

  と涙が一筋、頬を伝った。

  (僅か二十五歳の生涯で・・・のう)

  そして竜馬は決意を固めようとしていた。


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奥付



竜馬外伝i-16 開国と武士


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著者 : 中祭邦乙
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